手彫りの仏像に半世紀捧げた77歳、新規事業は御朱印帳 サイトも開設
仏様を彫る技術は、伝統仏教美術として飛鳥時代より継承されてきました。その仏像彫刻を生業とするのが「仏師」と呼ばれる存在です。これまで半世紀仏像彫刻一筋だった仏師がコロナ禍をきっかけに、新たな市場に進出しました。サポートした狭山市ビジネスサポートセンター(以下、Saya-Biz)からご紹介します。
仏様を彫る技術は、伝統仏教美術として飛鳥時代より継承されてきました。その仏像彫刻を生業とするのが「仏師」と呼ばれる存在です。これまで半世紀仏像彫刻一筋だった仏師がコロナ禍をきっかけに、新たな市場に進出しました。サポートした狭山市ビジネスサポートセンター(以下、Saya-Biz)からご紹介します。
目次
友田光重さんは1945年生まれ。1968年から仏像彫刻に従事し、これまでに深大寺開山堂の本尊薬師如来や埼玉県入間郡三芳町の妙林寺一尊四菩薩、栃木県日光市の徳性院阿弥陀如来、十三仏などを手掛けてきました。
また、佛教美術協会会員として有名デパートでの展示販売会を開催し、経営者などの個人客へも仏像を販売していました。
しかし、昨今は人口減少や高齢化などにより日常の管理が難しくなり、仏像の需要は減少しています。加えて新型コロナの影響により、デパートでの展示販売会も中止されるなど、仏師としての技術を生かす場がなくなってしまったのです。
狭山市役所からの紹介でSaya-Bizを訪れた友田さんは「仏像の注文をどうやって増やすか」「仏像をどうやって売るか」について悩んでいました。
市場調査すると、前述のように仏像の需要は減少傾向です。そのため、友田さんの技術と実績を生かしながら売上に繋がる別の市場の検討が必要と考えました。
では、仏像彫刻という稀有な技術が価値となる市場はどこなのでしょうか……?
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そこで注目したのが「御朱印帳」です。第一に、数年前からブームが継続しており、デザインもかなり多様化していました。
第二に、御朱印帳というと布地の表紙が多数を占める一方、伊勢神宮の神宮林用材を使用した御朱印帳や屋久杉の御朱印帳など木製の商品も発売されており、特にご利益を感じる商品について高価格でも購入されています。
そして第三に、木製の御朱印帳は無地もしくはレーザー彫刻で絵柄を彫ったものが大半で、手彫りの商品は見当たりませんでした。
以上の理由で、提案したコンセプトが「仏師の手彫り御朱印帳」です。仏師が手彫りで神仏を彫った御朱印帳であれば、信心深く御朱印巡りをしている方は、一層ありがたみを感じてもらえるのではないかと考えたのです。
また、実は友田さんは土産物店で販売される木彫り民芸品を制作されていた実績があり仏像以外の手彫り作品も制作できるのですが、「仏様のお顔を彫りたい」という本人の思いを尊重して可能な限り仏像に近い作品にしたいという思いがありました。以上のような背景から、御朱印帳を提案したのです。
仏像を制作していた際の木材が手元に残っており、すぐに試作品の制作に取り組める環境だったことも後押しになりました。
素材は「長く持ち歩いていると木の風合いも変わってくるので、軽く持ち運びしやすいものにしたい」という思いで会津桐を選択。デザインは日本で一番馴染みがあり、仏教の中心的存在であるお釈迦様が蓮の花で座禅を組んでいるものを表表紙に、蓮の花のみのシンプルなものを裏表紙にしました。どの宗派でも気軽に手に取ってもらえるよう印相(仏像の手のポーズ)はあえて施さない工夫をしています。
友田さんも「御朱印帳は立体の仏像と異なり平面で彫りの深さを表現することが難しい」と当初は苦戦していましたが、試作を繰り返すことで柔らかい表情のお釈迦様を安定して彫れるようになりました。
そして製本は、同じSaya-Bizの相談者でもあり、近隣市で製本業を営んでいる「ジーブック」に依頼。御朱印帳用に開発した「墨が裏面に染み出ない用紙」を使用し、一冊一冊手作業でつくりました。こうして文字通り「全部手作り」の御朱印帳を完成させることができたのです。
御朱印帳の販路として、御朱印帳専門店のような小売店や神社仏閣などを想定していたものの、まずは市場調査を兼ねてクラウドファンディングでの先行販売に挑戦することにしました。
友田さんはPCやスマートフォンを使用していないため、Saya-Bizスタッフのサポートも受けながらクラウドファンディングのページを作成。SNSを使用しての広報が難しいため、チラシも作成して古くからの知人に紹介するなどの準備もしました。
その結果、新聞2紙に取り上げられた効果もあり、53日間で目標金額の385%、合計83 冊を販売することができたのです。
クラウドファンディング終了後は、家族の手を借りながら個人サイトを作成して、注文や問い合わせを受け付けられるようにしました。 また、御朱印帳の制作と並行して小売店や神社仏閣への販路拡大、そして次なる商品開発に向けて動いています。
「これまで私の仏像を手に取って頂いたお客様からは『気持ちが落ち着く』『困難に出会ったときに救われた』など、様々なご感想を頂きました」。 そんな反響に、友田さんはこんな風に話していました。
こんなに反響があると思っていなかったので、正直なところとても驚いているという友田さん。購入者から御礼状も届いたそうです。
「仏像彫刻の依頼を頂けるのがもちろん一番ですが、今はそのきっかけづくりとしてこの御朱印帳をより多くの方に知って頂きたいという気持ちです。新たなデザインも考えています」
これからも、商品の形は変わっても『自分が社会に対してできることはないか』を思案しながらやっていきたい。そして、こういった取り組みを通して、伝統工芸の魅力を少しでも世の中に発信していきたい」。そう話う友田さんが活動の手を緩めることはありません。
仏像彫刻も含め、日本の伝統産業はこれまでも厳しい状況に直面してきました。しかしその度に伝統産業は「変わらない」ことでその品質や技術を守ると同時に、新たな製品開発などの挑戦を通じて「変わること」で乗り越え、今日まで継承されてきたと言っても過言ではないはずです。
たとえ市場が縮小していても、これまで顧客に評価されてきた技術の価値が消失するわけではありません。重要なことは、事業の強みである技術を守りつつ、それを新たな形で活かせる市場を開拓することではないでしょうか。友田さんのチャレンジを通じて改めてそう確信しています。
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