新規事業を成功に導く組織とは 経営者が留意するべき三つのポイントを解説
変化の激しい現代を生き抜くため、既存事業に代わる新しい柱を探している中小企業経営者は少なくないでしょう。ただ、どのような事業でも、やみくもに走り出すようではうまくいきません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・山本裕輝さんが、新規事業を成功へと導く組織を作るために、経営者が留意するべき三つのポイントを解説します。
変化の激しい現代を生き抜くため、既存事業に代わる新しい柱を探している中小企業経営者は少なくないでしょう。ただ、どのような事業でも、やみくもに走り出すようではうまくいきません。組織コンサルティング会社識学の上席コンサルタント・山本裕輝さんが、新規事業を成功へと導く組織を作るために、経営者が留意するべき三つのポイントを解説します。
新規事業に乗り出すにあたって、経営者が留意すべきポイントは、①メンバー選定、②ルール整備、③目標の決定の三つです。それぞれ順に見ていきましょう。
まずは、①メンバー選定です。新規事業を立ち上げる際はルールを守りながら経営者の指示通りに動けるメンバーでチームを構成してください。何が正解か判然としない状況下でメンバーに動いてもらう以上、経営者は意思決定のための情報を日々収集する必要があります。なのに、うそやごまかしに終始するメンバーがいると、適切な意思決定ができなくなるでしょう。
ただし、優秀な人材を一斉に新規事業に割り当てると、既存事業が傾く恐れがあります。例えば、ある部署の柱となっているマネジャーを、新規事業に部署に異動させたら、既存事業は途端に立ち行かなくなります。ある程度仕組みで回っている部署からの異動が無難です。
その上で、責任者も1人決めなければなりません。全員が横一列ではメンバー同士で、だれが責任者で、だれが意思決定権を持っているかが分からなくなり、業務が停滞してしまうからです。
全ての仕事を今いる社員に任せずとも、新しく採用するなりアウトソーシングするなり、手はあります。というより、高い専門性や資格が必要な分野では、中途採用やアウトソーシングをしなければ始められない事業も多いです。
採用して自社で社員を抱えるのか、外部の専門部隊に頼るのかは、どちらを選んでもいいでしょう。その際、経営者の判断基準は次の2軸になります。
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それは、「立ち上げに要するスピード」と「情報の手に入れやすさ」です。
人材を採用して部署を新しく立ち上げるとすれば半年はかかるでしょうが、自社のルール内で動く部隊であれば、必要な情報もすぐに取得できます。
一方、アウトソーシングは立ち上げこそ早いものの、相手はあくまで外部の人。常に思い通りに動いてくれるわけではありませんし、スピーディーな情報の取得も難しいと覚悟するべきでしょう。
次に大切なのが、②ルール整備です。経営者は新規事業を始める前に、事業の性質に応じて予算や権限の範囲を決めてください。そうしないと、社員が「売り上げのためには何をしてもよい」と勘違いする恐れがあります。
特に、外部人材を採用するケースでは、前職の「当たり前」をそのまま自社に持ち込んでしまうため、この傾向が顕著です。
例えば、新規事業としてエステサロンを立ち上げ、経験豊富な人材を採用して店長を任せてみたものの、独自にメニューを開発したり、勝手に価格設定や割引をしたりする。そんな話は枚挙に暇がありません。口を出し過ぎるのはよくないですが、最低限の線引きは必要です。
もう一つお勧めしたいのは、経営判断のために知りたい情報のリストを責任者へ渡しておくことです。これも一種のルールとして決めておきましょう。
欲しい情報は何か、どの程度のスパンで報告してもらいたいのか。これらをはっきり伝えておけば、効率的な情報収集が可能になり、迅速な意思決定ができるようになります。
新事業の立ち上げは非常に難しく、なかなか成果を残しにくいのは事実です。それゆえ、メンバーは客観的な情報ではなく、自らが努力した内容や話したい内容を報告しがちです。これらは、経営判断をする上で大した参考にはなりません。
