新人をいち早く戦力にするには 育成・研修の効果的な手法を解説
新人を可能な限り早く戦力化するためには何が必要でしょうか。組織コンサルティング会社識学で上席コンサルタントを務める庄子達郎さんが、社員を戦力に育てるための最短経路となる、育成や研修の効果的手法を示します。
新人を可能な限り早く戦力化するためには何が必要でしょうか。組織コンサルティング会社識学で上席コンサルタントを務める庄子達郎さんが、社員を戦力に育てるための最短経路となる、育成や研修の効果的手法を示します。
我々が企業から新入社員を対象にした研修の依頼をお受けする際、最初に「社員は会社に評価される存在である」ということをお伝えしています。
入社前は逆で、社員が会社を評価する側です。無数にある会社のなかから働く先を選ぶのは求職者の自由で、会社側は求職者に選んでもらわなければなりません。しかし、ひとたびその会社の一員になれば、両者の関係性は180度変わります。仕事には必ず評価者がいますから、各社員が好き勝手に仕事をするわけにはいかないのです。
経営者は、この事実を新入社員研修の場でしっかりと説明しましょう。勘違いをしているうちは、社員は責任を持って仕事をしようとせず、いつまでも評価を得られなくなるからです。私がこの話をすると、多くの人が「新人のうちに知ることができてよかった」と言ってくれます。
とはいえ、中途採用をするのであれば、この勘違いをしている社員は可能な限り採用を見送った方がよいです。新卒社員は社会人の経験がないため、こうした勘違いをしていても仕方がありませんが、中途社員の意識は簡単には変わりません。
面接の段階でこの勘違いをしている求職者を見極めるポイントは二つあります。一つは前職批判をしないこと、もう一つは自分の失敗を語る際に、人のせいにしないことです。つまり自責で物事を捉えられているか、評論家体質がないか、確認してみてください。
もう一つ、新人研修の間に伝えておきたいマインドセットがあります。
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それは、ルールを順守することの重要性です。組織はルールを前提に動いている以上、一人でも守らない社員がいれば健全な運営に支障を来す恐れがあります。よく「自由に働きたい」と考える人がいますが、自由とはルールを守った上で成立するものであることを理解させなければなりません。
いち早く社員の戦力化を図るためには、育成を「教育」と「管理」の2軸に分けて考えてみてください。
教育パートは知識のインプットを指します。業界用語や制度についての講義の受講、ロールプレイング練習などです。
管理パートは行動をさせて経験を積ませることです。例えば、商談などの営業活動を実際に行うことがこれに該当します。
知識と経験がセットで身に付かないと社員は成長しません。どれだけ自社の商品知識や業界知識に詳しかろうが、顧客との商談経験に乏しい人は契約を取れないでしょう。
一方、ろくに知識を身に付けず、「やりながら仕事を覚えろ」と言われた社員は、うまくいかなかったとき、自分に足りないものになかなか気付けません。
特に、社員の離脱が頻繁に発生する会社ほど「やりながら覚えろ式」を採用しがち。いち早く新人の戦力化を図りたいがゆえにこのような方針を掲げているのかもしれませんが、逆効果です。しっかりと知識をインプットする体制を整えてください。
教育パートは、実はもっとも工夫の余地があります。先輩社員が講義の形で伝授するのもよし、独学で勉強させるもよし。「今が知識をインプットする場」であることをはっきり明示して時間を確保しましょう。
多くの会社で、新入社員がひとり立ちするまでを研修期間や育成期間として定めているはずです。では、何をもってその期間が終了する決まりとなっていますか。
どのような業種、業態、職種であれ、「会社独自のテストに合格するなど、基準をクリアすることで研修期間終了と見なす」というルールにしてください。もし「期限が来たら研修終了」というルールを採用しているとしたら、すぐに改めなければなりません。
期限が来たとしても、その期間中に備えるべき能力が身に付かない人もいるでしょう。逆に、もっと早く研修を終えてよいはずの人には不毛な時間を過ごさせることになります。
テスト(基準)を用意しておけば一人ひとり最適なタイミングで研修の終了を迎えられますし、社員同士が自然と競い合うようになります。新人たちの間に、「負けてたまるか」という競争心を芽生えさせることができるのです。
そのために、現場に配属しても問題がない状態を言語化して基準を設けましょう。ペーパーテストだけではなく、営業であれば責任者を相手にしてのロールプレイングテスト、技術者であれば製品を一人で完成させる実技テストなど、最適なものを考え、実施してください。
新人の早期戦力化を図るため、入社前までに準備しておくべきこともあります。それは、新人を含めた全社員の役割と、それを果たせばどのような評価や報酬を獲得できるか明確に設定しておくことです。つまり、会社全体で評価制度を整えておくということです。
次の等級に上がるために覚えるべきことや身に付けるべきスキルがあらかじめ分かっている状態をつくっておけば、新人はそれを必死に手にしようと努力します。
反対に、それが不明で、後から「これも覚えないと駄目だよ」と繰り返し言われると、新人は「他に何をしないといけないのだろうか」と心理的な負担を感じながら仕事をしなければならなくなるのです。
評価制度をつくっておくと採用時にも役立ちます。キャリアパスを説明できるからです。
求職者に選ばれたい企業にとって最大のハードルは年収と言っても過言ではありません。それを取りのけたら採用はぐんと楽になります。評価制度がない、あるいはあっても機能していない会社は多いので、明確な評価制度はそれだけで差別化につながるはずです。
以前、育成がうまくいかないと悩むクリニックの経営者から相談を受けたことがあります。聞けば、仕事内容がはっきり決まっていないため、新人がその都度先輩に聞きながら仕事を覚えていかなければなりませんでした。育成期間中に離職してしまう社員もいたそうです。
まず行ったのは評価制度の整備です。例えば、受付業務であれば電話対応の仕方や電子カルテの入力のルールまで細かく明示しました。それを教育した上で、新人に1カ月以内に電話応対件数やデータ入力の目標を課します。
先輩のサポートは必要ですが、仕事をどんどん新人で回せるようになっていきます。経営者からは「育成が楽になった」という言葉をいただきました。
最後に、新卒社員と中途社員における違いについて触れておきます。新卒と中途では、どのくらいの期間で一人前になるか、スケジュールが異なってくるでしょう。新卒であれば、社会人としての常識やマナーに関する講義も必要になります。中途であればそれらは必要ないでしょうし、ある程度スキルを持って入社してきた人にはすぐに現場に出てもらうことになります。
識学上席コンサルタント・キャリア事業部部長
中央大学法学部を卒業後、リクルートで11年のキャリアを積んだ後、識学に入社。高校生のころからはじめたアメリカンフットボールでは、日本代表として活躍した経歴も持つ。
(※構成・平沢元嗣)
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