DFFTとは 注目されている理由・メリット・実際の取り組みを紹介
2023年4月29日・30日開催の「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」で改めて注目されているDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)。この記事では、日本政府が推進しているDFFTを民間の立場から支援しているDSA(データ社会推進協議会)の理事が解説します。
2023年4月29日・30日開催の「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」で改めて注目されているDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)。この記事では、日本政府が推進しているDFFTを民間の立場から支援しているDSA(データ社会推進協議会)の理事が解説します。
目次
DFFT(Data Free Flow with Trust)とは、ビジネスや社会課題を解決するために、有益なデータが国境を意識せずに、自由に流通することを目指す考え方です。
DFFTは、国際的なデータ流通の自由化を通して、プライバシーやセキュリティ、知的財産権などの信頼性に関する問題に対処することをコンセプトとしています。
2022年1月18日、世界経済フォーラムの「ダボス・アジェンダ2022」で岸田文雄首相が「今から3年前、ダボスの地で、我が国が提唱した、「データ・フリ ー・フロー・ウィズ・トラスト」DFFTを更に前に進めます。信頼という基盤の上に、イノベーションをもたらし、富の格差の解消にもつながる自由なデータ流通を実現させます」(引用:ダボス・アジェンダ 岸田総理大臣によるスピーチ|外務省)と演説したことで、DFFTが注目されています。
この提言をもとに、DFFTが注目される理由をより具体的に説明します。
DFFTにより、国際的なデータフローが自由化されることで、ビジネスや社会課題の解決に役立つデータのグローバルな利用を可能にし、イノベーションや成長を加速することが期待されています。
データを自由に流通させることで、新たなビジネスモデルの創出や、新しい産業の発展などが見込まれるため、DFFTは注目されています。
DFFTによって国際的なデータフローが促進されることで、途上国においてもデータの活用が進むことが期待されます。先進国が保有する、経済成長、社会的指標、環境などそれぞれの成功データを利用することで、途上国の経済成長や、貧困削減などにつながる可能性があるとされています。
DFFTでは、データ・フリー・フローの促進と同時に、信頼性のあるデータを保護できる点が注目されています。
現状は、DFFTはプライバシーやセキュリティ、知的財産権の保護に関する観点から、多くの課題が存在します。しかし、これらの課題を解決することで、DFFTはデータの自由な流通とともに、信頼性のあるデータ保護を実現できます。
DFFTを活用するメリットは、以下3つがあります。
順に紹介します。
DFFTにより、国境を越えたデータの自由な流通が促進されることで、海外に拠点を置く企業とのビジネス取引やコミュニケーションが手軽になります。
グローバル市場での需要予測や、グローバルなサプライチェーンの管理などの情報を容易に入手できるようになるため、とくに中小企業のグローバル展開の促進が期待されます。
DFFTが実現すると、農業情報や医療情報など、途上国の力だけでは手に入れることが難しかった有益な情報が共有されることになります。それによって、途上国における経済成長や貧困削減に貢献することが期待されます。
DFFTは、データの自由な流通と同時に、信頼性の高いデータを保護できるとされているため、とくに中小企業がデータを活用する際のリスクが低減されます。
中小企業は、従来から情報漏洩やサイバー攻撃などに悩まされてきました。そこで、DFFTを利用して信頼性の高いデータの保護を実現することで、中小企業はデータをより効果的に活用することが可能になります。
DFFTに関する国際的な取り組みや、デジタル庁が行っている取り組みを紹介します。
2019年6月13日、IEEE-SASB会議(IEEE標準化ボード会議)において、DSA(データ社会推進協議会)の前身団体であるDTA提案のICAID(※)が承認され、DTSI Working Groupが設置されました。
(※)ICAIDとは、IEEEが新しい技術や分野において産業界と協力して標準を策定するための一連の活動の開始点のこと。新しい技術や製品の開発において必要な標準化作業を進めることができる。 |
本活動は、日本が提案するSociety5.0、DFFTを実現するものであることと明記されました(参照:Data Trading System Initiative Industry Connections Activity Initiation Document 〈CAID〉Version: 1, 28 May 2019|IEEE)。
その後、2020年9月15日には、データ流通に関するワーキンググループとしてIEEE内にP3800 Standard for a data-trading system: overview, terminology and reference modelが発足し、議長にはDSAの専務理事が就任しています(参照:DATA TRADING SYSTEM WORKING GROUP|IEEE SA STANDARS ASSOCIATION)。
つまり、世界最大規模の電気・電子工学分野を中心とする、国際的な学術団体のデータ流通の標準化は、日本が主導的に進めています。
DSAとGaia-Xは、2022年4月7日に連携協定を締結し、両団体によるクラウド技術での協力体制を整えています。調印式では、この協力協定を歓迎する意として、フランス経済財政省をはじめ、ドイツBMWK省、欧州委員会、日本デジタル庁の代表者から祝辞が述べられました(参照:Association丨gaia-x)。
