ランニングコストとは 算出方法・3つの抑え方・改善事例を専門家が紹介
飲食店を経営すると、ランニングコストがどれぐらいかかり、具体的にどう抑えればよいかなど、これから開業する人にはわからないことが多いでしょう。ランニングコストとイニシャルコストの違い、ランニングコストの算出方法、改善した事例を飲食店経営の経験がある経営コンサルタントが解説します。
飲食店を経営すると、ランニングコストがどれぐらいかかり、具体的にどう抑えればよいかなど、これから開業する人にはわからないことが多いでしょう。ランニングコストとイニシャルコストの違い、ランニングコストの算出方法、改善した事例を飲食店経営の経験がある経営コンサルタントが解説します。
目次
ランニングコストとは、「ランニング=経営する」という意味なので、直訳すると「経営していくためにかかる費用」のことです。
具体的には後ほど紹介しますが、経営するために必要な費用として、幅広い費用がランニングコストとして挙げられます。
ランニングコストに対して、イニシャルコストという言葉があります。イニシャルコストとは「初期費用」のことです。「イニシャル」は頭文字の意味でもよく使われますが、ここでは「最初の」という意味になります。
つまり、経営を始める前にかかる費用のことをイニシャルコストと言います。経営を始めてからはイニシャルコストは発生しません。そのため、「開業前に支払った費用=イニシャルコスト」、「開業後に支払っていく費用=ランニングコスト」と理解するのがよいでしょう。
銀行から借入をして開業のための設備投資を行うと、減価償却費や支払利息などの費用がランニングコストに影響を与えることがあります。
イニシャルコストは融資でまかなえたが、ランニングコストがかさんで返済が困難になるといったことも発生します。ランニングコストとイニシャルコストをしっかりと区別して計画を立てましょう。
ランニングコスト、イニシャルコストに加えて第三のコスト、「ライフサイクルコスト」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。
「ライフサイクルコスト」とは、製品や建物などの調達から製造、使用、廃棄に至るまでの総費用を指します。言い換えれば、「イニシャルコスト(初期費用)」と「ランニングコスト(経営を維持していくためにかかる費用)」を足したコストのことです。
ライフサイクルコストという言葉は、本来は製品や建物について使われる言葉であり、事業や経営について使うことはあまりしません。しかし、事業を始めるにあたり、初期投資、ランニングコストとその総額にどのくらいの費用がかかり、どのくらいの期間でそれらを回収できるのか、見通しを立てることは非常に大切です。
ランニングコストは業種によって多少異なりますが、具体的には、以下の項目が挙げられます。
経営していくうえで定期的に必要となる費用であるため、上記の他にもさまざまなランニングコストが存在します。
開業を計画する際には、物件取得費用や内装工事費用などのイニシャルコストに目がいきがちです。しかしイニシャルコストをどれだけ抑えたところで、ランニングコストが大きいと経営がうまくいきません。
例えば、飲食店を居抜きで開業して、初期費用を抑えたとしても、エアコン代が高かったり、月極駐車場代に思わぬ出費があったりすると、毎月の利益が想定よりも低くなってしまいます。
ランニングコストを正確に見積もることが、事業を成功させる鍵となります。
ランニングコストを算出する場合、例えば、飲食店を開業する際には、一般的な飲食店がどのくらいの売上で、どのくらいの費用がかかっているかを調べておくことをおすすめします。中小機構が運営する中小企業、創業予定者のためのポータルサイト「J-Net 21」が公開している業種別開業ガイドを参考にするとよいでしょう。
調べてみると思ったより費用がかかっていることに気づくはずです。実際、売上に対して9割はランニングコストだと言っても過言ではありません。
ランニングコストは下表のように、経営するうえで継続的に発生する費用を計算すればわかります。
一方、ランニングコストの算出も重要ですが、売上に対してどれくらいのランニングコストがかかっているのかを見ることも重要です。
飲食店の場合、FL比率やFLR比率という指標があり、ランニングコストのなかでもF=FOOD(材料費)・L=LABOR(人件費)・R=RENT(賃料)が、売上に対してどのくらいの割合かを見ることが大切とされています。
ちなみに、FLR比率は売上の7割くらいに収めることが理想と言われています。
