SL理論とは PM理論との違い・4つのリーダーシップの型を解説
強力なリーダーシップでトップダウン経営を展開しても、結果に結びつかないことがあります。その場合、状況ごとにリーダーシップの型を変えるSL理論が役立つかもしれません。SL理論の意味やPM理論との違い、4つのリーダーシップの型、SL理論を用いた社員育成について解説します。
強力なリーダーシップでトップダウン経営を展開しても、結果に結びつかないことがあります。その場合、状況ごとにリーダーシップの型を変えるSL理論が役立つかもしれません。SL理論の意味やPM理論との違い、4つのリーダーシップの型、SL理論を用いた社員育成について解説します。
目次
SL理論とは、状況に応じてリーダーシップスタイルを変えるリーダーシップ理論のことです。原語は「Situational Leadership Theory」で、直訳すると「状況対応型リーダーシップ理論」です。
SL理論は、アメリカの行動科学者ポール・ハーシー氏と経営コンサルタントのケネス・ブランチャード氏が発案・体系化した理論です。1969年に出版された「リーダーシップのライフサイクル理論」という書籍で初めて紹介されました。その後、1977年に出版された「組織的行動のマネジメント第三版」でSituational Leadership Theory(SL理論)という名称が広く認知されるようになりました。
SL理論は、「すべての状況に適応できる画一的で普遍的なリーダーシップモデルは存在しない」という命題を前提にしています。リーダーは、社員の能力とコミットメント(仕事へ積極的に関わる姿勢)の程度に応じてリーダーシップモデルを変化させていくべきという立場をとっています。
また、SL理論の活用メリットは、1つの固定化されたスタイルのリーダーシップによるマネジメントよりも、チーム全体の生産性を向上させられる可能性が生じる点です。社員の能力とコミットメントの程度や環境の変化などに応じて、リーダーシップモデルをフレキシブルに変化させることで、モチベーションとモラルをそれぞれ高め、結果的にアウトプットを最大化させることが可能になります。
さらに、リーダーが求めるものや目指すゴールを社員が理解しやすく、行動に移しやすいといったメリットもあります。
SL理論は、伝統的に事業環境が激しく変化する、競争が激しい業界で広く使われています。Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏や、アメリカ初の黒人国務長官のコリン・パウエル氏、アメリカNBAで11度のリーグ優勝を果たしたフィル・ジャクソン監督などがSL理論の実践者として知られています。
SL理論を活用する際には、社員の習熟度を能力とコミットメントの2つのファクターで評価し、4つのグループに分類したうえで、それぞれに対して適切なリーダーシップのモデル(型)を用いる必要があります。
具体的には、上記のグループで分けられた4つのリーダーシップモデルを活用することを推奨しています。
4つのモデルについて、それぞれを説明します。
教示型リーダーシップは、トップダウンで社員に一方的に指示を出すスタイルのリーダーシップです。能力もコミットメントもどちらも低い社員やチームに対するときに活用します。
入社したての新入社員のグループや、パフォーマンスやモラルが常に低い社員に対する場合などが例として挙げられます。一般的にはリーダーが目標設定などの意思決定を行い、スケジュールなども管理してモニタリングするイメージです。上官の指示を絶対だとする鬼軍曹のようなスタイルです。
説得型リーダーシップは、意思決定は行うものの、それを社員に「説得」して理解を得るスタイルのリーダーシップです。能力は低いものの、コミットメントが高い社員やチームに対する時に活用します。
入社してある程度の経験を積んでいるが、まだ成果や結果を十分に出し切れていない社員に対する場合などが例として挙げられます。リーダーが目標設定などの重要な意思決定を行うものの、その目標に社員とチームのベクトルを向かわせるといったイメージです。
参加型リーダーシップは、自分1人だけで意思決定をせず、社員とともに意思決定を行うスタイルのリーダーシップです。能力は高いものの、コミットメントが低い社員やチームに対するときに活用します。
特殊なスキルを持っているものの、何らかの理由でそれが十分に活かしきれていない社員に対する場合などが例として挙げられます。また、参加型リーダーシップでは社員に必要なサポートも十分に行います。
委任型リーダーシップは、意思決定も含めて社員やチームに経営の大半を文字どおり「委任」するスタイルのリーダーシップです。能力もコミットメントもどちらも高い社員やチームに対する時に活用します。
自己完結的に運営されている事業部や、スピンアウト企業に対する場合などのリーダーシップが例として挙げられます。
