アライアンスとは 種類やメリット・実際の契約締結の流れも解説
アライアンスは、企業同士が対等な立場で戦略的な提携関係を結ぶことです。お互いの強みとなる経営資源を共有し、業務提携や生産提携、販売提携などの手法で事業の拡大・成長を目指します。本記事では、アライアンスの種類やメリット、契約の進め方などについて、製造業界の専門家が解説します。
アライアンスは、企業同士が対等な立場で戦略的な提携関係を結ぶことです。お互いの強みとなる経営資源を共有し、業務提携や生産提携、販売提携などの手法で事業の拡大・成長を目指します。本記事では、アライアンスの種類やメリット、契約の進め方などについて、製造業界の専門家が解説します。
アライアンス(Alliance)とは「同盟」や「連携」という意味を持つ言葉で、ビジネス用語としては企業同士が結ぶ提携や戦略的な同盟関係のことを指します。
ビジネスシーンで企業同士がお互いの強みを共有しながら、弱みを補完することとされ、事業拡大や利潤最大化などの高い目的を達成する「シナジー(相乗)効果」を生むためにアライアンスは行われます。
アライアンスという言葉はあまり一般的ではありませんでしたが、1997年に航空会社5社によって設立された世界初の航空連合である「スターアライアンス」をきっかけに、認知度が高まったとされています。
スターアライアンスには、全日本空輸株式会社(ANA)も加入しており、利用者に優先搭乗や搭乗手続きの削減など便利なサービスを世界各地で提供しています。アライアンスによる経営資源の共有で有効性が認識された事例と言えるでしょう。
アライアンスには、関連するさまざまなビジネス用語があります。
アライアンス契約とは、企業同士で業務提携や資本提携などのアライアンスを締結する際の契約のことです。
アライアンス契約では、提携の目的はもちろん、経営資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」の取り扱い、対象となる業務、契約期間や解約の方法・条件、守秘義務などについての協議を行い、契約書の締結が欠かせません。
アライアンス契約を結ぶ企業のことを、アライアンスパートナーと呼びます。
アライアンスの成否は、アライアンスパートナー選びによって決まるといっても過言ではありません。
アライアンスパートナー選びでは、その候補先の事業内容や経営資源についての情報収集、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)などで契約前に行われる財務・法務の信頼性調査である「デューデリジェンス」などを欠かさないようにしましょう。
加えて、アライアンス契約を締結後は、事業拡大などに向けて経営資源を共有する関係性となるので、以下のような相手を選ぶことが大切です。
戦略的アライアンスとは、アライアンスを戦略的に行うことです。
また、自社が持つノウハウやリソースといった資源だけでは経営目標の達成が困難な場合に、経営戦略の一つとして技術提携や販売提携などを行うことを、ストラテジックアライアンス(戦略的提携)とも呼びます。
アライアンス事業とは、アライアンスパートナーと協業して行う事業のことです。お互いの既存事業の弱みを補い合って事業拡大を目指すこともあれば、合弁会社などを設立して新しく事業を起こすケースもあります。
ビジネスシーンでは、アライアンスとよく意味を混同して使われている用語がありますが、厳密には意味が異なるものがあります。ここでは、3つの類似用語との違いを紹介します。
M&Aは、M&Aを行った企業や個人などに経営権が委譲されるため、お互いが対等な立場で提携関係を結ぶアライアンスとは企業間の関係性が異なります。
アライアンスは、あくまで協業関係を築いてシナジー効果を高めることが目的です。提携によって合弁会社を設立するといったケースはありますが、基本的に経営権はそれぞれの企業が持ちます。
またM&Aは、収益拡大などを目的にM&A先の企業の経営資源が取得・活用されるため、アライアンスでの「お互いに利益を高め合う」といった認識は基本的にありません。
業務提携とは、企業同士がお互いに経営資源を共有することを言います。新規事業を始めたりシェア拡大を目指したりする目的で、アライアンスの種類としてよく知られている提携関係です。
業務提携には、自社の開発商品をアライアンスパートナー先で生産してもらう「生産委託(OEM)」や、商品販売を流通チャネルの整った企業に委託するなど、さまざまな手法があります。
あくまでアライアンスの一つであり、企業同士で強みを活かしてシナジー効果を生み、弱みを補うといった目的で行われるのが一般的です。
業務請負は、外部委託(アウトソーシング)の一つで、発注者である「元請け」が業務の委託先である「下請け」と請負契約を結び、成果に対して報酬を支払うという上下関係になります。そのため、アライアンスのように同じ立場で協業関係を結んではいない点に違いがあります。
