目次

  1. マイクロマネジメントとは
    1. マイクロマネジメントの具体例
    2. マイクロマネジメント型上司の特徴
    3. マイクロマネジメントとマクロマネジメントの違い
  2. マイクロマネジメントが注目されている理由 
  3. マイクロマネジメントが起こる原因
    1. 上司自身の問題
    2. 組織特有の文化
    3. 働く環境の変化
  4. マイクロマネジメントによる悪影響
    1. 部下への悪影響
    2. 上司への悪影響
    3. 組織全体への悪影響
  5. マイクロマネジメントに陥らないための対策法
    1. 進捗確認・報告のタイミングを決める
    2. 上司・管理職の役割を再認識する
    3. 部下への一方的な思い込みをなくす
    4. オープンクエスチョンを取り入れる
    5. 部下に権限を委譲する
  6. マイクロマネジメントを見直し、人が育つ組織へ

 マイクロマネジメントとは、上司が部下の業務に対して過度に介入し、細部にわたって指示を出すマネジメントスタイルを指します。部下を細かく管理しすぎる「過干渉」を意味し、一般的にはネガティブなイメージで用いられる言葉です。

 部下の性格や状況によってはマイクロマネジメントが有効なケースもありますが、上司が口出しをし続けることで、部下のモチベーションが低下したり、自主性や創造性が育たなかったりする負の側面が強いため、注意が必要です。

 マイクロマネジメントの例として、日常的な業務監視や意思決定の独占などが挙げられます。具体的な行動を、以下で詳しく紹介します。

日常的な監視業務
頻繁な進捗確認 例:メールやチャットは10分以内に返信する等のルールを強要
細かな作業手順の指示 例:メールの書き方や電話の掛け方まで詳細に指示
意思決定の独占
些細な決定も上司の承認が必要 例:定例会議の発言内容について事前承認を要求
部下のアイデアや提案を無視 例:部下に権限を与えず上司がプロジェクトを推進
過剰な情報要求
必要以上に詳細な報告書の要求 例:活用する可能性が殆どない情報の記載も義務化
会議への不必要な同席 例:マネジメントと誤解して部下の出席する全会議に同席
コミュニケーションの過剰管理
社内外とのやり取りに常に上司が介入 例:商談や会議での小さなミスを執拗に追及
部下の行動内容を常に把握 例:メールのCCに必ず上司を入れることを要求

 マイクロマネジメントを行いやすい上司は、部下に対する態度や言動が横柄だったり、自分が正しいと自信を持っていたりします。また、マネジメント手法を知らない人が多いのも特徴です。

①部下に対する態度や言動が横柄

 部下を自分の指示に従わせるために、高圧的な態度や言動で部下と接することで恐怖を煽ったり、自分の権力や立場の強さをアピールしたりする上司は少なくありません。その結果、人前で叱りつけたり、部下の人格を否定したりするパワハラ行為に至るケースもあります。

②自分が正しいと自信を持っている

 実際に成果をあげてきた上司に多い特徴です。自分のやり方が正しいと絶対的な自信を持っているため、部下の考えを尊重しない傾向があります。また、自分が間違っていても決して認めず、謝ることもしません。さらに、部下の成果や努力を褒める割合も少なく、逆にミスを犯した際には必要以上に叱責したり責任を追求したりしがちです。

③マネジメント手法を知らない

 マネジメントでは、部下のモチベーションを向上させて成長を促したり、チームビルディングに努めたりすることが求められます。しかし、正しいマネジメント手法を知らない上司は、自分は熱意を持って部下の教育をしていると勘違いして、最も簡単に部下を管理できるマイクロマネジメントの手法をとる場合があります。

 マイクロマネジメントの対極にあるのが「マクロマネジメント」です。マクロマネジメントとは、細かく指示を出さず部下の主体性を尊重する管理スタイルのことです。マクロマネジメントでは、組織の方向性・ゴールは示しますが、仕事のやり方は部下に任せます。

