企業版ふるさと納税とは?返礼品は?メリットや注意点、手順を解説
企業版ふるさと納税はあまり広く知られていませんが、実は大きなメリットがあります。この記事では、企業版ふるさと納税の概要から、企業にはどのようなメリットがあるのか、また実行する際に考えられる手順を公認会計士・税理士が解説します。ぜひ自社での実施をご検討ください。
企業版ふるさと納税はあまり広く知られていませんが、実は大きなメリットがあります。この記事では、企業版ふるさと納税の概要から、企業にはどのようなメリットがあるのか、また実行する際に考えられる手順を公認会計士・税理士が解説します。ぜひ自社での実施をご検討ください。
目次
企業版ふるさと納税とは、企業が応援する地域に寄附金を払うことで、地域の活性化につなげるための税制です。ここでの地域とは、国が認定した地域再生計画に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクトを実施している地域を指します。
個人でおこなうふるさと納税と、企業版ふるさと納税との違いを以下の表にまとめました。
個人版ふるさと納税 | 企業版ふるさと納税 | |
---|---|---|
返礼品の有無 | 基本的には返礼品があり、地元の名産品が返礼品となっている | 返礼品は無い 経済的なメリットを受けることは禁止 |
自己負担額 | 限度額内であれば、2,000円の自己負担 | 限度額内であれば1割程度 |
1回の最低金額 | 定まっていない | 10万円以上が必要 |
対象地域 | 非常に多い | 国が指定した県・地方自治体に限られる |
支出方法 | 金銭の支出のみ | 金銭の支出だけでなく人材派遣もある |
対象者 | 個人であれば誰でも可 | 青色申告書を提出する法人のみ可 |
企業版ふるさと納税の寄附額は、直近の2022年度では341億円です。制度開始の2016年度から徐々に増加していましたが、コロナ禍にて一旦縮小しました。徐々に回復し、2022年度は過去最高を記録しています。
企業版ふるさと納税ができた経緯は、人口や産業の東京一極集中を是正するためです。
地方で生まれ育っても、大学生や社会人のタイミングで東京に出てきて、そのまま居住をしてしまうと、地方の人口減が進みます。若者が移住をしなくても済むようにするには、地方をより魅力的にする必要があり、それにはある程度の資金が必要です。企業版ふるさと納税制度は、その資金を企業に寄附してもらうようにできた制度です。
企業版ふるさと納税をすると、大きく三つのメリットがあります。
ふるさと納税の特徴は、払った寄附金のうち、一部を法人税・地方法人税の支払いとみなし、税額が控除できる点です。
各税目における税額控除額は以下の通りです。税額控除率は最大で60%になります。
税目 | 企業版ふるさと納税の税額控除額 |
---|---|
法人住民税 | 寄附金額の40%を税額控除(法人住民税税割額の20%が上限) |
法人税 | 法人住民税の控除額が40%に達しない場合、寄附金額の40%相当額から法人住民税の控除額を差し引いた金額を法人税から控除(寄附金額の10%、法人税額の5%が上限) |
法人事業税 | 寄附金額の20%を税額控除(法人事業税額の20%が上限) |
税金そのものが安くなるのは、大きなメリットです。仮に30%の税率で3,000円の税額を減らそうとすると、10,000円の損金を使わないといけません。しかし税額控除は、払った金額がそのまま税金の支払額として扱われます。
例えば、東京都の中小企業等で寄附金を支払う前の年所得額が1億100万円で企業版ふるさと納税を100万円支払った場合(簡便的に実効税率は30%とします)は以下の通りです。
【企業版ふるさと納税をしなかった場合の例】 【計算式】 |
【企業版ふるさと納税を100万円分した場合の例】 【計算式】 ※法人税住民税上限判定:1億円 × 10.5% = 1,050万円 |
上記の例の場合、企業版ふるさと納税をすることで納税額が90万円安くなります。ただし、実際に企業版ふるさと納税をおこなう場合は、例えば以下の項目を確認する必要があるため、上記はあくまでイメージです。