アライアンスは、1対1の2社および複数の企業同士で提携関係を結ぶことであり、さまざまな種類があります。ここでは、アライアンスの代表的な種類を紹介します。
資本提携は、パートナー企業同士で株式を持ち合うなど、経営資源のうち「カネ(資本)」に関するアライアンス関係を築くことです。
例えば、商品の店頭販売をメインで行ってきた2社が、お互いに資本を出し合ってECシステムを開発し、通信販売によってシェアを拡大するといった事例があります。
資本提携によってお互いにステークホルダーとしての結びつきが生まれるため、業務委託よりも関係性が強固になります。
技術提携は、これまで培ってきた研究開発力や生産力などの技術ノウハウを、企業同士で共有し合って、新たに共同開発や生産コストの低減などを行うアライアンスのことです。
例えば、A社が加工品の原料開発力に優れているものの、加工品の開発・生産力がない場合、原料の開発力はないものの優れた加工技術を持つB社と技術提携することで、上流から下流まで一貫した製品開発・生産が行えるため、お互いにシェアを拡大できるでしょう。
特許技術を活用する際には、クロスライセンスを結んだり、ライセンスを供与したりする方法が一般的です。
販売提携は、企業同士が、お互いの販売力や営業力などを提供し合うアライアンスのことです。
アライアンスパートナーがこれまで構築してきた独自の販売チャネルを共有することで、お互いに販路のさらなる拡大はもちろん、新規顧客の獲得や流通コストの低減による収益改善などが期待できます。
例えば、ユーロ圏の販売に特化したA社と、アジア圏との繋がりが強いB社が販売提携を行うとします。提携によって販路の共有だけでなく、営業人材のリソースを共有することで、お互いの商品の販売拡大や販促活動のコスト低減を目指すことができるでしょう。
アライアンスには、大きく3つのメリットがあります。
アライアンスパートナーとの協業によって新製品開発や生産コストの削減などの目標を達成できれば、競合他社や新規参入企業の事業よりも有利となる競合優位性を高めることができます。
自社がこれまで蓄積してきたノウハウや販売チャネルのみでは、収益拡大や利益の最大化に限界が訪れることがあります。
また、競合他社が特許の防衛出願をすることによって技術的な選択肢が狭まってしまい、結果的に特定の領域で優位性を築けなくなることも少なくありません。
その点、アライアンスによって協業関係にある企業とお互いの強みを融合できれば、製品開発や販路拡大などの新たな選択肢を増やして、競合優位性を高めることができます。
アライアンスは、M&Aと違って経営権を委譲するわけではなく、対等な立場でお互いの目的を達成するための協力関係を築くため、契約の締結や解消がしやすいというメリットがあります。
資本提携のように株式の持ち合いや出資などを行う場合は、事前にデューデリジェンスを実施するフローが望ましいですが、アライアンス契約はM&Aに比べて手続き負担がそれほど大きくなく、契約内容に同意をすれば締結がスムーズにできます。
アライアンス契約を結ぶにあたって、技術ノウハウや情報については守秘義務があり、秘密保持契約(NDA)などを締結する必要があります。しかし、業務提携などで自社が苦手とする領域に触れる機会が増えるのは、ノウハウはもちろん経験の蓄積にもつながるでしょう。
また、異なるスキルやノウハウを持つ社員との交流で新しい発想を得られるなど、人材の育成にも役立つというメリットもあります。
アライアンスを行う際には、以下の注意点やリスクもあります。
アライアンスパートナーとは技術ノウハウやさまざまな情報を共有し合う関係になるため、外部に機密情報が流出するリスクが生まれます。
情報の漏洩を防ぐためには、アライアンスパートナーとは秘密保持契約の締結はもちろん、協業によって生まれた新規技術については共同で特許出願をするなど、アライアンス契約の締結時に機密情報の取り扱いや罰則について、綿密に取り決めておく必要があります。
アライアンスを行ったからといって、必ずしも成果が出るとは限りません。
例えば、商品の販路拡大を目指してパートナー企業の販売チャネルを活用したとしても、ターゲットとなる顧客層が異なれば、想定していたほど販売量が伸びない可能性があります。また、流通チャネルの整備が必要になるなどして、見込み以上にコストが増大することもあるでしょう。
アライアンスパートナーを選定する段階から、アライアンスを行う目的はもちろん、相手のどういった経営資源が自社にとって必要であるのかを明確にしておくことが大切です。
業務提携によって行われている事業でトラブルが起こった際に、責任の所在が曖昧になる恐れがあります。
例えば、販売提携を結んで他社の商品を自社で販売する場合、不良品などによるクレームへの責任がどちらにあるのか曖昧ならば、対応が遅れるなどして消費者の不満を買い、結果的に両社の社会的な評価を下げてしまう可能性があります。
そのようなリスクを回避するためには、アライアンス契約を締結する段階で責任の所在を決めたり、事業に損害を与えた場合の対応について協議事項に盛り込んだりするなどの対応が必要です。
