目次

  1. エビングハウスの忘却曲線とは 論文も紹介
  2. エビングハウスの忘却曲線の実験結果
    1. エビングハウスの忘却曲線が示す 記憶定着までの節約率
    2. エビングハウスの忘却曲線の実験からわかること
  3. 忘却を防ぐ最適な復習タイミングと勉強スケジュール
    1. 苦手なことほど早く復習する
    2. 覚えたことをアウトプットする
    3. ストーリーづけて覚える
  4. エビングハウスの忘却曲線で研修の効果を高める3ステップ
    1. ステップ①事前アンケートによる意識向上
    2. ステップ②研修中はこまめな振り返り
    3. ステップ③フォローアップ研修を実施
  5. エビングハウスの忘却曲線を研修効果に生かすにはフォローが重要

 エビングハウスの忘却曲線とは、ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが、人間の長期記憶について研究した結果、提唱された考え方です。

 この研究では意味のないアルファベットを記憶させた後、どれだけ記憶を保持できているかを実験したもので、20分後には42%を忘れている(58%を記憶している)という結果が出ています。

 この実験では、人は学んだことを案外忘れやすいため、再び思い出すなど振り返ることの大切さがわかりました。

エビングハウスの忘却曲線と記憶の節約率
エビングハウスの忘却曲線と記憶の節約率(デザイン:吉田咲雪)

論文:Ebbinghaus, H. 1885 Ueber das Gedaechtnis: Untersuchengen zur experimentellen Psychologie [On memory: Investigations in experimental psycholog y]. Leipzig, Germany: Duncker & Humbolt.

 エビングハウスの忘却曲線の実験結果を紹介します。

 エビングハウスの忘却曲線は、人は忘れやすいということを示していますが、実際は、人が一度覚えたことを再度覚えるためにかかる時間の「節約率(どれぐらい減らすことができるか)」を時間軸で表したものです。意外と勘違いしている人も多いのではないでしょうか。

 つまり、覚えていられる時間や忘れるまでの時間ではなく、同じことを覚えなおしたときの時間がどれだけ節約されたかを表しています。

節約率=節約された時間÷初回覚えるのに必要だった時間

 ある情報を覚えるのに初回10分かかったとして、2回目は6分で覚えなおせたら4分の節約になるため、4分÷10分=40%の節約率となります。反復して学習することで、記憶の定着にかかる時間を節約できることがわかります。

 エビングハウスの忘却曲線の実験の具体的な調査結果は以下の通りです。

エビングハウスの忘却曲線
エビングハウスの忘却曲線・筆者作成

 人は情報を覚えた瞬間から忘れ始め、20分で覚えたことを約4割忘れていることがわかります。しかし、その後の記憶保持率の低下は緩やかになり、ゆっくりと覚えたことを忘れていきます。

 ある情報をはじめて覚えるのに10分かかったが、1時間後再度覚えるときには5、6分で覚えられるようになるのが節約率です。反復して復習することで、覚える時間を節約し早く記憶できるようになります。

 一夜漬けで覚えようとしても記憶が定着しないのは、覚えた瞬間から忘れていくのが理由で、だからこそ覚えるためには繰り返し学習することが重要です。

 実験では意味のないアルファベットの羅列を覚える実験でしたが、体系立てて覚える学問やストーリー性のある内容であれば、より緩やかに記憶保持率が低下すると考えられます。

 2013年に行われたカナダのウォータールー大学の研究では、

  • 復習しなければ1カ月後にはほとんど忘れてしまう
  • 24時間以内に復習すれば、10分の復習で100%の記憶に戻る

 といわれています。

 そこで、忘却を防ぐために効果的なタイミングや、復習方法を3つ紹介します。

 覚えにくいことほど早めに復習することで、短時間で思い出せるようになります。

 受験勉強などと同じで、解けなかった問題の復習を後回しにすると苦手科目を克服できず点数は伸びません。つまり、記憶を定着させるためには復習する情報に優先順位をつけることが大切です。

