履歴事項全部証明書とは 活用する場面や取得方法について解説
金融機関や行政の手続きで、登記事項証明書を提出した経験がある人もいるでしょう。会社や法人に関する登記事項証明書には、いくつかの種類があります。この記事では、登記事項証明書のなかでも特に提出する機会の多い履歴事項全部証明書について、認定司法書士・行政書士がわかりやすく解説します。
金融機関や行政の手続きで、登記事項証明書を提出した経験がある人もいるでしょう。会社や法人に関する登記事項証明書には、いくつかの種類があります。この記事では、登記事項証明書のなかでも特に提出する機会の多い履歴事項全部証明書について、認定司法書士・行政書士がわかりやすく解説します。
目次
履歴事項全部証明書とは、会社または法人の登記簿に記録されている事項を証明するために、法務局から交付される登記事項証明書の一種です。金融機関で口座を開設する際や行政から許認可を得る場合などに、商号や法人番号、各役員が就任した年月日などを確認するために使用されます。
ここでは、履歴事項全部証明書について具体的な記載事項や利用シーンを紹介します。なお、この記事で解説する「履歴事項全部証明書」や「登記事項証明書」は会社や法人のものを指します。
履歴事項全部証明書で確認できる情報を、商業登記規則30条1項2号の内容もふまえて紹介します。書類に示されている事項は次のとおりです。
また、下記に示した役員が就任した年月日も記載されています。
加えて、会社の商号や本店の登記を変更した場合は、変更前の事項をチェックできる点も特徴です。ただし、以下のような条件があるので注意してください。
平たくいえば、履歴事項全部証明書にはその会社の商業登記簿に記載された現在の事項と、過去3年間の履歴についての情報が記載されています。
履歴事項全部証明書は、商業登記簿に記載された事項を証明する書類です。そのため、自社の情報が商業登記簿に記載されていなければ交付されません。
履歴事項全部証明書が発行されるには、商号登記や未成年登記、後見人登記などの特殊な登記を除き法人化が必須の条件です。個人事業主は一般的に発行不可能で、公的手続きでも特に求められません(参照:商業登記規則 第6、10条|e-Gov法令検索)。
履歴事項全部証明書(そのほかの登記事項証明書を含む)は、何人も手数料を納付して交付を請求できます(参照:商業登記規則 第10条|e-Gov法令検索)。
公開情報であるため、履歴事項全部証明書を取得するには委任状も必要ありません。法務局の窓口でわずかな手数料を納付すれば、誰でも見たい会社の履歴事項全部証明書を取得できます(具体的な費用相場については後述します)。
履歴事項全部証明書は会社や法人の登記の変遷記録を証明する重要な書類です。取得および提出が求められる際にはいくつかの場面が考えられます。取得が必要な場面をしっかりと押さえましょう。
金融機関で新規に口座開設する場合には、履歴事項全部証明書の提出が求められます。こちらの書類で確認している内容は下記のとおりです。
トラブルを未然に防止するため、過去にさかのぼって法人のトラブル歴や取引に相応しくない役員の関与の有無などを調査しています。
また、近年は犯罪による収益の移転防止に関する法律(いわゆる犯罪収益移転防止法)上の確認義務を履行すべく、より厳しくチェックしているようです。
金融機関から新たに融資を受ける場合には、履歴事項全部証明書の提出が求められます。その理由は、ふさわしくない融資先に金銭を貸し付けることを防止するためです。与信調査(信用状況の調査)の一環として、履歴事項全部証明書が必要とされています。
信用保証協会の保証付融資や日本政策金融公庫の代理貸付を受ける場合においても同様です。
建設業・風俗営業・運送業などの許認可を受ける場合も、各行政機関に対象となる法人の商号や役員などを証明するために登記事項証明書の添付が必要です。金融機関の融資と同じく、ふさわしくない会社や役員の関与がある会社に許認可を与えないようにチェックします。
許可申請に必要となる書類の一覧には「登記事項証明書」と記載されているケースも少なくありません。しかし、自治体によっては「履歴事項全部証明書」を指す場合もあるので事前に確認しましょう。2023年10月現在において、履歴事項全部証明書を指定するケースは多くなっています。
新しい取引先と取引をする際には、与信判断のために履歴事項全部証明書の提出を求められることがあります。
前述の金融機関の口座開設時と同じく、トラブルを未然に防ぐべくふさわしくない取引先を排除するためです。履歴事項全部証明書の記載内容を参考に、可能な範囲で調査をおこなうために必要となります。
履歴事項全部証明書の取得方法は比較的簡単です。オンライン化される前はそれぞれ管轄の法務局まで取りに行く必要がありました。現在ではほぼオンライン化が完了しているので、全国にあるどの法務局でも取得できます。
