ファンマーケティングとは 事例から学ぶ成功のポイントや注意点を解説
愛着を持ったファンを増やすファンマーケティングが注目されています。さまざまな手法が存在しているため、どの方法を選択すべきか迷いがちですが、成功している事例には一貫した基本原則があります。これまで200社以上の中小企業のコンサルティング経験を持つマーケティングコンサルタントが、ファンマーケティングについて解説します。
愛着を持ったファンを増やすファンマーケティングが注目されています。さまざまな手法が存在しているため、どの方法を選択すべきか迷いがちですが、成功している事例には一貫した基本原則があります。これまで200社以上の中小企業のコンサルティング経験を持つマーケティングコンサルタントが、ファンマーケティングについて解説します。
目次
ファンマーケティングとは、企業が提供する商品やブランドに対して支持や愛着を持ったファンを増やし、中長期的に売上を高めるマーケティングの手法です。
かつてのマーケティングは、テレビや雑誌などマスメディアへの広告によるブランド認知が中心でしたが、近年はWEBやSNSの発展によるコミュニケーションの変化、顧客が求める価値観の変化によってマーケティングの方法も変化しています。
実際のファンマーケティングにはさまざまな手法があります。ここではオンラインとオフラインに分けて概要を解説します。
オンライン | |
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SNSの活用 | SNSでの投稿やコメントを通して企業がファンと直接コミュニケーションをとる |
コンテンツ配信 | Webサイトにおいてお役立ち情報、開発ストーリー、ファンの事例紹介などを配信する |
Eメール配信 | 企業がファンへEメールを通じて定期的に情報を配信する |
オンラインコミュニティ | 企業とファン、ファン同士がオンラインで交流するためのコミュニティを運営する |
メディア露出 | プレスリリースなどを通じてメディアに露出することにより、ファンからの信頼を高める |
オフライン | |
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ファンミーティング | 企業とファン、ファン同士が交流するためのイベントを実施する |
新商品体験会 | 一般公開に先立ってファンに新商品の体験会を実施する |
社内見学 | オフィス見学、工場見学などにファンを招待する |
共同開発 | ファンと意見交換を行いながら新商品を開発する |
アンバサダー制度 | 企業がファンをアンバサダーとして任命し、アンバサダーから商品の魅力を発信する |
どのファンマーケティングの手法を重視するかは、ファンのニーズや企業の強みなどで異なります。例えば、SNSを使用する顧客層が多いのであればSNSの活用、ユーザーの味覚が重要な飲食料品であれば共同開発、立派な工場を有している場合は工場見学などが挙げられます。
「ファンマーケティング」と「ファンベースマーケティング」という用語は、その意味について確立された一般的な定義がありません。したがって、これらの用語は文脈に応じて異なる意味で使われることがあり、その具体的な用法や解釈は個人や組織によって異なることがあります。
共通しているのは、ファンがベースにあることです。ファンベースは、ファンをベースに中長期的な売上や企業価値を高めていこうとする考えのため、ファンマーケティングと同じ方向性を持った言葉であるといえます。
こうした用語に対する解釈の違いを考慮して、特定の文脈でどのように使われるかを理解することが重要です。
ファンマーケティングが重要視されている背景には、社会の変化が関連しています。具体的には、以下の点が挙げられます。
それぞれご紹介しましょう。
現代の消費者は、単に商品やサービスを購入するだけでなく、「なぜその商品を買うのか?」という背景にある価値観やストーリーも重要視しています。その理由は、パーパスドリブンな消費(価値観や信念に基づいた消費行動)がトレンドとなり、企業が社会や環境にどのように寄与しているかも購買の重要な判断基準となっているためです。
よって、企業やブランドのパーパス(存在意義や志)やストーリーをファンと共有し、より強固な結びつきを作り上げることが重要になります。
SNSの普及により、一人ひとりの顧客が情報を発信する時代となりました。そんな環境のなか、実際に製品やサービスを購入したファンからの好意的な発信は、大きな影響を及ぼします。
その理由に、下記の二点が挙げられます。
