目次

  1. ケアレスミスとは
  2. 仕事でケアレスミスが発生する原因
    1. 集中力の欠如
    2. マルチタスク状態
    3. 不適切な作業環境
    4. スキル不足
  3. ケアレスミスが発生する五つのパターン
  4. 多少のケアレスミスは起きるもの
  5. 仕事でケアレスミスを減らす・被害を抑える六つの具体策
    1. 複数人でチェックする体制を整える
    2. 紙に印刷する
    3. 声に出して読み合わせる
    4. 仮眠する
    5. 重要な仕事は集中できる時間帯におこなう
    6. 仕事内容に変更があったときは必ず見える化しておく
  6. ケアレスミスは仕組みで減らそう

 ケアレスミスとは、注意不足や集中力の欠如によって生じる小さなミスのことです。例えば書類の誤字脱字、数字の入力ミスや計算ミス、顧客とのアポイント予定を間違えるなどが該当します。

 ケアレスミスは小さなミスと捉えられるかもしれませんが、そのミスが発生したことで、仕事のやり直しが発生します。例えば製造業であれば、数字の入力ミスをきっかけに、製品を作り直さないといけない事態に発展する可能性もあるでしょう。たとえ小さなミスであっても、それが積み重なることで大きな損失につながることも考えられます。

 さらに、限られた人数で多くの業務をこなしている中小企業にとっては、ミスを原因とした仕事量が増えると、ほかにやるべき仕事に手が回らなくなってしまいます。

 ケアレスミスは誰でも起こしてしまうものですが、頻繁に発生しないような仕組みをつくることが大切です。

 仕事でケアレスミスを起こしてしまう原因には、共通したパターンがあります。ケアレスミスが多いと思う人は、自分がどの特徴や原因に当てはまるかを振り返ってみましょう。

 ケアレスミスは、集中力が散漫になるときに起こりやすくなります。

 十分な睡眠が取れていないときや、長時間の労働が続いているときに、仕事になかなか集中できなかった経験がある人は多いのではないでしょうか。

 また、午前中は頭がすっきりしているけれども、昼食後はちょっとぼんやりしているといったように、一日のうちでも時間帯によって集中しやすい時間は異なります。さらに、単純な同じ作業を長時間おこない続けることで、集中力を保ちづらくなるということもあります。

 これらのように、集中力が散漫になりやすいときにケアレスミスが起こりやすくなります。 

 同時並行でさまざまな仕事をマルチタスクでおこなっている場合、焦りや急ぎ足での作業がケアレスミスを引き起こすことがあります。

 現代は連絡ツールが増え、問い合わせがメールで来たり、チャットツールで来たりします。

 例えば複数の連絡ツールから同時に違う案件で連絡がきたときに、細かい確認をしなかったことで、間違った返答を相手にしてしまったといった経験はありませんか。「パソコンで複数のウインドウを開いた状態で、Aの作業をやりながら、Bの作業もこなす」といった状態も、このマルチタスク状態にあたります。

 マルチタスク状態も、前段の集中力の欠如と同じように、一つの仕事に集中しきれていない状態といえます。

 騒がしいオフィス環境や作業スペースが十分でないなど、作業環境が効率的な作業を妨げる場合があります。

 例えば、机の上にさまざまな書類がごちゃまぜになっているなかで、重要な契約書のチェックをしようとしたときに「ほかの書類に目がうつってしまい、ケアレスミスを引き起こしてしまった」といったものが挙げられるでしょう。

