目次

  1. リーダーシップは人の性格や素質ではない
    1. リーダーシップは「仕事」である
    2. リーダーシップは一人ひとりが持つべきスキル
    3. リーダーシップとマネジメントの違い
  2. リーダーシップのある人の特徴9選
    1. 行動力がある
    2. 責任感がある
    3. 決断力がある
    4. 信頼されている
    5. 目標設定ができる
    6. 精神的に安定している
    7. 周囲に誠実に向き合える
    8. コミュニケーション能力が高い
    9. 発想力がある
  3. リーダーシップの種類9つ
    1. 民主的リーダーシップ
    2. 独裁的リーダーシップ
    3. 放任的リーダーシップ
    4. 官僚型リーダーシップ
    5. コーチ型リーダーシップ
    6. ペースセッター(実力型)型のリーダーシップ
    7. サーバント(奉仕型)リーダーシップ
    8. ビジョナリーリーダーシップ
    9. 関係重視型リーダーシップ
  4. リーダーシップを発揮させるために企業ができること
    1. 強みを活かせる環境を与える
    2. 実践的な経験を多く積ませる
    3. 指導やサポートができる環境を作る
  5. リーダーシップのある人を増やすには環境整備が大切

 リーダーシップとは一般的に「指導力」「統率力」などと表現されることが多くあります。具体的には、目標を定め、組織を維持しながら成果を出す能力です。近年、このリーダーシップは、先天的な才能や性格、素質ではなく、トレーニングや環境によって後天的に身につくものであるという考えが主流となっています。

 経営学者として有名なピーター・ドラッカーは、著書「プロフェッショナルの条件」において、リーダーシップは才能や性格などの資質に左右されるものではなく、「仕事」と述べています。組織の目標設定、仕事の優先順位や基準を定めて維持することを仕事としてできれば、リーダーシップを発揮できるという考え方です。

 リーダーシップというと、経営者や役職者が持つべきものだと考える人も多いでしょう。しかし、リーダーシップは「仕事」です。立場に関係なく新人社員でも派遣社員でも役職を持たない社員でも、チームに所属していれば誰もが求められるスキルなのです。

 近年はビジネス環境の変化が加速しています。適応していくためにも、企業の発展に向けて一人ひとりがリーダーシップを発揮し、業務を効率的に遂行することが重要視されています。

 リーダーシップと同じような概念でマネジメントが用いられるケースがありますが、その違いは、前者が業務に焦点を当てているのに対し、後者は組織運営に注目している点です。すなわち、リーダーシップが部下の有無にかかわらずチーム全体を引っ張ることを指すのに対し、マネジメントは主に上司が部下に対してあらゆる施策を行うことを指します。

 わかりやすく言い換えると、チームを統率する力がリーダーシップで、マネジメントはそのリーダーシップの舵取りを行う力ということになります。

 リーダーシップがあると言われる有名人は数多く存在しますが、彼らには共通している特徴が数多くあります。その中でも代表的な、9つの特徴について説明します。

 リーダーシップを発揮するには「行動力」が大切です。ただ単に思いついたアイデアを提案するだけではなく、実際に行動に移し、結果を出すことが求められます。行動する目的や理由を明確に示し、メンバーのモチベーションを高め、行動を促すのはもちろんのこと、時には自ら率先して行動していくことが大切となります。

 ドラッカーは、リーダーシップの要件について「地位や特権ではなく責任と見ること」と述べています。施策がうまくいかないときもチーム全体の責任を負い、失敗してもメンバーのせいにしない潔さ(=責任感)が理想のリーダーシップにつながります。これらの行動が、目標達成の推進につながるだけでなく、信頼関係の構築やモチベーションの向上につながるためです(参照:『はじめて読むドラッガー【自己実現編】プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』p.185~187)。

 リーダーシップを発揮する場合、周囲に行動の指標を示して進むための「決断力」が必要不可欠です。業務において「どのような施策を用いて解決するのか」「複数の施策からどの施策を選択するのか」といった決断力が求められるケースは数多くあります。それらに対して意志を持って決断することで、チーム全体の行動が定まり、組織の活性化やメンバーのモチベーション向上にもつながります。

 リーダーシップを発揮するには、周囲からの「信頼」を獲得することが大切です。そのためには、行動や指導、監督すべてに責任を持ち、一貫性のある言動を心がける必要があります。

 ドラッカーも「リーダーに関する唯一の定義は、つき従う者がいるということである」と述べています。つき従う者とは、強制ではなくリーダーを信頼し、自らの意思で従う人のことを指します。メンバーがリーダーを信頼することで、組織全体のパフォーマンスの向上につながるでしょう(参照:同上 p.187)。

 リーダーがメンバーに指示をする上では、明確な「目標設定」が不可欠です。その際は、チームの現状に合った適切な難易度の目標を設定するだけでなく、具体的なゴールを指し示すことも重要となります。