履歴事項全部証明書の取得方法は、四つの方法があります。
それぞれの手続きについて紹介しましょう。
全国にある法務局の窓口で申請書を提出し、交付申請をする方法です。申請書は法務局に用意されていますが、Webサイトからダウンロードすることも可能です。また、法務局の窓口によっては、証明書発行請求機が備え付けられています。この機械を利用すれば、自ら申請書を記入せずに交付の申請ができます。
登記事項証明書の交付申請書に記入するのは、商号や本店所在地などといった内容です。記入後、収入印紙を貼付したうえで窓口に提出すれば交付を受けられます。
交付申請書に必要事項を記載し、必要な費用の収入印紙を貼り付けて郵送しましょう。
郵送の場合は返信用封筒の同封が必要です。法務局の証明書窓口あてに郵便を送るだけで、履歴事項全部証明書の交付申請が完了します。平日に窓口へ行けない場合や、後述するオンライン申請ができない場合などに便利です。
オンライン請求(かんたん証明書請求)は、法務局が提供している「かんたん証明書請求とは」のページからおこなえます。
かんたん証明書請求では、事前の利用者登録が必要です。すべてオンラインでできるので、交付申請書を記入する必要はありません。商号さえわかれば、インターネット上で全国の法人の検索ができます。
また、月曜日から金曜日(国民の祝日・休日、12月29日から1月3日までの年末年始を除く)の8時30分から21時の間で証明書の交付申請がおこなえます。法務局の窓口だけでなく、郵送での受け取りも可能です。
法務局が提供している「申請用総合ソフトとは」のページからオンラインでの請求もできます。利用する際には、事前のインストールや設定が必要です。
申請用総合ソフトでも、上記のかんたん証明書請求と同じようにオンラインで履歴事項全部証明書の交付手続きをおこなえます。
手続きをおこなう際には、交付申請書に記載すべき事項や費用も把握しておくとスムーズに進められるでしょう。履歴事項全部証明書を取得する方法について、法務局の窓口での手続きを詳しく解説します。
交付申請書に記載すべき主な項目と記載時の注意点について表で整理しました。
項目 | 記載時の注意点 |
---|---|
窓口を訪れた人(申請人) | 窓口を訪れた人の住所氏名を記載します。必須ではありませんが、交付時に名前が呼ばれるので、交付間違いを防止するためにフリガナも記載しておくとよいでしょう。 |
商号・名称(会社等の名前) | 証明書の交付を求める法人の商号を記載します。 法務局の職員はこの商号で検索をかけるので、正確に記載する必要があります。 |
本店・主たる事務所(会社等の住所) | 証明書の交付を求める法人の本店所在地を記載します。 上記の商号とこの本店所在地で法人を特定するので、正確に記載してください。 |
会社法人等番号 | 証明書の交付を求める法人の会社法人等番号を記載します。 番号がわかる場合のみ記載しましょう。 |
請求事項 | 証明書の種類、記載内容などを特定するための欄です。 □にレ印を付けることで特定します。 |
請求通数 | 各証明書の必要通数を算用数字で書き入れます。 |
収入印紙欄 |
交付を求める証明書の手数料を納付するために収入印紙を貼付します。 収入印紙は窓口で証明書が交付されるとわかってから貼付した方が、貼り間違いなどのトラブルを防ぎやすくなります。 |
履歴事項全部証明書の取得費用については、下記のとおりです(2023年10月時点)。ただし、上述したように1通の枚数が50枚を超える場合は、50枚ごとに100円を下記金額に加算します。
取得方法 | 取得にかかる費用 |
---|---|
窓口での書面請求 | 600円 |
郵送での書面請求 | 600円+郵送費用 |
オンライン請求・窓口交付 | 480円 |
オンライン請求・送付 | 500円 |
履歴事項全部証明書によく似た商業・法人登記の書類には下記のような種類があります。
各書類に示されている内容について紹介します。
現在事項証明書とは、現在時点で効力を有している情報が記載されている証明書です。会社の商号や会社の役員が就任した年月日など、以下の情報が記載されています。
履歴事項全部証明書は過去の情報を含めた証明書ですが、現在事項証明書は現在の法人の状況のみが記載された証明書です。過去の情報を調べる必要がなく、証明書の記載事項を少なくしたい場合に用いられます(参照:商業登記規則第30条|e-Gov法令検索)。
閉鎖事項証明書とは、閉鎖された登記事項の証明書です。3年より前の情報を確認したい場合に用いられます。基本的な記載内容は履歴事項全部証明書と同じですが、主に以下四つの場合に取得します。
会社の本店を従来の本店の法務局の管轄外に移転した場合、従来の本店所在地の商業登記簿を閉鎖して、新管轄所在地の法務局で商業登記簿を作成します。そのため本店移転前の状況を知りたいときは、旧管轄所在地の法務局に閉鎖事項証明書の請求が必要です。