 例えば、生命保険の営業職で「月間での新規契約20件」という目標があるとします。最終的に20件の契約を獲得できれば良いため、上司は「手段」に干渉しません。新規顧客獲得へ向けて個人宅への訪問を増やしたり、既存顧客の契約確認時に保障追加や保険見直しで追加契約を目指したりと、部下は目標に向けて自由に行動します。

 マクロマネジメントには「部下の自立性が高まる」「チーム力が高まる」「新しい発想が生まれやすくなる」「内発的なモチベーションが強化される」「部下のエンゲージメントが向上する」といったメリットがあります。

 マイクロマネジメントは、現代の職場環境で重要なトピックとなっています。その理由に「働き方の多様化」と「世代間のコミュニケーションギャップ」により、従来の管理手法が通用しなくなってきている点が挙げられます。

 従来型の管理手法として、MBO(Management by Objectives)と呼ばれる目標管理制度が多く使用されていました。しかし、リモートワークやフレックスタイムの普及により、上司と部下との直接対話の機会が少なくなり、適切な評価が難しくなってきています。

 また、自立性や創造性を重視する若手を中心とした部下と、与えられた業務を必死にこなしてきた年配の上司との価値観の違いから、評価に向けた対話が成り立たないケースも増えています。

 その結果、知らないうちに細かい指示を出して部下の行動をコントロールするマイクロマネジメントに偏る傾向が増加しているのです。しかし、マイクロマネジメントは管理者の従業員への過干渉と過剰な管理による管理方法であり、職場のハラスメントの一つとみなされる可能性があります。

 マイクロマネジメントが起こる原因には、「上司自身の問題」「組織特有の文化」「働く環境の変化」があります。

 上司自身の問題には、自己顕示欲の強さとコミュニケーション能力の不足があります。自己顕示欲が強いと、部下に尊敬されたいがために足りない部分や不備を細かく指摘することが多くなりがちです。また、コミュニケーション能力の不足から、部下との信頼関係が築けず、仕事を任せることのできない状況に陥りやすくなります。

 組織が過度な報告体制や上意下達の文化を持っている場合、上司・部下がそのような状況に適応し、マイクロマネジメントが生まれやすくなります。また、成果主義のように結果重視の評価システムが採用されている企業では、短期的な評価を求めるために上司がマイクロマネジメントを取り入れがちになります。

 リモートワークの増加や働き方改革の推進、人材の多様化といった働く環境の変化もマイクロマネジメントを引き起こす原因です。

 リモートワークの増加により、以前よりも上司と部下が直接顔を合わせる機会が減少しています。また、人材の多様化にともない仕事の価値観も多様化しています。コミュニケーションの必要性が増している状況です。

 さらに、働き方改革の推進により、生産性の向上が求められているのもマイクロマネジメントを助長しています。残業時間は削減したものの、業務量自体は変わりません。

 お互いを理解しあうためのコミュニケーションの必要性が増している一方で、コミュニケーションにかける時間が限られているのです。

 マイクロマネジメントは、部下だけでなくそれを行う上司、ひいては組織全体にも悪影響を及ぼします。

 マイクロマネジメントは、部下に対して「モチベーションの低下」「成長機会の損失」「主体性の喪失」「メンタルヘルスの悪化」といった悪影響を及ぼす恐れがあります。

マイクロマネジメントが及ぼす部下への悪影響
①モチベーションの低下 上司から過度に干渉・管理されている環境では、部下の長所を打ち消し、やる気を削いでしまいます
②成長機会の損失 部下が自分で考え、判断して業務を進める割合が低下し、成長する機会が失われます
③主体性の喪失 積極的に動いても何か指摘される、そして上司の指示に従わないと怒られる環境下では、主体性が育まれません
④メンタルヘルスの悪化 常に上司から監視されている、そして褒めることなくミスを追求されるといった環境は、部下の心身の健康に悪影響を及ぼします