 リーダーがチームの目標を設定し、それを共有しなければ、メンバーはどうやって仕事を進めていくべきなのかわかりません。チーム全体の方向性が不明瞭だと、認識のズレや意見の対立が発生する可能性があり、業務が滞ることが懸念されます。

 精神的な安定もリーダーに必要な要素の一つです。大きなトラブルが発生した際や想定外のことが起こった場合は、冷静に状況を見極め、正確な判断を下さなければなりません。

 リーダーが「精神的に安定」していないと、メンバーからの意見や情報が届かなくなり、全体のパフォーマンス低下を招く恐れがあります。一方、リーダーが精神的に安定していれば、メンバーが何か不安を抱えているときにも、サポートやアドバイスができるでしょう。

 どんなに優れたスキルを持っていても、それだけでは周囲から信頼を得ることはできません。例えば、「平気で嘘をつく」「施策を途中で投げ出す」「自分の行動に責任を持たない」というような人と一緒に仕事をしたくないでしょう。そのため、「嘘をつかない」「施策は責任を持って遂行する」「失敗したときは責任をとる」など、周囲に「誠実」な姿勢を示すことが大切です。

 優れたリーダーシップを発揮する要素として「コミュニケーション能力」は欠かせません。行動する目的や理由、明確な指標を示してメンバーを先導していくためには、コミュニケーションを通じてメンバーに納得してもらった上で行動してもらう必要があります。そのため、メンバーの意見を聞くための傾聴力や自分自身の考えを伝えるための意思伝達力などのコミュニケーションスキルが重要な要素となります。

 リーダーは、さまざまな課題に対して解決策をメンバーに提示し、目標達成に導くことが求められます。時には、従来の業務の延長線上の施策だけでは目標や目的を継続的に達成することが困難な場合もあります。ボトルネックや改善点を抽出・整理した上で、改善するための新しい取り組みやアイディアを考える「発想力」は大切な要素となります。

 発想力を高めるには、日常から業務内外の新しい情報のインプットを心掛け、新しい発想をするための土台を整えておくことが重要です。

 リーダーシップは、皆が同じではなく、さまざまな種類が存在します。以下では、最も一般的な9種類のリーダーシップスタイルを説明します。

 民主型(調整型)リーダーシップとは「リーダーが各メンバーの意見を聞き入れ、組織活動に反映する」タイプです。メンバーは自分の意見が反映されることでモチベーションが上がるため、知識や能力の高いメンバーが多ければ有益な意見が出やすい一方、そうでないメンバーが多いと何も改善されない可能性もあります。

 もっとも、多くのメンバーの意見を取り入れてしまうことで、緊急性の高いトラブルへの対応力が低下する恐れがある点には注意が必要です。

 独裁的リーダーシップとは「リーダーが強い権限を持ち、強制的に命令してメンバーを追従させる」リーダーシップです。災害時など緊急を要する際や単純作業を行う場合には有効ですが、メンバーが意思決定に参加できないためモチベーションや生産性の低下につながります。また、メンバーは受け身になりがちなため、成長は見込めません。

 このようなチームの場合、リーダーが不在になると機能しなくなってしまう恐れもあります。そのため、あくまで必要な時に発揮すべきリーダーシップといえるでしょう。

 放任型リーダーシップとは「リーダーがメンバーに対しての指示や干渉をできるだけ少なくし、意思決定や業務遂行の自由を委ねる」リーダーシップです。リーダーはチームの目標や方向性を示すものの、具体的な業務の進め方にはほとんど関与しません。メンバーはチームに悪影響をおよぼさない限り、自分の思うように仕事を進められます。

 放任的リーダーシップには、メンバーに大きな自由を与えることで、自己管理能力や課題解決力を高められるという考えがあります。一方、リーダーからの指示は少なくなるため、場合によっては混乱が生じたり、チームのプロジェクトが計画どおりに進みにくくなったりする可能性もあります。

 官僚型リーダーシップのリーダーは「メンバーに規則やルールを遵守させ、それぞれの決められた手順で業務を進めさせることを重視」します。このスタイルは、金融・医療・政府といった規制の厳しい業界や部署で効果を発揮します。

 各メンバーに明確に定義された役割が与えられているため効率的ですが、創造性を促進しないため、管理や仕組みの維持が目的化して環境変化への対応が遅くなるリスクが生じます。

 コーチ型リーダーシップとは「メンバーとコミュニケーションを図りながら、必要に応じて指導やサポートを行う」リーダーシップです。リーダーは、メンバーの強みや弱みを正確に把握できるため、適材適所の役割分担が可能となります。

 またメンバーは、リーダーからのフィードバックやサポートからスキルアップを実感することで、モチベーションが高まります。一方、メンバーとの1対1の時間を必要とするため、期限が迫っている施策では十分に効果を発揮しない懸念があります。