合併などの組織再編行為をおこなった場合、消滅する会社の商業登記簿は閉鎖されます。消滅会社がどのような会社であったのかを調査するために、閉鎖事項証明書が必要になることがあります。
会社が解散し、清算結了まで終わると商業登記簿が閉鎖されます。この会社を調査するときは、閉鎖事項証明書の取得が必要です(解散しただけでは履歴事項証明書や現在事項証明書が発行されます)。
抹消し忘れた抵当権があるなど、何らかの権利関係が残っていたときの訴訟手続きなどで利用されます。
全国にある登記所は、1995〜2005年にかけて登記簿のコンピュータ化を実施しました。現在の記録はデータに移し、過去の記録として管理された情報は紙媒体として法務局が管理しています。古くに創業した会社であれば、コンピュータ化が実施される前から存続しているケースもあるでしょう。
コンピュータ化される前の登記簿の記載事項を確認したい場合において、閉鎖事項証明書を取得することがあります。閉鎖謄本を取得するには、閉鎖された商業登記簿を管理している法務局への申請が必要です。遠方であれば、一般的に郵送で請求するケースが多くなります。
代表者事項証明書は、その会社の代表者が誰であるかを証明するための証明書です。代表者が複数いるときは、特定の者に関して代表権があることも証明できます。
履歴事項全部証明書では、記載事項が多すぎて読みにくい場合もあります。整理された情報を知りたいときに、代表者事項証明書が使えます。
加えて、提出先にほかの記載事項を見られたくない場合などに取得することもあります。
一部事項証明書は、申請時に選択した会社の特定事項を証明する証明書です。必ず記載される内容として、以下が挙げられます。
一方で、選択できる特定事項の例が次のとおりです。
代表者事項証明書と同じく、記載事項をなるべく少なくしたい場合や、提出先にほかの記載事項を見られたくない場合に取得します。
印鑑証明書は、会社の代表者や支配人などによって、法務局に印鑑が届けられていることを証明する書類です。
窓口で申請するときは、法務局で交付される印鑑カードを法務局の窓口に提示して証明書の交付を受けます。証明書発行請求機を利用する場合は、パスワード(印鑑を提出している代表者の生年月日)の入力が必要になります。
オンラインで申請するときは、申請用総合ソフトを利用して、印鑑提出者が電子署名にて申請します(商業登記にもとづく電子認証制度の電子証明書やマイナンバーカードの電子証明書を使用します)。
そのほかの証明書とは異なり、印鑑カードを所有する者か、電子署名した印鑑提出者にしか交付されません。
2023年10月時点において、この証明書の交付費用は以下のとおりです。
費用も含めて、手続きする参考にしてください。
登記情報提供サービスは、登記されている内容が知りたいときに便利です。登記官の公印がないため、提出先によっては証明書と認められない場合があります。法務局へ行かずに登記内容が知りたい場合は、このサービスを利用するとよいでしょう。
登記情報提供サービスを利用するには、事前登録(2023年10月現在で個人の登録が300円、法人の登録が740円)が必要です。1通332円(2023年10月現在)と、ほかの証明書と比べてもリーズナブルな価格で取得できます(参照:登記情報提供サービスの利用料金等一覧|法務省)。
利用時間は、平日午前8時30分から午後11時、土日祝日は午前8時30分から午後6時です。利用可能な時間が長く、休日も取得可能であるので便利な制度となっています。休業日は、年末年始(12月29日〜1月3日)のみです。
履歴事項全部証明書などの有効期限は、提出先によって異なります。
主な提出期限として、以下のパターンがあります。
1カ月以内を求められる場合 | 一部の不動産登記申請書に添付する登記義務者の印鑑証明書 など |
3カ月以内を求められる場合 | 建設業許可・風俗営業許可・金融機関の口座開設 など |
6カ月以内を求められる場合 | 一部金融機関の口座開設 など |
有効期限がない場合 | 不動産登記申請書に添付する承諾書に必要な印鑑証明書 など |
しかし、地域によって独自のルールも存在します。提出前に、提出先に確認したほうが賢明です。
履歴事項全部証明書は誰でも取得できるものの、似たような書類が多く、提出先によって必要な記載内容が変わります。履歴事項全部証明書が提出されることで、取締役の権限や責任が明確になります。会社の実態を証明するうえでも重要な書類です。
登記内容がそのまま示されるので、登記内容に誤りがあると会社の信用に関わる恐れもあります。
履歴事項全部証明書の取得に際して困っている場合は、一人で抱え込まず、プロである司法書士の力を借りるとよいでしょう。
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