なお、上記の例では全額が控除できましたが、例えば東京都の中小企業者等で所得が800万円の場合、30万円の企業版ふるさと納税をすると全額控除できません。
そのため、企業版ふるさと納税は数千万円単位の年所得額がある企業がおこなうのがよいと考えられます。自社だと節税額がどの程度になるかについては、顧問税理士などに確認しておくのが賢明です。
企業版ふるさと納税で寄附した寄附金は損金として算入できる点がメリットの一つです。
【損金とは】 |
---|
損金とは法人税法上の費用に該当するものです。損金として認められない場合、会計処理では費用にしていても、法人税の所得計算では差し引けません。そのため、所得がその分多くなり、税金も増えます。 |
一般的に、企業が寄附金を損金にするには条件があります。例えば「公益社団法人や公益財団法人などに対する寄附金のうち財務大臣が指定したもの」といった条件です。
寄附金は、企業の利益操作に使われやすい点などを考慮して、基本的に認められていません。しかしながら、本来は国が負担すべき金銭を企業が支払う場合は、損金になります。企業版ふるさと納税も国の重要課題を解決するための施策であることから、損金への算入が認められています。
近年、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンスを考慮した経営・事業活動)に注目が集まっています。自社がどのようにSDGsやESGをおこない、環境に配慮した企業であるかを公表することは、企業価値を高めるために重要です。
企業版ふるさと納税を活用すると、支出した地方自治体の掲げる17項目のうちいずれかについて、自社で取り組んでいると言えるようになります。
企業版ふるさと納税にもデメリットや注意点があります。ここで紹介する点を確認したうえで、自社で企業版ふるさと納税を実施するかどうかを決めましょう。
企業版ふるさと納税は、1回あたり10万円以上の寄附が必要です。1回あたりの寄附額が10万円より少ない場合は寄附できません。数千円からできる個人版のふるさと納税と比較すると多額なので、ある程度まとまった金銭が必要となります。
企業版ふるさと納税は、本社(登記簿に登録されている会社の本拠となる住所)がある地方公共団体に対して、企業版ふるさと納税をおこなうことはできません。
企業版ふるさと納税は、返礼品のような経済的見返りを、地方公共団体から受け取ることは禁止されています。例えば、寄附活用事業により整備された施設を専属的に利用させてもらうなどです。
経済的見返りの判断指針は、内閣府官房・内閣府総合サイトに基本的な考えが記載されているのでご参照ください。
企業版ふるさと納税を実施する際には、個人でふるさと納税をする場合と比較すると、社内の調整などもあるため、いくつかのステップを踏むことが考えられます。ここでは、企業版ふるさと納税を実際におこなう場合の六つのステップを紹介します。
企業版ふるさと納税は、前述したように国が認定した地域再生計画に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して寄附をおこなうものです。日本のすべての地方公共団体が対象になるわけではありません。例えば、東京都23区は寄附先の対象となりません。
そのため、まずは対象となる地域を確認しましょう。対象となる地域は以下のサイトで確認できます。
サイト | 提供元・提供会社 |
---|---|
企業版ふるさと納税対象事業(地域別) | 内閣官房 |
そのほかでは、以下のサイトからも寄附先を探せます。
企業版ふるさと納税は上限額があります。その上限額は以下の計算式によって算出されます。
企業版ふるさと納税の上限額計算式 |
---|
①特定寄附金の額の合計額 × 40% − その特定寄附金の支出について、法人住民税から控除される一定の金額 |
②特定寄附金の額の合計額 × 10% |
上記の①または②のうち、少ない金額が上限額です。また、税額控除限度額がその事業年度の所得に対する調整前法人税額の5%相当額を超える場合は、その5%相当額が限度額になります。
計算は複雑になるので、顧問税理士などに確認することをおすすめします。
なお、上限額を大まかでいいから知りたい場合は、ふるさとコネクトやふるさとチョイスの簡易版上限金額シミュレーションの利用がおすすめです。