 ペースセッター型(実力型)リーダーシップとは「リーダー自身が高い目標を設定し、率先して高いパフォーマンスを発揮することで成果を示しながら導くとともに、メンバーそれぞれに目標達成の責任を課す」リーダーシップで、短期間で成果を出すことに向いています。

 ただし、ペースセッター型は、リーダーはもちろんメンバーも高い能力を持っていることが前提となります。リーダーとメンバーとの能力差が大きすぎる場合、リーダーのパフォーマンスの高さがメンバーを苦しめる可能性があるため注意が必要です。また、メンバーのモチベーションが低い場合、リーダー自身が成果を出し続けないといけなくなり、疲弊してしまう可能性があります。

 サーバントリーダーシップは「リーダーが、まず相手に奉仕(サーバント)し、次に相手を導く」という考え方のリーダーシップです。具体的には、メンバーの力を信じて、話を傾聴して共感しながら、メンバーが能力を最大限発揮できるようコーチングやメンタリングなどサポートに徹することで、双方の協力のもと目標達成を目指します。メンバーの強みや主体性を引き出して成長へと導くことができるため、メンバーはリーダーから指示される前に行動するようになると期待できます。

 「サーバント」という言葉から「メンバーの主張を何でも聞き入れる」という誤解を招くこともありますが、あくまでチームの目指す方向を定めるのはリーダーの役割です。この点においては従来のリーダーシップと同じ考え方ですが、重要な点は「メンバーファースト」であることです。ミッションやビジョンはリーダーからメンバーへ示しつつも、メンバーが個性を生かしたパフォーマンスを発揮できるようにサポートすることが、サーバントリーダーシップの本質です。

 ビジョナリー(ビジョン型)リーダーシップは「リーダーが未来に対する明確なビジョンを持ち、そのビジョンを実現するためにチームを導く」リーダーシップです。先見の明を持ったリーダーが掲げる新しいアイディアに対してメンバーからの信頼を獲得することにより、チーム一丸となって目標に向かっていくことができます。

 ただし、ビジョナリーリーダーは物事の全体像に集中するため、重要であっても細かいことを見落としがちです。また未来志向でもあるため、いま発生している問題を解決せずに進めてしまうこともあります。こういったことが頻繁に起こると、メンバーは「意見を尊重されていない」と感じてしまうかもしれない点に注意が必要です。

 関係重視型リーダーシップは「チーム内の関係性や相性に配慮する」スタイルです。チーム内の人間関係を良好に保ち、信頼関係を築き上げていける特徴があります。さまざまな役割を持ったメンバーが集まり、それぞれの関係性を考慮・調整する必要がある場合に有効なスタイルです。

 また、さまざまな事情によりチームワークや信頼関係が乱れている場合の関係修復にも有効です。ただし、チーム内の関係性を重視するあまり、チームの目標達成が後回しになってしまう懸念もあります。

 企業が従業員にリーダーシップを発揮させる方法としては、例えば以下の3つの方法があります。

 自分の強みを認識して組織の中で活かせると、自己効力感が高まります。その結果、各従業員がリーダーシップを発揮した自発的なチャレンジが増え、自己成長や自律的なキャリア形成にプラスの影響をもたらします。そのためには「弱みをなくす」のではなく、「強みを見いだす」マネジメントの導入、また強みを生かした人材配置が重要となります。

 リーダーシップスキルを磨くには、実践的な経験を多く積ませることが重要です。日頃の業務を通じて経験を積むこともできますが、教育制度の整備も重要なポイントとなります。

 従業員がリーダーシップの本質やリーダーとして必要な行動や思考を学ぶとともに、タフアサインメント(修羅場経験)で責任やプレッシャーを経験することで、効果的にリーダーシップのスキルを身につけることができます。

 リーダーシップを磨くためには、継続的な学習もポイントとなります。中でも、メンタリングとコーチングは効果的です。

 メンタリングでは、経験豊富なメンターが従業員にマンツーマンでリーダーシップの指導やアドバイスを行います。メンターは過去の経験を共有することで従業員の成長をサポートし、従業員本人の洞察力や、課題解決力の向上を目指します。

 またコーチングは、リーダー候補者と対話を重ねながら自己認識や目標設定、スキルの向上を目指すものです。コーチは質問への回答やフィードバックを行い、リーダー候補者の自己成長や自己解決能力の向上を促します。

 リーダーシップを皆が発揮していくためには、発揮しても良いと思える心理的安全性の高い職場であることが必要です。また、皆が切磋琢磨し、真剣に仕事をしている環境であることなど、職場環境が良好であることが求められます。

 さらに、リーダーシップにはさまざまなスタイルがあります。画一的なスタイルではなく、それぞれが自分らしいリーダーシップを発揮するために自己理解を深めるとともに、周囲が自分の仕事について認めたり、褒めたりしてくれる環境であることも大切です。ただ、リーダーシップのある人を増やそうと近視眼的になるのではなく、環境整備から考えることも重要です。