 マイクロマネジメントは上司に対しても「過度の労働時間」「本来の管理業務の停滞」といった悪影響を及ぼす可能性があります。

マイクロマネジメントが及ぼす上司への悪影響
①過度の労働時間 部下の業務に細かく介入するため、自分自身の業務が圧迫され、過労状態に陥りやすくなります。過度なストレスと時間管理の不備により、上司の健康やパフォーマンスに悪影響が出ます。これにより、上司自身が疲弊し、組織全体のマネジメント力が低下するという悪循環が生まれます
②本来の管理職業務の停滞 仕事を部下に任せられず、本来は部下に任せるべき業務も自分で行ってしまうため、「部門の戦略・方針の立案」「部下の育成」といった本来管理職としてやるべき仕事ができなくなります

 マクロマネジメントは、組織全体に対しても「生産性の低下」や「離職率の上昇」などの悪影響を及ぼすリスクのあるマネジメント手法です。

マイクロマネジメントが及ぼす組織全体への悪影響
①生産性の低下 部下が常に上司の指示を待つ状態になるため、迅速な意思決定ができなくなります。また、上司が細部にわたって介入することで、部下のモチベーションが低下し、創造的な解決策が生まれにくくなります。その結果、業務の効率が悪化し、組織全体の生産性が低下します
②離職率の上昇 ストレスの増加と仕事に対する満足度の低下により、優秀な人材がキャリアの成長機会を求めて他の企業へ転職することが増えます。また、離職率の上昇にともない新たな採用・育成コストが発生します

 マイクロマネジメントは、部下・上司・組織それぞれに悪影響を与えるため、マイクロマネジメントを防止および改善する必要があります。具体的な対策法については、以下のようなものが挙げられます。

マイクロマネジメントに陥らないための対策法
・進捗確認・報告のタイミングを決める
・上司・管理職の役割を再認識する
・部下への一方的な思い込みをなくす
・オープンクエスチョンを取り入れる
・部下に権限を委譲する

 あらかじめ部下にヒアリングした上で進捗確認や報告のタイミングを設定しておくことで、上司は必要以上に干渉しなくても状況が把握できるようになります。部下にとっても、タイミングが決まっていれば、それを基準にして計画的に業務を進めやすくなります。

 上司や管理職の本来の役割は、組織の成果を最大化することであり、部下の管理および監視ではありません。部下の個性や強み、弱みを理解し、それに応じたマネジメント方法を取ることで、部下の成長と組織の成果の最大化につながります。

 部下に対して「これくらいはできるだろう」と過度に期待したり、反対に「できるわけない」と決めつけたりしないようにする必要があります。そのためにも、自分の基準だけで相手を評価しないことが大切です。

 「はい」「いいえ」で答えられないオープンクエスチョンを取り入れることで、部下自身の考える力が養われます。オープンクエスチョンは、部下とのコミュニケーションを活性化し、信頼関係を強化する効果もあります。

 部下に権限を移譲することで、部下の自主性と責任感が向上します。上司は部下の能力を信頼し、業務の一部を任せることで、部下は自分の判断で行動する機会が増えます。これにより、部下の成長を促し、組織全体のパフォーマンスが向上します。権限移譲は、上司と部下の信頼関係を強化する効果もあります。

 マイクロマネジメントを見直すことは、組織の持続的な成長にとって不可欠です。個々の社員に対して過度に細かい指示や監視を行うことは、短期的な成果を生むかもしれませんが、社員の自主性や創造性を損ない、長期的には組織全体の生産性を低下させるリスクがあります。

 社員一人ひとりに信頼を置き、彼らが自己の役割を理解し、自らの意思で成長できる環境を整えることが、優れたマネジメントの鍵です。マイクロマネジメントを乗り越え、社員が主体的に成長できる組織を目指しましょう。それこそが、真に持続可能な成功への道です。