それでは、実際に下表を見てください。
例えば、売上が月間100万円のレストランがあり、FRL比率80%、ランニングコストの合計が93.5万円である場合、営業利益は6.5万円であるとわかります。
ここでFLR比率を70%に抑えれば、ランニングコストの合計は83.5万円になり、営業利益は16.5万円に増加し、毎月プラス10万円が事業者に入ってくるようになります。
しかし、実際には消費税や従業員の社会保険料なども加わるため、簡単には利益を残せません。さらに一度開業すると、家賃も水道光熱費も継続的に発生するため、ランニングコストの削減には限界があることには注意が必要です。
ランニングコストの削減には限界があるものの、それでも抑えるべきところは抑えたほうが長期的な事業運営につながります。ここでは、主な方法をご紹介します。飲食店に関する内容が中心となりますが、その他の業種でも参考になる部分はあるでしょう。
電気代は飲食店において、意外とダメージが大きいランニングコストです。照明の電気代だけでなく、冷蔵庫やエアコンなどの設備も電気代を増やす要因です。
特にエアコンの電気代は夏・冬になると他の月の倍になります。また冬はお湯を多く使うためガス代も跳ね上がります。これらを抑えるためには、開店準備時に十分な設備投資をすることが効果的です。
具体的には、店内面積に最適なエアコンを選び、適切な台数を設置することや、お湯の量を削減するために食洗機を導入することがよいでしょう。
飲食店を開業する際には、必ず保険に入るはずです。その際には情報収集することが大切でしょう。例えば、飲食店組合などの団体で加入できる保険に入ることで、保険料を安く抑えることができます。
家賃を抑えることが、ランニングコストを抑える最も有効な方法だと考えている人も多いかもしれません。しかし、実際はあまりよい方法ではありません。というのも、家賃よりも重要なのは立地だからです。
家賃が安くても立地が悪いと、売上そのものが悪くなります。一般的に立地がよい場所は家賃が高いので、ある程度の家賃は覚悟する必要があります。
ランニングコストを抑える方法を紹介しましたが、ここでは開業後のひと工夫でランニングコストを改善させた事例について紹介します。
飲食店を開業したいと検討している人は、自分で料理を作りたいと思っているはずです。しかしそれはコストが悪化する大きな要因になり得ます。自分で作ると、調理時間がかかったり、長期保存ができず食品ロスが発生したりするため、結果的にコストが大きくなります。
メインの料理はこだわって作り、サイドの料理は冷凍食品やレトルト食品を効果的に使うなど、メリハリをつけていくことでランニングコストを抑えることができます。
「時間=費用」の考え方を念頭に置き、時間がかかる料理は高コストだという認識を持ったうえでメニューを考えましょう。
食品ロスを減らすためには在庫管理が重要です。規模が小さい飲食店では、在庫管理ツールを使用しているところは多くありませんが、ツールを使うことで欠品や在庫過多を防ぐことができるのでおすすめです。
食品ロスを減らすことは、SDGsを達成していくためにも必要です。作ったにもかかわらず売れ残ってしまった商品の廃棄を防ぐために、在庫管理を適切に行いましょう。
また、提供した食事が残されないように、客のニーズをしっかり把握することも必要です。料理をおいしく最後まで食べられるような研究をしたり、量を調整したりすることも大切です。
食品ロスをなかなか減らせない業態(居酒屋で宴会プランが多いなど)である場合は、生ごみ処理機を導入するなど、廃棄物処理費用を抑えましょう。生ごみ処理機は、自治体によっては購入補助制度があるので調べてみてください。
筆者の経験ですが、フィルターを掃除することは意外と効果があります。冷蔵庫のフィルターを月1回程度掃除することで、電気代が月5000円程度安くなりました。冷蔵庫の台数や性能によっても違うとは思いますが、電気代が高くて困っている人は試してみてもよいでしょう。
店舗や事業を展開するまでには検討しなければならないことが多く、大変なはずです。そのなかでも、ランニングコストを抑えて事業を始めたいという考え方は重要でしょう。この記事に書かれていることを1つでも実践してみていただけると嬉しいです。
ただし、ランニングコストを抑えることも大切ですが、売上拡大を検討することも欠かせません。実際に経営していくなかで、ランニングコストの削減だけでなく売上を拡大する方法も試行錯誤してみてください。
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