目次

  1. 下請法とは
  2. 下請法、なぜ改正?「デフレ型商慣習」から脱却へ
  3. 下請法、どう変わる? 下請法逃れにも対策
    1. 買いたたき規制の見直し
    2. 手形の廃止など支払条件の見直し
    3. 発荷主と着荷主との契約も下請法の対象へ
    4. 下請法の適用基準の見直し(下請法逃れへの対応)
    5. 「下請」という用語の見直し
    6. 型等の無償保管の問題
    7. 金型以外の型等に関する課題
    8. 遅延利息に関する課題
    9. 知的財産・ノウハウの取引適正化

 公正取引委員会の公式サイトによると、下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護するため、独占禁止法を補完する法律として制定された法律です。

 製造業からサービス業まで、幅広い分野において適用対象となる取引を明確に示すとともに、親事業者の禁止行為なども具体的に定めています。

下請法の適用対象のイメージ(公正取引委員会のパンフレットhttps://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.htmlから引用)

 適切な価格転嫁をサプライチェーン全体で定着させていくための環境づくりを話し合ってきた有識者会議「企業取引研究会」の報告書によると、日本の経済は物価や賃金が上がらない「価格据え置き型経済」が続き、そのしわ寄せが、取引上弱い立場にある下請事業者に集中してしまったと指摘しています。

 この「価格据え置き型経済」を生み出した要因の一つとして、報告書は、企業間の商慣習の問題を取り上げています。

 特に、大企業と中小企業との間の取引では、価格交渉が十分に機能せず、取引条件が一方的に決められるといった問題が深刻化しています。

 価格転嫁が少しずつ定着し始めていますが、この流れを一過性のものとはしない仕組みづくりのため、下請法の改正について議論してきました。

 今回の報告書は、複数の論点から下請法の改正が議論されてきました。このうち、中小企業が関係する部分を中心に紹介します。

 まず、下請法の「買いたたき」とは、親事業者が下請事業者と下請代金の額を決めるときに、強い立場から「通常支払われる対価」に比べて「著しく低い額」を下請事業者に押し付けることだと定められています。

 この買いたたきが法律で禁止されていますが、下請取引は個別性の高い委託取引が多く、この「通常支払われる対価」=「市価」の把握が難しく、価格の据え置きや、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を価格に転嫁できないなど、これまでの法律では対応できないケースがありました。

 そこで、企業取引研究会では、下請法の買いたたき規制に加えて新しい行為類型の規制を検討すべきかどうかを議論しました。

 議論の結果、報告書は、たとえば、費用の変動が生じた場合、下請事業者からの価格協議の申し出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定する行為の規制が必要だとの考え方を示しています。

 さらに、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を実現するため、下請法改正の趣旨を独占禁止法の優越的地位の濫用の考え方にも当てはめ、ガイドラインで想定事例や考え方を示すことを併せて検討する必要がある、とも指摘しています。

 これまで、下請代金の支払いに手形が使われることが多くありました。しかし、手形は現金化までに時間がかかります。資金繰りのために手形を割り引く際には、割引料が必要となり、下請事業者の資金繰りを圧迫する要因となっていました。

 電子記録債権やファクタリングも、手形と同様に、下請代金を全額現金で受けとるまでに時間がかかる場合がありました。

 そこで報告書は、親事業者が下請代金を支払う場合に以下の対応を求めています。

  • 紙の有価証券である手形については、下請法の代金の支払手段として使用することを認めない
  • その他金銭以外の支払手段(電子債権、ファクタリング等)については、支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めない

 さらに、ファクタリングの手数料や銀行振込手数料等、決済に伴う手数料の負担については、民法が弁済の費用を発注者が負担することを原則としています。そのため、発注者が負担することが合理的な商慣習であると考えられるとの意見を報告書に盛り込んでいます。

 さらに、製造委託の取引で、不良品が発生した場合、不良の原因の所在にかかわらず不良の是正に要した費用を親事業者から有償支給されている「原材料代」として一方的に下請代金から相殺されることがあるといいます。

 有償支給原材料の対価の支払に関連してこうした行為が行われている場合には、下請法上の減額等の違反行為となり得る等の考え方を明確に示すべきであると考えられるとも記しています。

 これまで、着荷主と発荷主は通常、明示的な有償の運送契約等が結ばれないことから、発荷主から運送事業者への運送業務の委託は自家使用役務の委託取引だとして、下請法の適用対象ではありませんでした。

 この発荷主と着荷主との関係性を、下請法の適用対象にすべきか議論した結果、報告書は、「構造をとらまえれば、発荷主と運送事業者の取引についても、他の下請法の対象取引と同様のものと位置付けられる」と結論付けました。

 そのうえで、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引としていくこととすべきであると指摘しています。

 いまの下請法は、適用対象となる要件の一つを、事業者の資本金額で区別しています。しかし、近年、資本金を減らすことで、下請法の適用を逃れる企業が増えています。

 そこで、報告書は、資本金だけでなく、従業員数も基準とするよう求めました。具体的には、従業員300人(製造委託等)または100人(役務提供委託等)を基準とすることが検討されています。

 下請法の「下請」という言葉は、発注者と受注者が対等な関係ではないという印象を与えるとの指摘が中小企業側からありました。

 報告書は、「下請という用語を時代の情勢変化に沿った用語に改める必要がある。具体的な用語については、既存の法令も参考にしつつ、下請法の趣旨や対象となる取引を表現するにふさわしい用語を政府において検討していくべきである」と述べています。

 いまの下請法運用基準では、発注者側に所有権がある金型を長期間無償保管させる場合には、「不当な経済上の利益の提供要請」に当たるとの記載しています。しかし、金型の所有権が下請事業者にある場合の取り扱いには言及していません。

 そこで、報告書は、金型の所有権に関わらず、無償保管の要請が下請法上の問題となることが明記すべきとの意見をまとめています。

 金型を発注する行為を下請法の対象とする旨の法改正が2003年にありました。金型と同様に、木型や樹脂型等や一部の治具についても、製造する物品と密接な関連性があり、他の物品の製造に利用できない型についても、報告書は下請法の対象に追加するよう提言しています。

 いまの下請法は、遅延利息の対象行為を支払遅延に限っていますが、下請代金の減額についても、遅延利息の対象となるように見直すことが適切だとしています。

 取引の際に、受注者側が元来保有していたり、取引によって取得したりした知的財産権やノウハウを、無償または低廉な価格で発注者側に帰属させる行為があります。

 こうした状況に対し、中小企業庁は「知的財産取引検討会」を設置し、知的財産における取引の問題事例の整理を行い、「知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形」を示しています。

 報告書は「ルールを作って終わり」にしてはならない、ガイドラインで示した内容が遵守されるような実効性のある取組も併せて講じていくべきだとの有識者の意見をまとめています。