企業版ふるさと納税をおこなう際には、事前に社内での合意を得ます。予算は確保されているかだけでなく、企業版ふるさと納税をおこなった際に、どのように社外にPRするかも決定しておくとよいでしょう。
実際に企業版ふるさと納税を実施し、寄附金の払込みをおこないます。
法人税では寄附金の出金が完了していることが条件です。そのため、必ず寄附金を実施したい年度の決算日までに出金します。
地方公共団体では、寄附金を受けた場合、領収書を発行しますので、その領収書を適切に保管します。企業版ふるさと納税の適用を受ける要件に書類の保存があるので注意してください。
地方法人税の申告の際には、領収書の写しを添付する必要があります。
企業版ふるさと納税が完了し、領収書も入手したら、その領収書をもとに寄附金を計上する会計処理を実施します。100万円分寄附した場合の計上イメージは以下です。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
寄附金 | 1,000,000 | 現金預金 | 1,000,000 |
なお、企業版ふるさと納税の消費税は不課税になりますので、課税仕入としないように注意してください。
企業版ふるさと納税で実際に税務上のメリットを受けるためには、法人税および地方法人税において適切な税務申告が必要です。必要な別表や明細書を作成し、添付します。
必要な別表などは主に以下の通りですが、これ以外にも必要になる場合がありますので、顧問税理士に確認しましょう。
企業版ふるさと納税を実施したら、積極的に企業版ふるさと納税をした旨をホームページや企業SNSなどでアピールしましょう。こういった取り組みは積極的に発信しないと届きません。必ずしも必要なステップではありませんが、可能な限り実施した方がよいでしょう。
企業型ふるさと納税(人材派遣型)とは、企業が金銭の寄附をおこなうと同時に、自社の従業員を地方公共団体に派遣することです。この人材派遣型の場合は、支払った金銭だけでなく、人件費も寄附金として税額控除などをおこなえます。
企業版ふるさと納税(人材派遣型)をおこなう企業側のメリットとしては、人材派遣をすると金銭だけでなく企業のノウハウも提供できるようになることです。より効果的な地域貢献ができ、さらに派遣される従業員にとっても経験値が貯まることで人材の育成が図れます。
企業版ふるさと納税でよくある疑問と回答を紹介します。
企業版ふるさと納税は青色申告書を提出する法人であれば、どの企業でも実施できます。ただし、法人税・地方法人税を一定程度支払っている企業でないと税額控除が満額されません。
企業版ふるさと納税は、自社が税額控除を受けたい年度の決算月までに寄附する必要があります。また、出金が完了している必要がある点にも注意してください。
寄附対象の事業ではさまざまなものがあります。大まかな事業としては、次のものが挙げられます(参照:地方創生応援税制〈企業版ふるさと納税〉の令和4年度寄附実績について〈概要〉p.5|内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局)。
事業分野 | 2022年度寄附活用額 |
---|---|
地域のしごとづくりに関する事業 | 約192.5億円 |
まちづくりに関する事業 | 約96.9億円 |
地方への人の流れの創出に関する事業 | 約33.5億円 |
働き方改革、少子化対策等に関する事業 | 約18.2億円 |
企業版ふるさと納税を実施した企業数は2022年度で4,663社です。社数は逓増傾向にあります。
企業版ふるさと納税は、ここまで紹介したようにさまざまなメリットがあります。税務上のメリットだけでなく、企業活動のPRも可能です。
個人のふるさと納税は広く知れ渡っていますが、企業版ふるさと納税は多くのメリットがあってもまだまだ知れ渡っていないように感じます。ほかの制度と比較してもメリットは多い制度ですのでぜひ活用してください。税制メリットだけでなく、そのほかの自社のPRにも活用してもらえればと思います。
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