目次

  1. 敷金に用いる勘定科目
    1. そもそも敷金とは
    2. 礼金・仲介手数料との違い
  2. 敷金を支払ったときの仕訳方法
    1. 償却額が決まっていない場合
    2. 償却額が20万円未満の場合
    3. 償却額が20万円以上の場合
    4. 契約を途中解約した場合
  3. 敷金を受け取ったときの仕訳方法
    1. 償却額が決まっていない場合
    2. 償却額が決まっていた場合
  4. 敷金を仕訳するときの注意点
    1. 消費税処理に注意する
    2. 契約書の内容に注意する
    3. 会計監査を受けている場合は、資産除去債務の会計基準を適用する必要がある
  5. 敷金は最初の仕訳方法の決定が重要

 借り主が賃貸物件に入居する際に不動産所有者に支払う敷金は、「敷金」か「差入保証金」という勘定科目を用います。自社の会計システムで設定している方を利用しましょう。

 「敷金」や「差入保証金」は資産に計上されます。支出にあたるので費用と勘違いしやすいですが、後日、お金が返ってくる可能性があるため、資産に計上します。

 また、契約に基づき、返還されない敷金(償却)については「長期前払費用」や「支払手数料」という科目を使います。

敷金の勘定科目とは
敷金の勘定科目とは(デザイン:増渕舞)

 敷金とは、賃貸に入居する際に不動産所有者に預ける担保金です。

 敷金は、家賃の未払いが生じたときの補填や、物件の使用に伴って発生した傷などの修繕にあてられます。とくにそれらの問題がなかった場合は、退去時に全額返還されます。

 なお、主に事業用の賃貸物件の場合は、契約によって退去時に一部を返還しないと取り決められていることがあります。このことを「敷金を償却する」といいます。契約書に書かれていますので、確認しましょう。

 礼金とは、賃貸に入居する際に貸主へお礼として、入居時にのみ支払うお金です。礼金を支払った際に使用する勘定科目は「支払家賃」を使用することが多いです。また、金額が20万円以上となる場合は、「長期前払費用」として契約期間か5年のいずれか短い期間で償却します。

 仲介手数料とは、物件を紹介(仲介)してくれた不動産業者に、入居時にのみ支払う手数料です。仲介手数料を支払った際に使用する勘定科目は「支払手数料」を使用することが多いです。

 礼金と仲介手数料は敷金と異なり、返金されません。そのため、敷金は資産として、礼金・仲介手数料は費用として計上されます。ただし、礼金は一部、長期前払費用という形で資産計上されることがあります。

 賃貸物件を借りる人が、不動産所有者に敷金を支払ったときの仕訳について具体例を用いて紹介します。

 支払った敷金に用いる勘定科目は「敷金」です。償却額が決まっていない(退去時に返還する金額が契約で定められていない)場合、退去時に返還される可能性があるので、貸方は「現預金」の勘定科目を用います。

【契約時】
 償却額が決まっていない2年契約で、敷金10万円を支払った。

借方 貸方
敷金 100,000 現預金 100,000

【期末時】
 償却額が決まっていない場合は、期末時に会計処理をする必要はありません。

【退去時】
 敷金10万円が全額返金された。

借方 貸方
現預金 100,000 敷金 100,000

 敷金が全額返金された場合は、計上していた資産を減らす仕訳を起票すればよいです。

 賃貸契約書などで償却割合や償却額が定められている場合、その金額が20万円未満かどうかで、選択できる税務処理が異なります。

 償却額が20万円未満の場合は、支出した年度で損金経理をした場合において、一括で費用計上することができます。これは、法人税法施行令134条において規定されています。償却額に用いる勘定科目は「支払手数料」です。

【契約時】
 敷金50万円の賃貸物件に入居した。なお、15万円は返還しないこと(償却)が確定している。

借方 貸方
敷金 350,000 現預金 500,000
支払手数料 150,000

【期末時】
 すでに入居時に敷金部分は償却しているため、期末時に会計処理は必要ありません。

【退去時】
 敷金の返還額は30万円で、5万円は修繕費に充てられる。

借方 貸方
現預金 300,000 敷金 350,000
修繕費 50,000

 契約書で決められた償却額が20万円以上となる場合は、繰延資産として償却をする必要があります。繰延資産は5年での償却になります。契約期間が5年超の場合でも5年で償却を行います。このときに用いる勘定科目は「長期前払費用」です。

 ただし、契約期間が5年未満の場合は、その契約期間にて償却を行います。

【契約時】
 敷金が100万円の賃貸物件に入居した。なお、30万円は返還しないこと(償却)が確定している。契約期間は4年。

借方 貸方
敷金 700,000 現預金 1,000,000
長期前払費用 300,000

【期末時】
 期末の決算整理を行い、30万円の長期前払費用のうち、300,000÷4年=75,000円を償却する。

借方 貸方
支払手数料 75,000 長期前払費用 75,000

【退去時】
 契約が満期になり、退去することとなった。敷金残額70万円のうち、10万円は原状回復費として返還しないことを管理会社から通知された。

借方 貸方
修繕費 100,000 敷金 700,000
現預金 600,000

 契約期間を満了せずに途中で解約することがあります。

 償却額20万円以上の項目で用いた例(敷金100万円、賃貸借契約期間4年、償却額30万円)で、3年目に退去した場合、30万円の長期前払費用のうち、15万円分(75,000円×2年)の償却が残っています。そのため、退去時にそれも仕訳します。その際に用いる勘定科目は、金額に関わらず「支払手数料」です。

