目次

  1. タイパ(タイムパフォーマンス)の意味 良い悪いの判断軸
  2. タイパが流行する背景
    1. コンテンツ消費方法の変化
    2. デジタル化による価値観の変化
  3. タイパを意識する人の特徴
    1. 消費における特徴
    2. 働き方における特徴
  4. タイパのいい商品やサービスの事例
    1. 書籍の要約サービス
    2. 栄養価の高い食品や完全食
    3. スキマ時間でバイトできるサービス 
    4. 電動キックボードの普及
  5. タイパを意識したマーケティング方法
    1. ショート動画コンテンツを活用する
    2. スキマ時間を意識する
    3. クイックコマースの視点で考える
  6. タイパの視点はサービスやマーケティングにおいて重要

 「タイパ」とは、時間対効果を意味する「タイムパフォーマンス」の略語です。最近では当たり前に使われている「コスパ(コストパフォーマンス)」が費用対効果(効率のいいお金の活用)を意味するのに対し、タイパは効率のいい時間の活用を意味します。タイパという言葉は、主にZ世代を中心とする若者の間で流行しています。

 例えば、「ショート動画の視聴」はタイパがいいといえます。ショート動画とは、TikTokやYouTubeなどのSNSにおける短い尺の縦型動画のことで、空いた時間に手軽に視聴することができます。ショート動画は動画時間が短く、自分が得たい情報だけ手軽に収集できるため、かけた時間に対するパフォーマンスが高い(タイパがいい)コンテンツだといえます。

 逆に、「通常速度での長尺動画視聴」はタイパが悪いといえます。課題解決型動画や説明動画、勉強の解説動画などを通常速度で視聴すると、知りたい情報だけを端的に得られるわけではなく、どうしても時間がかかってしまうためです。ただ、長尺の動画であっても早送りで再生すれば、比較的短い時間で多くの情報を得られるため、タイパがいいといえるでしょう。

タイパを意識する人に向けたマーケティング方法
タイパを意識する人に向けたマーケティング方法(デザイン:吉田咲雪)

 Z世代(1997年から2012年に生まれた世代)と呼ばれる若者を中心にタイパが流行し始めた背景は、大きく3つあります。ミレニアル世代(1980年初頭から1990年後半に生まれた世代)と比較しても、より多くのデジタルサービスが普及していくなかで育ったZ世代の間では、それまで常識だった行動や価値観が変化し始めています。

 以下ではタイパの流行の背景をそれぞれ説明します。

 幼い頃からさまざまなデジタルツールに囲まれ、それらを使いこなすZ世代は、複数の情報を同時に視聴し処理する能力に長けています。スマホとパソコンの同時視聴や、家事など他の作業と並行して映像を見る「ながら見」などは日常的に行われており、コンテンツの消費方法に変化が生じています。

 1つのコンテンツを長時間消費するのではなく、複数のコンテンツを並行して消費したり、他の作業をしながら消費したりする行動では、常にタイパが意識されているといえます。

 InstagramやTikTokなどのSNSでは、日々、急速なトレンドの移り変わりが生じています。そのため、流行を追いかける若い世代の人々は、自分に必要な情報を早く収集することが求められ、時間に対する合理性・効率性をより重視するようになりました。

 ICT総研の調査によると、2022年度の日本のSNS利用者は8,270万人(普及率82%)で、1カ月に平均で10.1万人増加し続けています(参考:2022年度SNS利用動向に関する調査|ICT総研)。

 また、動画配信サービスの利用率も向上しており、2022年の国内の有料動画配信サービス利用経験者は、2015年の約3倍にあたる36.3%となっています(参考:有料の動画配信サービス利用率は28.9%に続伸|インプレス総合研究所)。世界第2番目にアクセス数が多いWebサイト「YouTube」には、毎分500時間以上の動画がアップロードされているといいます(参考:Hours of video uploaded to YouTube every minute 2007-2020|statista)。

 このように多くの人々が大量の情報・コンテンツを投稿したり消費したりしているインターネットを効率よく利用するためには、どうしても時間対効果を意識せざるを得ません。つまり、タイパを意識する人々の背景には、デジタル化による価値観の変化があるのです。

 タイパを意識する人は「すべてを効率化することで時間をより大切にしたい」と考えています。ただ、「自分の好きなコト・モノにかける時間を大事にしたい」と趣味や消費においてタイパを意識する人もいれば、「単純に時間がないため効率を重視したい」とビジネスにおいてタイパを意識する人もいるため、そのあり方はさまざまです。

 ここでは「消費」においてタイパを意識する人の特徴と「働き方」においてタイパを意識する人の特徴を解説します。

 毎日の生活のなかでモノやコトを「消費」する際、タイパを意識する人はどのような特徴を持つのでしょうか。

①SNSで情報収集を行う

 消費においてタイパを意識する人の1つ目の特徴は、調べ物をする際、InstagramやTikTokなどのSNSを利用することです。直観的・視覚的に情報を探せるSNSを使うと、一瞬で必要な情報を取捨選択することができるためです。現地に出向いたり、本などの資料を探したりするのはもちろん時間がかかりますし、Google検索をしても自分が本当に食べたいものや行きたい場所が見つかるとは限りません。

