目次

  1. 留保金課税とは
    1. 留保金課税の目的
    2. 留保金課税の対象法人:特定同族会社とは
  2. 留保金課税の計算方法
    1. 留保金額=所得−法人税等−配当−留保控除額
    2. 留保金課税は超過累進税率となる
  3. 留保金課税の対策
    1. 資本金の額をコントロールする
    2. 株主構成をコントロールする
    3. 留保金額を減らす
  4. 留保金課税が適用された事例
    1. 100%子会社で留保金課税があることを失念した事例
    2. 増資シミュレーションにおいて留保金課税を失念した事例
  5. 留保金課税の対象法人は少ないが資本政策の際には注意

 留保金課税とは、特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超えた場合に、通常の所得に対する法人税額のほかに、その留保所得に対して特別の税率による税額を加算する制度です。

 会社には、通常の所得に対して法人税がかかりますが、特定同族会社に該当すると、一定の留保金に対して、その留保金自体にさらに税金が課されます。

留保金課税の対象法人と対策
留保金課税の対象法人と対策(デザイン:吉澤風香)

 留保金課税は、所得税の回避の防止を目的にしています。

 会社とその個人株主が一体となっている場合、個人株主としては会社という枠組みを使って節税することが予想されます。個人にかかる所得税率は総合課税だと超過累進税率の下で最高税率が45%、住民税の10%と合わせての税率は55%となり、さらに事業税を含めると60%弱にまでなります。

 一方、会社であれば法人税・法人住民税・法人事業税の合計で30〜35%程度の税率となります。そのため、所得が上がるほど会社のほうが有利な税率となっており、配当として個人に利益を分配するより会社に所得を残しておくほうが、税額負担が少ないこととなります。

 会社での利益は、配当することで最終的には個人に還元されます。配当金額は上場株式等の配当(大口株主等を除く)や少額の配当を除き、配当所得として所得税の総合課税の対象となります。配当所得には税額控除である配当控除も適用となりますが、それを考慮しても、一定の所得を超えると所得税率が法人税率より高くなるため、配当をせずに会社に所得を残しておいたほうが課税上有利になります。

 そこで、会社に所得を残そうとするその金額が留保金です。ただし、すでに残されている、内部留保=利益剰余金というストックの概念とは異なり、留保金課税の留保金額はフローの概念となります。税務当局の視点から見れば、配当しないことで生じる会社と個人の税率の差に着目した節税策を封じ込めようとする目的があります。

 留保金課税の対象となる法人は、特定同族会社と判定された法人です。

 特定同族会社とは、以下の原則を満たす会社です。

特定同族会社の条件(下記いずれの条件にも該当する場合は特定同族会社)
①会社の株主のうち、上位1グループで持ち株割合が50%超となっている
②資本金の額が1億円を超える

 ①の条件に該当する会社を被支配会社と言います。例えば、以下の条件のいずれかに該当する場合は①の条件を満たします。

被支配会社の条件(下記いずれかに該当する場合は被支配会社)
・株主=社長の完全オーナー会社である
・A社の株主がa,b,c,dの4者である場合、aの持ち株割合が50%超である
・a,bが夫婦で、c,dはaの友人という場合、a,bは特殊関係者となるので、a,bを合わせて上位1グループとなり、その持ち株割合が50%超である
・bはaが100%出資する法人である場合、a,bは特殊関係者となるので、a,bを合わせて上位1グループとなり、その持ち株割合が50%超である

 世の中にあるほとんどの会社はいわゆるオーナー会社であるため、数だけで言えば、①の条件を満たす会社、つまり被支配会社であるほうが圧倒的に多いでしょう。

 一方、資本金の額が1億円を超える会社は、割合で言えば全体の1%もありません。数で言えば、2020年度では全国で2万社程度です。そのため、世の中の会社の99%は②の資本金の額の条件をクリアしないため特定同族会社とはならず、留保金課税の対象外です(参照:外形標準課税に関する状況 p.2丨総務省)。

 ただし、親会社の資本金の額が5億円以上であってその100%子会社であれば、②資本金の額1億円の基準はありません。資本金の額が1億円を超えない、つまり資本金の額が1億円以下であっても、①の条件を満たせば特定同族会社の対象となります。

 また、あるA社の第1グループの株主がX社という法人である場合、そのX社が被支配会社であるか、つまりX社の株式を50%超所有している株主がいるかを判定する必要があります。X社が特定の株主で構成されていれば、A社は被支配会社となります。

 留保金課税の仕組みは複雑ですが、その原因の1つが、会社の株主が法人である場合にその法人の株主構成がどうなっているかを考慮しなければならないところです。留保金課税の元々の趣旨は、法人が個人へ配当せずにいるのを抑制したいというものです。そのため、その趣旨を踏まえて判断していく必要があります。

 留保金課税の制度自体は古くからあり、その対象が現在より広かった時期もあります。資本金の額が1億円以下の会社が対象外となったのは、2007年度の税制改正からであり、それが現在に続いています。

 留保金課税の税額を算出するためには、以下の図表のようなステップを踏んでいきます。

留保金課税の計算方法
留保金課税の計算方法・筆者作成

 上図のとおり、留保金額課税の課税対象となる留保金額とは、当該事業年度の所得のうち、法人税等や、配当として社外に流出していない額で、そこからさらに留保控除額(最低2,000万円)を控除したものとなります。