 償却額が20万円未満かどうかの判断は、契約時に定められた償却額のみに適用します。

【退去時】
 4年契約を3年目に退去する。長期前払費用には過去2年分の15万円が計上されている。なお、70万円の敷金のうち、10万円は修繕費にあてられるので、返還額は60万円である。

借方 貸方
現預金 600,000 敷金 700,000
修繕費 100,000 長期前払費用 150,000
支払手数料 150,000

 次に、不動産所有者として、敷金を受け取ったときの仕訳方法について解説します。基本的には、支払った側とは正反対の仕訳になります。

 敷金は返還する可能性があるため負債勘定となり、勘定科目としては「預り敷金」を用います。退去時に全額返還をした場合は、負債にある「預り敷金」を打ち消す仕訳をします。

【契約時】
 所有物件に入居が決まり、敷金10万円の入金を受けた。

借方 貸方
現預金 100,000 預り敷金 100,000

【期末時】
 とくに、期末時に会計処理をする必要はありません。

【退去時】
 所有物件の退去が決まり、敷金10万円を全額返還する。

借方 貸方
預り敷金 100,000 現預金 100,000

 契約書であらかじめ返還しない金額が決まっていた場合、その金額は契約時に「受取家賃」などの売上勘定科目を用いて計上します。

 また、賃貸契約が終了し、残りの敷金全額が原状回復に必要であり、修繕費として計上したときは、返還しない預り敷金は「雑収入」として計上することが一般的です。

 なお、立替金を採用することもありますが、支払った修繕費と同額を収受しないと立替金は使えません。

【契約時】
 敷金25万円のうち、15万円は返還しないことが契約で決まっている。

借方 貸方
預り敷金 250,000 受取家賃 150,000
現預金 100,000

【期末時】
 とくに必要な会計処理はありません。

【退去時】
 退去時に残りの敷金10万円をすべて原状回復にあてた。

借方 貸方
修繕費 100,000 現預金 100,000
預り敷金 100,000 雑収入 100,000

 敷金を仕訳するときの注意点を2つ紹介します。

 支払った敷金のうち、返還されることが見込まれる場合は、消費税の課税取引には該当せず、不課税取引になります。一方、敷金を支払った際に返還されず償却することが決まっている場合は、契約内容によって消費税の課税取引区分が変わります。

 具体的には、課税取引区分を契約の基となる家賃と同じにします。例えば、社宅などの住宅の場合、家賃の消費税区分は非課税になるため、返還されない敷金に関して費用にした分も非課税です。

 一方、事務所など事業用で使う賃貸の賃料は課税取引になるため、償却費も課税仕入になります。 

【課税仕入の仕訳例】
 敷金6万円の償却に伴い、消費税率10%で消費税額は6,000円、合計66,000円を計上する。

借方 貸方
支払手数料 60,000 敷金 66,000
仮払消費税 6,000

 なお、仮払消費税という勘定科目を使用するのは、自社が税抜処理を選択している場合になります。

 敷金が償却される場合は、基となる賃料の消費税区分についての確認が必要です。

 不動産の賃借の際には契約書を締結します。会計処理をするにあたっては、この契約書に書いてある内容が非常に重要になりますので、慎重に確認するようにしましょう。

 なお、2020年4月の民法改正によって、敷金は「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」(民法622条の2)と定義づけされました。これが定められたのは、敷金の返還に応じない不動産所有者が一定数いてトラブルが多発していたためです。

 契約書でこの定義に該当する金銭が要求されていれば、契約書上の名前が敷金以外でも敷金として認定されます。会計処理も敷金として計上します。

 賃貸借契約は敷金に限らず、全般的に重要な事項が盛り込まれているので、しっかりと確認しましょう。

 会計監査は、資本金5億円または負債総額200億円の株式会社や合同会社などにおいて義務付けられているものですが、中小企業も任意で受けることができます。

 もし会計監査を受けている会社なら、「資産除去債務に関する会計基準」というものを適用しなければなりません。

 「資産除去債務に関する会計基準」とは、退去時に発生する修繕費に関して、あらかじめ会計処理を行うことを要求する会計基準です。そのなかで、敷金を償却する会計処理を行うことが認められているため、年数での償却よりも多額に償却することがあります。

 しかし、「資産除去債務に関する会計基準」を適用し、敷金を通常よりも多額に償却している場合、法人税、所得税では、通常よりも多額に償却した分は費用として認められません。そのため、申告書上で税務調整をして、その費用を無かったものとして税金計算をする必要があります。

 敷金は物件ごとに条件が変わります。また、賃貸借契約書を締結すると、金庫などに保管されることから、改めて確認しようとすると手間になることがあります。そのため、契約当初にどのように会計処理をするかをしっかり決めておくことが重要です。

 この記事を参考にしていただき、賃貸物件に関しては、敷金の会計処理を早めに確定させましょう。