 情報が溢れ、消費したいモノやコトも増加し続ける現代において、より効率的に情報を得ようとする若者たちは、SNSを使って自分に必要な情報だけを得ようとする傾向があるのです。

②ネタバレ消費を好む

 2つ目の特徴は「ネタバレ消費」を好むことです。ネタバレ消費とは、コンテンツや商品、サービスなどの内容を事前に知った(ネタバレ)うえで消費することです。考えるよりもまず検索をする(内容を調べる)という行動原理は、時間と労力を無駄にせず、最大の効果を得たいと考えるZ世代の若者に浸透しています。Z世代以前のミレニアル世代に流行したハイリスク・ハイリターンな考え方ではなく、Z世代の人々の間には確実に満足ができる「失敗をしない・したくない消費」傾向が強まっています。

③「タグる」や「タブる」を実践する

 3つ目の特徴は「タグる」「タブる」を実践することです。「タグる」とはInstagramやTwitterなどのSNSにおいてハッシュタグ検索を行うことです。「#〇〇(気になる地名や食べ物、作品など)」と特定のキーワードをタグることで、効率的にその周辺情報を得ることができます。一方で「タブる」とはInstagramの「発見タブ」において検索を行うことです。レコメンド機能の搭載された発見タブでは、年齢・性別だけでなくユーザー個人の趣味に合わせたコンテンツが表示されます。

 「タブる」「タグる」を実践すると、最も関心のあるコンテンツや話題性のある投稿を効率的に閲覧できます。

 次に、働き方においてタイパを意識する若者の特徴を紹介します。

①対面よりもWeb会議ツールを好む

 働き方においてタイパを意識する人の1つ目の特徴は、Web会議ツール(Zoomなど)を好むことです。Web会議ツールを使用することで遠隔での会話(1対1から大人数のミーティングまで)が可能となり、対面で会話するための移動時間や交通費が削減できます。

 また、学生時代や新社会人になったタイミングで新型コロナウイルスの流行を経験したZ世代層にとっては、Web会議ツールの使用は抵抗感がありません。むしろ、Z世代層は場所を選ばずに時間を効率よく利用できるWeb会議ツールを好んで利用します。

②ウェビナー受講を好む

 2つ目の特徴はウェビナー受講を好むことです。ウェビナーとは「ウェブ」と「セミナー」を合わせた造語です。オンライン上で行うセミナーやそのツールのことを指します。ウェビナーでは、パソコンやタブレット端末、スマホなどでセミナーを視聴できるため、現地への移動の必要がなく、身支度なども考慮せずに手軽に受講できます。また、直接会場で受講するセミナーと違って、画像の見えにくさや音声の聞こえにくさなどの問題を抱えずに快適に参加できるため、効率のいい学習が可能となります。

③タスクマネジメントを強く意識する

 3つ目の特徴はタスクマネジメントを強く意識することです。タスクマネジメントとは、タスクの進捗状況の管理を指します。Z世代を中心とした若者は、人材や情報などの社内リソースを有効活用して、タスクの抜け漏れを防ぎつつ無駄な業務を省き、結果的に業務速度を上げることを目指します。業務全体を把握してから仕事をカテゴリ別に分け、期限と優先度を設定することで仕事のタイパを良くしています。

 最近では、あらかじめタイパを意識した人々の消費を念頭に置いて作られた商品やサービスが流行しやすい傾向があります。以下では、タイパを重視する顧客のニーズに対応するための商品やサービスの例を紹介します。

 「flier(フライヤー)」は、一冊の書籍を10分で読めるようにした要約サービスです。flierを使うと、通勤や通学のスキマ時間で手軽に効率よく教養を身につけることができます。ビジネス書を中心に多数の本の要約を読むことが可能となるので、タイパ重視で情報をインプットしたいビジネスマンのニーズに上手く応えたサービスだといえます。

 flierのように情報収集においてタイパが意識されたサービスだけではなく、食事においてタイパが意識された商品も注目を集めています。「nosh(ナッシュ)」は、糖質30g以下・塩分2.5g以下でさまざまなメニューを手軽に食べることができる、健康に配慮した冷凍食品です。60種類以上の食事が冷凍便で届けられるので、買い物にいく手間・時間などを節約できる、タイパがいい商品となります。

 さらに、生きるために必要な栄養素を十分に含んでいる完全食(完全栄養食)もタイパがいいとして注目されています。最近では、完全栄養食「BASE FOOD」を製造・販売するフードテック企業「ベースフード」が東証グロース市場への新規上場を承認されたことで話題となりました。

