果物の魅力を次世代へ フタバフルーツ3代目がコロナ禍で見据えた未来
東京都中野区、都立家政駅前にある「フタバフルーツ」。商店街の青果店という枠組みにとどまらず、イベントやケータリング事業への進出で売り上げを伸ばしていましたが(前編参照)、2020年のコロナ禍で大きな打撃を受けました。しかし3代目の成瀬大輔さん(53)は、これをきっかけに次世代を見据えた取り組みに着手。交流のあったアーティストの言葉も支えに、2022年には人材育成のための団体を立ち上げました。
東京都中野区、都立家政駅前にある「フタバフルーツ」。商店街の青果店という枠組みにとどまらず、イベントやケータリング事業への進出で売り上げを伸ばしていましたが(前編参照)、2020年のコロナ禍で大きな打撃を受けました。しかし3代目の成瀬大輔さん(53)は、これをきっかけに次世代を見据えた取り組みに着手。交流のあったアーティストの言葉も支えに、2022年には人材育成のための団体を立ち上げました。
2020年からのコロナ禍は、フタバフルーツをも直撃しました。対面のイベントが相次いで中止となり、売り上げの約7割を占めるケータリングの注文がなくなりました。しかし、成瀬さんに悲壮感はなかったと言います。
「2006年の時に、捨て身のつもりで始めた仕事でしたから。コロナになっても、そうかまた元に戻ったのか、またもう一度捨て身になればいい、と思っただけでした。売り上げ拡大を追い求めなければ、幸い生活をすることはできました」
とはいえ、以前のようにフルーツの魅力を外に伝える活動はできなくなりました。
「ならばと、それまでに出会った方々に直接果物を届けることに専念しました。時間もたっぷりできたので、農家さんのところにお手伝いに行くなど、生産者ともしっかりコミュニケーションを図れるようになりました。ずっと突っ走ってきたので、改めてこの先どうしていこうかと考える、大事な時間になったと思います」
コロナ禍での次の一手として、成瀬さんは店舗の一部を改装し、フルーツ加工用の機械を導入。アイスやゼリー、ドライフルーツなど、保存のきく加工品を作れるようにしました。これによって販売の間口が広がり、居酒屋への納入につながりました。「フタバフルーツのサワー」と商品名にもなり、宣伝効果もありました。
「お客さんに『今度は生のフルーツを食べてみよう』と思ってもらえるし、結果的に店舗にとってもプラスになりました」
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コロナ禍がピークを過ぎ、2023年2月ごろからは、企業などのイベントも戻りつつあるといいます。一方で以前とはイベントの性格が変わってきたと、成瀬さんは感じています。
「外の場所を借りて、多くの人を集めるというよりも、企業内で社員のコミュニケーションを重視して開催されることが増えています。3年間でリモートワークを経験したことも影響しているのでしょう。コロナ禍のなかで、フルーツの良さが見直されたんじゃないかとも思っていて、今後どんな変化があるか楽しみにもしています」
コロナ禍で生産者との交流を深めた成瀬さんは、農業の担い手減少や高齢化といった課題を改めて実感したといいます。果樹産業を支援しようと、国産果物の価値を発信できる人材(フルーツマエストロ)の養成を目指す団体「一般社団法人フルーツマエストロ協会」を2022年秋に設立しました。
「果物に関わる多くの人たちが一つになって未来を考え、現状をより良くするために、大学の先生の協力を得ながらこの協会を立ち上げました」
協会では、オンラインの資格講座を有料で実施。専門家を講師に迎え、果物の栄養や加工の知識、さらに流通や情報発信について学ぶことができます。
「個人経営の果物店がなくなりつつある一方、こうして一つ一つパーツを組み合わせてパズルを作ることで、果物屋としての役割が浮かび上がってきました。伝える果物屋として、多くの人たちと協力し、果物の魅力を広めていくことを目指しています」
成瀬さんからはフルーツの魅力を伝えるという使命感以上に、フルーツのアーティストとしての自由さや楽しさが感じられます。活動をする中で生まれた、著名なアーティストとの交流も、大きな支えになっているといいます。
「2014年に現代美術家の村上隆さんの秘書の方から連絡をいただき、村上さんが経営する会社・カイカイキキの社員総会のデザートの演出として、フルーツデコレーションの依頼を受けました」
秘書からは、「最高のものを作って村上を驚かせて下さい。それが条件です」とのオーダーがあったそうです。「ちょっと不安でしたが、結果として、村上さんから『最高だったよ!』と言葉をもらいました。嬉しかったですね。あの言葉が僕の自信と、続けていこうという勇気になっています」
2020年に死去したファッションデザイナー・山本寛斎さんとの交流も、フルーツの活動を通して生まれました。
「これも、寛斎さんが会いたいたいと言っていると秘書の方から電話があり、事務所に行きました。実はそのずっと前から、僕は寛斎さんに惹かれていました。20歳の時に出た、中野サンプラザでの成人式のゲストが寛斎さんだったんです。なんて元気な人なんだろう、あのエネルギーは何だろうと驚くとともに、ファッションに対する興味も生まれた。そこから月日を経てお会いできたのです」
それを機に、山本さんのイベント「日本元気プロジェクト」のバックヤードにフルーツを提供するように。プライベートでの親交も始まります。
「月に1度、プライベートでご飯に行こうと誘っていただき、色々なところに連れて行ってもらいましたし、こちらのイベントなどにもお誘いしました。ことあるごとに、寛斎さんからは、『フルーツで皆を元気にしろ』と励ましてもらいました。フルーツは人を幸せにするしファッションに通ずるものがある、もっとフルーツでみんなを喜ばそう、一緒にやろうぜと、ずっと言われていました。それが、寛斎さんが亡くなるまで1年ほど続きました」
ファッションデザイナーでありながら、日本を元気づける活動を続けてきた山本寛斎さんとの交流をきっかけに、成瀬さんもフルーツを通じて世の中に何ができるかを真剣に考え始めたといいます。
「僕にとって果物は、ブレてはいけない大事な存在であり、その仕事をしながら成長させてもらってきました。その魅力を広め、もっと人を幸せにできるように、これからも様々な活動を続けていくつもりです」
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