「やらんといけん」菓子の老舗、ヘルシースイーツを機に”透明な壁”を突破
山口県萩市の名産夏みかんを使い、観光客に人気菓子の老舗が、コロナ禍をきっかけにヘルシースイーツの新商品を開発しました。新商品の開発は、これまで感じていた「見えない透明な壁」の突破につながり、「やらんといけんことだからやろう!」と前向きな言葉が飛び出すようになりました。道の駅での2店舗目の出店に挑戦するまでの軌跡について、支援してきた萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)から紹介します。
山口県萩市の名産夏みかんを使い、観光客に人気菓子の老舗が、コロナ禍をきっかけにヘルシースイーツの新商品を開発しました。新商品の開発は、これまで感じていた「見えない透明な壁」の突破につながり、「やらんといけんことだからやろう!」と前向きな言葉が飛び出すようになりました。道の駅での2店舗目の出店に挑戦するまでの軌跡について、支援してきた萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)から紹介します。
目次
今もなお城下町のたたずまいが残る明治維新胎動の地として知られる観光地、山口県萩市。名産は夏みかんで、皮菓子やジュースとして観光客のお土産に人気です。
大正12年(1923年)から約100年間、夏みかん菓子を製造している中村製菓本舗のメイン商品、夏みかんの皮菓子は、販路が土産屋のためコロナの影響で観光客が激減し、在庫が動かない状況が続いていました。
そんななか、中村製菓本舗の中村和子さんが中小企業や起業を目指す人が無料で相談できる萩市ビジネスチャレンジサポートセンター(はぎビズ)に相談に訪れたのは、2020年12月のことでした。
ヒアリングするなかで見えてきたのは、販路が土産屋のため観光客数に売上を左右されていること、地元客の高齢化が進み、若い世代の夏みかん菓子離れも進んでいることから、販路開拓と新規顧客獲得が必要であることがわかりました。
萩市内には夏みかんを加工製造する菓子屋が多いため、まず中村製菓本舗の強みを商品から見出していきました。夏みかんの皮を蜜に漬け砂糖をまぶした皮菓子などの代表的な土産菓子のほか、マーマレードなど家庭的で地元客にも人気の商品を製造しています。
店舗に伺うと来客用に夏みかん型座布団を手作りしていたり、発送の荷物に手書きのお礼文を入れていたりと、親しみやすさと丁寧さのある会社だとわかりました。
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中村さんが一番売りたい皮菓子について来店者の声を聞いたところ、「砂糖がまぶされており甘すぎる」という声が聞かれました。
従来抹茶などのお茶請けとして親しまれてきた皮菓子ですが、近年は糖質制限ダイエットなどの影響で砂糖にネガティブなイメージが付いたことで、昔ながらの砂糖をまぶした夏みかん菓子離れが進んでいると推測しました。
また、変わった食べ方については「ヨーグルトに入れる」「お酒のおつまみ」など、ドライフルーツのようなニーズもあることが分かりました。お土産需要だけに頼らず、若年世代にも認知を広げるため、はぎビズから2つの提案をしました。
1つ目は、コロナでリモートワークが進んだことによる珈琲ブームが加速していることに加え、健康志向の高まりから若年層で加工フルーツ市場が伸びているため、「手が汚れずデスクワークの珈琲のお供にピッタリなヘルシースイーツ」の位置付けを狙う新商品を提案しました。
中村製菓本舗が先代から継ぎ足し守ってきた秘伝の蜜を活かし、夏みかん皮の素材が分かる味わいを目指し、商品名は「夏みかんシロップ」に決定。実は、従来の夏みかんの皮菓子から、砂糖をまぶす工程だけを除いた商品なので、設備投資をせず作ることができます。
秘伝の蜜に漬け乾燥させることで、中村製菓本舗の特長である蜜の美味しさや、夏みかんの香りとほろ苦さを感じつつも手が汚れない商品になりました。
パッケージも高品質なドライフルーツのような素材が際立つシンプルなデザインに仕上げました。
2つ目は、試作段階から希望販路先を巻き込み商品開発を行うことです。営業経験がない中村さんにとって販路開拓は大きなチャレンジなので、想定販路である地元客や関係人口が集うゲストハウス、若年層が利用する飲食店などと、はぎビズがマッチングを行い、試食と改良をしながら巻き込んでいくスタイルを実行しました。
その結果、中村さんと地域の人たちにつながりが生まれました。また、発売と同時に、若年層が顧客のテイクアウト専門の地域のコーヒーショップに置かれてコーヒーのお供についで買いされるなど、想定販路への新規導入と若年層への認知拡大にも成功しました。
新商品開発を通じ中村さんに大きな変化がありました。顧客の声に改めて耳を傾けたことで、購買動機や買った後の過ごし方まで見ていなかったと気付けたのです。
中村さんは中村製菓本舗を営む夫の隆生さんのもとに嫁ぎ、萩に移り住みました。販路開拓や経営など社長の隆生さんの領域にまで踏み込んでいくことや、地域の中で新たな挑戦をすることへの恐怖感も強く、「やりたい思いはあるのに見えない透明な壁がある」と話していました。
しかし、繰り返し話を聞くなかで、「こんなご時世でも買ってくれるお客様のため自分も変わらなければならない」と覚悟を決めていきました。中村さんは、少しずつ壁を破り「また一つ風通しが良くなりました」と笑顔を見せ、前向きなチャレンジを繰り返してきました。
そして、その前向きな変化は隆生さんにも伝わり、「やらんといけんことだからやろう!」と前向きな言葉が飛び出すまでになりました。
そんな覚悟を決めた中村さんのもとに舞い込んだのが、道の駅での2店舗目出店の話でした。先代から親交のある和菓子店が、高齢化に伴い撤退を決定したことで声をかけられました。
この和菓子店は、萩で江戸時代から発売されている「蒸気まんじゅう」という蒸気船型の焼きまんじゅうも製造販売しており観光客にも好評でした。中村さんは「やらなかったら後悔するからやる」と、覚悟を持った眼差しで話していたことが印象に残っています。最初のご相談からは考えられないほどの前向きな変化でした。
和菓子屋から金型とレシピ、技術を引き継ぎ、2022年4月に中村製菓本舗の2店舗目をオープンしました。夏みかん菓子と蒸気まんじゅうという萩の伝統的なお菓子を守りつつ、次の時代に向けしなやかに変化し新たなチャレンジを繰り返しています。
コロナ禍で価値観が大きく変わる中、変化しつづける企業は生き残る確率が高まります。しかし、企業にとって前例がないチャレンジは大きなハードルとなります。コロナ禍で寄り添い知恵を出し、伴走する支援側の真価がより一層問われている中、はぎビズは今後も地域の事業者に寄り添い伴走サポートしていきます。
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