最後は、③目標の決定です。経験のない新規事業ではどの程度の結果を残せるか分からないという理由から、目標を立てずにとりあえずやってみると考える経営者は多いですが、これは間違いです。
目標が不明確なまま新事業に乗り出すことは、ゴールを設定しないまま、「とにかく遠くへ走りなさい」と言われているようなものです。メンバーはどこまで走らされるか分からないため、常に余力を残しながら走ろうとするでしょう。
つまり、いつまでたっても全力を出そうとしないわけです。高過ぎたり低過ぎたりしたら後で修正すればいいだけですから、目標設定には時間をかけ過ぎないでください。
よく「PDCAを回す」と言われますが、我々は「DCAP」の順番で考えましょうとお伝えしています。「まず行動すべきである」という意味です。
計画の立案は大事ですが、実行しなければ実態は分かりません。メンバーとルール、目標を決めたらとにかく行動あるのみ。たとえ失敗しても、その振り返りを行って次のアクションに生かせばよいのです。
撤退の基準をあらかじめ決めておくことも大事です。うまくいく見込みのない事業をずるずると引っ張り続けることが一番いけません。もし、この辺の判断ができる人材が社内にいないのであれば、そもそも、その事業に乗り出すべきではないでしょう。
近しい業態の会社が何年で収益化したか、損益分岐点を超えたかといった情報は集められるはずです。「半年かけて収益化しなかった場合」、「1年で導入企業が10社に満たなかった」といったデッドラインは用意しておきましょう。
既存事業とはあまり関係のない新事業に乗り出し、成功を収めた、中部地方の老舗企業の例を紹介します。その企業はセメントや生コンクリート、住宅設備機器の卸販売を手がける会社です。同社は2021年、フィットネスジムのフランチャイズに加盟し、ジムの運営を始めました。
既存事業とは何の関連性もないように思えますが、ジムを新しく建てる際には、洗面台やトイレ、シャワーなどの設備が必要になります。自らが新しい事業に乗り出すとともに、元々取り扱いのある商材の需要も拡大させていきました。
また、ジムのスタッフにルール通りに動くよう教育し、日報や週報を通じて業績の実態や顧客の望む声を吸い上げる仕組みをあらかじめ設定したうえで、事業をスタートしています。経営判断をするうえで、正しい情報収集は必須です。
巧みだったのは、法人に向けた営業に力を入れ、会員数を集めた点です。ジムは個人会員が多いイメージですが、その企業は「福利厚生の一環で社員の方が24時間ジムを使えるようにしませんか」という提案をしました。こうすれば、1件あたりの契約単価が大きくなり、営業に割く人員も少なくて済みます。
取引先である建設会社の社員にとって体は資本です。ジムを利用できる福利厚生は大いに意味があるものでした。結果として、フィットネス事業は1年目から黒字になりました。
変化の激しい現代は、うまくいっている事業が将来もずっと安泰とは限りません。それこそ、安泰の代名詞とも呼ぶべき自動車業界ですらCASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)の時代に突入し、大きな転換を迫られています。
会社を支える柱が一本だけだと、その事業がうまくいかなければ倒産の危機に瀕してしまいます。しかし、新規事業の立ち上げによってそのリスクは回避できるでしょう。
また、社内に新しいポストが生まれる点にも大きな意義があります。既存事業にこだわっていると、ポストがなかなか空かず、長くこの会社で働きたい、ステップアップしたいと望む若手の意欲をそぐ恐れがあります。成果を出せば出世できる体制が整っていれば、社員が成長イメージを抱きやすくなるはずです。
以上、新規事業に乗り出す上での留意点を述べてきました。本記事が新規事業の成功につながれば幸いです。
識学上席コンサルタント 営業部
近畿大学経営学部を卒業後、新卒でアイリスオーヤマに入社し、おもにルート営業を経験する。リクルートライフスタイルに転職すると、ホットペッパーの営業担当として大手法人の経営コンサルティングやマネジメントを経験。自身のマネジメントに悩んでいる中、識学と出会い、自身と同じ悩みを抱いている方々の役に立ちたいと考え識学に転職。
(※構成・平沢元嗣)
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