クラフトバンク総研は内装工事会社を母体とした、建設DXのスタートアップ・クラフトバンクが運営しています。2024年7~8月に「建設業の2024年問題に関する動向調査」と題し、社員数5~100人の建設工事会社を対象にインターネットで調査。1488件(経営者463、職人514、事務員511)の有効回答を得ました。
まず、2024年問題への対策状況を聞いたところ、74%が「未対策」と回答しました。2023年の調査より9ポイント改善したものの、依然として4分の3近くを占めています。未対策の内訳も「対策しようとしている」(25%)、「対策予定なし」(25%)、「知らない」(24%)という回答でした。上限規制が厳格化された後も、対策の機運は高まらない現実が浮き彫りとなっています。
調査によると、勤怠をアナログな方法で管理している企業が85%にのぼりました。その内訳は、手書きの日報(36%)、タイムカード(35%)、エクセル(14%)でした。また、工事の日程や工程管理の方法についてもアナログ管理が56%(ホワイトボード34%、紙22%)という結果になりました。
2019年の改正安全衛生規則では、労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務が企業に課されています。髙木さんは「手書きやエクセルの管理では、法的に適切な方法ではないと指摘されるリスクがあります」と強調します。
理由として考えられるのは、経営者のリソース不足です。調査で「経営者の事務作業時間」を尋ねると、「1日2時間以上」という回答が50%にのぼりました。
髙木さんは「給与計算して請求書を発行するのに、経営者は毎月10時間取られています。経営者がその時間を営業や採用活動に使えば業績が上がるのに、事務作業に忙殺されて経営ができていないのが現実です」
リソース不足は中小企業共通の悩みですが、建設業は特に深刻です。中小企業庁の資料(2021年)によると、建設業は中小企業の従業者数の割合が、非1次産業で2番目に高い88.6%を占めています。
「大企業勤めも多い製造業と違い、建設業は中小企業に勤める人が大多数です。売り上げ1億円超の会社の業績は好調ですが、従業員が10人を下回るような家族経営は厳しい経営状況で、2024年問題の対策まで手が回っていません」
2024年問題への対応を完了した企業は、「業績が拡大した」と答えた割合は41%だったのに対し、未対策の企業は32%にとどまっています。
経営者自らが情報を取る姿勢で
ただ、2024年問題への対応が遅れるほど、経営へのリスクは増していきます。髙木さんは「建設業界は下請けに発注するケースが減り、直接職人を雇用する機会も増えています。建設会社の社長と話をすると『小さな会社に発注するのは怖い』と言われます」と言います。
「工事に必要な書類が出せるか、国家資格を持っているか、社会保険に入っているか。安全基準やコンプライアンス意識が高まるなか、発注側はそうした環境を整えていない会社に仕事をお願いするのが怖いのです」
解決策の一つとして、勤怠や工程などを管理するITシステムの導入が考えられます。ただ、中小企業にとっては大きな費用負担にもなります。髙木さんはIT導入補助金、ものづくり補助金など、公的資金の活用を勧めます。
「補助金の存在は知っていても使いこなしている会社は少ない印象です。ものづくり補助金が製造業しか使えないと思い込んでいるケースもあります。銀行や業界団体、中小企業診断士などの士業が周知を頑張らないといけませんが、専門家が少ない地域もあります。経営者自らが情報を取りに行く姿勢も必要ではないでしょうか」
「人手不足で仕事を断ることもある」が69%
調査では、人手不足が建設業にもたらす影響も浮き彫りになりました。
「人手不足で仕事を断ることがあるか?」という質問に、「頻繁にある」、「たまにある」と答えた企業が全体の69%にのぼったのです。
しかし、育成・定着、採用に向けた対策を尋ねると、「何もしていない・不明」が最多の回答でした。
