目次

  1. レディネスとは学習に対する意欲
  2. レディネスには多くの種類がある
    1. デジタルレディネス
    2. 就業レディネス
    3. 職業レディネス
  3. レディネスが注目される3つの理由
    1. リアリティ・ショックの防止
    2. ミスマッチの防止
    3. 生産性の向上
  4. レディネスレベルとは
    1. 【レディネスレベル1】能力、意欲どちらも低い状態
    2. 【レディネスレベル2】能力は低いが、意欲は高い状態
    3. 【レディネスレベル3】能力が高く、意欲は低い状態
    4. 【レディネスレベル4】能力が高く、意欲も高い状態
  5. レディネスを高める4つの方法
    1. ①A(Attention) - 注意喚起の工夫
    2. ②R(Relevance) - 関連性の工夫
    3. ③C(Confidence) - 自信の工夫
    4. ④S(Satisfaction) - 満足感の工夫
  6. 生産性向上に役立つレディネスを意識しましょう!

 「レディネス(readiness)」とは、ものごとを効果的に習得するための事前準備が整っている状態を示す言葉です。1913年に心理学者のエドワード・L・ソーンダイクが「レディネスの法則」を発表し、1929年に臨床心理学者であるアーノルド・ルシウス・ゲゼル によって提唱された成熟優位説の主張をもとに、より活発に議論されるようになりました。

■成熟優位説とは
ゲゼルは、一卵性双生児を対象に階段上がりの研究を行いました。双生児の一方には生後46週目から、もう一方には53週目から訓練を行い、訓練後の階段上がりに要する時間を計測する。はじめの頃は、両者の差が明らかであったものの、しだいにほとんど変わらなくなりました。

 この結果から、ゲゼルは早期に長時間の訓練を行うよりも、適切なタイミングで短期間の訓練を行う方が学習効果が高く、学習に最適な時期に達するまでは、どれだけはやく訓練や教育を行っても効果は期待できないと結論づけました。

レディネスの概要と高める方法
レディネスの概要と高める方法(デザイン:増渕舞)

 レディネスには多くの種類があります。そのうち、ビジネスシーンでよく出てくるのは以下の3つです。

  • デジタルレディネス
  • 就業レディネス
  • 職業レディネス

 順に紹介します。

 「デジタルレディネス」とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の知識や時代の流れ、外部環境の変化に対応する準備をはじめることや、準備が整っている状態をいいます。現在多くの企業が、ITを活用してビジネスモデルや組織を変革するDXに取り組んでおり、デジタルレディネスが整った人が多い企業ほどDXの推進がスムーズになります。

 「就業レディネス」とは、学生から社会人になる心の準備が整った状態のことをいいます。具体的には、就職活動を通して自己理解が深まり、社会人としての自覚が高まった状態です。就業レディネスが整った新入社員は入社後の適応がはやく、積極的な行動が増えて活躍する人材になるといわれています。

 「職業レディネス」とは、期待される役割を果たす準備が整っている状態のことをいいます。また、特定の業務に強い関心があり、その業務を遂行できる自信がある状態です。職業レディネスが高い人は、業務をスムーズに遂行し、期待どおりの成果を出しやすいといわれています。

 企業は変化の激しい外的環境に合わせた、前例のない組織変革を求められています。いま企業の間でいかに部下のレディネスを高めるかが注目されていますが、それはスムーズな変化適応の重要性が高まっているからこそでしょう。

 ここでは、レディネスが注目されるようになった背景を3つの視点でご紹介します。

 レディネスを高めることが「リアリティ・ショック」に有効とされたことで、注目を集めています。リアリティ・ショックとは、理想と現実のギャップに生じるネガティブな感情です。

 新入社員が組織に馴染めず、業務への意欲も低下するのは、入社前と後のギャップ「リアリティ・ショック」が関係していると考えられています。そのため、リアリティ・ショックを回避するには、入社前のインターンでの実地体験や丁寧な事業説明、内定者研修などを行い、就業レディネスを高めることが有効です。

 レディネスを高めることで、新入社員と企業のミスマッチを防止します。入社前後の理想と現実のギャップは、早期退職につながります。予算をかけて採用した人材が戦力になる前に辞めてしまうのは、企業にとって大きな損失です。損失は直接的な採用費用だけでなく、教育担当者の心情にもネガティブな影響を与えます。

 入社前にレディネスが高められている新入社員は、自ら積極的に行動するため、組織に馴染むスピードがはやく、定着率も高まります。また、入社前後だけでなく、新しいポジションに就く際も有効です。

 レディネスの整った人材は、前向きに取り組む姿勢があります。新しい環境への適応、前例のない業務、新たなスキルの習得、新しいツールの導入やオペレーションの整備。これらは、常に現場の反発が伴うものです。

 レディネスが高い社員は、既成概念にとらわれず、新しいアイデアにも積極的にチャレンジする傾向が強く、結果的に企業の成果を向上させることができるのです。

 部下のレディネスを高めるためには、まずその人のレディネスがどのくらいか客観的に知る必要があります。その指標となるのがレディネスレベルです。ビジネスにおけるレディネスレベルとは、課題を解決するための準備がどれだけできているかという度合いのことを指します。

 部下のレディネスレベルを構成する2大要素は、「能力」と「意欲」です。レディネスを「能力」と「意欲」の2軸に分類し、レベルが高いほど適応力や課題解決力が高いと考えられています。

・能力……特定の課題遂行に必要な知識、経験、スキル(技能)
・意欲……特定の課題遂行に対して遂行者が持つ自信、熱意、動機の強さ

 レディネスレベルにおける能力や意欲は、業務全般への意欲や能力という意味ではなく、特定の課題達成に対する能力や意欲を示すため、課題に応じて変化します。レディネスレベルを活用する際は、それぞれの特徴を踏まえて、適切に関わりましょう。

