五月病の社員を生まないための方法とは 経営者が取るべき行動を解説
毎年5月ごろになると「優秀な若手が結果を残せず苦しんでいる」、「入社したばかりの社員が会社を休みがちになった」と頭を悩ませてはいませんか。これらは俗に言う「五月病」です。五月病の社員を生まないために、経営者は何をすべきでしょうか。コンサルティング会社・識学のシニアコンサルタント、奥田拓之さんがケーススタディーも交えて解説します。
毎年5月ごろになると「優秀な若手が結果を残せず苦しんでいる」、「入社したばかりの社員が会社を休みがちになった」と頭を悩ませてはいませんか。これらは俗に言う「五月病」です。五月病の社員を生まないために、経営者は何をすべきでしょうか。コンサルティング会社・識学のシニアコンサルタント、奥田拓之さんがケーススタディーも交えて解説します。
4月に異動した社員や入社したばかりの新人にとって、5~6月は集中力が低下しやすい時期と言えるでしょう。環境の変化が精神的負担となり、心身の不調を引き起こす可能性があるからです。これがいわゆる五月病となります。厚生労働省のポータルサイトでは、五月病について次のように定義しています。
ゴールデンウィーク(春の大型連休)を過ぎた頃に注意が必要なのが、「五月病」です。新入社員や人事異動など環境変化のあった方が、新しい環境への適応がうまくいかず、なんとなく体調が悪い、やる気が出ないなど心身に不調があらわれる状況を言われています。五月病は正式な病名ではありません。医学的には、「適応障害」、「抑うつ状態」などの病気と関係があるとされることが多いです。
厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」
なぜ、環境の変化で五月病になるのでしょうか。理由は大きく分けて①目標が不明確であること、②人間関係の悩みという二つが挙げられます。
目標が不明確であるとは、要するに何をしたらよいか分からず迷っている状態のことです。部署や役職、業務内容が新しく設定され、今までやってきたことができなくなると、不安に襲われてしまいます。この状態は大きなストレスですが、子どものように泣きながら助けを求めるまねは、大人にはできません。
人間関係の悩みとは、他人の目を気にし過ぎるあまり「自分が周囲に嫌われているのではないか」と思い込んで仕事が手に付かなくなってしまう状態です。我々はこれを「不必要な恐怖を抱いている」と表現しています(関連記事:組織マネジメントに「必要な恐怖」とは パワハラとの違いも解説)。
人間関係に悩みやすい人や「他人からどう思われているか」が気になって仕方がない人は少なくありません。そうした人にとって、親しい仲間に囲まれていたチームを移り、新しい人間関係を築こうとするのは大変です。
人間関係の悩みは、目標が不明確だと助長されてしまいます。自分がすべき仕事に最大限集中できているのであれば、人間関係など気にしている暇はないでしょう。集中力が散漫だからこそ周囲の視線が気になってしまうのです。では、こうした状態を防ぐために、経営者は具体的にどのような対策を取ればいいのでしょうか。
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①と②を防ぐために必要なのは、上司による管理です。
管理とは、部下一人ひとりに期限付きの目標を設定し、期限を迎えたら達成可否を確認する。達成時は新しい目標を与え、未達成時には達成に向けてどう行動変化していくのかを部下に考えさせる。この一連の流れを指します。
こうすることで、目標に向けて走り出した社員が迷わないように上司が導くのです。我々は、1週間に一度、設定目標を確認するための会議を開くことを推奨しています。
また、社員の人間関係の悩みをはじめ、「不必要な恐怖」も会社側で取り除いてあげましょう。筆者であれば、次のように話します。
「他社の評価はあなたにはコントロールできないものです。相手のためを思ってしたつもりの行動でさえ、人によっては親切でなくおせっかいと受け取ります。あなたは目標を達成することにだけに集中してください。結果に対する評価は私がしっかりと行いますから」
ここで紹介したマネジメントは、いずれも直属の上司の役目ですが、これらを社内に浸透させるのは経営者にしかできません。五月病から社員を守れるのは経営者だけであることを忘れないでください。
