デジタル広告の経営者向け注意点 違法サイト・偽情報への加担リスクも

デジタル広告は、その利便性の高さや配信コストの低さなどから、中小企業も多く利用しています。しかし、偽・誤情報を拡散していたり、権利者の許可なく違法にアップロードされたコンテンツに意図せず広告を配信してしまったりしている場合があります。そこで、総務省が公表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」をもとに、広告主の経営層が把握すべきデジタル広告のリスクと対策について解説します。
デジタル広告は、その利便性の高さや配信コストの低さなどから、中小企業も多く利用しています。しかし、偽・誤情報を拡散していたり、権利者の許可なく違法にアップロードされたコンテンツに意図せず広告を配信してしまったりしている場合があります。そこで、総務省が公表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」をもとに、広告主の経営層が把握すべきデジタル広告のリスクと対策について解説します。
目次
デジタル広告は、リスティング広告、ディスプレイ広告、アドネットワーク広告、SNS広告、アフィリエイト広告、動画広告などがあります。⾃らのWebサイト等の広告枠を販売するパブリッシャーと、広告枠を買って広告を出稿する広告主、両者を仲介するプラットフォーム事業者やアドテク事業者等の仲介事業者などからなる市場です。
Web広告は年々増加し、2019年に初めてテレビメディア広告費を抜いてその後も成長を続けています。
一方で、デジタル広告は、配信先である媒体等を十分に把握できないというリスクを抱えています。
総務省が公表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」によると、広告主が意図しない媒体に広告が表示されることで、主に以下のリスクが考えられます。
ブランドセーフティとは、違法・不当なサイトやブランドを毀損する不適切なコンテンツへの広告配信を防ぎ、広告主のブランドを守る取り組みです。
近年では、意図しない媒体に広告が配信された事実がSNS等で拡散され、ブランドイメージの悪化やサービス利用者からの信頼低下につながるケースがあります。
総務省が2025年2月に行った意識調査によると、広告主の約30%がデジタル広告によるブランドセーフティに関する被害を経験しています。
また、利用者の視点では、偽・誤情報が掲載されている記事に広告が配信されているのを見た際、92%が広告主の印象が悪くなると回答しています。さらに、この問題への対応を誰がすべきかという問いに対しては、35%の人が「広告主が対応すべき」と回答しており、広告主自身の責任が強く認識されていることが分かります。
アドフラウドとは、自動化プログラム(bot)の利用やスパムコンテンツの大量生成などにより、本来カウントすべきではないインプレッションやクリックといった無効なトラフィックを不正に発生させ、広告費を詐取する行為を指します。
無効トラフィックやアドフラウドを放置すると、広告費の流出に直結します。アドベリフィケーションツール提供事業者による2023年の調査では、世界のアドフラウド被害額は約842億ドル(約11.8兆円)に上り、Web広告全体の約22%を占めています。
特に日本は深刻な状況で、2022年上半期のアドフラウド発生率は、デスクトップ/モバイルウェブともに世界20カ国中ワースト2位(3.3%/1.7%)であり、世界の平均(1.3%/0.5%)を大きく上回っています。
偽・誤情報や違法アップロードコンテンツを掲載する媒体に広告が意図せず配信されることは、単に広告主のブランドを毀損するだけでなく、そうした情報の発信者や閲覧者に対して、情報の流通・拡散を促す金銭的動機付けを与えてしまいます。これは社会全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。
インターネット上の偽・誤情報の拡散や違法アップロードを行う者は、広告収入を得ることを目的の一つとしている場合が多く、閲覧数やクリック数を増やすために過激なコンテンツを投稿する傾向があります。
利用者は、自社の広告がこうした媒体に配信されているのを見た場合、「偽・誤情報の拡散や違法アップロードを容認している企業だ」とみなす可能性があります。
デジタル広告を配信する際のリスクへの対応には、リソースの確保や具体的な取り組みの選択など、経営戦略の観点からの判断が不可欠です。そのため、経営層もデジタル広告が持つ特有のリスクを認識し、主体的に対策をする必要があると総務省のガイダンスは指摘しています。
理由は以下の通りです。
現場担当者は広告単価の効率や獲得指標を重視しがちであり、広告配信の即時的な成果と品質を同時に考慮することが困難な場合があります。
成果指標(クリック率、コンバージョン数など)のみを重視すると、ブランド毀損リスクのある媒体への広告配信やアドフラウドによる不正な成果が混入するリスクが高まります。
品質指標(ブランドリスクのある媒体への表示回数、無効トラフィック率など)を重視し対策を講じると、一時的に成果指標が悪化することが予測されるため、指標悪化の背景を理解していない経営層からの指摘を恐れて、対策を実行に移しにくい側面があるとの指摘もあります。
このジレンマを解消するためには、経営層・管理職層が広告配信の目的に応じて各指標を正しく理解し、指標の多様化や、配信品質管理のためのルール整備、具体的な取り組みの選択を主導する必要があるのです。
リスクを極力回避するためには、デジタル広告の配信全体に関する情報を集約する全社的な体制や、リスクへの対応方法に関するルール整備が重要であり、経営層や管理職層の主導のもとで進められることが望ましいです。
全社的な対策を進める上で、経営層や管理職層が、必要な人員や予算といった経営リソースを確保し、継続的な改善を支援する必要があります。リスクを低減するだけでなく、より効果的・効率的な広告配信を可能にします。
