退職勧奨とは?解雇との違いや進め方、場面ごとの言い方について解説
退職勧奨(読み方:たいしょくかんしょう)は、企業が従業員に対して退職を促す説得のことをいいます。解雇とは異なり、合意の退職となるため労働紛争のリスク回避も期待できますが、言い方を間違えると違法な退職勧奨と判断されることもあります。この記事では、解雇との違いや進め方、言い方などを社会保険労務士が解説します。
退職勧奨(読み方:たいしょくかんしょう)は、企業が従業員に対して退職を促す説得のことをいいます。解雇とは異なり、合意の退職となるため労働紛争のリスク回避も期待できますが、言い方を間違えると違法な退職勧奨と判断されることもあります。この記事では、解雇との違いや進め方、言い方などを社会保険労務士が解説します。
目次
退職勧奨とは、企業が従業員(労働者)に対して退職を働きかけるための説得のことです。従業員が退職勧奨に応じるか否かは本人の自由な意思にもとづき、任意となります。退職勧告(たいしょくかんこく)と言われることもあります。
退職勧奨をおこなう目的は、企業と従業員が合意のうえで退職させることにあります。
企業には人事権があるので人事権を行使して解雇することも可能です。しかし解雇の場合は、企業側の一方的な雇用契約終了であるため、不当な解雇だとトラブルに発展することが多々あります。
一方で退職勧奨の場合は、合意のうえで従業員が自ら退職届を提出して退職するので、解雇によるトラブルのリスク回避になります。
退職勧奨がおこなわれる理由としては、以下のケースが考えられるでしょう。
退職勧奨について、企業はリスク回避というメリットがある一方で、従業員にとっても退職(離職)が「会社都合退職になる」「特定受給資格者になる」というメリットがあります(参照:雇用保険法第23条第2項|e-Gov法令検索、雇用保険法施行規則第36条の9|e-Gov法令検索)。
特定受給資格者は、雇用保険の求職者給付(いわゆる失業手当)の給付日数が最大で330日となります。定年や自己都合の退職では最大で150日であることと比較すると大きなメリットです。
退職勧奨と解雇の違いについて再度確認しましょう。退職とは、企業と従業員との間で交わした「雇用契約を終了」することです。退職勧奨と解雇では、雇用契約の終了が一方的な意思によるものだったか合意だったかという点で違いがあります。
退職勧奨 | 企業側と従業員が合意のうえ雇用契約を終了する |
解雇 | 企業側の一方的な意思により雇用契約を終了する |
解雇は企業が一方的な意思で従業員を退職させるため、解雇に納得がいかず、不当な解雇であったと労働紛争に発展することがあります。
一方で退職勧奨では、企業は退職を働きかけることに留まり、退職するかどうかは従業員が任意で決められます。退職に応じなかったとしても従業員にペナルティを与えることはできません。
つまり、退職勧奨は「強制力はないが労働紛争のリスク回避」が期待できます。退職勧奨と解雇を比較したのが下記の表です。
強制力 | 労働紛争のリスク | 退職後の取り扱い | |
---|---|---|---|
退職勧奨 | なし | 低い | 会社都合退職/特定受給資格者 |
解雇 | あり | 高い | 会社都合退職/特定受給資格者 |
従業員にとっては、退職勧奨・解雇どちらの退職でも「会社都合退職になる」「特定受給資格者になる」という点は変わりません。もし退職がのぞましい従業員がいた場合は、退職勧奨から検討したほうがよいでしょう。
退職勧奨は従業員の合意が得られなければ成立しません。速やかに退職勧奨を成立させるには、適切な手順で進めることが大切です。ここでは退職勧奨の進め方を4ステップで紹介します。
退職勧奨をおこなう理由は、大きく「①経営上の理由によるもの」「②従業員個人の理由によるもの」の二つに分けられます。
「①経営上の理由によるもの」である場合は、退職勧奨をおこなう範囲や目標とする人数を決める必要があります。
「②従業員個人の理由によるもの」の場合は、人事担当者のみで対象者を決定するのではなく、直属の上司や関連する部署の管理職層とも話し合い、共有しておきます。
また、どちらの場合でも、退職勧奨に応じた際の退職条件をどうするかも検討しておきましょう。この退職条件には優遇措置を含み、具体的には以下が挙げられます。
あらかじめ検討しておくとよい措置 | 補足 |
---|---|
上乗せ退職金の有無とその金額いくらにするか | 上乗せ退職金は任意だが、勧奨をスムーズに進めるために設定されることが多い。上乗せ金額は、賃金の半年分程度が25.7%で最多(参照:従業員の採用と退職に関する実態調査 p.44|独立行政法人労働政策研究・研修機構)。 |
退職日をいつにするか | 業務の引継ぎや有給休暇の残日数を考慮したうえで暫定の退職日を設け、遅くともその1カ月前には勧奨を始めることが好ましい。 |
未消化分の有給休暇の買取を認めるかどうか | 有給の買取は原則禁止されているが、退職日までに消化できない有給休暇がある場合は例外的に買い取ることが可能。買い取る場合は通常の有給と同じように計算する。 |
これらを先に検討しておくことで、後の勧奨をスムーズに進められます。
対象者に「なぜ退職勧奨をおこなう必要があるのか」を説明するため、理由を整理します。経営上の理由による場合には、次の事項に注意してまとめるとよいでしょう。
従業員個人の理由によるものである場合には、退職勧奨までに至った指導履歴や問題となった従業員の行為があれば、その行為の記録などをまとめておきましょう。
