目次

  1. 中堅・中小企業とスタートアップの連携の目的
  2. 中堅・中小企業とスタートアップの連携事例
    1. 特殊な塗装技術との連携 新しいガラス製品へ
    2. 医・食・農・安全分野などの迅速診断へ
    3. 香りと映像が融合した体験型コンテンツ
    4. 「かくれフードロス」の活用
    5. 撹拌装置の内部を可視化
    6. 筋肉の疲労度や怪我のリスクを短時間で測定
    7. フィルムを使用する安価なエアラインレスブローシステム
    8. 猫用トイレを塗装で高機能化
    9. 電動バイクによる通勤支援のサービス化
    10. 薬局を認知症予防の新拠点へ
  3. 中堅・中小企業とスタートアップの連携その後
    1. 培地開発・細胞製造のDX
    2. 生体親和性の高い低コスト医療器具
    3. 防水・高機能な藍色LEDデバイス
    4. 電子機器のパフォーマンス向上へ
  4. 地域への展開と持続可能なイノベーション支援

 関東経済産業局の公式サイトによると、世界規模での不確実性が高まり、サプライチェーンの再編が懸念されているなか、企業は自社の知識や技術を磨き、改善・高度化を図る「知の進化」だけでなく、社外の知と組み合わせることで新たな技術やサービスを開発し、新市場を創出する「知の探索」が不可欠となっています。

 しかし、これまで中堅・中小企業を支援する自治体や産業支援機関、金融機関においては、中堅・中小企業とスタートアップとの連携の有効性やその手法が十分に浸透していませんでした。

 そこで、Go-Tech事業やサポイン事業を活用する成長意欲の高い中堅・中小企業に対し、異分野・新領域で革新的な技術やアイデアを持つスタートアップとのマッチング機会を提供する事業を続けています。これにより、既存事業の成長と新市場創出を両立させる「両利きの経営」の実践を促しています。

 「中堅・中小企業とスタートアップの連携による価値創造チャレンジ事業」から生まれた具体的な連携事例を紹介します。

東工業×マイスターズグリット
東工業×マイスターズグリット

 蛍光灯用ガラス管や魔法瓶等の製造ノウハウを持つ東工業が、特殊な塗装技術と塗装装置開発を行うマイスターズグリットと連携し、耐熱性・耐衝撃性に優れたホウケイ酸ガラス製品に、食品衛生法適合塗料や機能性塗料を適用することで、安全性・意匠性・機能性の高い新しいガラス製品の開発と量産体制の構築を目指します。

ツジデン × visualizeGene (豊橋技術科学大学)
ツジデン × visualizeGene (豊橋技術科学大学)

 各種機能フィルムの研究・開発・製造を行うツジデンが、革新的なマイクロ流路設計技術を持つ豊橋技術科学大学の研究チームと連携し、安価なフィルム加工でマイクロ流路を形成するツジデンの技術と、ワンチップでの多検体・多項目同時検査を可能にするvisualizeGeneの技術を組み合わせ、ウイルス、アレルゲン、農薬などの「迅速診断」を低コストで実現することを目指しています。

ツガワ×アロマジョイン
ツガワ×アロマジョイン

 EMS・OEMに強みを持つツガワが、香りを一瞬で消失させる独自技術を持つアロマジョインと連携し、ツガワの「空中浮遊ディスプレイ」にアロマジョインの香りのデジタルコントロール技術を付加し、映像と香りを組み合わせた次世代体験型コンテンツを開発。教育や医療分野への応用、認知症予防や心のケアなど、五感で記憶を刻む技術として幅広い社会課題の解決を目指しています。

みまつ食品 × ASTRA FOOD PLAN
みまつ食品×ASTRA FOOD PLAN

 餃子・焼売などの製造過程で大量のキャベツの芯を廃棄していたみまつ食品が、「過熱蒸煎機」で食品ロスを新たな食材に変えるASTRA FOOD PLANと連携し、工場から出る野菜の廃棄部分を有効活用し、食品パウダー「ぐるりこ」を使った新商品開発に取り組むことで、「かくれフードロス」問題に挑み、循環型食品経済の実現と消費者への意識改革を促すことを目指します。

佐竹マルチミクス株式会社 × トモクラウド・プロセス(千葉大学)
佐竹マルチミクス×トモクラウド・プロセス(千葉大学)

 撹拌装置製造販売の国内トップシェアを持つ佐竹マルチミクスが、電気トモグラフィー技術で製造プロセスを可視化する千葉大学の研究チームと連携し、撹拌装置内部をリアルタイムかつ立体的に測定し、複数物質の識別も可能にする技術を共同開発。食品・医薬品・化粧品などの製造プロセスにおいて、高度な撹拌制御による品質向上と生産効率の改善、省エネルギー化を実現することを目指しています。

朝日ラバー × タグル
朝日ラバー×タグル

 ゴム製品の製造技術を生かし筋電計測キットを開発した朝日ラバーが、ロボット触診技術で怪我のリスクを測定するタグルと連携し、両社の技術を組み合わせ、筋肉の疲労度や怪我のリスクを短時間で測定できる「総合的な身体情報取得システム」を開発。福島県をスポーツテクノロジーの先進地とすることを視野に入れ、地域の大学やプロスポーツチームとの連携も模索します。

