マルチタスクとは 意味や仕事例・管理法を簡単に解説 人間の脳に影響は?
マルチタスクが苦手という人も多いのではないでしょうか。しかし、マルチタスクのメリットとデメリットを正しく理解し、効果的な手法を身につければマルチタスクは誰でも実行できます。組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、マルチタスクの意味や仕事での事例、注意点、管理手法を簡単に紹介します。
マルチタスクが苦手という人も多いのではないでしょうか。しかし、マルチタスクのメリットとデメリットを正しく理解し、効果的な手法を身につければマルチタスクは誰でも実行できます。組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、マルチタスクの意味や仕事での事例、注意点、管理手法を簡単に紹介します。
目次
マルチタスクとは、一度に2つ以上の作業を同時並行、もしくは短期間に切り替えながら同時進行で行うことを指します。マルチタスクという言葉は、もともとコンピュータ用語で、同時に複数の処理を実行するという「multitasking」が語源となっています。
マルチタスクの例としては、「電話応対しながらメールの処理をする」「人と話しながら運転をする」「会議に参加しながら議事録をつける」などがあります。みなさんも、無意識のうちにしていることが多いのではないでしょうか。
一方、下記で詳しく解説するとおり、マルチタスクには、作業が中途半端になったり、脳に負担やストレスを与えたりするというデメリットがあるといわれています。そのため、マルチタスクについて正しい知識を持ち、デメリットを避けることができれば、より効率的に業務を進められるようになるでしょう。
シングルタスクとは、一つの作業に集中して行うことを指します。メールや電話などに邪魔されずに提案書の作成だけに集中したり、アイデア創出のためだけに時間を使って集中したりすることなどがあたります。
シングルタスクのメリットは、一つの作業に集中することで生産性を向上させることです。たくさんのことをこなすわけではなく、一つの業務の付加価値を高めて生産性を上げる仕事の仕方です。
デメリットは、一つずつ業務を完了していくため、優先順位を間違えると重要度や緊急度の高い業務が後回しになってしまうリスクがあります。
マルチタスクといっても、一つの時間に複数の業務を同時並行的に進めることは難しく、タスクとタスクを細かく短期間で切り替えている人がほとんどでしょう。
会議に参加しながら議事録を書くときも、議論の内容を聞いたり話したりしている時間と、議事録を書いている時間は同時並行的に見えますが、厳密には絶え間なく、タスクを切り替えて実行しているに過ぎません。
したがって、この切り替えが得意な人はマルチタスクが得意ということになります。感情の切り替えに時間がかかる人、完璧主義に走りやすい人は、切り替えが難しいため、マルチタスクが苦手な傾向が強いでしょう。
では、マルチタスクで仕事を進めることによるメリットについて、以下に解説していきます。
複数の仕事を同時に進行できるというのは、マルチタスクの一番わかりやすいメリットでしょう。
提案書を作りながらメールでの問い合わせに返信したり、打ち合わせをしながら議事録の骨子をまとめていったりできるため、必要な業務を先送りにせずに完了させることができます。
マルチタスクは業務を同時進行できるため、複数の業務の重要度や緊急度が見えやすくなります。また、重要度や緊急度に応じて臨機に対応することで、重要な業務にどれだけ時間を割けばよいかの判断がつきやすくなるので、業務の進行を効率化させることができます。
複数の業務を抱えている場合、こまめに情報共有や連絡をしなければ、期日に遅れてしまう恐れがあります。そのため、そういった状況では同僚や取引先とのコミュニケーションは必然的に増えます。
その際、マルチタスクを行い、問い合わせなどに対してもスピーディーに対応していけば、相手の返事待ちの時間を奪うことが減るため、同僚や取引先からもその対応に感謝されることが増えるでしょう。
これらのスピーディーでこまめな情報共有は、突発的な仕事や新たな案件の対応にもつながりやすくなり、新たな売上の獲得に貢献する可能性も高まります。
一方、マルチタスクには、メリットばかりではなくデメリットもあります。デメリットの部分を抑えて、上手にマルチタスクを実行できるようにするためにも、マイナスの側面も理解しておきましょう。
マルチタスクは、複数の仕事を同時進行できるというメリットがあるため、一見効率がよく見えますが、実際はひとつのことに集中できたほうが効率がよいといわれています。
例えば、新たなアイデアを生み出そうと集中しているときに、電話がかかってきたり、話しかけられたりと、何らかの中断が入れば集中力が切れてしまいます。その結果、再び前の業務に戻ろうするときに、思い出す時間や集中力のスイッチを入れるため時間を要します。