対象者と話し合い、理由を説明したうえで退職勧奨をおこないます。話し合う場面では次の点に注意しましょう。
話し合いの場が長時間であったり大人数であったりすると、対象者側が「圧迫されている」「強制されている」と感じてしまうおそれがあります。
また、話し合いのなかで対象者が拒否の意思を示したら、その時点で一旦打ち切るようにしましょう。再度話し合う場合は退職条件を変更したり期間をあけたりして、短期間のうちに勧奨を繰り返さないようにします。
通常、解雇の予告は「少なくとも30日前におこなうこと」とされています(参照:労働基準法 第20条|e-Gov法令検索)。そのため、回答期限は退職勧奨の場合でも約1カ月を目安に設定しておくとよいでしょう。
対象者が退職勧奨に応じたら、退職届を提出してもらいます。また、退職勧奨では退職条件が通常の退職と異なることが多く、その内容について「合意書」を作成しておくことが重要です。合意書の例は後ほど紹介しますが、下記事項について記載します。
合意書は重要な書類となるので、2通作成のうえ対象者と1通ずつ保管します。
退職勧奨は労働紛争のリスクが低いと先述しましたが、それでも違法となる退職勧奨のケースがあります。それは従業員が自由な意思で退職を決定したとみなされず、「実際には強制的であった」場合や「従業員の感情を不当に害した」場合です。
違法な退職勧奨とならないよう、事前に次の注意点について確認しておきましょう。
退職勧奨では、実際に退職に応じるか否かは従業員の任意となります。企業が強制することは違法な退職勧奨です。退職勧奨が違法行為と判断されると、企業側の従業員に対する損害賠償責任が生じるおそれがあります。
退職勧奨を進めるうえで、従業員と面談する機会が必ずあります。この面談が勧奨となりますが、面談を短期間のうちに複数回おこなったり、大人数で取り調べのようにおこなうと、従業員は心理的な圧力から「強制された」と感じてしまう可能性が高くなります。
退職勧奨を拒否されたとしても、報復行為のような人事異動はしてはいけません。退職勧奨後に、不当な動機ではなく業務上どうしても必要な人事異動の可能性がある場合は、勧奨の話し合いのときに伝えておいた方がよいでしょう。
退職勧奨を進めるうえで、対象者に行き過ぎた言動をおこなうと違法な退職勧奨となる場合があります。ここでは「能力不足の従業員に対しての退職勧奨」を仮定して場面別に言い方を紹介します。
OK例 | NG例 |
---|---|
・個別に「会社から〇〇さんに話があるので(日時)に(場所)へ来てください」と伝える | ・ほかの大勢の従業員がいる前で「能力不足のため退職勧奨をおこないます。(日時)に(場所)へ来てください」と伝える |
NG例のように、ほかの従業員の前で「能力不足」と評することは対象者の名誉を害する可能性があるのでおこなわないようにしましょう。
OK例 | NG例 |
---|---|
・整理した理由をもとに「〇〇といった問題が生じて、会社としては〇〇の指導をおこないましたが、〇〇の問題が起きてしまいました」と、会社がおこなった対処まで説明する | ・「〇〇の問題を起こした、〇〇さんが改善しないから〇〇の問題も起きた」と、対象者を責め立てる |
一方的に責め立てるのではなく、会社がおこなった対処も併せて説明することで、反論を防いだり納得感を高めることが期待できます。
OK例 | NG例 |
---|---|
・「会社としては退職してほしいと考えていますが、〇〇さんが判断してください」と、あくまで退職は任意であることを伝える ・「退職に応じなかった場合は、業務や人員の都合により〇〇や〇〇に異動する可能性があります」と、応じなかったあとの可能性を伝える |
・「退職しないと席はありません」と圧迫する ・「退職に応じなければ〇〇に異動させます」と強制する |
圧迫的・強制的にならないよう注意が必要です。また、退職勧奨後に人事異動の可能性があるときは報復人事ととられないようにあらかじめ異動の可能性を伝えておきましょう。
最後に、退職勧奨で必要な書類のイメージを確認しましょう。退職勧奨では退職条件を別に設定することが多いため、その条件に合意した証明として「合意書」を作成することが一般的です。
「一身上の都合により」や「承諾をいただきたくお願いいたします」といった文言は退職勧奨時には不適切ですので注意しましょう。
また、表題の「退職届」は一方的な意思表示と思われがちですが、実際は区別されておらず「退職届」「退職願」どちらでも問題ありません。
合意書には退職条件について記載しましょう。
合意書の目的は「解雇ではなく合意による退職であり、お互いに一切の債権債務が無い」ことを示すことです。上記イメージ項目のほかにも不安な事項があれば、専門家である社会保険労務士や弁護士に相談のうえ作成するのがよいでしょう。
退職勧奨は、一方的に雇用契約を終了させる解雇と異なり、あくまで合意の退職を促す行為のことをいいます。
退職勧奨が適切におこなわれれば、企業にとっては労働紛争リスクを下げるメリット、従業員にとっては失業手当を長く受給できるというメリットがあります。
ただし、退職が強制的であったり対象者の名誉が害されたりすると、企業は損害賠償責任が生じるおそれがあります。
面談をおこなう前に方針や退職条件のほか、理由についてよく整理しておき、誠実に対象者と向き合い勧奨をおこなうようにしましょう。
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