企業やブランドとして高い支持を得るには、ファンマーケティングによって企業やブランドのファンを増やし、積極的に発信してもらうことが重要です。
企業やブランドにとって、新規顧客を獲得することが難しくなってきています。その理由は、少子高齢化が進み、消費にアクティブな世代が減少し、市場が縮小しているためです。
ファンマーケティングにより既存顧客との関係性を強化してファンになってもらい、一人の顧客に長い期間・多くの商品を購入してもらうことが重要となります。
ファンマーケティングのメリットには、下記の三点が挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
モノが溢れる成熟市場においては、機能面などでの差別化が困難となり、購買行動は価格に大きく左右される傾向にあります。一方で、ファンは商品を愛用してくれるヘビーユーザーであるため、売上の安定化が期待できます。
例えば、時計のカテゴリーを見てみましょう。低価格でありながら高機能なモデルが多く販売されています。それにもかかわらず、有名ブランドの高級時計はそのファンから高い支持を受けています。
このように、企業やブランドのファンである人々は、価格が高くても企業やブランドを信頼しているため、価格の影響を受けずに継続的に購入することが多いのです。
ファンによるWebサイトやSNSのポジティブな口コミによって、新規顧客の獲得が期待できます。最近では、消費者が商品を購入する前にインターネットで口コミを調べることが一般的です。
例えば、整体院を探しているとき、多くの人は初めて訪れる場所だと口コミをチェックするでしょう。また、同じ悩みを共有している友人からのおすすめは、選択の一つとして有力になるのではないでしょうか。
このように、ファンからの熱烈な口コミは購入行動に大きく影響を与えます。特に、関心が似ている友人や知人からの口コミは、商品への信頼性を増し、購入意欲を高めることがあります。
顧客がファンになることによって、ユーザー視点からの質の高いフィードバックを得ることができます。
例えば、SNSを通してファンとコミュニケーションをとり、企業側が気づかなかったファンが感じている商品への不満や改善点を直接聞くことができる、といった具合です。
このように、ファンマーケティングにより、実際に使用しているユーザーだからこそ気付ける視点を企業側が得られるようになります。また、顧客の声をもとに改善を進めることで、既存のファンの支持強化も期待できます。
ファンマーケティングを成功させている四つの事例を見ながら、成功要因を解説します。
SNSを通じてファンとコミュニケーションをとり、新商品の開発に成功した老舗菓子店「鎌倉紅谷」の事例をご紹介します。
開発したのは、名菓「クルミッ子」のリスや、アジサイ、イチョウがプリントされたマスキングテープです。マスキングテープ自体はもともと商品ではなく、商品を入れる袋の封印用のものでした。3代目社長の有井さんがSNSで「これをマステにしたら買う人はいますか?」と聞いたところ、よい反応がかえってきたことをきっかけに商品化。グッズの需要が高いとわかったことから、現在ではエコバッグやブックマークなども販売しています。
本事例の成功要因として、以下の二つが考えられます。まず、老舗店でありながら、SNS世代の顧客が多い点が挙げられます。もともとは60~70代の顧客が主要な層でしたが、戦略やパッケージの変更などにより、顧客層が大きく変わりました。
二つ目は、SNSの使用目的を明確にしていることです。企業がただ自社のメッセージをSNSで発信するのではなく、フォロワーの方とコミュニケーションをとり、読んで楽しい気持ちになってもらうことを目的に、開発時のエピソードや商品に込めた思いを発信しています。
酒蔵見学ツアーを開始し、毎日予約が入るようになった「森民酒造本家」の事例をご紹介します。
酒蔵改修後、新たな試みとして始めたのが「酒蔵見学ツアー」。酒蔵を見学し日本酒造りの知識を学んだ後に、カフェでスイーツとドリンクを楽しむという画期的なツアーです。「森民酒造の魅力を、日本酒と甘酒カフェの両軸から知ってもらうために始めました。毎日一、二件は予約が入っていて、順調に進んでいる感触があります」と6代目当主の森さんは述べています。
本事例の成功要因として、魅力的な体験価値の提供が挙げられます。通常、酒蔵見学はお酒の製造プロセスや歴史に興味がある人々が参加する傾向がありますが、本事例では、おしゃれな甘酒カフェと組み合わせることによって、これまで興味を持っていなかった層にも関心を引き寄せています。酒蔵見学ツアーを通じて、信頼が高まり、ファンになってもらえる可能性が高まります。