アライアンスパートナーが決定して契約を締結する際には、一般的に以下のような流れとなります。
まず、アライアンスを行うことで、自社が達成したい具体的な目標を明確にしましょう。
それは自社の経営課題を深掘りする必要があり、経営資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」や「技術力、知的財産、ノウハウ」などに着目して状況を整理したうえで、目標を達成するために自社だけでは補えない不足ポイントを抽出しましょう。
自社に不足しているポイントを明確にすることで、選ぶべきアライアンスの種類や方針を決めることができます。
アライアンスの目的が明確になったら、次はアライアンスパートナーを選定します。
パートナーは自社で探すのはもちろん、M&Aやアライアンスの仲介を行っている第三者に紹介を受けるという方法もあります。
アライアンスパートナー側にトラブルが発生すれば、自社の信頼性を損なう恐れもあるので、選定段階で財務諸表などを用いて経営指標をある程度チェックし、過去に経営上のトラブルなどがないかを確認しましょう。
アライアンスパートナー候補が見つかったら、候補先とアライアンス契約についての協議を行います。
協議の段階から技術ノウハウや業界情報などを共有する可能性が高いため、事前に秘密保持契約を締結する必要があります。
秘密保持契約書を締結する際には、経済産業省が「各種契約書等の参考例」で提供しているフォーマットの活用も検討しましょう。
アライアンス契約の協議段階では、提携によってお互いにどのようなメリットがあるのかを確認することが最優先です。
協議は複数回実施するのが一般的なので、アライアンスのメリットがあると感じたら並行して相手方の経営指標の詳細調査を行い、契約書に記載する条項や具体的な契約内容についても話し合いましょう。
アライアンスパートナー候補との協議によって提携を結ぶことが決定したら、業務提携契約書を作成し、締結を行います。
「アライアンスの注意点・リスク」でも述べたように、情報漏洩や責任の所在などは必ず盛り込み、業務の範囲、契約期間や解除の条件・方法なども事前協議に従って記載しましょう。
締結前に双方で契約書を精査したうえで、修正の要望があれば都度協議を行います。
アライアンスによってパートナー同士が強みを活かせて、経営改善や新規事業開拓につながることも少なくありません。
ここでは、経済産業省の「ミラサポplus」で紹介されている、業務提携事例を2つ紹介します。
新潟県上越市にある新和メッキ工業は、BtoB向けに電子部品などのメッキ加工を行っていました。しかし、コロナ禍での売上高減少に伴って、収益の柱を増やすために苦慮することとなります。
そのようななか、上越市の町おこし事業「チタンのまち上越」の担当者の紹介により、地元にチタン製造大手の日本製鉄株式会社があることを知り、感化されます。そこで、チタン加工業者の滝田と連携しながら、新しくBtoC向けの商品開発に取り組み始めました。
新和メッキ工業は、チタン製の生活道具を開発・製造する「iroiro(イロイロ)」を立ち上げ、デザイン会社などとも連携しながら新たな商品を開発し、BtoCビジネス展開に成功しています(参照:新和メッキ工業丨経済産業省「ミラサポplus」)。
宮城県女川町の水産加工業者である「マルキチ阿部商店」は、東日本大震災で工場を失いつつも、仮設工場での営業再開と直営物販店のオープンなどで売上を拡大していました。
しかし、コロナ禍によって2020年の2〜4月は前年比で30%の売上減となります。そのようななか、同じ水産加工会社の株式会社鮮冷から業務提携の話があり、販路や設備、ノウハウ、人材資源の共有や原材料の融通を目的として、同年5月にアライアンス契約を結ぶこととなりました。
その結果、原材料の一括仕入れによるコストダウンや新製品の共同開発などにつながり、さらに双方のパンフレットを持ち合って営業活動を行うことで、販路拡大にも成功しています(参照:マルキチ阿部商店丨経済産業省「ミラサポplus」)。
アライアンスは、企業同士が提携関係を結び、お互いの経営資源や技術ノウハウ、ライセンスなどを共有して、事業の拡大と成長を目指すことです。
アライアンスによってシナジー効果を生むためには、特に自社の経営目標の明確化や、アライアンス契約を締結するパートナーの選定が大切です。
パートナーを選定する際には、自社の経営資源との親和性を考慮するのはもちろん、利益相反にならないように事前協議で綿密に、経営目標も含めた情報交換が大切です。
アライアンスによって自社の技術ノウハウや機密情報が漏洩するリスクがあるので、協議段階から秘密保持契約を結び、契約書には提携の範囲や責任の所在などを盛り込むことも忘れないようにしましょう。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。