 それでは、2つの軸から生じる4つのレベルを解説します。

 4つのレベルのなかで、最も指導や意欲管理に時間がかかるのがレベル1です。指導者側の力量も問われるため、まずは意欲を喚起し、働くことへの前向きな姿勢を引き出すことからはじめましょう。

 レディネスレベル1のタイプの特徴を紹介します。

・言い訳や不満が多い
・自己防衛的な振る舞いをする
・仕事の進捗が進まない
・締め切りを守れない
・指示したことができない
・行動や態度に一貫性がない
・失敗やケアレスミスを恐れる
・ビジョンや目的の理解が乏しい

 レベル1の部下への関わり方は、「教える」ことに集中してください。そのためにも、業務の具体的な説明、意味や意義の解説を丁寧に行いましょう。場合によっては、OJTも必要です。

 レディネスレベル2の部下は意欲が高いので、能力はかかわりによって伸ばしていける可能性があります。新入社員や新しいポジションについた社員が、レベル2です。

 レディネスレベル2の特徴を紹介します。

・積極的に取り組む
・注意深く人の話を聞き、明確な説明を求める
・結果や成果を気にする
・質問に対して表面的な受け答えしかできない
・仕事の目的理解が不足している

 レベル2の部下へのかかわりは、「納得感」が大切です。コミュニケーションを密に行い、仕事の意義や目的を伝えるとともに部下からの質問に丁寧に答えていきましょう。部下自身に、仕事への責任感を芽生えさせることがポイントです。

 レディネスレベル3の部下は能力が高い状態なので、意欲が高まれば戦力になる可能性があります。

 レディネスレベル3の特徴を紹介します。

・ストレスを感じている
・やらされ感が強い
・反発や抵抗などがみられる
・業務の着手に時間がかかる
・自己効力感が低い

 レベル3の部下へのかかわりは、「参加型」です。上司も部下と対等な立場で一人ひとりが機能するように促していきましょう。意思決定の責任をレベル3の部下に与え、チームの一員であるという認識を芽生えさせることが大切です。

 レディネスレベル4の部下は能力が高く、意欲も高い状態であり、指導や意欲喚起を必要とせず、自走して頼りになる社員です。一方、関係性が希薄になったり、当人の中長期ヴィジョンの方向性と業務にずれが発生した場合、離職につながる可能性があります。

 レディネスレベル4の特徴を紹介します。

・適切な報告・連絡・相談がある
・自走して業務を推進する
・チームメンバーに対して協力的サポートを行う
・知識や情報、アイデアが豊富
・成果を出すためにやり切る覚悟がある

 レベル4の部下へのかかわりは、「委任」です。目標や課題の共通認識を持ち、仕事の進行を任せて、成果の報告をしてもらうという自律した関係を保ちましょう。また、関係を築きながら部下の中長期ヴィジョンの方向性を明確にしていくことも大切です。

 ここまで人材の定着、育成スピードや生産性の向上に、レディネスが関係していることを解説してきました。レディネスを高めるには何に注力したらよいか、レディネスをさらに高め、学習意欲を向上させるARCS(アークス)モデルを紹介します。

 ARCSモデルとは、学習意欲向上モデルです。意欲を引き出すために指導者が取るべき行動を「注意喚起(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の4つの側面で提示しています。

 学ぶ意欲を喚起するには、部下の関心や好奇心が何であるかにフォーカスし探求心を刺激することが大切です。

 そこで、「面白そうだ」「もっと知りたい」といった知的好奇心、探求心を刺激しましょう。教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮してください。

知覚的喚起 部下の興味・関心を考慮しているか?
探求心の喚起 部下の行動変容を促す内容か?
変化性 部下の興味・関心を維持できる内容か?

 部下に関連性のある内容を盛り込みましょう。自分にとって身近なものだと思わせることで積極性が引き出されます。

 教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

親しみやすさ 関心のある文脈や経験に結びついているか?
目的指向性 部下が望んでいる目的に結びついているか?
動機との一致 やりがいを実感してもらいやすい内容か?

 成功体験を実感させ、その成功が自分の能力や努力によるものだと認識させましょう。自己効力感とも表現され、やってきたことやできたことを実感させるなど、ポジティブな変化を実感することで新しいことへの意欲が高まります。

 教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

学習要求 ゴールは明確か?「やればできそう」という効力感を高めるものになっているか?
成功の機会 成功体験を積めるようにステップを分解しているか?
コントロールの個人化 成功体験は自分の努力と能力によるものだと認識できるような内容か?

 「ここまでできるようになった」と感じさせる工夫が重要です。そして、次のゴールを明確にしていきましょう。

 「やってよかった」という満足感を与え、新たな行動変容に向けた意欲を引き出しましょう。成果の実感や報奨は、新たな変化に対する意欲向上につながります。

 教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

内発的な強化 興味・関心をさらに向上させるきっかけになっているか?
肯定的な結果 効果的な称賛や報酬が盛り込まれているか?
公平さ 公平に認められていると実感できる内容か?

 できなかったことが、できるようになったと感じることや、自らの行動のポジティブな影響は活動意欲にもつながります。

 レディネスを高めるには、相手の興味・関心が何かを理解し、効力感や満足感を醸成できるように関わっていくことが大切です。4つの工夫のポイントを日常のかかわりに取り入れていってください。

 レディネスは「心身の準備性」を表し、教育の観点からも注目されています。業務のミスマッチや離職、生産性に課題を感じているなら、さまざまな視点でレディネスをチェックしてください。そのうえで、教育や育成を効果的なものへブラッシュアップしていきましょう。