進む日韓関係の改善、半導体など経済安全保障分野でも関係強化

米中対立が安全保障や経済、人権や先端技術などあらゆる領域で激しくなり、台湾情勢をめぐって有事の懸念が強まるなか、日本と韓国の関係が急速に改善しています。北朝鮮による核ミサイルの脅威に最も間近で直面し、台湾有事によって自らの経済シーレーンが脅かされることは韓国も日本と同じであり、日韓両国の間では共通の利益が拡大しているように思われます。
米中対立が安全保障や経済、人権や先端技術などあらゆる領域で激しくなり、台湾情勢をめぐって有事の懸念が強まるなか、日本と韓国の関係が急速に改善しています。北朝鮮による核ミサイルの脅威に最も間近で直面し、台湾有事によって自らの経済シーレーンが脅かされることは韓国も日本と同じであり、日韓両国の間では共通の利益が拡大しているように思われます。
日韓関係が改善に向かうきっかけとなったのが、2022年3月のユン大統領の就任です。ムン前大統領の際、日韓関係は戦後最悪とまで言われ、政治と経済の両面で関係が冷え込みました。
ユン大統領はそれから180度方向転換し、2022年夏にマドリードで開催されたNATO首脳会合で初めて岸田総理と顔を合わせ、それ以降インドネシアで開催されたAPECなどを利用して信頼醸成に努め、2023年3月にはユン大統領が東京を訪問して日韓首脳会談が実現し、5月には岸田総理がソウルを訪問して会談しました。
その後、ユン大統領はG7広島サミットにも招待され、そこでも日韓首脳会談が開かれました。2ヵ月間で3回も会談が行われるのは異例です。
日韓の間には島を巡る領有権問題、徴用工や慰安婦など歴史を巡る問題など多くの課題がありますが、ユン大統領と岸田総理も日韓が直面する未来を現実的に考え、安全保障や経済、文化や社会など多方面での日韓協力を強化していくと思われます。
筆者が特に注目しているのが経済安全保障を巡る日韓の関係強化です。
米中の間で半導体覇権競争が激化する中、米国のバイデン政権は2022年10月、先端半導体技術が中国によって軍事転用される恐れを警戒し、半導体関連製品の対中輸出規制を発表しました。
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しかし、米国単独では十分な効果が見込めないと判断したバイデン政権は、先端半導体に必要な製造装置で高い世界シェアを有する日本やオランダに同規制に加わるよう要請し、オランダに続く形で、日本も2023年7月23日から、先端半導体に必要な製造装置など23品目で対中輸出規制を敷く予定です。
規制対象になったのは、幅が14ナノメートル以下の先端半導体を製造する際に必要な装備品で、微細な回路パターンを基板に焼き付ける露光装置や洗浄、検査に使う装置などです。
当然のように、中国はこれに強く反発し、日本に対して対抗措置を辞さない姿勢を示しました。日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国との摩擦はできるだけ避けたいところです。
しかし、中国が先端半導体の技術を獲得し、国内で生産強化できるようになれば、AI兵器や自律型誘導ミサイルなどいわゆるハイテク兵器の開発・生産が行われ、中国の海洋覇権という脅威に直面する日本の安全保障にとっては大きなマイナスとなります。この背景から、バイデン政権からの要請に対して日本がNoと答える選択肢はなかったと思います。
一方、対中リスクをヘッジする一環で、米国や日本、台湾などの間では強靭で持続性ある半導体サプライチェーンの構築を目指した動きが活発化しています。
米国のヘインズ米国家情報長官は2023年5月、米議会上院軍事委員会の公聴会で、中国人民解放軍による台湾侵攻により台湾半導体の生産が停止すれば、世界経済は壊滅的な影響を受け、生産停止により世界経済は年間で6000億ドルから一兆ドルあまりの被害を受けると警告しました。
こういったリスクを回避するため、台湾のTSMCは熊本に半導体製造工場の建設を進め、ソニーやトヨタなど日本を代表する企業の出資によって創設された新会社ラピダスが北海道千歳市に先端半導体工場の建設を決定するなど、強じんな半導体サプライチェーンの構築が進められています。
そして、韓国もこの流れに積極的に加わる姿勢を示しています。たとえば、韓国のサムソン電子は300億円あまりを投資し、横浜に先端半導体の開発拠点を作る計画を明らかにしました。2023年中には建設を開始し、2025年の稼働を目指しているようです。
今日、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻に伴い、経済の分野でもデカップリング(経済切り離し)やデリスキング(関係を維持しつつも懸念がある部分ではリスク低減を図る)という言葉がよく使われますが、ある国が同盟国や友好国など近い関係にある国と限定したサプライチェーンを構築するフレンドショアリングの重要性が高まっています。
そして、先端技術を巡る覇権競争が激しくなる中において、日本としては共通の課題に直面する韓国との間でフレンドショアリングを強化することが望まれます。
最近、ユン政権が日米へ接近を図っていることに中国は強い不信感を抱いており、今後は中韓の間で経済貿易上の摩擦が拡大する可能性もあります。日本としても半導体など先端技術分野で韓国が重要な相手であり、韓国にとっても地政学、地経学的に日本の重要性が増しています。
一方、韓国の大統領は任期が1期5年であり再選はありません。要は、ユン政権の残りが4年あまりある一方、次はユン政権とは相反する政策を掲げる、もしくは日本との関係をそれほど重視しない政権が誕生し、それまでの日韓友好ムードが一転する可能性もあります。そこには十分な配慮が必要でしょう。
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