SL理論と並んで知られるリーダーシップ理論として、PM理論があります。PM理論は、1966年に日本の社会心理学者の三隅二不二氏が発表したリーダーシップ理論です。PM理論ではPerformance(目標達成機能)とMaintenance(集団維持機能)の二軸でマトリクスを構成し、リーダーシップを4つのカテゴリーに分類します。
PM理論の基本的な主旨は、リーダーが上記グラフにおけるいずれのカテゴリーに属するかを把握させ、より理想的なリーダーに近づくためのパスを確認させることです。一般論としては、目標達成機能と集団維持機能のどちらにも優れたリーダーを目指すことが基本になります。
PM理論もSL理論のように、リーダーシップを二軸のマトリクスで4つのカテゴリーに分類する点が似ています。ただし、PM理論ではあくまでもリーダー自身が自分のリーダーシップのタイプを確認し、目指すべきリーダーシップとそこへ到達するためのパスを確認することが目的であり機能です。
一方、SL理論は、社員の能力とコミットメントというファクターを軸にしたマトリクスをベースにしていて、それぞれのカテゴリーに適したリーダーシップのモデルを提示するものです。SL理論は、あくまでも社員の能力とコミットメントという社員側の変数を出発点にしており、その点がPM理論と相違しています。
SL理論を用いるうえでの注意点を挙げます。
まず、SL理論を用いることで、社員やチームに対するリーダーの対応にバラツキが生じ、結果的に社員間で不公平感が生じやすくなることに注意する必要があります。特に、教示型リーダーからトップダウンで指示を受けている社員が、委任型リーダーから自由な活動を許されている社員を見れば、相当優遇されているように感じるかもしれません。
そのような状況を防ぐポイントは、コミュニケーションです。リーダーと社員がコミュニケーションを密にし、情報を共有することでリーダーシップのタイプによってリーダーの行動に違いがあることを理解してもらうことが重要になります。また、社員がSL理論そのものの機能や運用目的を知ることで、社員が現在位置しているカテゴリーと、目指すべきカテゴリーへのパスを確認することもできるでしょう。
社員の習熟度を把握することが困難な場合がある点も、注意するポイントです。例えば、経理や総務などのバックオフィス業務の多くは、習熟度を客観的に把握することが困難で、評価も難しくなります。
そのような場合、社員自身にKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)を設定してもらい、その達成度を評価するなどの工夫が必要になるでしょう。また、場合によっては社外のリソースを使って評価してもらうことも有効です。
SL理論は、経営者やマネージャーなど組織のリーダーが活用することを前提にしていますが、社員育成の手段としても活用が可能です。以下にその手法を2つご紹介します。
SL理論を組織全体で学ぶことで、リーダーだけでなく、社員全体でSL理論の知識や、運用の理由と目的を共有することが可能になります。また、上述したとおり、社員がSL理論そのものの機能や運用目的を知ることで、社員が現在位置しているカテゴリーと、目指すべきカテゴリーへのパスを確認することも可能です。
具体的な学習方法は、SBU(戦略ビジネスユニット)ごとにメンバー全員が参加する講義形式や、オンラインミーティングなどで学ぶと効果的です。ポイントは、SBUのメンバー全員が参加して知識を共有することです。SL理論そのものはシンプルですので、半日から1日程度をかけて集中して学ぶとよいでしょう。
ある程度の規模の組織の場合、特に複数の事業部が存在している組織であると、SL理論の運用に関する情報を共有することが有効です。他事業部での運用事例や成功事例を共有することで、組織全体がSL理論の集合知を活用できるようになります。
情報共有の方法は、会社の通信環境などに合わせて最適な情報共有ツールを使うとよいでしょう。特に何もない場合、セキュリティ対策済みの社員専用ブログや、FAQ(よくある質問と答え)などのナレッジマネジメントツールなどでも情報共有が可能です。また、最近はスマートフォン専用のナレッジマネジメントツールも利用できます。
SL理論は、今日までに多くの企業に採用されたのに加え、健康保険組合、大手レストランチェーン、プロ野球チーム、プロバスケットボールチーム、軍隊などにも採用されています。またSL理論は、社員数が多い大企業だけでなく、中小企業でも十分に活用が可能です。
SL理論を活用する際の最大のポイントは、リーダーだけでなく組織全体でSL理論を活用することです。特に中小企業の場合、社長だけがSL理論を学び実践するのではなく、すべての社員と共に活用することが重要です。そして、最終的には社員1人ひとりがリーダーシップを発揮できるような会社づくりを目指してください。
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