目次

  1. 適正な値付けが重要な理由
    1. 競争力の確保
    2. 収益の最大化
    3. 企業そのもののブランディング
  2. 値付けの方法
    1.  “値ごろ感”から値付けする
    2. 競合を参考にする
    3. 顧客に尋ねる
  3. 値付けをするときの注意点
    1. コストからの値付けは極力しない
    2. 戦略的に値付けをする
    3. 不用意に安い値付けや値下げはしない
    4. 値付け後も価格を管理する
  4. 値付けは経営と企業のブランディングにかかわる

 「価格はどのように決めれば良いのでしょうか?」
 「商品の価格が適正かわからず困っています」

 筆者が新規事業開発や新商品・サービスの開発を支援するなかで、よくある質問の一つが価格、値付けに関するものです。

 筆者自身も企画担当をしていた時代に、値付けには頭を悩まされました。価格決定をする会議で、なぜその価格に決めたいのかの理由を説明し、関係部署の合意を得て晴れて価格が決定されます。それくらい値付けは重要で、マーケティング戦略の一部になります。

 適正な値付けが重要となる理由は、以下三つに挙げられます。

 商品やサービスにはほぼ必ずライバル、つまり競合他社が存在します。まだ競合が存在しない新規性が高い事業でも、その市場が有望となると必ずと言っていいほど競合が進出してきます。

 値付けは競合との競争力に大きな影響を与えます。安い価格だから競争力があるというわけではありません。自社の商品・サービスの価値に合った戦略的な価格をつけることが大切です。

 商品やサービスの価格は、その商品やサービスの売れ行きを決め、同時に利益を決めることになります。価格が高すぎると売れるものも売れなくなったり、逆に安すぎると売れ行きは良いが利益が下がったりして、場合によっては赤字となることもあります。このように、値付け次第で事業の収益は大きく左右されます。

 京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫さんは、「値決めは経営である」と述べ、さらに、著書では以下のように記しています。

商売というのは、値段を安くすれば誰でも売れる。それでは経営はできない。お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段。それよりも低かったらいくらでも注文は取れるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの一点で注文を取るようにしなければならない。

『稲盛和夫の実学』日経ビジネス人文庫 p.37)

 値付けは商品やサービスのコンセプトにも大きくかかわってきます。そして、商品やサービスを超えて、事業そのもの、企業そのもののイメージとなり、ブランディングにも大きく影響します。

 事業として、企業として高級路線でいくのか。それとも低価格路線でいくのか。自社の位置づけとブランディングをしっかり考え、それに見合う商品・サービスコンセプトで戦略的な値付けをすることが大切です。

 では、実際にどのような方法で値付けをおこなえば良いのか、解説します。

値付けの方法と注意点
値付けの方法と注意点(デザイン:吉澤風香)

 “値ごろ感”から値付けをする方法では、「自社の商品・サービスが、顧客にとってどれくらいの価値があるのか」「顧客視点で見ると、いくらであれば買いたいと思えるのか」を想定して実施します。

 顧客価値には下記三つの価値があります。

  • 機能価値
  • 情緒価値
  • 自己表現価値

 価格もこの順序で高くなっていきます。

機能価値 顧客にとって機能が満たせている状態で最低限必要な価値
情緒価値 気持ち、感情が動かされる価値。その商品によって、満足感や幸せな気持ちなど機能以上のものを感じられる
自己表現価値 その商品やサービスを顧客が使うことで自己表現につながるもの。 ブランドや高級車など

 商品を選んでいるときに、直感でピンと来て想定していた金額よりも高い商品を購入したり、高くてもお気に入りの商品やサービスがあって購入したりするときもあるでしょう。そのような気持ちや感情を動かされる顧客価値を情緒価値と言い、顧客には機能価値だけでなく情緒価値を与えることができると、高い値付けでも商品が売れるようになります。

 商品コンセプトによって値付けは左右されるため、自社の商品・サービスがどのような顧客価値を提供できるのか、よく把握することが重要です。

 値ごろ感がわからず、競合となる商品やサービスが市場に存在している場合は、その価格を参考にすることができます。

 競合の価格を参考に、自社の商品・サービスのコンセプトに合わせて、競合よりも高くしたり安くしたり、あるいは同じ価格を設定します。高くする場合も安くする場合も、その理由を明確にしておくことが大切です。

 的確な競合がない場合は、類似の商品やサービスを参考に値付けをおこないます。その場合も、なぜその価格にしたのかといった理由やストーリーを明確にすることで、価格を含めた商品コンセプトが明確になり、それが顧客にも伝わり、納得して購入してもらえるようになります。