 また、重要な数字の確認が求められる現場で、照明が暗くて数字が読みにくい場合も、ケアレスミスにつながる可能性があります。

 与えられたタスクを遂行するための必要なスキルや知識が不足している場合、誤った方法でタスクを進めたり、重要な情報を見落としたりすることがあります。

 これは特に、新入社員や新しい部署に異動した直後の人など、業務内容を習熟していない人に多く発生します。

 仕事の進め方が誤っている、または重要な手続きであるという認識が薄いまま仕事を進めてしまうことが、ケアレスミスの原因になります。

 ケアレスミスが発生しがちな場面にもパターンがあります。主な発生パターンを表にまとめました。

発生パターン例 内容
数字の書き間違い、読み間違い 数字を丁寧に書かなかったことで、異なる数値が相手に伝わってしまうこと。
例えば「0」が「6」にも読める、など。
文字の書き間違い、読み間違い こちらも文字を丁寧に書かなかったことで、正しい文章が伝わらないといったもの。
漢字の間違いも該当。
例えば、顧客の社名や宛先の人の漢字を間違えるなど。
単位の間違い、付け間違い kgがgになっていた、単位が抜けていた、など。
単位が間違っていることで、確認のためのやりとりが発生する。
記入ズレ、転記ズレ 例えば複数のデータを一つのデータにまとめる場合に、データの転記を間違えるといったもの。
転記ズレはメールの誤送信など、重要なインシデントにつながる可能性がある。
見直しをしない 見直しをしていれば防ぐことができたケアレスミスも、見直しをせずそのままにしたことでミスにつながる。

 上記のようなケアレスミスが発生しやすいパターンを事前に把握しておくことで、ケアレスミスが発生しないように注意力を高められるでしょう。

 ケアレスミスは誰しも起こるもので、ゼロにすることは不可能です。したがって、過度にケアレスミスを恐れる必要はないでしょう。

 しかし、ケアレスミスによって重大なインシデントに発展する可能性は避けられません。例えば、データの転記ミスで間違った内容がほかの顧客に送信されてしまうといったメールの誤送信事例は、誰でも一度は耳にしたことがある事例でしょう。

 「ケアレスミスは起こるもの」という前提のもとに「ケアレスミスが仮に発生しても、すぐ気がついて修正できるような組織の仕組み」をつくることが重要です。

 では、仕事でケアレスミスを防ぐ方法としてはどのようなものがあるのでしょうか。中小企業で取られている対策の事例を紹介します。

対策 ポイント
複数人でチェックする体制を整える 「相手もミスしているかもしれない」という前提を持つ
紙に印刷する 違う時間帯に見直す
声に出して読み合わせる 複数人で読み合わせる
仮眠する お昼休みに15〜20分程度の仮眠をとる
重要な仕事は集中できる時間帯におこなう 自分のなかで集中できる時間帯を見付ける
仕事内容に変更があったときは見える化しておく 「変更日」や「変更点」は必ずドキュメントに記載する

 筆者は会社員時代、銀行に勤務していましたが、銀行の仕事ではケアレスミスが許されません。ありとあらゆる業務で上司の確認が必要でした。したがって、自分一人だけでは気付かないミスも、人を変え、時間を変えることで多くのミスに気付き、修正することができました。

 特に重要な数値については、以下のような方法で間違いを防ぐ仕組みを整えるとよいでしょう。

  • 複数人で指差し確認
  • 声を出して確認

 注意点として、複数人でチェックする際は、ただチェックする人数を増やせばいいというわけではありません。トリプルチェックの落とし穴に陥るためです。3人以上でチェックすると、2人でチェックする場合よりもエラーの検出率が低下する危険性があります。

【トリプルチェックの落とし穴】

ダブルチェック以上にチェックしているので、問題はないと思われがちですが、責任が3人に分散してしまいます。

Aさんが一番初めにチェックするとした場合、
 Aさんは「BさんもCさんも見るので大丈夫。」
 Bさんは「Aさんがチェックして問題なければ問題ない。自分が見落としてもCさんが見てくれる。」
 Cさんは「AさんもBさんもチェックして問題ないのであれば大丈夫。」
と考えるのが普通です。

