ChatGPTで議事録を作成 社内規定も回答 小平が目指すAIとの協業
鹿児島市の総合商社「小平」。4代目の小平勘太さん(43)は社内改革と同時にITツールやChatGPTの活用を進め、業務の効率化だけでなく自社の強みとAIを掛け合わせた新しい取り組みを始めようとしています。2024年には新社屋への移転を予定しており、新しい土地から将来に向けた新事業が生まれるかもしれません。
鹿児島市の総合商社「小平」。4代目の小平勘太さん(43)は社内改革と同時にITツールやChatGPTの活用を進め、業務の効率化だけでなく自社の強みとAIを掛け合わせた新しい取り組みを始めようとしています。2024年には新社屋への移転を予定しており、新しい土地から将来に向けた新事業が生まれるかもしれません。
目次
小平は、LPガスや電力を供給するエネルギー事業を中心に、IT事業、貿易・コンサルティング事業も展開する1912年創業の総合商社です。
コロナ禍で社内のコミュニケーションが激減して組織状態が大きく悪化したことを機に、4代目の小平勘太さんが「第4創業」と銘打った社内改革プロジェクトを開始しました。会社の方向性を示すミッション・ビジョン・バリューの作成、組織変更、人事評価制度の改革、ミーティングの改善などに取り組んだ結果、社員が協力し合って会社を盛り立てていく気運を生み出すことに成功しています。
社内改革の過程で、勘太さんは新しいITツールの導入にも取り組みました。旧総務部を経営企画室へと刷新する過程で、作業の多くが紙やエクセル上で行われていたり、部署ごとに経理のルールが異なっており、長時間労働や異動の妨げになっていることがわかったのです。
そこで勘太さんは、古い社内システムをすべてSaaSに置き換え。マイクロソフトのOffice365やTeams、オンライン会議ツールのZoom、勤怠管理システムの「ジョブカン」など、10のITツールを一気に導入しました。
同時に、全社員にノートパソコン、iPad、スマホも支給しました。最新のハードを配布することで、ハードが古くてツールを使えないという言い訳をなくし、変化に対してポジティブな印象を持ってほしかったからでした。
「社員には戸惑いもありましたが、ツール導入を一気に進めてよかったと思います。多くの作業をデジタルでできるようになり、書類の量が激減しました。経理の生産性が上がり、電子帳簿法などの制度変更に自動で対応できるようにもなりました。DX事業部が担当していたシステムのメンテナンス作業も不要になり、本来の業務に集中できるようになりました」
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こうした社内DXの取り組みの中心となっているのが、「社内DX勉強会」です。メンバーは勘太さんを始め、事務職とエンジニアの10人。さまざまなツールを自由に使いながら、業務の自動化・効率化に活かそうと、部署を超えた情報交換をしています。メンバーのツールの利用料は会社負担です。
勘太さんは、話題の対話型AI「ChatGPT」もいち早く業務に導入しました。
「私が社員に無駄なことをさせたくなかったんです。たとえば、手書きの数字をExcelに打ち込む、Excelのシートとシートを目で見て比べるなど、そういう作業があるならすべて自動化したいと考えています。
もともとITコンサルタントだったこともあり、ITツールを活用して業務の効率化を考えるのは好きで、得意分野です。ChatGPTは2022年11月にリリースされたときから個人で使ってみて、業務に活かせる可能性が高いと感じていました」
ChatGPTの導入には、事業部のシナジーを生み出す狙いもあります。
「AIを活用して各事業部のサービスを掛け合わせて、お客様に新しい価値を提供できるのではと期待しています。エネルギー事業とIT事業、あるいは海外事業とエネルギー事業など、部署横断の新しいビジネスモデルを生み出したいと考えています。幸い、当社にはDX事業部があります。DX事業部の開発環境がマイクロソフトのAzureなので、ChatGPTの開発元であるOpenAIのサービスとの親和性も高い。導入しない理由はありませんでした」
勘太さんは、2023年2月にChatGPTの有料版「ChatGPT Plus」が出るとすぐに会社の業務に活用し始めました。
現在は、勘太さんだけでなく社員も、メール作成、ガス点検の案内のような顧客向け定型文書の作成、SNSの文面作成、翻訳作業、海外向けの書類作成、アイデアの壁打ちなどにChatGPTを利用しています。その際は、社内のデータポリシーに応じて提供可否データを判断するようにしています。
勘太さんが力を入れているのは、プログラミング未経験者がChatGPTのプラグイン(拡張機能)を活用して、業務の流れを自動化する取り組みです。
「Zoomで行ったミーティングの音声ファイルから文字起こしを作成し、それを元に議事録を作成する業務を自動化しようとしています。私自身がテストして成功したので、7月のDX勉強会で事務担当の社員にレクチャーして導入する予定です。知識がなくても自然言語でChatGPTに業務の流れを指示すれば自動化のフローが出来上がります」
具体的には、ChatGPTのプラグインでZapier(ノーコードでワークフローの自動化を実現できるアプリ)を選択したのち、自然言語でChatGPTに自動化したい業務を指示します。
すると、ChatGPTが業務フローを作成してくれます。リンクをクリックすれば、Zapierの中に自動で業務フローができあがります。
Google Driveの中にZoomミーティングの音声ファイルが入ると同時に、以下のような議事録が自動で出力されるようになるのです。ミーティングの議事録を文字起こしして議事録の形にまとめる作業が自動化されれば、生産性の向上につながると勘太さんは期待しています。
ChatGPTを活用して、社内規定に対する質問に答えてくれるチャットボットも作成し、テスト運用が始まっています。勘太さんがチャットボットを作れるサービス「DocsBot AI」を活用してボットを作った後、ChatGPTに社内規定のファイルを読み込ませて完成。プログラムを書く作業はなく、15分ほどで作れたと言います。