 つまり、ざっくりと言えば、所得から法人税等を支払った後に、配当せずにいる金額が2,000万円を超えると留保金課税がかかってきます。

 留保金課税の税率は、所得税の税率構造のパターンのように、超過累進税率となっています。

 例えば、留保金額が2億円である場合、2億×20/100=4,000万円が税額となるのではなく、上図の「留保金額に対する税率」が適用されて以下の計算となります。

留保金課税の計算例
(1) 年3,000万円以下の金額:3,000万×10/100=300万円
(2) 年3,000万円を超える金額:7,000万(=1億−3,000万)×15/100=1,050万円
(3) 年1億円を超える金額:1億(=2億−1億)×20/100=2,000万円
(1)+(2)+(3)=3,350万円が税額となります

 ここでは、留保金課税の対策について紹介します。

 現時点の制度では、大規模法人の100%子会社ではない限り、資本金の額が1億円以下であれば留保金課税の対象外とされています。そのため、独立資本の会社は資本金の額を最高でも1億円に留めておけば、そもそもの留保金課税の対象外です。

 すでに資本金の額が1億円超ある場合は、株主総会の特別決議と一定の債権者保護手続きを経ることによって、資本金の額を減少させることができます。

 ただし、資本金の額1億円のボーダーは、留保金課税に限らずほかの税制でも影響が出てくるので慎重なシミュレーションが必要になってきます。

 第1株主グループで持ち株割合が50%超とならなければ、留保金課税の対象外となります。そのため、株式を移動し、第1株主グループの持ち株割合を50%以下におさえることも対策の1つです。

 実は、上場企業が特定同族会社であるケースは珍しくありません。そして、持ち株割合が50%以下となったために、特定同族会社に該当しなくなったというIR(企業が株主や投資家に向けて、財務状況など投資に必要な情報を公表する活動)が発表されることはしばしばあります。必ずしも留保金課税の対象外とすることを目的とするものではありませんが、株主構成をコントロールすることは重要な資本政策です。

 留保金課税は、その名のとおり留保金にかかる税金です。留保金額が少なければ留保金課税はかかりません。「留保金課税の計算方法」の図を参考にすると、留保金額を減少させるには、そもそもの所得を減らすか、配当金を支払うという2つの方法があります。

 そもそもの所得を減らすためには、広告宣伝の実施など、ある程度は経費のコントロールによって調整できるでしょう。また、配当金を支払うとなると個人の所得税に影響するので慎重な判断が求められますが、所得税額との関係で配当したほうが有利な場合もあります。

 現時点で、留保金課税が適用される会社は限られており、あまりなじみのある制度ではありません。そのため、留保金課税が適用されるのにそれを失念してしまうという事故が、ときに発生します。留保金課税が適用された事例を2つ紹介します。

 資本金の額が5億円を超えるP社の100%子会社であるS社がありました。S社の資本金の額は1億円以下で、いわゆるM&AでP社の子会社となったのですが、その後の決算の申告において、留保金課税の対象となることを失念しており、税務署から指摘を受けた事例です。

 P社が被支配会社、つまりP社の株主が特定の個人とその特殊関係者で50%超を占めていたため、S社も被支配会社となり、そして、P社の資本金の額が5億円超であるためにS社の資本金の額1億円のボーダーはないため、結果としてS社は特定同族会社となり、留保金課税の対象となりました。

 このケースは、P社の顧問税理士とS社の顧問税理士が異なっており、P社の株主構成まで把握しきれなかった可能性があります。または、P社の株主構成を把握する以前に、S社の資本金の額が1億円以下であったため、その時点で留保金課税の対象外だと早合点してしまったのかもしれません。

 顧問先が資本金1億円超に増資するということで、税理士がその税務インパクトをシミュレーションした際に、留保金課税の適用があることを失念していた事例です。

 資本金が1億円を超えると税務上は大法人として取り扱われ、一般的には税務上不利になることが多くなります。一方、法人事業税においては、資本金の額が1億円以下では所得割(所得に対する税率で算出される)だけだったのが、資本金の額が1億円超になると外形標準課税という、付加価値割と資本割が課されるようになり、その代わりにそれまでの所得割の税率が低くなります。そのため、場合によっては資本金の額が1億円を超えたほうが有利になることもありえます。

 税理士は、事業税の所得割の税率で差異がある分、増資したほうが有利というシミュレーション結果を出しました。それを受けて会社が増資し、いよいよ決算の段階になったら留保金課税の適用があることに気付き、留保金課税を考慮すると増資したら不利だったことが判明したというものです。

 法人税の申告において、申告書別表2に株主の情報もあり、シミュレーションでも税務ソフトを用いて税額を算出しているはずです。しかし、この事例ではシミュレーション段階では税務ソフトに入力されている株主の情報が不正確だったのかもしれません。そのため、留保金課税ありと判定されなかったのでしょう。この事例の株主構成までは不明ですが、正確な株主情報が入力されていれば起こらなかった事故だと思われます(参照:税理士職業賠償責任保険事故事例2019年版 p.28丨日税連保険サービス)。

 1つ目の100%子会社での事例にも言えますが、大法人になるほど改めて株主情報を確認する重要性に気付かされる事例です。

 留保金課税となる対象法人は、現行制度では多くありません。

 しかしながら、資本政策を検討する際には避けては通れない論点となります。また、内部留保に対して課税しようとする動きもあり、その手始めとして留保金課税が再び強化されることも今後考えられます(内部留保そのものに対する課税はストックに対する課税であるのに対し、留保金課税はフローに対する課税です)。

 そのため、留保金課税の概要を知っておくことは、今後の経営・税務戦略を考えるうえでも有用です。