2030年問題とは?企業に与える影響や対策、取り組み事例を解説
2030年問題とは、少子高齢化の進行によって2030年に表面化する問題の総称です。人口構造の変化や労働力人口の減少により深刻な影響を受ける業界も多く、今から十分な対策をすることが必要です。この記事では2030年問題の影響やその対策について社労士が紹介します。
2030年問題とは、少子高齢化の進行によって2030年に表面化する問題の総称です。人口構造の変化や労働力人口の減少により深刻な影響を受ける業界も多く、今から十分な対策をすることが必要です。この記事では2030年問題の影響やその対策について社労士が紹介します。
目次
ここでは2030年問題について、およびそれが与える社会的な影響について説明します。
2030年問題とは、2030年に表面化されると考えられている問題の総称です。少子高齢化によって労働力人口が減少し、社会インフラの維持費用や社会保障関連の支出増大が見込まれています。労働力人口とは、15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口のことです。
令和2年版高齢社会白書によると、2036年には国内人口の3人に1人が65歳以上となると推計されています(参照:第1章 高齢化の状況〈第1節 1〉|内閣府)。
以下の表は、2030年問題が与える主な影響と原因です。
2030年問題が与える影響 | 主な原因 |
---|---|
経済成長率・GDPの低下 | 国内の労働力人口の減少により、生産活動に制約が発生し、経済活動が鈍化する。優秀な人材は魅力的な海外労働市場に流出する傾向になり、さらに国内市場における生産性が減少する |
コンパクトシティの増加 | インフラ維持費を圧縮するため、過疎地域を中心に生活機能を集約したコンパクトシティが増加する。また、それにより空き家が増え、過疎地域は一層過疎化が進行する |
社会保障制度の支出増加 | 少子化による労働力減少と高齢化による受給者の増加により制度維持が困難になる。また高齢化が進むことで、介護・医療関連支出が増加する |
雇用への影響 | 上記のような問題への解決策として、IoTやAIに代表されるデジタルテクノロジーが発展する。それらに代替される仕事が増加することで失業者が発生し、失業者を労働市場に再投入するための教育投資が必要となる |
2025年問題とは、2025年に顕在化する問題の総称で、2030年問題とは密接な関係にあります。
2025年は団塊の世代(1947〜1949年生まれ)と呼ばれている世代のすべてが75歳以上の後期高齢者になる時期で、国民の30.0%が65歳以上の高齢者になります(参照:高齢者の人口|総務省統計局)。そのため、産業構造に大きな変化が起こり、国内市場が縮小するなかで医療・介護業界の需要が増大するなどの変化が表れます。
2030年問題は、この2025年問題が引き起こす産業構造の変化と人口減少を引き継がなければいけません。2025年時点では65歳以上の人口割合は30.0%に達し、その後も増加傾向が続きます。一方で出生率は低下していくため、2030年には一層深刻な労働力不足になるでしょう(参照:令和4年版高齢社会白書 p.4|内閣府)。
2040年問題とは、2040年に顕在化する問題の総称です。2025年時点では労働力の担い手であった団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)全員が65歳以上の高齢者となる時期であり、高齢化率は35.3%に達します(参照:高齢者の人口|総務省統計局)。
また、人口減少の影響により、2040年には過疎地域がさらに増加します。政府推計では、2015年に14.8%であった人口5,000人未満の自治体数が2040年には24.1%になると見込まれています(参照:令和5年版厚生労働白書 p.14|厚生労働省)。
2040年問題は2030年問題の延長線上にある問題ですが、具体的な対策を講じなければ、人口減少がより一層深刻な課題になるでしょう。
ここでは、2030年問題が企業に与える影響について解説します。
労働力減少により、企業は深刻な人材不足になることが想定されます。民間調査によると、2030年には労働需要7,073万人に対し644万人が不足すると予測されています(参照:労働市場の未来推計2030|パーソル総合研究所)。
