試用期間の給料はどう決める?残業代やボーナス・保険の加入要件とは
試用期間は企業が従業員の適性等を判断するための期間です。試用期間中でも通常の従業員と同様に給料の支払や残業手当などは支払う必要があります。一方で賞与の支給は企業が任意に定められます。この記事では、試用期間の給料を決めるポイントや試用期間に関する注意点を社会保険労務士が紹介します。
試用期間は企業が従業員の適性等を判断するための期間です。試用期間中でも通常の従業員と同様に給料の支払や残業手当などは支払う必要があります。一方で賞与の支給は企業が任意に定められます。この記事では、試用期間の給料を決めるポイントや試用期間に関する注意点を社会保険労務士が紹介します。
試用期間でも、雇用契約を結んだ労働者から労働力の提供を受けた場合には、対価として給料の支払が必要です。
試用期間とは、企業側が従業員としての適性を判断するための期間です。試用期間中は雇用契約の解約権を留保している状態となり、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められます。
期間中は、通常の労働条件と異なる条件が設定されることが多いです。試用期間の長さについて法の定めはありませんが、試用期間中は労働者が雇用の不安定な状態であることから不当に長い試用期間は無効になることもあります。
2014年の調査によると、86.9%の企業が試用期間を設定しており、長さは3カ月程度が66.1%で最も多い結果となりました(参考:従業員の採用と退職に関する実態調査p.13-15|独立行政法人労働政策研究・研修機構)。
給与に関する主な法律は、次の通りです(参考:労働基準法第24条から第28条 | e-Gov 法令検索)。
試用期間中であっても、給料に関する法律は同様に適用されます。そのため、雇用契約の名称や形態によらず、労働の提供を受けた場合には企業は対価の賃金を支払わなければなりません。
これらに違反した場合は、30万円以下もしくは50万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
試用期間中の給料を決めるポイントを3点紹介します。
試用期間中の給料は本採用の従業員より低くとも、最低賃金以上であれば原則問題はありません。ただし、給料はトラブルを招きやすいので、労働契約を結ぶ際の労働条件通知書や就業規則で試用期間中の給料について必ず明示し、説明するようにしましょう。
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて働かせた場合には、割増賃金の支払が必要です。残業代以外にも、22時から翌日5時までの深夜労働や法定休日に労働した場合は割増賃金を支払わなければなりません。
試用期間中であっても、通常の従業員と同様の労働時間管理を行い、残業・深夜労働・休日労働が発生した場合には割増賃金(手当)を支払いましょう。
ボーナス(賞与)は支給について法律で定められていないため、企業が任意にルールを決定できる部分です。「支給日または判定日に試用期間であるものについては賞与の支給対象としない」としても法律違反にはなりません。
ただ、採用の際にこういったことも労働条件の一つとしてきちんと明示し説明しておきましょう。
試用期間中であっても、労働条件がそれぞれ保険制度の加入要件に当てはまる場合は、加入する必要があります。
社会保険は、厚生年金保険と健康保険の総称です。原則、昼間学生でない70歳未満の労働者は、社会保険に加入することとなります。そのため、試用期間であっても雇入れの日(入社日)から社会保険に加入します。
ただし、2カ月以内の期間を定めて使用される人は対象外です。対象外となる人と例外については、下の表をご覧ください(参照:適用事業所と被保険者|日本年金機構)。
対象外となる人 | 例外 |
---|---|
日々雇い入れられる人 | 1カ月を超えたときはその日から加入 |
2カ月以内の期間を定めて使用される人 | 当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は雇用契約当初から加入 |
所在地が一定しない事業所に使用される人 | なし |
季節的業務(4カ月以内)に使用される人 | 継続して4カ月を超える予定で使用される場合は当初から加入 |
臨時的事業の事業所(6カ月以内)に使用される人 | 継続して6カ月を超える予定で使用される場合は当初から加入 |
雇用保険は、失業手当や育児介護休業給付など、労働者自身に給付されるものが多い保険制度です。雇用保険の加入要件は、次のいずれにも該当する人です。
昼間学生であっても、休学中など一部のケースは雇用保険に加入することとなります。たとえ試用期間後の本採用が不明な場合でも、上記の要件に該当した場合は加入手続きを行いましょう。
試用期間を設ける際の注意点を5点紹介します。
給与関係の法律は、試用期間中であっても適用されます。最低賃金も同様のため、試用期間中だからといって最低賃金を下回らないよう設定しなければなりません。
最低賃金は都道府県毎に異なり、毎年10月に改定されます。店舗や部署によって都道府県が異なる場合は、本人が働く場所での都道府県最低賃金を適用します。
「最低賃金の減額の特例」という最低賃金から最大で20%減額できる制度があります。試用期間中の労働者も対象者となっており、労働局へ申請して許可を受けることで実施できます。
ただ、他の要件として最低賃金以下とする合理的理由が必要なことからも実際の制度利用は難しいでしょう。
試用期間の有無と期間中の労働条件は、雇用契約を締結する際に明示します。労働条件の明示は労働基準法第15条に定められており、明示しなかった場合は30万円以下の罰金を課せられるおそれがあります。
また、試用期間が本来あるところを記載せず入社させた場合は、虚偽の条件で求人したとして6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。試用期間の有無と期間中の労働条件は、必ず労働条件通知書に記載しましょう。
解雇する場合には、解雇しようとする日の30日前に解雇予告をしなければなりません。解雇予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
ただし、雇入れ後14日以内の解雇であれば解雇予告又は解雇予告手当は必要ないことと法律で定められています。解雇をする場合は、入社して14日を超えていないか必ず確認して解雇予告、もしくは解雇予告手当の支払を適切に行いましょう。
試用期間は労働者にとって雇用が不安定であり、一般的に不利な状態です。就業規則は企業のルールブックであり、その企業の労働条件の最低基準を決める効力があります。そのため、労働者と個々の雇用契約において、就業規則を下回る条件の設定はできません。
例えば、就業規則で試用期間を3カ月としている場合には、個々の契約において同意を得ていたとしても3カ月を超えて試用期間を設定することはできません。
試用期間中に、「業務の適性が見込めない」「意欲が低い」といったことから、本採用に至らないケースがあります。こういった場合でも、「適性が無かった」という理由のみでは、本人が納得せず解雇トラブルに発展する可能性があります。
試用期間とはいえ、雇用契約を結んだあとで本採用をしない(解約する)ということは解雇にあたります。試用期間後の解雇については「客観的に合理的な理由があり社会的に相当と是認される場合に限り許される」とされており、企業側の「不適格だった」という理由のみでは、解雇が相当とは認め難いでしょう。
試用期間中は、本採用に向けての課題や指導内容・判断するポイントを明示しておき、注意点は記録しておくことが重要です。本採用に至らなかった場合でも、記録を提示することで納得しやすくなります。
試用期間でも給料や残業代などの割増賃金の支払は必要と法律で定められています。一方で試用期間中の給料を低くしたり賞与の支給については企業が任意に設定できたりする部分もあります。
ただし、試用期間だからといって安易な解雇や就業規則を下回る労働条件を設定することは訴訟トラブルに発展したり法律違反となる場合があります。
試用期間中の給料含む労働条件については明示したうえで説明を行い、本採用としなかった時には納得してもらえるよう記録をつけておくようにしましょう。
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