自分は見逃しても他の2人が見てくれる、とついつい甘えが出てしまうのではないでしょうか。

トリプルチェックしてもミスが出るのは、こういう構造なんです。

引用:第1部 ヒューマンエラーの仕組み〈基礎編〉p.7|農林水産省

 複数人でのチェック時は、常に「相手がミスをしてるかもしれない」という前提でお互いに書類を確認することが大切です。

 なかには「ダブルチェックをしたら仕事が遅くなるのでは」と思う人もいるかもしれません。しかし複数人で確認してミスを未然に防ぐことができれば、結果的に仕事のやり直しが発生せず、スムーズに仕事が回るようになるのです。

 パソコンの画面で見ただけでは、誤字脱字に気付かないものです。紙に印刷して違う時間に見直してみることで、ケアレスミスを発見できます。

 筆者も、記事執筆の仕事をするときは、パソコンの画面だけでなく、一度印刷して読み直しています。そうすることで誤字脱字に気付くほか、文章の流れがおかしいところにも気付きやすくなります。

 最近はタブレット端末でもペンを使って書き込めるようになったので、パソコン画面とは別のタブレット端末で見直しをするのも効率的です。

 これも筆者が銀行に勤務していたとき、ある重要な書面をつくる仕事に従事していた時期がありました。このとき作成する書面は絶対に間違えてはいけないため、部署全員で資料を声にだして、何度も読み合わせたうえで発行していました。

 パソコンの画面や紙に印刷しても気付かないミスは、声にだして読むことで発見につながるものもあります。

 ケアレスミスの原因は、睡眠不足や過度なストレス等を原因とした、集中力の欠如が一つとしてあります。

 特に昼食後は血糖値が上がって眠くなりやすいため、仮眠が効果的です。仮眠をとることで脳がスッキリして、集中力を保ったまま午後の仕事ができるでしょう。東海大学の若島恵介氏らの論文では「昼休みの仮眠は午後の仮眠同様、その後の眠気を改善し、高覚醒を維持させる」とし、15~20 分程度の短時間仮眠でも午後の眠気の改善に有効であると述べています(参照:若島恵介、辛島光彦 著『うつ伏せ姿勢による昼休みの短時間仮眠の効果について』p.41|東海大学紀要情報通信学部)。

 企業によっては、生産性の向上のために仮眠室を設けているところもあります。お昼休みの仮眠でケアレスミスを予防しましょう。

 集中力が高まる時間帯は人によって異なります。自分が集中できる時間帯はいつかを見付けてみましょう。例えば筆者は午前中が最も集中して業務に取り組めるため、午前中に難しい案件に取り組むようにしています。それによりケアレスミスも少なくできるとともに、短い時間で業務を終わらせられるなど、生産性向上にもつながっています。

 ケアレスミスが許されない仕事は、頭がスッキリして集中力が高まる時間帯におこなうことも効果的です。

 仕事の進め方はずっと一緒ではなく、よりよい方向に変更することが大切です。もしケアレスミスが発生した場合は、これまでの仕事の仕組みでヌケモレがあるということなので、仕事のやり方を変更する必要があるでしょう。

 しかし、チームで仕事をしている場合、変更点をチーム全員にしっかり周知できていないと、変更前の仕事の進め方をしてしまう可能性があります。そうすると、また同じケアレスミスが発生してしまいます。

 仕事内容に変更があった場合は、ドキュメントに以下を記録しましょう。

  • いつ変更したのか(変更日)
  • どのように変更したのか(変更内容)
  • 誰が変更したのか(変更者)

 チームメンバーが簡単に見れるようにドキュメントの保存場所も周知しておきましょう。

 前述したように、ケアレスミスは誰でも起こしてしまうもので、ゼロにはできません。

 したがって、ケアレスミスは「気合」や「根性」でどうにかするものではなく、また「気を付けるように」という意識だけで改善できるものでもありません。ケアレスミスを減らすには、ケアレスミスに気付くような仕組みを整えることが重要です。

 「ミスはするもの」「人は誰でも間違えるもの」という認識を組織で持つことで、ケアレスミスを過度に恐れず、減らす取り組みにつなげられます。