 覚えたことを人に話すなど、アウトプットすることで記憶に残りやすくなります。覚えたと思っていてもすぐに忘れてしまいがちですが、覚えたことを人に話すことで、自分の頭の中で情報が整理されて、記憶が定着しやすくなります。

 覚えたことを上司や先輩に説明したり、部下や後輩に教えたりするのも効果的です。

 覚える内容をストーリーづけることで、記憶が定着しやすくなります。教科書の内容を覚えるときも、ただ暗記をしようとするとなかなか記憶が定着せず、そのときだけの記憶になりがちです。

 「○○年に△△の乱が起きた、□□が改革を行った」と暗記をしても、印象に残りづらくないでしょうか。しかし、小説やマンガで覚えると、誰がどんな場面で何が起きたのかをストーリーで理解できるので記憶が定着しやすくなります。

 漢字を覚えるときも、字の形だけを覚えるのではなく、字の成り立ちや意味から理解すると覚えやすくなるのもストーリーのおかげでしょう。

 エビングハウスの忘却曲線を活かして、研修効果を高めるための取り組みを紹介します。

 ステップ①事前アンケートによる意識向上
 ステップ②研修中はこまめな振り返り
 ステップ③フォローアップ研修を実施

 具体的な内容をステップ式で紹介していますので、研修に取り入れてみてください。

 研修の効果を高めるには、事前アンケートで受講者の意識を向上させるのが効果的です。研修の目的を理解せずに受講するのと、目的を理解して受講するのでは、後者のほうが確実に学習のモチベーションが高いでしょう。

 研修内容が自分にとって意味のあること、必要なことだと理解できていれば真剣に取り組みます。事前アンケートで、研修で学びたいこと、現場で困っていることなどを聞いて、研修前の意識付けを強化すると良いでしょう。

【事前アンケート例】

Q1:日頃の業務において、〇〇の知識やスキルを使ううえで不安に感じていること、悩んでいること、困っていることを自由に書いてください。

Q2:本研修で、どのようなことを学びたいですか?

 研修しながらこまめに振り返りをすることで学習した内容を思い出せるため、研修の効果を高められます。

 エビングハウスの忘却曲線が示すように、たった20分経過しただけでも忘れてしまうのが人間です。1日で終わる研修であっても、午前中の終わりにその時点までの振り返り時間を作り、「ここまでの気付き、学び」をアウトプットできるようにしておくと良いでしょう。

 振り返りの時間を設けずに研修を進めると、前半部分のことを忘れて後半の最後の部分しか覚えていないかもしれません。もし、時間での区切りが悪ければ、単元ごとに振り返りましょう。

 筆者が登壇した中小企業の研修では、個人ワークの後にグループワークを入れて理解を深め、忘れていくことを防いでいます。研修後半にロールプレイなどアウトプットする場を設けることで成功体験や失敗体験を味わえるため、学びの効果を高めるのに有効です。

 研修で学んだ内容を定着させるために、後日フォローアップ研修を行いましょう。エビングハウスが示すように、覚えたことを忘れていくのは誰でも同じです。

 研修で学習した内容を実際に試した後フォローアップ研修を行えば成果や失敗を共有でき、さらなる定着のために不安を解消できます。

 また、フォローアップ研修と合わせて、振り返りシートを毎月提出させることで、学習内容を思い起こしたり、活かしたりすることにつながりやすくなります。

【振り返りシート例】

Q1:本日の研修における気付き、現在の心境など自由に書いてください。

Q2:明日から実践すること、今後のアクションプランを書いてみましょう。

 エビングハウスの忘却曲線を研修効果に活かすには、「振り返り」「復習」というフォローの視点が重要です。

 研修の効果を高める3ステップでも述べたように、研修前、研修中、研修後に何をするのか丁寧に設計しなければ研修効果は高まりません。一過性の研修では、受講したことに満足するだけで、研修で学んだことを身につけるための根本的な解決策にはならないからです。

 従業員の成長のためにエビングハウスの忘却曲線を意識して、効果を最大限持続させられる研修を考えてみてください。