職場のハラスメントの種類一覧表 厚生労働省が事業主の義務と対策を紹介
杉本崇
(最終更新:)
厚生労働省は、職場で起こるハラスメントについて「労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけると同時に、労働者の能力の発揮を妨げ、会社にとっても職場の秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題」と指摘しています。厚労省が2023年12月~2024年1月に実施した職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去3年間に約6割の企業でパワハラの相談があり、約4割の企業でセクハラの相談があったといいます。事業主に課されている義務を中心に、職場のハラスメントの種類一覧表を紹介します。
ハラスメントとは 3大ハラスメントは法律で禁止
ハラスメントとは、人の尊厳や人格を侵害するような言動や行為のことを指します。近年、法改正により、必要な措置を講じることを事業主に義務づけているハラスメントもあります。法律で禁止されているハラスメントとは、以下のようなものです。
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント(マタハラ)
厚生労働省の特設サイト「あかるい職場応援団」をもとに、それぞれに求められる対応を紹介します。
パワーハラスメントとは 厚生労働省の定義を紹介
職場のパワーハラスメントは、労働施策総合推進法で、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。厚労省のリーフレットによると、2022年4月1日から、中小企業も義務化の対象になりました。
職場のパワーハラスメントとは、3つの要件を満たすものだと厚労省が定義づけています。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- 労働者の就業環境が害されるもの
ただし、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
優越的な関係を背景とした言動とは
優越的な関係を背景とした言動とは、業務を遂行する上で、言動を受ける労働者が抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは
社会通念に照らし、言動が明らかに業務上必要性ない、またはその態様が相当でないものを指します。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 行為の回数、行為者の数などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
就業環境が害されるとは
言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
職場のパワーハラスメントに当たりうる行為の6類型
厚労省は、職場のパワーハラスメントに当たりうる行為として6つの行動類型を示しています。
- 身体的な攻撃…殴打、足蹴りを行う。相手に物を投げつける。
- 精神的な攻撃…人格を否定するような言動を行う。必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。他の労働者の前で、大声で威圧的な叱責を繰り返し行う。
- 人間関係からの切り離し…特定の労働者を仕事から外し、長時間別室に隔離する。1人の労働者に対し、同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。
- 過大な要求…新入社員に必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し、厳しく叱責する。業務とは関係のない私用な雑用の処理を強制的に行わせる。
- 過小な要求…管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。気に入らない労働者に対する嫌がらせのために仕事を与えない。
- 個の侵害…労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。労働者の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する。
セクシュアルハラスメントとは
職場のセクシュアルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることをいいます。
性的な言動とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(うわさ)を流すこと、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示することなどを含みます。
男女雇用機会均等法で、職場におけるセクシュアルハラスメントについて、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。さらに、2019年の法改正により、セクシュアルハラスメント防止対策について、事業主に相談したことなどを理由とする不利益取扱いの禁止や自社の労働者が他社の労働者にセクシュアルハラスメントを行った場合の協力対応が加わりました。
セクハラは、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客なども行為者になり得ます。男性も女性も、行為者にも被害者にもなり得ます。同性に対する性的な言動もセクシュアルハラスメントになります。
厚労省は「日頃から自らの言動に注意するとともに、上司・管理職の立場の方は、部下の言動にも気を配り、セクシュアルハラスメントの背景となり得る言動についても配慮することが大切です」と指摘しています。
マタニティハラスメント(マタハラ)とは
マタハラとは、職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの一つです。職場での上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業・介護休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されることをいいます。職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントは、パタニティハラスメント(パタハラ)と言われることもあります。
妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度を利用したこと等を理由として、事業主が行う解雇、減給、降格、不利益な配置転換、契約を更新しない(契約社員の場合)といった行為は「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」となります。
たとえば、妊娠したことを伝えたら契約が更新されなかった、育児休業を取得したら降格させられた、等が不利益取扱いに該当し、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。
職場のハラスメントに関する実態調査 6割の企業で「パワハラ」
厚労省が2023年12月~2024年1月に実施した職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去3年間に約6割の企業でパワハラの相談があり、約4割の企業でセクハラの相談があったといいます。このほか、顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)についても、約2割の企業で相談があったといいます。
相談件数の増減に着目すると、セクハラ以外では「件数は変わらない」の割合が最も高く、セクハラのみ「減少している」が最も高かったといいます。顧客等からの著しい迷惑行為のみ「件数が増加している」の割合の方が「件数は減少している」より高い傾向にありました。
職場で注意したいハラスメントの種類一覧
そのほか、職場で注意したいハラスメントは以下の通りです。
- カスタマーハラスメント(カスハラ)…顧客からのクレームの内容の妥当性が社会通念上、不相当なもので、労働者の就業環境が害されるもの
- ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)…性別の固定観念・役割分担意識で起こる差別や嫌がらせ
- レイシャルハラスメント(レイハラ)…人種や国籍を理由とした差別や嫌がらせ
- アルコールハラスメント(アルハラ)…社会的地位の強い者が弱い立場の人にアルコールを強要する
- リストラハラスメント(リスハラ)…不当な扱いによって従業員を自主退職に追い込む
- 時短ハラスメント(ジタハラ)…業務量が変わらず仕事が終わっていないのに労働時間の短縮を求める
明確にハラスメントとして法律で禁じられていない場合でも、行為やその内容によって暴行罪・脅迫罪・侮辱罪などの刑事上の責任や、民事上の損害賠償責任を問われる場合もあるので注意しましょう。
とくにカスタマーハラスメントについては、労働者がパワハラの次に経験する割合が高いという調査結果もあるため、厚労省の特設サイトで、企業対策マニュアルが配布されています。
ハラスメントを防ぐには
ハラスメントは、管理職が自分でそう思っていなくても業務の適正な範囲を超えている場合もあります。言い方ひとつで受け手の印象が変わる場合もあります。
どこまでがハラスメントに該当するのかが分からず、モヤモヤを抱えたままでは、業務に支障が出る場合もあります。厚労省の特設サイトに管理職向けの研修用教材も出ています。日々の業務中でのふるまいを見直すきっかけを作りましょう。