ストーリーを伝え続けて予想を超えるヒット商品を生み出している和・洋菓子の老舗「乃し梅本舗 佐藤屋」の事例をご紹介します。
「おいしいだけでは、食べ飽きる。菓子一つひとつに込められたストーリーごと食べて欲しい」と思いを語る、乃し梅本舗 佐藤屋・8代目の佐藤さん。店頭販売をするとき「このお菓子は野外フェスティバルで和菓子を食べて欲しいと思ったから、包装紙に工夫をしているんだ」「これは、乳腺炎を心配する授乳中のお母さんが食べやすいように、生クリームの代わりに白あんにしたんだ」などと、お菓子一つひとつに込められた想いやストーリーを大切にしてお菓子を届けています。
本事例にはさまざまな成功要因がありますが、筆者は「ストーリー」の役割も大きいと考えます。商品自体のよさも大切ですが、その背景にある価値観や想いに共感して消費者はファンになることが多いためです。乃し梅本舗 佐藤屋は、老舗の歴史を持ちながらも、現代のトレンドを捉えて商品を開発し、それをストーリーとして表現し、伝え続けています。
SNSとメディアへの露出効果によって売上を2.5倍に伸ばした、きゅうり専門農園「しなやかファーム」の事例をご紹介します。
しなやかファームは、ブルームきゅうり(きゅうりの品種の一つ)の魅力を知ってもらおうと、ブルームが無害であること、ブルームきゅうりの希少性、特徴を自社ホームページやSNSで発信します。売り場に設置するポップや、みずみずしくパリッとした食感が伝わる動画も作成しました。結果として、メディアへの露出も増え、売り上げは2.5倍に伸びることになります。
本事例の成功要因は、SNSに加えてメディアへの露出の効果が大きかったと考えられるでしょう。メディアへの露出は、普段はリーチできない顧客層へリーチできるだけではなく、第三者からの情報発信によって信頼度を高めることができます。また、自身の想いやこだわりが発信されることにより、より多くのファンを獲得できる可能性が高まります。
ファンマーケティングの成功事例を示しましたが、闇雲に実施しても望ましい結果を得ることは難しいものです。ファンマーケティングに取り組む際は、以下の点に注意する必要があります。
それぞれ詳しく解説します。
ファンマーケティングを実施するにあたり、最初のステップとして「ファンの理解」が極めて重要となります。具体的には、ファンがどのような人々であり、どのような行動パターンを持っているのか、何を目指しているのか、なぜ商品やサービスを購入しているのか、といったポイントです。
ファンについての深い理解を基に、彼らが喜ぶ顧客体験を企画し、施策として実行することが不可欠です。もし、この理解が不十分な状態で施策を定めてしまうと、結果として企業が実施しやすい施策を優先し、ファンが本当に求めていない取り組みを行ってしまう可能性が出てきます。
対策としては、例えば、購買データによってファンの特徴の仮説を立てたうえで、実際にファンと対話し、ヒアリングを行い、ファンの望みをより理解するといったことが挙げられます。
ファンマーケティングの施策を決定する際、得られる成果の目標を明確にすることが重要です。具体的には、ソーシャルメディアのエンゲージメント数やNPS(ネットプロモータースコア)を用いて目標を数値化すると効果的です。
ファンマーケティングの成果は、売上へすぐに反映しづらいため、目標設定を怠ると施策の効果を把握しにくくなり、施策の見直しや継続するモチベーションの維持も難しくなります。
対策としては、例えば、ファンに対して数カ月ごとにNPSなどのアンケートを実施し、結果に基づいて施策の内容や方法を適宜見直すことが有効です。
ファンマーケティングでは、時間をかけてファンを育成する考え方が大切です。組織全体で、ファンが一度や二度のコミュニケーションで生まれるものではないと理解しましょう。その理解がなければ、成果を急ぐあまり、リピート購入を促すような短期的な施策に偏ってしまう可能性があります。
対策として、例えば、経営会議などで目標設定の進捗を共有し、中長期的な施策の重要性についての共通の認識を持つことが効果的です。
ファンマーケティングはSNSの活用やファンミーティングなどその手法に注目されがちですが、重要なのは顧客のニーズや自社の強みに沿った戦略をベースに実施することです。これが成功している事例にみられる一貫した基本原則となります。
顧客ニーズや自社の強みを理解し、誰にどのような価値を提供するかを明確にした上で、ファンマーケティングの施策を実施していきましょう。
戦略をベースにファンマーケティングを実施することで高い効果が期待できます。
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