一人ひとりの目標を明確に設定し、不必要な恐怖を取り除く。私自身、この二つを常に意識しながら自チームのマネジメントを行っています。
「同僚と仲良くするな」と言うつもりはありません。ただ、経営者が「社員同士仲良くしましょう」というスローガンを掲げると、ルール違反した同僚や部下に対し、「指摘したらチームの輪を壊すかもしれないから黙っておこう」と社員が考えたり、ミスが発生した際に「あなたのせいじゃないよ」と社員同士で責任の所在をあいまいにさせようとしたりする恐れがあります。仲良くすること自体が目的化してしまうわけです。
理想は共通の目標があって、そこに向かって結果を残しながらお互いに何でも言いたいことが言える間柄。例えるなら、最近映画が大ヒットした人気バスケットボール漫画「スラムダンク」の湘北高校のようなチームです。
「優秀な社員に管理は必要ない。管理することで伸び伸び仕事ができず、能力を発揮できなくなる」
そのように考えている経営者もいるでしょう。しかし、どんなに優秀な社員であっても管理は必ずしてください。管理とは、部下のやり方にいちいち口出しするという意味ではなく、あくまで目標に向けて走り出した社員の迷いを取り除くためのものだからです。
あるシステム管理会社で実際にあった五月病の事例を紹介します。
その会社には、若手のエースと呼ぶべき社員がいました。社長はその社員を信頼していたために一切管理をせず放任していました。
ある時期からエース社員が精神的に体調を崩してしまいました。しかし、経営者は放任していたがゆえにその異変に気付けませんでした。そして、顧客から緊急対応を求められたとき、その社員は呼び出しに応じられなかったのです。
顧客は激怒し、その会社との契約を打ち切ってしまいました。これは「エース社員だから」という理由で放任していなければ防ぐことができた事故です。
このような事態が発生してから、再発を防ぐ目的で社員に「悩みはないですか」と聞く経営者がいます。しかし、これはお勧めしません。なぜなら、悩んでいないときに「悩みがないか」と聞かれたら、社員が無理やり悩みをつくり出し、経営者側の意思決定に誤りが生じる恐れがあります。
経営者がすべきことは「いつでも相談していいですよ」というアナウンスを発し続け、労務担当者への相談窓口を開設することです。
「リモートワークの環境下だと社員の管理が難しい」と考える経営者が多いからか、最近は在宅勤務制度を取りやめる企業も増えてきました。出社義務を課すかどうかは経営者の判断に委ねられるべきでしょうが、リモートワークの撤廃が採用優位性を損なう恐れがある点は頭に入れておいてください。
つまり「在宅勤務ができないなら退職する」と考える社員が出てもおかしくはないということです。採用市場では、「フルリモート可能」をうたう企業も少なくありません。社員の流出を防ぐため、在宅勤務下でも上手に社員を管理するポイントを二つ知っておきましょう。
一つは、プロセスを管理するのではなく、結果だけで査定することです。営業社員であれば、頑張った姿勢ではなく、売り上げの数字を評価するということになります。
そもそも、プロセスを管理しようとするから出社しないとマネジメントが機能しないと勘違いしてしまうわけです。結果だけを見るようにすれば、在宅勤務であろうがなかろうが同じように管理や評価ができます。
もう一つのポイントは、在宅環境下であろうと、守るべきルールを明確にして徹底させることです。
在宅勤務を続けていると、会社やチームへの所属意識が希薄化しやすくなりがちです。すると、上司の指示や命令が自分にとって不利益だと錯覚してしまい、社員は離職をためらわなくなります。人間は同じルールを守る人を仲間だと認識する習性があるので、ルールの順守によって所属意識の低下を防ぐのです。
ルールは誰でも守れるものであれば何でも構いません。例えば「毎日始業時間前にチャットであいさつをする」や「オンライン会議には開始時間の3分前までに入室する」といったものなどが考えられるでしょう。
識学シニアコンサルタント・営業部係長
東京都出身。早稲田大学商学部在学中にプロモーション系のベンチャー企業に入社し、国内最大手の広告会社AE、全国紙新聞社関連企業の営業企画部長も経験。日々マネジメントに四苦八苦する中で識学に出会い、入社した。
(※構成・平沢元嗣)
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