一度切れたエンジンを再びかけるのにエネルギーが必要なのと同様です。そのため、実際はマルチタスクよりも、ひとつのことに集中できたほうが生産性が高いといえるのです。
また、パオロ・カルディーニのTEDでの発表によれば、実際にマルチタスクを行えているのは2%の人に過ぎないといいます(参照:パオロ・カルディーニ 「マルチタスクはやめて、モノタスクを」|TED|YouTube)。多くの人は、タスクの切り替えを大急ぎで行っているに過ぎないため、ストレスが多くかかりやすいということです。
マルチタスクで多くのことをこなそうとすると、それぞれの業務で想定外のことが起きたり、時間の見積りが甘かったりした場合、「時間がない・慌ただしい・間に合わない」という状況に陥りやすく、焦りが生じます。
あれもこれもと考えた結果、キャパシティオーバーになりやすいのです。このように、あれもこれもやろうとすると、脳へのストレスが大きくなるともいわれています。
エビングハウスの忘却曲線でも指摘されているように、人間の短期記憶能力はあまり高くありません。
また、アメリカのミズーリ大学の心理学者ネルソン・コーワン教授の理論「マジカルナンバー4」によると、人間が短期記憶で保持できる情報の数は4±1といいます。
料理をするだけでも、人は同時に3つくらいのことは気にしておかなければいけませんから、さらにマルチに物事をこなすとなると、必然的にキャパシティオーバーになるといえるでしょう。
イギリスのサセックス大学の研究によると、スマートフォンやパソコン、その他メディア端末などを複数同時に利用するマルチタスク行動をよく行う人は、共感と認知および感情の制御に関わる前帯状皮質の脳密度が低いという調査結果があります(参照:Brain scans reveal 'gray matter' differences in media multitaskers|EurekAlert!)。
脳への変化の明確なメカニズムは不明ですが、そのようにマルチタスクと脳において何らかの相関関係がある可能性が示唆されています。
メリットやデメリットを理解したうえで、どのようにマルチタスクを効率的に行うかについて解説します。
前述したとおり、マルチタスクとは、正確にはタスクを並行で行っているのではなく、タスクとタスクの切り替えをこまめに行っている状態です。
その結果、マルチタスクはさきほど紹介したデメリットをつくりだしています。マルチタスクのデメリットを抑え、メリットを最大限に創出するためには、以下のような効果的なタスク管理術を身につけることが大切です。
目に見えているタスクを思いつきでこなしていると、いくら時間があっても足りず、時間外労働が増えたり、緊急の案件に対応する余裕がなかったりとあたふたすることが増えるでしょう。
そのため、重要度と緊急度に応じてタスクを優先順位づけし、業務を進めることが重要です。
ここでいう重要度とは、仕事の成果や価値に対する影響度のことです。売り上げや顧客の信頼度に直結する業務や、個人のスキルアップや組織の効率化を測る業務などは重要度の高い仕事だといえます。
一方、緊急度とは仕事の期日など時間的な制約のことです。一人でできないことや他の従業員を巻き込む仕事は緊急度が高まりやすいといえます。
重要度・緊急度をマトリクスに分けると、以下の図のとおりになります。
「重要度」「緊急度」というと、「緊急なタスクが重要」と勘違いする人がいます。例えば、クレーム処理やトラブル対応などは、緊急度も重要度も高いので、多くの人が「優先すべき仕事」だと判断するでしょう。
しかし、こうした「①重要かつ緊急」なタスクは、その反動で「④重要でも緊急でもない」タスクを増やします。起きなくてよいトラブルのせいで資料を作るはめになったり、情報収集が必要になったりすることもあることがまさに④のタスクだからです。
ただ、「②重要だが緊急ではない」タスクに時間を使えるようになると、結果として「①重要かつ緊急」のタスクが効率化されていきます。
②のタスクとは、業務プロセスの見直しや研修受講など、現状をさらによくするために使う時間のことでもあるためです。そして、この②の時間を作るために、「③緊急だが重要ではない」タスクを減らしたり、なくしたりすることが大切になります。
このように、自分のタスクがどの領域かを見極め、自分のなかで重みづけをしてタスク管理を行っていくことが重要です。
複数のタスクを抱えているときは、「1×10×1」システムを取り入れるとよいでしょう。「1×10×1」システムとは、早めにできる仕事を先にこなしていくタスク管理術のことです。
「1×10×1」システムを取り入れる際は、まず1分間程度で片づけられるタスクに着手します。例えば、OKかNGか答えの出ているものに対する返事や、すぐに判断のつく承認行為などです。
次に、10分以内で片づけられるタスクに着手します。例えば、議事録に目を通すとか、電話を1本かけるなどです。そして、最後に1時間以上かかるタスクを行います。この要領でタスクをこなしていくと、山積みになっている仕事が効率的に片づけられるようになります。
