中国の「反スパイ法」とは 撮影・アンケート・種子採集にも注意 外務省

中国の裁判所が2025年7月にアステラス製薬の日本人男性社員に実刑判決を言い渡したことを受け、日本の外務省は「中国側からいわゆるスパイ行為をしているとみなされるリスクを低減するよう努めてください」と注意喚起を出しました。「反スパイ法」におけるスパイ行為の定義や、スパイ行為やその他違法活動とみなされる可能性がある行為の例とともに紹介します。
中国の裁判所が2025年7月にアステラス製薬の日本人男性社員に実刑判決を言い渡したことを受け、日本の外務省は「中国側からいわゆるスパイ行為をしているとみなされるリスクを低減するよう努めてください」と注意喚起を出しました。「反スパイ法」におけるスパイ行為の定義や、スパイ行為やその他違法活動とみなされる可能性がある行為の例とともに紹介します。
目次
外務省の海外安全ホームページによると、中国は2014年に「反スパイ法」を制定し、2023年4月に改訂され、さらに2024年5月には国家秘密保護法も改正されました。
これらの法改正により、中国における国家安全に関わる活動への取り締まりが強化されています。実際に、2014年以降、これまで17人の邦人が「国家安全」に関する罪で中国当局に拘束されており、現在も5人が拘束されていることが確認されているといいます。
とくに、2025年7月16日には、2023年に中国で拘束され、スパイ罪で起訴されたアステラス製薬社員の日本人男性に、北京市第2中級人民法院(地裁)は懲役3年6ヵ月の実刑判決を言い渡しました。
改訂された「反スパイ法」第4条では、スパイ行為が具体的に以下のように定められています。
具体的にどのような組織や人物が「スパイ組織及びその代理人」に該当し、どのような行為がスパイ行為とみなされるかなど明らかでなく、当局によって不透明かつ予見不可能な形で解釈される可能性があります。
中国で発行されている反スパイ法の解説書「中華人民共和国反間諜法釈義」によれば、「スパイ組織」とは「外国政府若しくは国外の敵対勢力が設立する、我が国の政治、経済、軍事等の面における国家秘密、インテリジェンス等の情報を収集し、若しくは我が国に対して転覆、破壊等の活動を行い、我が国の国家安全と利益に危害を及ぼすことを主な任務とする組織」を指すとされています。また、スパイ組織の資金援助を受けて行う活動もスパイ行為に該当するとされています。
「反スパイ法」の他にも、中国では「刑法」、「軍事施設保護法」、「測量法」、「統計法」等、様々な法律が「国家安全に危害を与える」とされる行為を規制しており、これらに違反すると拘束や刑罰の対象となる可能性があります。裁判で有罪となれば、懲役等の厳しい刑罰を科されるおそれがあります。
外務省は、スパイ行為とみなされる可能性のある、特に注意すべき具体的な行為の例を複数挙げています。これらは「最近の行為のみならず、過去の行為についても調査や拘束等の対象になり得る」と警告されています。
外務省は、携帯電話やパソコン等の通信機器は盗聴されている可能性があることを認識し、SNSや電子メールのやりとり等も同様な状況にあることを意識して利用するよう注意を促しています。デジタルデータの取得・保有・持ち出しもスパイ行為の対象になり得るため、取り扱いには細心の注意が必要です。
中国政府の国家秘密、インテリジェンス等に該当するとされる情報(文書、データ、地図等を含む)を、取得、保有、持ち出し、国外の組織へ提供する行為は厳しく規制されています。これには、何らかの手段で情報を取得・保有しただけで「スパイ行為」とみなされ、厳罰に処されるおそれがあります。
「軍事禁区」や「軍事管理区」と表示された場所への無許可の立ち入りや撮影等は、「軍事施設保護法」により禁止されています。軍用飛行場の施設や戦闘機の配置などを撮影し、ネット上で公開して摘発された事例も公表されています。
GPSを用いた測量、温泉掘削等の地質調査、生態調査、考古学調査等に従事した地理情報の収集、取得、所有等は、無許可で行うと違法とみなされるおそれがあります。手書きのものを含む地図を所持するだけでも対象とみなされる可能性があるため、細心の注意が必要です。
中国国家安全部が公表した事例には、外国人が自然保護区で多数の野生植物の標本や種子サンプルを発掘・採取・輸送したケースや、検査機器を多数設置し、地理、気象、生物などの機密データを収集したケースが含まれています。
「統計法」では外国人による無許可の統計調査も禁止されており、アンケート用紙の配布等の学術的なサンプル調査であっても、共同調査を実施する中国側機関(学校等)との十分な打ち合わせが不可欠です。活動内容が「調査」や「情報収集」に該当する可能性がある場合は、特に注意が必要です。
軍事関係施設、国境管理施設、デモ等政治活動の撮影(スケッチも含む)等は禁止されています。出会い系アプリで知り合った女性からの依頼で、報酬や歓心を買うために中国軍艦の停泊地や出港の様子を撮影したケースも摘発されています。
政治的とみなされる集会や行進、示威的な活動、ビラの配布、非公認の宗教団体の活動、非公認の場所での宗教活動、無許可の宣教活動や集会等も注意が必要です。
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