目次

  1. 労災保険の特別加入制度とは
  2. 中小事業主の特別加入とは
  3. 特別加入するための要件
  4. 特別加入の申請手続
  5. 特別加入の保険料
  6. 補償の対象
  7. 特別加入の注意点

 厚生労働省の公式サイトによると、労災保険は、国内で雇用されている労働者が対象です。しかし、それでは、中小事業主や自営業者、それらの家族などが労災保険の対象外となってしまい、仕事でケガを負っても労災保険を受けられません。

 しかし、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされれば、条件付きで労災保険に特別に加入することができます。これが、労災保険の特別加入制度です。

 特別加入することができる人は次の通りです。

  • 中小事業主など
  • 一人親方など
  • 特定作業従事者
  • 海外派遣者

 このうち、今回の記事では、中小事業主向けに情報を整理します。

 厚労省の特別加入制度のしおり(中小事業主等用)によると、労災保険に特別加入できる「中小事業主」は、次の2つにあたる場合をいいます。

 一つが、下の表のように労働者を常時使用する事業主です。労働者を通年雇用していなくても、1年間に100日以上労働者を使用している場合は、常時労働者をしているものとして取り扱われます。

業種 労働者数
金融・保険・不動産・小売業 50人以下
卸売業・サービス業 100人以下
上記以外の業種 300人以下

 もう一つが、労働者以外で、事業主の家族従事者や、中小事業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員などです。

 労災保険に特別加入するには、さらに次の2つの要件を満たし、都道府県労働局長の承認を受けていることが必要です。

  1. 雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立していること
  2. 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること

 申請するには、特別加入を希望する人の業務の具体的な内容、業務歴、希望する給付基礎日額などを書いた「特別加入申請書」を保険事務組合に提出してください。

 事業主本人のほか家族従事者など労働者以外で業務に従事している人全員を包括して特別加入の申請を行う必要があります。

 労災保険の特別加入による年間保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365)に業種ごとの保険料率を掛けて求めます。

 給付基礎日額は、保険料などの給付額を算定する基礎となるもので、3500~2万5000円の間で、申請にもとづいて労働局長が決めます。

 設備工事業の事業主が給付基礎日額9000円で特別加入する場合、保険料算定基礎額は次の通りです。

9000円×365日=328万5000円

 既設建築物の設備工事業の保険料率は12/1000なので、328万5000円×0.012=3万9420円が年間の保険料となります。

 ただし、保険料のほかに労働保険事務組合への委託費もかかりますので、事前に確認してください。近くの労働保険事務組合を探す場合は、全国労働保険事務組合連合会の公式サイトが便利です。

 労災保険の補償対象としては、厚労省によると、次のような場合があります。

  1. 申請書の「業務の内容」欄に記載された労働者の所定労働時間(休憩時間を含む)内に特別加入申請した事業のためにする行為およびこれに直接附帯する行為を行う場合(事業主の立場で行われる業務を除く)
  2. 労働者の時間外労働または休日労働に応じて就業する場合
  3. 1.または2.に前後して行われる業務(準備・後始末行為を含む)を中小事業主等のみで行う場合
  4. 1,2,3の就業時間内における事業場施設の利用中および事業場施設内で行動中の場合
  5. 事業の運営に直接必要な業務(事業主の立場で行われる業務を除く)のために出張する場合※船員である中小事業主等が船員法の適用のある船舶に乗り組んでいる場合は、積極的な私的行為を除き業務遂行性が認められます。
  6. 通勤途上で次の場合
     労働者の通勤用に事業主が提供する交通機関の利用中
     突発事故(台風、火災など)による予定外の緊急の出勤途上
  7. 事業の運営に直接必要な運動競技会その他の行事について労働者(業務遂行性が認められる者)を伴って出席する場合

 特別加入予定者がすでに病気にかかっていて、一般的に就労することが難しく、療養に専念しなければならない場合には、業務内容にかかわらず特別加入は認められません。

 症状により特定の業務からの転換を必要とすると認められる場合には、特定業務以外の業務のみ特別加入が認められます。 特別加入前に疾病が発症、または加入前の原因により発症したと認められた場合は保険給付を受けられないことがあります。

 このほか、特別加入者が被った業務災害が特別加入者の故意または重大な過失によって発生した場合や、保険料の滞納期間中に生じた場合には、支給制限(全部または一部)されることがあります。