人手不足の課題を聞くと、育成・離職の方が、採用よりも多い結果でした。髙木さんは「育てられないから人材が辞めていく。だから採用しなければいけない、というのが建設業の実態です」と話します。
人材流出を防ぐ対策の一つが賃上げです。しかし、中小企業の賃上げ幅には限度があり、大企業との競争では不利を強いられる傾向があります。
髙木さんは「離職理由は給与額よりも、日給制などの不安定な賃金制度と、移動距離の長さです。なぜ長いかというと、勤怠や工程をタイムカードやホワイトボードで管理しているので、家と現場の直行直帰ができず、会社に寄らなければいけないからです。建設業は繁閑差が大きく、システムで勤怠を管理するなど業務オペレーションを高めれば、伸びる余地があると思っています」と話します。
建設業は他業種と比べ、離職がもたらす経営リスクが高いともいいます。
「建設業の職人は、有料人材紹介での採用や派遣労働が法律で原則禁止されています。職人が辞めた後、(人材紹介会社に)いくらお金を払っても採用はできないのです。また、500万円以上の工事を請け負うには建設業許可が必要です。許可要件に必要な資格者(経営業務の管理責任者、専任技術者など)が離職すると、事業継続がアウトになりかねません。人を集める制約が大きいのに、人材が辞めると潰れるリスクは高くなる。それが建設業の大きな縛りになっています」
離職防止や人材獲得のポイント
中小企業は賃上げという手段が限られるなか、「2024年問題」の解決につながる離職防止や人材獲得に向けて、どんな手を打てばいいのでしょうか。髙木さんは実例を踏まえて、三つのポイントを挙げました。
育成の仕組みを充実させる
離職を防ぐには、人材育成の仕組みを充実させることが大きなカギとなります。
「福島県にある電気工事会社は、中小企業こそ人材育成が勝負と考え、社内に工場を模した研修施設を設けています。今では遠方の大企業の人材育成も請け負っています」
文系学生の採用
最近は、建設業界の採用市場で高専や工業高校の生徒の人気が高まり、大企業もスカウトの手を伸ばしているといいます。
「山形県の土木建築会社は工業高校から生徒が取れなくなったため、地元の大学の文系学生を入社させ、自社のトレーニングセンターで育成しています。大学生は試験勉強に強いので、公共工事に必要な国家資格を次々と取り、戦力になっているといいます」
奨学金返済制度の活用
地域の中核産業を担う人材を確保するため、奨学金返済制度を設けている自治体もあります。
「愛媛県のプラント工事会社は2024年から、県の奨学金返済制度に登録して大学生の採用を始めました。社内にファイナンシャルプランナーを呼んで、社員向けに社会保険制度や株式投資の教育も行っています」
代替わりをきっかけに成長を
「建設業の2024年問題」を解決するには、人材の獲得・育成が重要であることが、調査結果などから見えてきました。では、中小企業の後継ぎ経営者は何から手を付ければいいのでしょうか。
「実は新卒で建設業界に入る若者は増加傾向にあります。まずはしっかりとした勤怠管理が必要です。中長期的には、奨学金支援制度なども活用しながら社員の採用や育成に力を入れてほしいと思います。女子大の建設学科も新設が続いており、女性が働きやすい環境を整えるのも急務です」
採用力を高めるための実践的なアドバイスとして、髙木さんは大企業では当たり前となっているウェブサイトの暗号化を挙げました。
「ホームページのURLを、https対応にしている建設業はかなり少ないんです。しかし、https未対応の会社にはセキュリティー上、公的機関や学校、大企業からはアクセスができなくなり、サイトが存在しない扱いになってしまいます。若手人材を取ろうと思うなら、今すぐの対応を勧めます」
遠隔施工やドローン、AIなど、建設業界にも次々と新しいテクノロジーが入り、経営にも進化が求められます。
髙木さんは「代替わりをきっかけに成長する建設業はすごく多いです。後継ぎ経営者に求められる役割は大きいですし、2024年問題の解決に取り組めば、他社を圧倒できると思います」とエールを送りました。
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