目次

  1. ピグマリオン効果とは
    1. ピグマリオン効果の定義
    2. ピグマリオン効果、ローゼンタールの実験例
    3. ゴーレム効果との違い
    4. ホーソン効果との違い
    5. ハロー効果との違い
  2. ピグマリオン効果を人材育成に活用するメリット
    1. 職場の心理的安全性が高まる
    2. 社員の自己効力感が向上する
    3. 社員のエンゲージメントが向上する
  3. ピグマリオン効果を人材育成で活用する方法
    1. 定期的に1on1ミーティングを行う
    2. 本人の希望に沿ったタイミングで声掛けを行う
    3. 適切な課題・権限・裁量を組み合わせる 
    4. 社員教育やOJTで適切な期待値を設定する
  4. ピグマリオン効果を活用する際の注意点
    1. 期待を伝える方法をワンパターンにしない
    2. ピグマリオン効果は万能ではない
  5. 応援する気持ちで期待することが大事

 ピグマリオン効果とは、他者から期待を受けることによって、その期待に沿った成果を出したり能力の向上が見られたりする心理効果のことです。その定義や類似効果との違いについて解説します。

 ピグマリオン効果は、元々は学校教育研究の分野でロバート・ローゼンタールというアメリカの心理学者が提唱したものです。ローゼンタールは自身の研究によって、教師が生徒の成長を期待すると、それが生徒に伝わり学業の成績が高くなることを明らかにしました。

 それが、ギリシャ神話に出てくるピグマリオンという名前の王様の物語(自分で彫刻した女性の彫像が人間になることを女神に願ったところ、ついに彫像が女性に変身して結婚したという物語)を彷彿とさせることが、「ピグマリオン効果」という名前の由来です。

 また、学校などの教育現場だけでなく、家庭内で親が子に成長を期待すると、子供の成長が促進される例もあります。

 その後の研究で、同様の効果が上司と部下の間でも得られることがわかりました。上司が部下に期待すると、部下の自己効力感やモチベーションが高まり、業績が向上するといわれています。

 ピグマリオン効果に関する有名な実験の一つに、ローゼンタールが1964年にサンフランシスコの小学校で実施した知能テストがあります。 

 この実験では、まずクラスの担任に対して、それが実験であることを知らせずに、「成績が向上する生徒を見つけ出すため」とだけ伝えて、生徒に知能テストを実施するように指示しました。 

 次にテストの結果に関係なく無作為に選んだ生徒をAクラスとBクラスに分け、担任にはAクラスを「成績が向上する優秀な生徒」、Bクラスを「成績の良くない生徒」と伝え、指導させました。 

 その後Aクラスの生徒の成績が向上したことから、実際にはAクラスとBクラスの生徒に成績の区別はなかったにも関わらず、担任の期待によって、生徒のパフォーマンスが向上したと結論づけられました。

 ゴーレム効果とは、他者に期待されないことでパフォーマンスが低下する、というピグマリオン効果とは反対の心理効果を示す言葉です。ピグマリオン効果と同じく、心理学者ローゼンタールによって提唱されました。

 ピグマリオン効果では、他者の期待に応えることでポジティブな影響が生み出されるのに対して、ゴーレム効果では周囲から期待されないことでネガティブな影響が生み出されるという違いがあります。

 ピグマリオン効果とよく比較される効果の一つとして、ホーソン効果があります。ホーソン効果とは、周囲から注目を浴びることによってパフォーマンスを上げようと努力する心理現象を指します。 アメリカのホーソンという工場で実施された実験から名付けられました。

 期待に応えようとするピグマリオン効果に似ているようですが、ホーソン効果は、周囲の注目度がパフォーマンスに影響することが焦点であり、その人が期待されているかどうかは関係がないため、その点が明確に違います。

 もう一つ、ピグマリオン効果と似ていると思われやすいものにハロー効果があります。ハロー効果とは、相手の特定の部分に対する評価が、その人の全体の評価に拡大解釈される心理効果のことをいいます。 

 例えば、肩書や容姿など特定の部分の印象で、相手に対する評価が上下するのは、ハロー効果の可能性があります。また、個人的な相性で部下の評価を実力よりも低くしたり、高くしたりするなども、ハロー効果の影響と考えることができます。

 ピグマリオン効果を人材育成に活用する主なメリットを3つご紹介します。

 ピグマリオン効果を活用するメリットの一つとして、職場の心理的安全性が高まることがあります。

 ピグマリオン効果は、上司が心のなかで部下のパフォーマンスの向上を期待すれば望ましい結果が得られるといった単純なものではありません。上司が部下に「期待している」ことを表現し、行動で示すことが重要です。

 期待されることで、部下は認められていると感じ、上司に相談したり、自分の意見を発言したりしやすくなります。また、上司や周囲との信頼関係も育まれ、より職場の心理的安全性が高まります。

 ピグマリオン効果の活用による二つ目のメリットは、社員の自己効力感が向上することです。上司が自分に期待してくれていると、 まず、期待に応えたいと思い、そのためにはどうすればよいかを考え始めます。そして、こうしてみたら良いかも、自分にもできるかもと考え、実際にやってみたらできたという順序で、自己効力感が向上します。 

