目次

  1. 江戸時代からの蔵に大きなダメージ
  2. コロナ禍が決断を後押し
  3. 「もったいない」から生まれたカフェ
  4. 「継ぐ気はなかった」ところに訪れた転機
  5. 相続手続きの難しさに直面
  6. 客層を広げる新たな挑戦

 日本酒をおいしく仕上げるには、適切な温度と湿度の管理が必須です。ところが、江戸時代から170年以上も使い続いてきた酒蔵が、東日本大震災の激しい揺れで甚大なダメージを受けました。常に雨漏りが起こり、すきま風が吹く状態に。森さんは当時を振り返り、「お酒を造る環境が確保できる場所ではなくなっていました」と語ります。

修繕前の酒蔵(森民酒造本家提供)

 その後修繕をして酒造りを再開しましたが、伝統的な蔵は完全な修繕が難しく、一カ所を直してもまた別の場所で問題が発生してしまいます。震災直後には無事であった建物全体を支える梁(はり)も、時間が経つにつれて曲がってきました。これを目の当たりにした森さんは、「そのうち完全に建て替える必要がある」と確信していたと言います。

 2019年、5代目当主であった祖母が亡くなったことをきっかけに、森さんが6代目当主として事業を継承しました。この代替わりのタイミングで、森さんは以前から考えていた蔵の大改修に着手します。

 この大改修には、コロナ禍による影響も大きく関わっていました。コロナ禍前の森民酒造本家の売り上げは、ほぼすべてが飲食店への日本酒の卸売りによるものでした。しかし、外食や飲み会の自粛が求められるようになり、メインの収入源が一気に途絶えてしまいます。その結果、当時の売り上げは例年の半分までに激減したと言います。

 「うちはそう大きくない酒蔵 です。ここでお酒を造っていることを知らない人も多く、直接買いに来るお客様はほとんどいませんでした。どうせ仕事にならないならこの機会に、と大改修に踏み切りました」

カフェ(左)と新たに生まれ変わった酒蔵が並んでいる
新しい酒蔵では、旧酒蔵の梁を再活用しています

 こうして、森民酒造本家は新しく生まれ変わるための準備期間に入ります。2019年に蔵の改修をスタートし、2021年12月に完成。その間、並行してカフェの開業準備も進め、2022年6月には酒蔵併設の甘酒カフェ「森民茶房」をオープンしました。カフェの建設費用確保のため、国の事業再構築補助金も活用しました。

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