デジタル広告のリスクを共有した上で、広告主等が実施することが望ましい具体的な取り組みとして、ガイダンスは以下の例を紹介しています。
まず、経営層のデジタル広告配信への関与を引き上げましょう。
経営層にデジタル広告関係の担務者を配置するなど広告配信後も含め必要な対策を迅速に講じることができる体制の構築、企業内の機運・文化の醸成、組織の取組について広報や連絡窓口の整備をした上で、デジタル広告に関する全社的な情報が集約される社内体制をつくりましょう。
ステップ | 内容 |
---|---|
組織内の担当部署・担務者の明確化 | デジタル広告に関する担当部署を明確化するとともに、経営層にデジタル広告関係の担務者を配置する 組織内におけるデジタル広告の配信に関する情報を担務者に集約する |
リスク管理策の検討と計画 | 組織のデジタル広告の配信状況を把握・整理し、配信状況に応じたリスクの把握や対応の方法を検討する |
広告管理方針等の策定 | 広告主において、広告管理方針(広告配信手段の選択、意図しない媒体へ自身のデジタル広告が配信されたことを把握した場合の対応手順等)や広告配信の目的・指標を策定し、委託先のデジタル広告取扱事業者等と共有する |
契約段階における取組 | 信頼できる外部のデジタル広告取扱事業者や専門家等と相談し、リスクの把握・対策を行う デジタル広告取扱事業者を介して広告配信を行う場合は、契約や発注の段階で品質管理に係る事項を定め、予め合意しておく |
配信状況確認 | 配信状況の確認を通じてリスク管理の効果をモニタリングし、継続的な改善に取り組む |
つぎに、デジタル広告を配信する目的を販売促進かブランド価値向上かを明確化し、目的に応じて適切な効果測定指標を設定しましょう。成果に関する指標(CPM、CPC、コンバージョン数、ROASなど)と、品質管理に関する指標(ブランドリスクの表示回数、IVT率、ビューアブル率など)の2種類のバランスを考慮し、複数の指標を多角的に比較検討しましょう。
成果管理指標 | 説明 |
---|---|
CPM | 1000回表示あたりの広告費用 |
CPC | クリック毎の広告費用 |
コンバージョン数 | 目標達成数 |
CPI | インストールごとの広告費用 |
CPA | 獲得単価 |
ROAS | 広告費用対効果 |
エンゲージメント率 | ユーザー反応率 |
品質管理指標の例 | 説明 |
---|---|
ブランドリスクの表示回数 | ブランドのリスクとなりうる広告の表示回数 |
IVT率 | 向こうトラフィック率 |
ビュアーブル率 | 視認可能な広告の表示率 |
広告フリークエンシー | 同一ユーザーへの広告の表示頻度 |
オンターゲット率 | 広告がターゲットユーザーに届いた割合 |
広告運用の具体的な取り組みとして、デジタル広告取扱事業者を選ぶ際、広告主が想定するリスクや希望する対策、懸念事項などをあらかじめ調達の要件に含めることが望ましいです。
中小・零細企業や公的機関は、まずJICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)のような品質認証制度を利用し、認証を取得している事業者と取引することから対策を始めることが有効だといいます。
アドベリフィケーションツールは、配信されたデジタル広告の品質や効果を監視・検証する仕組みであり、ブランドセーフティ、アドフラウド、ビューアビリティの計測や対応に用いられます。中小・零細企業の他、投じられる広告予算が限られている企業等は、こうした機能が付加されている広告プラットフォームを利用するのがよいでしょう。
また、大手広告プラットフォームの多くは、キーワードや媒体カテゴリーに基づいて配信先を限定したり、望ましくない媒体を配信先から除外したりする機能を提供しています。
機能例 | 機能内容 |
---|---|
センシティビティ設定 | 広告に隣接して表示されるコンテンツの健全度レベルを選択する |
配信面の指定・除外 | 希望する配信面を指定もしくは、希望しない特定の配信面を除外する |
コンテンツタイプの除外 | 特定カテゴリーのコンテンツへの広告表示を防ぐ |
コンテンツテーマ・トピックの除外 | 特定のコンテンツテーマ(宗教、政治、ゲーム、ギャンブル、スピリチュアル等)に関連する動画やサイト、アプリへの広告表示を防ぐ |
コンテンツキーワードの除外 | 指定した語句と関連性の高いコンテンツ(動画、チャンネル、サイト、アプリ等)や語句に反応を示したオーディエンスへの配信を除外する |
広告の配信先を選別することも有効な手段です。セーフリスト(配信してよい媒体を指定)、ブロックリスト(配信を避けたい媒体を指定)、予約型広告(特定のメディアの広告枠を直接購入)、PMP(プライベート・マーケット・プレイス、限定された市場での取引)といった方法があり、それぞれのメリット・留意点を踏まえて使い分けることが望ましいでしょう。
実施した具体的な取り組みの効果を把握し、必要に応じて改善するためには、配信状況の確認が重要です。大手広告プラットフォームの管理画面やレポート機能では、配信先ドメインやクリック状況などを確認できるものが多いため、これらを活用してどのような媒体に広告が配信されたか確認できます。
すべての配信先を目視で確認するのは困難なため、表示数の多い順に分類するなどして、悪影響の高さ順にチェックしていきましょう。
意図しない配信先を発見した場合は、ブロックリストに設定することで、その後の再配信を防ぐことが可能です。デジタル広告取扱事業者と契約している場合は、広告主がどのような情報を把握したいか(アドフラウドへの配信状況、ブランドセーフティ確保状況など)を事前に協議しておくことが望ましいでしょう。
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