メトロール × BOC Technology
メトロール×BOC Technology

 世界トップシェアの精密位置決めセンサを開発・製造するメトロールが、フィルムによるエアシステム構築ノウハウを持つBOC Technologyと連携し、産業機械の「原点だし」等で一時的にエアを使用する際に発生するエアライン配置の煩雑さを解消するため、「エアラインレスブローシステム」を開発。作業性・生産性の向上、金属加工の新しい可能性開拓に貢献しようとしています。

日研 × マイスターズグリット
日研×マイスターズグリット

 特殊なセラミック塗料を用いた高級ペット用品(猫用トイレ)を製造する日研が、独自の接着剤・塗布技術を持つマイスターズグリットと連携し、製造工程(ブラスト加工)を省略しつつ、ペットの使用に耐える高い強度を維持する技術開発。さらに、消臭・抗菌などの機能性塗料で付加価値を付与し、製造工程の短縮とコスト削減、そして高機能な高級ペット用品市場の開拓を目指しています。

野原電研×ナチュラニクス
野原電研×ナチュラニクス

 電子・自動車部品の受託製造を行う野原電研が、高温環境下でも長寿命特性を持つ次世代バッテリーシステムを開発するナチュラニクスと連携し、野原電研のタイ工場で、従業員の電動バイク通勤向け充電ステーションを設置し、福利厚生として電動バイクを貸与。安全・安心な通勤と脱炭素化を実現。将来的には、両社の連携により、次世代バッテリーと充電器の量産化を目指しています。

たんぽぽ薬局×なないろ(岐阜医療科学大学)
たんぽぽ薬局×なないろ(岐阜医療科学大学)

 地域に根差した調剤薬局を経営するたんぽぽ薬局が、MCI(軽度認知障害)早期発見&回復プロジェクトを持つ岐阜医療科学大学の研究チームと連携し、薬局に簡易認知機能テスト「Mini-Cog」を導入し、MCI早期発見・回復プロジェクトのアフターフォローを強化。薬局を認知症予防の新たな拠点とし、地域全体で高齢者を支える体制づくりに貢献しようとしています。

 これまでの連携からさらに事業が発展し、補助金を活用できている事例もあります。

コージンバイオ×Quastella

 国内培地製造シェアNo.1のコージンバイオが、高度な細胞品質管理技術を有する名古屋大学発スタートアップのQuastellaと連携し、細胞培養のDX化を進め、生産体制を高効率化し、細胞培養の品質を底上げすることを目指しています。2024年度にはQuastellaの細胞品質管理AIシステムがコージンバイオに本格導入されるなど、世界の再生医療市場での競争優位性を確立する動きが進んでいます。

青海製作所×インテリジェント・サーフェス
青海製作所×インテリジェント・サーフェス

 医療関係でのチタンなどの微細加工技術を持つ青海製作所が、革新的生体親和性材料「MPCポリマー」を開発する東京大学発スタートアップのインテリジェント・サーフェスと連携し、目指す価値: 難削材の加工プロセスを、生体親和性の高い高潤滑の膜でコートする表面処理で短縮し、安全・高機能かつ低コストな医療機器の開発を目指しています。両社の連携は2024年度のGo-Tech事業に採択されています。

レボックス×セシルリサーチ

 LED・LD光源の開発・製造・販売を行うレボックスが、藍色光を活用した海洋生物の付着制御及び除菌技術を開発するセシルリサーチと連携し、低ダメージ・高除菌性能を両立させ、海洋生物の付着も防止する「藍色光高輝度LEDデバイスを活用した革新的な除菌・海洋生物付着防止システム」を確立。両社の連携は2024年度のGo-Tech事業に採択されています。

岡本硝子×U-MAP

 特殊ガラスで世界トップシェアの岡本硝子が、繊維状窒化アルミニウム単結晶で放熱課題の解決に挑む名古屋大学発ベンチャーのU-MAPと連携し、放熱性に優れる新素材をセラミクスや樹脂に配合することで、あらゆる電子機器のパフォーマンス向上に貢献し、5G基地局やデータセンターなど、放熱技術が求められる新市場の開拓を目指しています。U-MAP社は2022年度にGo-Tech事業に採択され、岡本硝子は2024年度にU-MAPへ出資し、資本業務提携を開始しています。

 この事業のノウハウは、地域への横展開も進んでいます。新潟県では「ものづくり企業のスタートアップ連携チャレンジ事業」として、県内のものづくり企業とスタートアップの連携を支援。石川県では「オープンイノベーションによる新事業創出支援事業」と「石川テックプランター」が連携し、研究成果の社会実装とスタートアップ育成・支援を通じて、産学が連携した強固な産業創出のエコシステム構築を目指しています。

 持続可能な地域イノベーション支援のためには、以下の5つのポイントが重要と指摘しています。

  1. 地域特性の徹底分析: 地域の強みと課題を明確化し、データに基づく戦略立案を行う。
  2. 多様な連携体制の構築: 自治体、地銀、産業支援機関の役割を明確化し、企業ニーズと支援リソースをマッチングさせる。
  3. 成功事例の可視化と共有: 短期的な成果と長期的なビジョンを両立させ、地域内外へ積極的に情報発信する。
  4. 段階的な支援プログラムの設計: 企業の成長段階に応じた外部支援施策(Go-Tech、ものづくり補助金等)の活用を促す。
  5. 継続的な人材育成と知見の蓄積: 支援スキルの向上と標準化、ナレッジの蓄積とマネジメントシステムの構築を行う。