リジェネラティブとは?サステナブルとの違いやビジネス事例を解説
昨今、リジェネラティブに取り組む企業が増えています。SDGs(持続可能な開発目標)に配慮した経営が大勢となっている今、リジェネラティブは「サステナブル」に続いて注目されているホットワードです。この記事では、リジェネラティブの概要やサステナブルとの違い、メリットや課題について解説します。
昨今、リジェネラティブに取り組む企業が増えています。SDGs(持続可能な開発目標)に配慮した経営が大勢となっている今、リジェネラティブは「サステナブル」に続いて注目されているホットワードです。この記事では、リジェネラティブの概要やサステナブルとの違い、メリットや課題について解説します。
目次
リジェネラティブ(regenerative)は日本語で「再生させる」という意味の言葉で、ビジネスシーンでは「場所やシステムを改善すること」「事業をより活発にしたり成功させたりすること」「人をより幸福で前向きな気分にさせること」といった意味を持ちます。
この用語はさまざまな業界で使用され始めていますが、必ずしも統一的な理解はされていないので、よくわからないという人も多いようです。
気候変動や生物多様性の喪失など、私たちを取り巻く地球環境問題は日ごとに深刻さを増しています。問題解決のためには、これまでおこなわれてきた一般的な生産活動・消費活動を見つめ直す必要があります。
リジェネラティブには、これまでのシステムや在り方を見直し、より良くしていく意味合いが込められているといえるでしょう。
地球環境問題を語るときにまず思い浮かぶ言葉は「サステナブル(sustainable)」ではないでしょうか。国連が定めた持続可能な開発目標も、英語では「Sustainable Development Goals」と表記され、頭文字をとってSDGsと表現されます。
サステナブルは「持続可能性」と訳され、「持続できる」「維持できる」という意味を含みます。サステナブルの考え方は、気候変動や生物多様性の喪失などの課題と向き合いつつ、かけがえのない地球を未来世代に持続させようという姿勢につながっています。
リジェネラティブはそこからさらに一歩進めて、従来の仕組みやシステムを改善し、人々がより幸福になるものへと改めていく態度が込められています。根本においてはサステナブルの考え方と同じですが、よりポジティブな意味が強くなっています。
リジェネラティブなビジネスが活発になっている分野として「農業」「漁業・水産業」「建築」が挙げられます。これら三つの分野について詳しく紹介します。
リジェネラティブ・ビジネスの筆頭格になるのが農業です。
現在、農業問題は世界規模で解決すべき重要なテーマになっています。止まらぬ地球温暖化や異常気象、干ばつ・水害などの定期的な襲来によって、農業は深刻なダメージを受けています。
日本に注目すると、生産者の減少・高齢化や農村の衰退、食料安全保障の懸念などが大きな課題とされています。
このような問題意識は政府も共有しています。農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定し、これを実現するための法律「みどりの食料システム法」を2022年7月1日に施行しました(参照:みどりの食料システム戦略トップページ|農林水産省)。同戦略では「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」としています。
こうした課題を解決する農業としてリジェネラティブ農業が注目されており、主に以下があります。
リジェネラティブ農業の例 | 概要 |
---|---|
化学肥料の低減化 | 化学肥料を植物性・動物性の有機物を原料にした有機肥料に置き換える |
不耕起栽培 | 畑や田んぼを耕さずにそのまま種を蒔いて栽培する |
再生可能エネルギーの活用 | 豊富な再生可能エネルギー資源の活用と農業への応用 |
リジェネラティブ農業の特徴の一つとして、化学的に合成された肥料の低減化が挙げられます。また、農薬・除草剤使用の低減化も図られます。
アンモニアを原料とする化学肥料の利用は、農作物の収穫量を飛躍的に増加させてきた歴史があります。一方で、収穫量増加のための過剰な施肥は、土壌や地下水への窒素負荷量を増加させ、環境を汚染することが近年問題になっています。
この化学肥料を、植物性・動物性の有機物を原料にした有機肥料に置き換え、土壌を育てる有機農業がリジェネラティブ農業の一つとして採用されています。
なお、日本における有機農業は「有機農業の推進に関する法律」によって以下のように定義されています。
1. 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
引用:【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~|農林水産省
2. 遺伝子組換え技術を利用しない
3. 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
また、こうした化学肥料の低減を図るリジェネラティブ農業をさらに発展させた考え方として、リジェネラティブ・オーガニックがあります。リジェネラティブ・オーガニックとは、これまでのオーガニック=有機農業をさらに進化させたもので、土壌の修復・動物福祉の尊重・農業従事者の生活向上を目指す農業形態です。
不耕起栽培とは、畑や田んぼを耕さずにそのまま種を蒔いて栽培する農法です。
耕起しないためその労力を節約でき、トラクターから排出される二酸化炭素も削減できます。また、表土の地耐力が上がるとともに、土壌への炭素固定化の効果が向上するともいわれています。
ただし、不耕起栽培は雑草の繁茂への対処が必須となります。また、水はけの悪い土地だと湿害をもたらし、収穫量の低下を招きます。病害虫の発生への対処も求められます。不耕起栽培は、土地と作物の向き・不向きが分かれる農法といえるでしょう。
農村には再生可能エネルギー資源が豊富に存在しており、バイオマス熱利用・小水力発電・太陽光発電などが農業への活用として考えられます。農地の上にソーラーパネルなどの太陽光発電設備を設置し、農業と太陽光発電を同時におこなう「ソーラーシェアリング」というシステムもあります。