「社内には社内規定を熟知している社員がいます。ただ、彼女に全社から問い合わせが集中すると、他の仕事ができなくなってしまう。そこで一次問い合わせはチャットボットにしてもらい、それでもわからないことは彼女に問い合わせるようにできればと考えています」
ChatGPTの導入と同時に、勘太さんは社内部活「ChatGPT部」を立ち上げました。メンバーは9人。希望する人は部署や役職を問わず、ChatGPTに関心のある人は誰でも参加できます。社内DX勉強会と同じく、ChatGPTの利用料は会社負担です。学んだことを社内に還元しなければならないなどの決まりはなく、面白がって使ってみようという気軽なスタンスで運営しています。
実際にChatGPTを業務に使って課題も見えてきました。たとえば、ChatGPTの回答の正確性には波があり、正確な答えを出してくれることもあれば、そうでないこともあります。
また、「ある業務を自動化する方法」を教えるのは得意ですが、業務そのものを自動化するためにはプラグインを使う必要があります。
チャットボットの返信の精度も完璧ではないため、使い勝手をさらに良くするには改善が必要だと勘太さんは考えています。
これから小平では、ChatGPTを始めとするAIを積極的に活用して、自社の強みを掛け合わせたサービスを開発することを目指しています。
「今考えているのは、エネルギーのパーソナライゼーションサービスです。たとえば、ガスや電気の30分ごとの利用状況をスマートメーターで測り、そのデータをAIが分析すれば、世帯ごとにきめ細やかな省エネのアドバイスができるかもしれません」
アイデアは他にもあります。
「当社のDX事業部では社会福祉法人や保育園・幼稚園で利用する栄養計算システムのソフトを開発・販売しています。このソフトにAIを組み込めば、献立の写真を読み込むだけで栄養のアドバイスや提案をしてくれる新規サービスをつくれるかもしれません。そのほか、日報を簡単に短時間で作成できるサービスもつくれるのではないかと考えています」
地方の中小企業は今、どこも人手不足です。そうした課題をAIで解決できないかどうか、勘太さんは自社の業務効率化・自動化を進めながらアイデアを練っていくつもりです。
小平は鹿児島市から車で30分ほどの日置市に本社移転を控えています。2024年1月には新本社が完成し、2月初旬には移転する予定です。
新本社を建設する土地は、湯之元温泉と呼ばれる温泉街の中にあります。少子高齢化で人口は減少し続け、かつてにぎわった温泉街はシャッター街となっています。この湯之元地区を移転先に選んだのは、勘太さんの祖父母がかつて衣料品店を営んでいたからです。
勘太さんは2020年から2021年にかけて、その跡地に公園とカフェを建設しました。カフェは出店料無料で地域の事業者に貸し出され、地域の人のチャレンジを応援する場、コミュニティの憩いの場として活用されてきました。その向かいの土地が売りに出たことから、勘太さんはこの地への本社移転を決めました。
移転を決めた理由はいくつかありますが、中でも勘太さんの背中を押したのは、2022年に作成したばかりの小平のビジョンでした。
「小平のビジョンの中に『地域だからこその可能性が花開く、ワクワクあふれる街を生み出す』『世界に開かれた「出島」となって先陣を切って進化し、全国の地方中小企業に刺激を与える』という項目があります。それなのに、街中の旧態依然としたオフィスで、昔のままの働き方を続けていたら説得力がありません。
地域に根ざして人々に安心や希望を届ける事業を営んでいるからこそ、自分たちも同じ地域で何ができるかを考えていく必要があると思いました。
今後、地方では人口がますます減少し、経済の縮小は避けられません。これからの企業は利益の追求だけでなく、社会課題の解決やコミュニティへの貢献も重要だと考えています」
新本社には、魅力的な人材を全国から呼び寄せる「灯台」のような役目もあります。
「今の時代、特に地方の中小企業のビジネスではいかに人を引きつけるかが大事です。ミッション・ビジョン・バリューを体現した建物をつくり、それにふさわしいビジネスや働き方をしたほうがいいと思いました。小平で働きたいという人を全国から集めることにもつながるはずです」
移転後は、全社を挙げてミッション・ビジョン・バリューに合った新しい会社のあり方、街のあり方を模索していきます。地域の空き家をリノベーションして会議室やエンジニアのためのワーキングスペースにする「街まるごとオフィス」プロジェクトに取り組み、新本社と同時に運用を始めていきます。
また、「未来の暮らし研究所(仮)」と称して、社員や地域住民と、人口が減少していく地域の未来のライフスタイルとは何かを考え、実践していく取り組みも温めています。
「小平のミッションは『海の冒険者を祖に持つ『新しい老舗』として、不確実性の荒波を乗りこなし、これからの百年も安心と希望を社会に届け続ける』です。未来の暮らし研究所の活動を通して、それを実践していきます。会社が地域に開かれるだけでなく、ここから新しい事業が生まれるかもしれない。研究所はいわば、新規事業部のようなものです」
コロナ禍という荒波に耐え、新たな船で漕ぎ出した小平は今後、従業員の世代交代を迎えます。従業員の平均年齢は40歳で、50代、60代が多数を占めています。上の世代の知見を引き継ぎつつ、時代に合わせてアップデートするためには、新しい人材の採用が欠かせません。
「湯之元地域にはいい温泉がたくさんありますし、近くにはサーフィンのできる海やゴルフ場もあります。社員がQOLを上げて、仕事でも結果を出せるような環境づくりをしていきたい。新本社から、ミッション・ビジョン・バリューに合ったビジネスと働き方を発信し、事業を通じて地域に安心と希望を届け続けていきます」
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