メールやメッセージなどに1日中追われて、気が散っている人も多いと思いますが、タスクを朝のうちに分類しておいて、気が散らないようにコントロールできると、ひとつひとつのタスクに集中することができます。
一つひとつのタスクに集中するためには、自分でその環境を整えることも大切です。ここでは、環境を整える具体的な方法として以下の2つについて紹介します。
上司や同僚から気軽に声をかけられて、その人の話を聞いているうちに時間を浪費してしまったり、中断によって集中力が切れてしまったりすることも多いでしょう。また、やるべきではない仕事を頼まれて、自分の業務が進まず、残業するはめになる状況は避けなければなりません。
具体的には、自分の仕事を「中断」しなければならない状況になった場合は、その状況を「不必要な中断」「必要な中断」「必要だがタイミングが悪い中断」に分類し、以下のとおり対応すると決めておくのがおすすめです。
不必要な中断が生じた場合 |
現在行っている業務を優先するため、不必要な時間を回避・排除する対策を講じる。 例:クレーム対応を行っているときに書類の作成業務を依頼された。他の人でも対応できる内容であったため、断る、ないし他の人に依頼する。 |
必要な中断が生じた場合 |
現在行っている業務の優先順位を下げ、すぐに対処する 例:他の人でも対応できる書類作成を行っているときに顧客からクレームの連絡が入ったので、業務を中断し、すぐに対応する。 |
必要だがタイミングが悪い中断が生じた場合 |
相手にスケジュールの変更を依頼する 例:顧客から問い合わせが発生したが、重要性の低い内容だったため、後で回答する旨を伝える。 |
優先順位の入れ替えを検討する際は、それぞれの業務の意義と目的を確認し、その必要性を判断しましょう。優先順位の変更が必要な業務であれば、きちんと変更する意義と目的を言語化できるはずです。もし意義と目的が明確でない場合は、上司と相談などして自分の業務を優先させましょう。
メールやメッセージなどが頻繁に入ってくると、気が散ってしまい実行しているタスクに集中できなくなります。そのため、今必要ないアプリケーションや、Webブラウザは閉じておくとよいでしょう。例えば、1時間だけはメールを見ない、1時間はスマホをいじらないなど、自分のなかで時間を区切って集中する時間を作るのもよいでしょう。
マルチタスクを効率的に行うためには、脳のワーキングメモリを整理することも重要です。
ワーキングメモリとは、「作業に必要な情報を一時的に保存し、同時に処理する能力」のことを指します。このワーキングメモリを上手に整理することで、マルチタスクを効率的に行えるようになります。ここでは、以下のとおり、その具体的な方法を2つ紹介します。
単純な方法ですが、脳の中に一時保存するのではなく、メモに取って可視化することで、ワーキングメモリを整理できます。とくに、業務中に他の仕事が入ってきたときなどに行うとよいでしょう。その場合は、一旦その他の仕事をメモしておき、今の業務が終わってから取り組みます。
また、脳のワーキングメモリを整理するという意味では、やらないことをメモに書いて可視化しておくのも効果的です。「スマホを見ない・メールみない・ネットを見ない」など、自分の時間を奪いそうな事象を書いておくと、自制心が高まりやすくなります。
瞑想とは、心身をリラックスさせ、今の時間に集中できる状態を意図的に作り出すことで、自分に気づく(客観的になれる)心身療法です。瞑想を行うと、不要な考えを巡らせてワーキングメモリを圧迫してしまう状態を避けられるようになります。
瞑想のメリットとしては、自分自身の感情やストレスを客観的に判断しやすくなる点が挙げられます。そのため、タスクを細かく切り替える際も気持ちが振り回されず、冷静に対処できるようになります。
瞑想にはたくさんの手法がありますが、取り入れやすいものとして有名なのは「マインドフルネス」でしょう。
マインドフルネスとは、「今ここ」に意識を集中する瞑想のスキルのひとつです。具体的なやり方は以下のとおりです。
マインドフルネスを継続すると、ストレスによって身体が重く感じるなど、いつもと違う自分に気づけたり、その気持ちを受け入れて整理できたりします。このように、瞑想によって冷静な自分を獲得できるようになれば、自然と脳のワーキングメモリを整理しやすくなるでしょう。
テクノロジーの進展により、これまで以上に生産性が重要視されるようになってきました。機械やAI、ITツールなどが進展したとはいえ、それをコントロールするのは人間です。
結局、私たちがマルチタスクを上手に身につけることができなければ、テクノロジーすらも上手に使いこなせないのではないでしょうか。
マルチタスクを正しく理解することで、より業務の効率化を実現でき、組織の成果にもつなげられます。ぜひ、ご自身の業務に取り入れてみてください。
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