最近では、再生可能エネルギーで発電された電気を売電するだけでなく、農業に使うことが意識されています。AI・ロボット・ドローンなどを活用した「スマート農業」では、電力の需要が高まっています。熱源を化石燃料から再生可能エネルギーに切り替えることによって、二酸化炭素の削減が実現できます。
漁業・水産業では、主に養殖においてリジェネラティブなビジネスが活発化しています。
漁業・水産業の産業基盤は、海洋資源に依存します。もともと海洋環境の保護や海洋生物多様性の保全は求められていたものの、近代以降の「取り尽くす」漁が拡大することによって海洋資源が著しく減少することとなりました。
日本でも、一定の魚種を集中して取り尽くし、それがいなくなると次の漁場に移動してまた取り尽すという漁法が長らく続けられてきました。
加えて気候変動にともなう海水温の上昇も影響し、特定の魚種の深刻な不漁が伝えられています。こうした反省から、海洋生物多様性を意識した環境再生型の養殖業に取り組む人々が増えてきています。
例えば岩手県の「北三陸ファクトリー」は、磯焼けによってウニの実入りが悪くなる状況を改善するため、ウニ殻と天然ゴムと混ぜた堆肥ブロック海中に投入して、海藻の種を植え付け海藻を再生する取り組みを始めています。豊かなほ場を再生することで、高品質な食味・実入りを実現したウニ再生養殖を目指しています(参照:北三陸ファクトリー)。
建築業界では「リジェネラティブ・デザイン」という考え方を軸に、リジェネラティブな問題意識を持った動きが起こっています。
人間による街づくりはどうしても自然を改変する行為といえます。リジェネラティブ・デザインとは、そのなかでも人間を自然の一部としてとらえ、生態系システムで相互に作用するものとして共存を図る考え方です。人間以外の動植物もが主体となる協働関係の構築が重視されています。
そこでは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を合わせてゼロにすることを目指す)、トリプル・ゼロ(エネルギー・水・廃棄物の三つを正味ゼロにすることを目指す)、ネット・ポジティブ・インパクト(建築前よりも良い状態を目指す)などがキーワードとなっています。
ここでは、企業がリジェネラティブなビジネスに取り組むことのメリットを三つ紹介します。
リジェネラティブな事業を企業活動にすることによって、具体的な環境貢献にコミットできます。企業活動が温室効果ガスの削減に役立ったり、生物多様性の保全につながったりすることを実感できるでしょう。従業員のやりがいにもつながります。
中小企業の活躍の場は地域です。リジェネラティブなビジネスに取り組むことで、地域おこしにつながったり、地域における新たな役割を見出したりすることが期待できます。
リジェネラティブな経営姿勢を示すことで、環境問題への関心が高く、課題解決のできる優秀な人材の獲得につながります。中小企業の永遠の悩みである人材の確保という側面において、リジェネラティブなビジネスへの取り組みは大きな優位性を持つと考えられます。
一方で、企業がリジェネラティブなビジネスに取り組むには課題も存在します。
取り組む事業の何をもってリジェネラティブとするかは、冷静な議論が必要になります。イメージや雰囲気で「これはリジェネラティブ、あれはリジェネラティブでなはい」と決めつけるのは、正しい態度とはいえません。リジェネラティブか否かの判定には、科学的・定量的な分析が求められます。
リジェネラティブ・ビジネスに取り組むことによって、短期的なスパンで増収・増益となることは考えにくいといえます。例えばリジェネラティブ農業は、化学肥料・農薬・除草剤の使用を減らすため、人的コストがかかり、収穫量の増加も期待できないことがあります。リジェネラティブ・ビジネスへの取り組みは、長期的な企業戦略にのっとっておこなわれるべきでしょう。
リジェネラティブ・ビジネスに取り組んでいる代表的な企業とその事例を二つ紹介します。
リジェネラティブ農業の先駆者的存在ともいえるのが「パタゴニア」です。リジェネラティブ農業にいち早く着目した同社は、2017年に「リジェネラティブ・オーガニック認証プログラム(R)」制定を支援しています(参照:リジェネラティブ・オーガニックとは|patagonia)。
この認証は有機農業の認証の一つですが、土壌の管理だけでなく、動物福祉や農家と農業労働者に対する公平性までも含む包括的で厳格な農業認証となっています。それだけにこの認証の信頼性は高く、強いブランド力を有しています。
さらに同社は、日本で初めてとなるリジェネラティブ・オーガニック推進をテーマにしたカンファレンスを2023年4月に開催するなど、リジェネラティブの取り組みに注力しています(参照:リジェネラティブ・オーガニック カンファレンス 2023|patagonia)
日本でもリジェネラティブ農業は広がりを見せています。北海道日高町に拠点を置く「ユートピアアグリカルチャー」は、北海道大学と連携しながら、酪農が抱える諸問題を解決する道を目指し、放牧を通じて土壌の二酸化炭素吸収と隔離量を増やす事業と実証実験を進めています(参照:ユートピアアグリカルチャーの目指すリジェネレイティブな酪農の現在地点|Utopia Agriculture)。
自社牧場の美味しい牛乳と卵を原材料としたチーズケーキ「チーズワンダー」は、完売続出で入手困難な人気商品となっています。
先述しましたが、リジェネラティブの定義は必ずしも定まっているものではありません。そこには定性的な評価がどうしても入ってこざるをえず、「立場」というものも生じてしまいます。
枝葉の部分で議論することはあまり生産的なことではありません。リジェネラティブの核心的なポイントは「より良きもの」を求める姿勢ではないでしょうか。
より良き環境を求め、より良き経営を歩む。日々更新される情報をアップデートしながらも、この姿勢を維持し続けることが最も重要なのです。
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