小売店長から将来の「右腕」へ エナテックの経営理念が背中を押した
事業承継の前後で旧友に入社してもらうべきか否か。そんな話題をSNS上で交わしていると、今後のキャリアを相談した友人の家業に入ることに決めた全国小売チェーン店の店長(29)がいることがわかりました。目の前の給与額は下がるかもしれない。それでも転職を決心した理由について聞きました。
事業承継の前後で旧友に入社してもらうべきか否か。そんな話題をSNS上で交わしていると、今後のキャリアを相談した友人の家業に入ることに決めた全国小売チェーン店の店長(29)がいることがわかりました。目の前の給与額は下がるかもしれない。それでも転職を決心した理由について聞きました。
事業承継の前後で旧友に入社してもらうべきか否か。そんな投稿に対し、金属加工メーカー「エナテック」の5代目後継ぎ予定の榎並幹也さんは最近、旧友が2022年冬からの入社を決めたことを明らかにしました。
旧友とは小学生のころからのつきあいで、エナテックに入社している榎並さんの弟にとっても「近所のお兄さん的な存在」だったといいます。ただし、元々、エナテックへの入社は考えていませんでした。転職の決め手は何だったのか。榎並さんと旧友に対し、オンラインでインタビューすることにしました。
全国小売大手の店長を任されている旧友は、異動の辞令を受け、30歳を目前にキャリアについて悩んでいました。「どんな業種でも営業という仕事は必要です。これまでは、消費者向けのビジネスを経験してきましたが、企業向けのBtoBの仕事にも携わりたいと考えていました」
自分の力で商品を売る、その提案力を強みとし、今後さらに伸ばしたいと考えていました。しかし、異動の辞令を受け取ってしまうと、あと4、5年は別の店舗で店長の仕事を続けることになりそうです。
2022年1月ごろ、子ども時代からよく知る榎並さんが家業で採用担当をしていると聞いて相談することにしました。営業という仕事は、学び続ける姿勢があれば、業種を問わず深めていける仕事の一つです。
しかし、旧友にとって製造業は理系の仕事というイメージがあり、なんとなく苦手意識を持っていました。すると、榎並さんから「一度、うちの現場を見てみたら?」とアドバイスをもらいます。
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「入社から7年。他社とのつきあいがなく、他社の現場を見ることがない自分にとって貴重な経験となりました」
そんな経緯で決まった会社見学で、入社を決める出来事がありました。
会社見学では機械など設備のスケールの大きさに圧倒されます。そのあと、榎並さんの父、榎並秀治社長と話す機会がありました。これまでは「友達のおっちゃん」だったのですが、今回初めて会社の社長として顔を会わせることになりました。
榎並社長は、自分には相談できる友人がいてとても助かっていること、後継ぎとして入社している幹也さん兄弟にもそういう存在がいると安心できる。それがあなたであればいいなあという話をしたそうです。
話は経営理念にも及びます。エナテックの企業理念は「社会に貢献し社員の生活向上を図り生き甲斐のある会社造りをめざす」。榎並社長も「事業で得た利益は、従業員へ還元していく」と話していたといいます。
「企業理念でも従業員のことを考えている企業はほとんど見たことがなかった」という旧友。転職直後は収入が下がっても、努力次第で今後伸ばしていけるだろうという安心感を得たといいます。
旧友には「やりたいことを選んでほしい」と思いつつも、もしエナテックを転職先に選んでくれたらうれしいと思っていた榎並さん。会社としても次世代を担う若い営業人材を必要としていたところでした。
会社見学をきっかけに旧友の入社が現実味を帯びてきて、うれしい反面、少し不安にもなりました。榎並さんは、会社見学帰りの車中、ふとつぶやきます。
「関係性が、こわいよね」
これまでは幼なじみでしたが、仕事になるとその関係が変わってしまうかもしれません。そんな不安に対し、旧友は「友人でもいけるよ。言葉遣いには気をつけるけど」と返しました。
そこで、お互いに仕事は仕事として切り分けて、これからも友人として続けることを確認しました。
これまで4人の後継ぎに、旧友が入社した、または入社を検討しているエピソードについて聞きました。もちろん、誘っても入社してもらえない、誘うのをためらっている、そもそも誘うつもりがないなどいろんな意見が寄せられており、旧友を右腕にすることが必ずしも正解とは限りません。
ただ、仕事への取り組み方として何をやりたいかだけでなく、誰とやりたいかも重要な要素です。右腕を必要とするときは、組織やビジネスモデルを変革したいタイミングでもあります。旧友に限らず、一緒に仕事をして後悔しない相手と挑戦したいですね。
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