労働力が減少しているなかでも、企業は事業規模を維持し続けるために人材を確保・維持し続けなければいけません。そのため、人材獲得の競争が激しくなり、採用コストの増加が見込まれます。
国内は消費人口が減少し、市場の拡大が見込めないため、あらたな市場を求めて企業の海外進出が進みます。また、不足した人材を補うために従業員の多国籍化も同時に進行します。そのため、グローバル戦略を立案実行できる企業に資本・人材が集中し、対応できない企業は統廃合されることになります。
民間企業の調査によると、2022年度の企業倒産件数は6,799件で3年ぶりに増加に転じました。これはコロナ禍対策としておこなわれた手厚い経済支援が終了したことも関係していますが、人手不足による倒産件数も146件と増加傾向にあります(参照:全国企業倒産集計2022年度|帝国データバンク)。
このことから、人材確保ができないことが原因で販売不振・倒産という悪循環に陥っている企業が多いことが示唆されます。グローバル化の進行で、市場と人材の確保ができない企業は、さらに厳しい経営を強いられるでしょう。
消費者の購買行動の変化によって、企業の経済活動に大きな影響を与える可能性があります。
たとえば、インターネットやデジタルテクノロジーの普及、物流の変化により、消費者は実店舗に行かなくても欲しい商品を簡単に手に入れることが可能になりました。その結果、実店舗に行かずに購入したいという需要に対応するため、多くの企業がオンラインショップでの商品販売を始めています。
ほかに、医療や介護、保育、理美容といったサービスは今後も人間が対応することが多くあります。これらのサービスに対する需要増に対して、サービスを維持するには安定的に人材を確保する必要があるため、利用料をUPし、人件費をまかなう必要があります。
2030年問題について、とくに影響の大きい業界を3つご紹介します。
業界 | 概要 |
---|---|
サービス業界 | すでに応募者が少ないうえに、離職率が高い |
医療・福祉業界 | 労働力不足に加え、さらに需要が高くなる |
IT業界 | 需要に応えるための人材確保と育成が課題になる |
サービス業は人間が行う接客やサービスを商品とすることが多いため、人手不足が売り上げ減少に直結する業界です。
産業別の賃金水準で見ると、「宿泊業、飲食サービス業」の平均給与額は2,574,000円と全業種でもっとも低くなっています(参照:令和4年賃金構造基本統計調査の概況 p.10|厚生労働省)。
また、飲食業やサービス業、小売業の採用担当者に対するアンケート調査では、接客スタッフ採用担当者の78.9%が「接客スタッフの人材不足を懸念しています。懸念要因は「コロナ禍で応募者が少ない」(62.8%)に次いで、「離職が多い」(45.3%)が上げられました(参照:接客業における「コンピテンシー」診断の実態調査|ミイダス)。
この結果から、すでに人材不足が起き始めていることがわかります。そのため、賃金水準の改善などの対策をおこなわなければ、事業活動を継続するための人材が獲得できなくなる可能性が高いといえるでしょう。
医療・福祉業界もサービス業同様、人がおこなう行為自体が商品となる業界であるため、2030年問題の影響を大きく受けることになります。また、そのサービスを必要とする高齢者層の増加によって、労働力不足だけでなく、需要自体が大きく膨らむこともこの業界には大きな課題となるでしょう。
日本では高齢者の単身世帯が増加傾向にあり、2030年には全世帯の14.9%が高齢者の単身世帯となるという調査結果があります(参照:令和4年版厚生労働白書 p.81|厚生労働省)。そのため、2030年に向けて高齢者が自宅で十分な医療・福祉サービスを受けられるよう、地域ごとに医療・福祉サービスの担い手である人材の採用・定着・育成に注力する必要があります。
また、医療を支える医師も絶対数が不足しており、勤務時間が増加しているという指摘もあります。常勤医師の平均勤務時間を見ると、男性は41%、女性は28%が週60時間以上でした(参照:医師の勤務実態について p.5|厚生労働省)。医師の長時間労働を是正していくことも2030年に向けた課題です。