 同じ期待を示す言動であっても、人によってはプレッシャーと受け取ってしまう可能性があるため、個性に合わせた期待のかけ方を工夫することでより効果を高められます。

 社員のエンゲージメント向上も、ピグマリオン効果の活用によるメリットの一つです。ピグマリオン効果によって、職場の心理的安全性や自己効力感が高まると、自律的かつ前向きに業務に取り組みやすくなります。 

 「期待してくれているから、もっと成長して貢献しよう」という気持ちになり、自分の仕事だけでなく、会社に対してのエンゲージメントも向上するでしょう。そうすれば、会社への定着率も上がり、生産性も高まります。  

 ピグマリオン効果を人材育成に活用するには、「期待」をどのように表現して取り組むかがポイントとなります。ピグマリオン効果の具体的な活用方法を4つご紹介します。

 どのような期待のかけ方がピグマリオン効果を促すかは、個人差によるところが大きいと考える必要があります。

 そのため、上司は1on1のミーティングの実施を通して部下の個性を把握し、進捗や目標設定の確認などを行いながら、適切な関わり方を見つけましょう。ミーティングが定期的に実施されることで、成長の過程を共有することができるなど、心理的安全性を高めるのにも効果的です。

 社員への声掛けのタイミングや状況は、一人ひとりの個性や希望に合わせて行うのが理想的です。

 たとえば、具体的な行動の直後にその都度声掛けをするのが効果的な人もいれば、定期的な1on1ミーティングのような、他の社員がいないところで声をかけて欲しい人もいます。また、声掛けよりも、見守っているという姿勢を示される方が期待されていると感じる人もいます。本人の希望をヒアリングし、好みに合iわせて声掛けができれば期待を示すのと同時に信頼関係を深めることができます。

 上司や周囲からの期待でやる気になっても、与えられた課題が大きすぎたり、業務を遂行するための適切な権限や裁量が与えられていなければ、「期待に応えようと思ったけど、自分には無理だ」となってしまう可能性があります。 

 そのため、担当する業務について、課題、権限、裁量をそれぞれ適度なレベルで組み合わせる必要があります。課題を設定するときには、上司から見て克服してほしい課題を提示した上で、本人の意見もヒアリングして設定するのが望ましいです。権限や裁量のレベルは課題に応じて、上司が判断して設定するのが良いでしょう。

 必要があればいつでも相談にのると伝えた上で、基本的には見守る姿勢に徹します。また、実際に課題に取り組むなかで、本人が権限や裁量に不足を感じた場合は、上司は相談に応じて課題や権限、裁量を調節し、可能な限り支援することで期待をかけていることを示します。

 ピグマリオン効果は、新卒の社員や中途入社の社員を対象とした教育プログラムやOJT(On-The-Job Training)にも活用できます。新入社員や中途社員は特に、入社時には上司や先輩からどの程度期待されているのか、自分がどの程度期待に応えられているかわかりません。

 そのため、社員教育などを活用して、年次や役割別の期待値について理解する機会を設け、上司や周囲からの期待値と、自分が普段感じている仕事に対する難易度や満足度とのギャップがないかを確認します。たとえば、営業担当の社員がアポ取りから契約獲得までできるようになるステップを上司と共有し、本人の満足度と上司の満足度を確認し合います。

 期待値を擦り合わせることで、過度にプレッシャーを感じずに、モチベーションを維持することにつながります。

 さまざまなシーンで活用できるピグマリオン効果ですが、安易な活用の仕方をすると逆効果を生み出すリスクもあります。ここでは、ピグマリオン効果を人材育成やマネジメントに活用する際の主な注意点を2つご紹介します。

 部下の成長を望み、ピグマリオン効果を引き出そうとして期待していることを積極的に伝える努力をしているつもりでも、顔を見れば「期待しているよ」と声をかけるワンパターンでは、部下は逆にプレッシャーに感じ、本心で期待してくれているのではないと感じてしまう恐れがあります。 

 期待していることを示す行動は、部下が肯定的に受け取れなければ、不快感を誘発することもあります。

 部下の様子を日々見守りながら、「応援しているよ」「ちゃんと見ているよ」「頑張っているね」という思いが伝わるように、短い声かけやアイコンタクトなど、状況に適したバリエーションで「期待している」というメッセージを表現するように注意する必要があります。

 ピグマリオン効果は、そもそもの実験結果に対する賛否両論もあり、常に効果が約束されているものではありません。人材育成の視点から有効な効果が期待できるケースも多いものの、決して万能ではないと、理解しておく必要があります。

 ピグマリオン効果を引き出すつもりが、結果的にゴーレム効果を引き出してしまったという望ましくない結果にならないように、注意して取り組みたいところです。

 「褒められて伸びるタイプ」が多い若手社員や、プレイングマネージャーとしてマネジメントに悩む管理職も、やはり上司や先輩から応援する気持ちで期待されることは嬉しいものです。

 その結果、より一生懸命仕事に取り組めるようになったり、生産性が向上したりすることが期待できるでしょう。

 自社の人材育成にピグマリオン効果を取り入れることで、社員の仕事に対するモチベーションやエンゲージメントの向上に役立つといえます。