 また、価格変動の激しい商品やサービスの場合は、競合の価格動向をしっかりウォッチし、適正価格を維持できるようにしましょう。

 競合状況などを含めて、値ごろ感がわかる場合は値付けができますが、まったく新しい商品やサービスの場合は、値ごろ感が想定できない場合も多くあります。

 そのような場合は、顧客に尋ねる、すなわち顧客調査を実施し、最適価格を見つけていきます。

 最適価格を導く方法として、PSM分析(Price Sensitivity Meter:価格感度分析)という手法があります。

 PSM分析では、以下のような質問で顧客調査をおこないます。

  • この商品が「これは安い」と感じ始める価格はいくらか?
  • この商品が「高いが購入する価値がある」と感じる価格はいくらか?
  • この商品が「購入するには高すぎる」と感じる価格はいくらか?
  • この商品が「これでは安すぎる(品質が疑わしい)」と感じる価格はいくらか?

 これらを調査し、グラフ化することによって最適価格を導きます。

PSM分析
PSM分析(筆者作成)
価格の種類 概要 備考
最高価格 上限となる価格(これ以上の価格では購入されない価格) 高級品やプレミアム価格の設定で参考とされる
妥協価格 顧客にとって「少し高いけれどこの程度ならば仕方ないかな」という価格 競合商品が複数ある分野で売れる商品の上限価格となる
理想価格 最も多くの人が納得して購入できる価格 戦略的に値付けをする場合は別だが、利益が確保できる前提で値付けの指標となる
最低価格 下限となる価格(顧客にとって「これ以上安いと品質に問題があるのでは」と疑いが生まれる価格) キャンペーンや特売などの参考となる。特別な理由がない限り、この価格を下回る値付けは意味をなさない

 競合や類似商品などの情報がなく、適正価格がわからない場合にはPSM分析を試してみてください。

 また、PSM分析は既存の商品やサービスの価格が、適正かの調査にも活用できます。設定した価格に疑問があるときは活用してみましょう。

 値付けをするときの注意点は、以下の四つが挙げられます。

 該当の商品・サービスのコストに、利益を上乗せして値付けをおこなう方法があります。

 よく聞かれる手法ですが、あくまで一つの参考とし、基本的には避けてください。

 その商品やサービスにコストがいくらかかっているかは、つくり手側の都合であって、顧客には関係ありません。

 商品やサービスは、顧客に買ってもらえる値ごろ感で値付けをし、その価格に対して利益が確保できるように生産をおこなうのが鉄則です。

 値付けは商品やサービスのコンセプトに基づき、競合の状況も見ながら戦略的におこなう必要があります。

 自社のブランディング戦略、現在の市場での自社と競合のシェア状況をもとに、「現在の自社のポジションをどのように持っていきたいのか」を念頭に、戦略的に値付けをしましょう。

 安い値付けをしたり、安易に値段を下げたりすると、短期的には売上が上がることがあります。しかし、競合も必ずと言っていいほど追随し、結果的に自分の首を締めることにつながったり、市場全体の価格を下げてしまったりします。

 また、低価格戦略は多くの場合、体力があり安く生産できる大手企業がとる戦略です。中小企業の場合は、安くつくる技術力があり、それを強みにできる場合を除き、低価格戦略はとらず、他社にないこだわりある商品やサービス、付加価値を考え、高く値付けをしていくことが基本です。

 値付けをしたらそれで終わりではなく、その価格を管理していくことも重要です。価格は後から変更ができる場合と一度付けたら変更ができない場合があります。

 変更ができるのであれば、売れ行き、競合の状況、顧客の価格への満足度などを見ながら、必要に応じて価格を見直していきます。

 価格を変えることができる場合でも、一度値付けをした後は以下のケースが考えられます。

  • 高くはできるが安くはできない
  • 安くはできるが高くはできない

 これらを考慮し、テスト的に値付けをおこなうことも有効です。

 値付けをした後の戦略、リスクと対策も想定して値付けをおこない、その価格をメンテナンスし、適正価格へ是正していきます。

 値付けは商品やサービスのコンセプトに直結し、稲盛和夫さんが述べているように、経営そのもの、企業のブランディングにかかわる非常に大切なものです。

 自社が持つ技術力や強みを活かした商品・サービスに対して、戦略的に考えた適正な値付けをおこない、顧客貢献、社会貢献につなげていきましょう。