また、2022年10月に開かれたCEATEC 2022(ITとエレクトロニクスの国際総合展示会)のオープニングイベントでは、経済産業省、世界経済フォーラム(WEF)、Gaia-X、DATA-EX(筆者登壇)、Catena-X、WBCSDが集結し、グリーン分野におけるデータ利活用についての日欧代表者会議を開催しました。
この会議では、データ連携とその利活用によって、グリーンへの取り組みとデジタルへの取り組みは加速され、統合されるものであると認識されるとともに、グリーン×デジタルにより気候変動への対処と社会の持続的発展に取り組むことが重要であると確認されました(参照:JEITA、CEATEC 2022 ANNEX Tokyoにて「Global Dialogue:Green x Digital の実現に向けて」を開催|JEITA)。
また、DSA主催で、2023年4月29日・30日におこなわれるG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合のサイドイベントを実施しました。このイベントでは、G7デジタル大臣会合に向けた提言をまとめて公表するとともに、その背景や狙いについて広く議論しました。
DFFTの目的である、国際的なデータ流通の自由化やセキュリティ対策を具体化するために、デジタル庁が経済産業省や総務省をはじめとする関連省庁と連携し、取り組みを進めています。
G7各国と関係国際機関と連携し、通商ルールの形成、規制協力、技術による対応の3つの柱でDFFTの推進を検討しており、G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合では、「国際的な枠組み」創設を含む閣僚宣言の合意を目指しています。
「国際的な枠組み」のなかでは、政府と民間が連携し、多くのプロジェクトを進めていくことを想定しており、日本主導の恒久的な事務局による課題の解消を考えています(参照:デジタル監による四半期活動報告|デジタル庁)。
河野太郎デジタル大臣は、「日本でのデジタル庁発足の背景、発足後の取り組みの紹介に加え、世界に一つのデータ保護ルールを作ることが現実的に容易でないことを踏まえ、相互運用性と透明性を高めていくことが必要、また、有志国としての取り組みを深めていくだけでなくグローバルサウスへの配慮が重要である」と発信しています(参照:河野デジタル大臣が世界経済フォーラム年次総会2023(ダボス会議)に出席しました|デジタル庁)。
G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合では、データ流通を促進し、越境データ流通に係る「障壁」を取り除き、デジタル経済のエコシステムを踏まえた国際制度を実装することを目的とした、DFFT推進の枠組み(パートナーシップ)が立ち上げられています。DSAとしても、民間の立場で各種連携していく予定です。
このようにDFFTの具体化を進めるにあたって、さまざまな団体が取り組みをしていますが、課題がないわけではありません。DFFTを活用するうえでよく指摘されているのは、以下の3つです。
順に紹介します。
データの自由な流通を促進すると同時に、個人情報や機密情報などのセキュリティ保護も重要な課題です。DFFTを進める過程で、プライバシーやセキュリティの問題が生じる可能性があります。
データの自由な流通を促進することで、大企業と中小企業との間に利益格差が生じる可能性があります。さらに、企業規模がおおきくなるほど豊富なデータを持っているため、中小企業は競争上の不利を強いられるかもしれません。
国や地域によってデータの規制が異なるため、DFFTの実現には国際的な調整が必要です。しかし、各国の法律や規制が複雑であるため、その調整が困難な場合があります。
また、一部の国がDFFTに対して慎重な姿勢を取ることが考えられるため、国際的な調整が課題となるでしょう。
最後に、DFFTが中小企業に与える「直接的な影響」と「間接的な影響」を、メリットや課題をもとにあらためて整理したうえで、今後中小企業に求められる対策方法を紹介します。
国境を越えたデータの流通が増えることで、海外からの競合やビジネスチャンスが増える一方、個人情報保護や知的財産権の問題が深刻化する可能性があります。
中小企業が行う対策としては、個人情報保護や知的財産権に関する法律や規制に精通し、自社の情報セキュリティを強化することが挙げられます。また、海外進出やグローバル展開をするときは、現地の法律や文化についても理解を深め、専門家の支援を受けることが望ましいです。
DFFTが促進されることで、グローバル市場での競争が激化し、国内市場でも海外企業の参入が増える可能性があります。また、海外からの需要が増え、新たなビジネスチャンスが生まれやすくなるでしょう。
一方、その影響で、需要の変化に対応するための新たな戦略や生産システムの導入が必要になるかもしれません。
対策としては、中小企業はグローバル市場の競争力を強化するために、自社の製品やサービスの特徴を明確にし、差別化を図りましょう。また、グローバル展開にあたっては、現地のニーズや文化に合わせた製品・サービスの提供や、現地パートナーとの戦略的な提携なども検討する必要があります。
DFFTは、中小企業にとってグローバルなビジネスチャンスを生み出す可能性があります。中小企業が、グローバルな市場にアクセスし、データを自由に流通させることで、より多くの機会を追求できます。
しかし、DFFTにはセキュリティやプライバシーの問題があり、とくに中小企業はそのリスクに注意しなければいけません。中小企業のリスク対策として、DFFTを活用する際には、情報セキュリティの強化や国際的な協力を仰いでおきましょう。
筆者は、DFFTを適切に活用することで、中小企業はグローバルな市場で成功を収めることができると確信しています。
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