人手不足に対応するため、企業のDXが進みサービスもIoTが導入されるなどデジタルテクノロジーの活用がさらに進みます。そのため、こうしたサービスやインフラを支えるIT人材の不足が懸念されており、IT業界ではその需要に応えるだけの人材の確保・育成が課題になるでしょう。
政府推計では、2030年には従来型ITサービス市場とIoT/AI市場の市場規模が逆転し、最大79万人のIT人材が不足することが指摘されています(参照:IT人材育成の状況等について p.3、5|経済産業省)。
今後、社内システムの構築・保守や改修といった従来型の業務に加え、ビックデータの分析や付加価値創出のための取り組みがおこなわれるため、こうしたデータを扱える人材の需要も増加することが見込まれます。
2030年問題について、企業がどのように取り組んでいけばよいのか、事例とあわせてご紹介します。
内閣府の調査では、輸出を開始した企業は、非開始企業よりも有意に生産性が向上する傾向があるとされています。その理由は、輸出をしたことでさまざまな面で効果があり、生産性が向上した可能性が示唆されています(参照: グローバル化が進展する中での日本経済の課題|内閣府)。
また、こうした企業の経済活動の進展に伴い、グローバル化を支える人材を育成する取り組みも進んでいます。
たとえば、日立製作所では、2012年度よりグローバル人材を育成するために、さまざまな施策に取り組んでいます。
2013年度にはグローバル共通の従業員サーベイ「Hitachi Insights」、2014年にはグローバル基準でのポジション等級制の導入などの人事制度の改革を実施しました。
また研修にも力を入れ、eラーニングにてビジネススキル研修やコンプライアンス研修を展開しています。さらに在宅勤務を基本とした勤務制度を整えるなど、社員の多様な背景に配慮しています(参照:日立の事業変革とグローバル人財戦略 p.21、38|日立製作所)。
人材の確保・定着のためには、さまざまな制約や条件があっても働き続けられる職場づくりが必要です。
たとえば、短時間制社員制度を導入したり、フレックス制度のように労働時間を従業員自身が選択できたりするなど働きやすい環境が求められています。さらに、社内での人間関係やコミュニケーションが良好であること、能力や成果に応じた公平な評価・給与体系があることなどが挙げられるでしょう。
サイボウズでは、「100人100通りの働き方」を掲げています。そのなかには、個人のライフスタイルにあわせて勤務時間や場所を選べる制度や、それを一時的に変更できる制度、副業の積極的容認などさまざまな施策があります。
さらに社内コミュニケーションを活発化するため、社員同士で感謝を伝える場を用意したり、部活動や誕生日会に補助したりするなど独自の取り組みを実施しているのです。
こうした取り組みが奏功し、2005年には28%に達していた離職率が、現在は3〜5%程度にまで低下しています(参照:ワークスタイル|サイボウズ)。
企業の経済活動を支える人材不足に対応するためには、社内DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みも有効です。
政府調査では、DXに取り組んでいる企業のうち具体的に「成果が出ている」と回答した企業は32.9%、「ある程度成果が出ている」と回答した企業は49.4%ありました。また、DXに期待する効果として「業務の効率化」と回答した企業は6割を超えています(参照:中小企業のDX推進に関する調査 p.7、10|独立行政法人中小企業基盤整備機構)。
セブン&アイグループは小売店舗における発注業務をAIが提案することで効率化を図っています。また、AI機能や重量センサーを活用したカートの導入で顧客の買物時間の短縮、非接触に成功しました。
このような取り組みによって店舗スタッフが顧客対応する時間を創出し、企業価値の向上につなげています(参照:セブン&アイグループが目指すニューノーマル|セブン&アイグループ)。
2030年問題は、人口構造の変化と人材不足が引き起こす問題です。
企業にとっては避けられない事態であり、早めの対策が求められます。企業の過去や業界の常識にとらわれず、消費者や人材に選ばれる企業であり続けられるよう準備を進めていきましょう。
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