 「タイミー」は、短時間でのアルバイトを募集する企業側とスキマ時間で働きたい人をマッチングするスキマバイト募集サービスです。企業側が来て欲しい時間や求めるスキルを提示するだけで、条件に合う働き手がマッチングされるという仕組みです。

 働き手は、空いた時間を有効活用したタイパのいい働き方ができる一方で、企業側にとっても多数のアルバイトを抱える必要なく、繁忙期や急遽シフトに空きが出た際にだけ募集できるため、働き手・企業の双方にとってタイパのよいサービスといえるでしょう。すでにスキルのある働き手が来てくれるため、教育コストもかかりません。

 近頃よく見かけるようになった電動キックボードのシェアリングも、タイパ志向が顕著に現れたサービスといえるでしょう。代表的なサービスとしては「LUUP(ループ)」が挙げられます。以前にもシェアリングサービスは存在しましたが、「LUUP」の電動キックボードは貸出拠点が多く、移動したい時にアプリからすぐに予約・決済ができるという手軽さから、若者を中心に瞬く間に普及しました。電動キックボードはタイパのいい次世代の近距離移動手段です。

 こうしたタイパの価値観を意識してマーケティングを行うにはどうすればいいでしょうか。以下では、さまざまなコンテンツを活かしてマーケティングを行い、成功した事例を紹介します。

 1つ目に挙げられるタイパを意識したマーケティング手法は、企業アカウントにてTikTokアカウントを開設し、ショート動画を投稿する方法です。ショート動画を活用すれば、Z世代を中心とした若者の認知度を高め、商品・サービスのPRや、社内の情報発信をすることができます。

 上手く企業イメージを高めることができれば、採用につなげることも可能です。例えば、西新宿にある大京警備保障株式会社のTikTokフォロワー数は、なんと290万人です。会社の雰囲気を公式アカウントで伝え、アカウント内に採用ページへのリンクを用意することで若年層の採用をTikTokから行っています。

 このようにショート動画を活用すれば、タイパを重視する若者の商品選択や転職活動に自社が優先的に想起されるようになります。

 なお、ショート動画はYouTubeのような長尺動画ではないため、凝った編集をする必要もなく、比較的簡単に動画を作ることができます。また、参入企業がまだまだ少ないため業界内での差別化ができるのもポイントです。

 もちろん興味を持たれない場合はすぐにスワイプされてしまうため工夫は必要ですが、ショート動画はYouTubeやInstagramなど、他SNSにも同じコンテンツが活用できるというメリットもあります。

 空いた時間(=スキマ時間)を少しでも有効活用したいというニーズに応えたサービスが続々と誕生し、注目を集めています。

 例えばフィットネス領域では、ライザップが手がける「chocoZAP(ちょこざっぷ)」が気軽にコンビニ感覚で立ち寄ることのできる施設「コンビニジム」として展開されています。着替えやシューズの履き替えが不要で、シャワールームや鍵付きロッカーがないことが特徴です。chocoZAPは、ユーザーの準備にかかる手間などを省けるため、タイパを重視した効率的なトレーニングができると話題になりました。

 このように、タイパを意識した商品・サービスが話題になりやすいという視点は、マーケティングにおけるアプローチのヒントにもなるでしょう。

 クイックコマース(Qコマース)とは、オンラインで注文した商品を短時間で届けるサービスです。即時配達サービスとも呼ばれ、注文から数十分以内に日用品や食品が配達されるため、ネットスーパーよりも早く届くのが特徴です。新型コロナの拡大により、不要不急の外出を控えるようになったことからニーズが拡大しました。

 【具体例】
 ・配達専用店に配達員を駐在させ、最短10分で配達する「OniGO
 ・株式会社出前館、アスクル株式会社、Zホールディングス株式会社の展開する「Yahoo!マート by ASKUL
 ・コンビニ以上の品揃えがある配達サービス「QuickGet

 クイックコマースもまた、必要な時に必要なものを効率よく購入することができるため、タイパが意識されたサービスといえます。こうした「できるだけ外出をしたくない」というニーズを踏まえる視点もマーケティングに上手く活用できるでしょう。

 享受できるコンテンツが増えていく環境で育ったZ世代にとって、「面倒なことや興味のないことをする時間をできる限り圧縮し、やりたいことに時間を割きたい」というタイパは必要不可欠な考え方となりました。

 そのため、企業のコンテンツやサービスにもタイパ志向が求められるようになっています。今後はマーケティングにおいても、「費用」の軸だけでなく「時間」の軸に着目することが、消費者に選ばれる商品・サービスを生み出す秘訣となるでしょう。

 しかし一方で、タイパを意識したサービスのなかには、以前話題になった「ファスト映画」のように著作権侵害の問題を抱えたものもあります。タイパを意識したマーケティングを行う際は、コンプライアンスの問題を踏まえたうえで戦略を練ることが重要です。