目次

  1. 労務管理とは
    1. 労務管理で管理する事項
    2. 労務管理と人事管理の違い
  2. 労務管理が必要な理由
    1. 生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少
    2. インターネットの普及による従業員側の知識強化
  3. 労務管理の基本業務
    1. 業務:法定3帳簿の管理
    2. 業務:労働保険・社会保険の適用関係
  4. 労務管理に必要な知識や姿勢
  5. 労務管理の関連資格
    1. 資格:社会保険労務士
    2. 資格:ビジネス・キャリア検定(人事・人材開発、労務管理)
    3. 資格:メンタルヘルス・マネジメント検定
  6. 労務管理は会社継続の基礎作り

 労務管理とは、従業員の労働条件や職場環境について関連法の基準と同等以上に整備し、適切に管理運用することです。

 従業員数の規模によらず、1人でも従業員がいる場合には、会社は労務管理を行わなければなりません。

 労務管理において、管理する項目と代表的な関連法を次の表にまとめました。休職・復職について定めた法律は無いので、会社が任意で就業規則に定めることができます。

管理する項目 関連法
労働時間・休日 労働基準法、労働安全衛生法
賃金(給与・賞与) 労働基準法、最低賃金法
退職 労働契約法、民法627条
解雇・懲戒 労働契約法、労働基準法
休職・復職 なし
労働保険・社会保険 労働者災害補償保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法

 企業によっては、労務管理を行う総務と人事管理を行う人事とで部署がわかれていることがあります。

 人事管理では、従業員の募集・採用や人事考課・人事異動についての管理を行うことが多いようです。

 部署が分かれていたとしても、従業員の募集・採用の際には労働条件を明示すること(労働基準法第15条)とされています。

 その労働条件を見直したり運用したりすることが労務管理ですので、労務管理と人事管理は密接に関係しています。

 労務管理が、会社の継続的な事業の運営を目的として会社の礎を築くことだとしたら、人事管理は会社の利益増加を目的として、各従業員の能力を引き出し伸ばすことだと言えます。

 労務管理は年々重要度を増しているように感じます。その理由として下記の事項が挙げられます。

  1. 生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の減少
  2. 減少する生産年齢人口を惹きつける労働条件の整備
  3. 65歳以降も勤務可能な職場環境と社内規程の整備
  4. インターネットの普及による従業員側の知識強化
  5. 従業員からの問題提起や労使間トラブルの発生

 2019(令和1)年版労働経済白書によると、特に製造業で人手不足感が高まっており各社とも優秀な人材確保に奔走しています。

 生産年齢人口は1995(平成7)年の8716万人をピークとして2021(令和3)年には7443万人と約15%減少しています。

 労働条件や就業規則の整備は労務管理の業務です。

 人手不足の傾向が強まるなかで、魅力的な労働条件(週2日休日や休暇制度、最低賃金以上の賃金等)を提示し運用できれば求人において強みになります。

 また、高年齢化の進行により65歳以降も勤務できるよう、就業規則を見直した会社も多いのではないでしょうか。

 優秀で意欲ある従業員を勤続させることは会社にとって大きなメリットとなりますし、要件に該当すると「65歳超雇用推進助成金」が申請できる場合もあります。

 スマートフォンの普及により、インターネットやSNSは生活に無くてはならないものとなりました。

 労働関係の知識をわかりやすく解説するサイトやSNSも多くあり、経営者がアルバイトから「アルバイトでも有給が使えると聞いたが一度もそんな話聞いたことない、有給を使わせて欲しい」と尋ねられ慌てて労働基準法を調べ対応したというお話も聞きます。

 このように、従業員側の労働関係の法律知識レベルは上昇しており、厚生労働省の発表資料によると、2020(令和2)年の総合労働相談件数は13年連続100万件越の129万件となっています。

 労務管理の関連法を学び適切に制度化・運用しなければ、従業員からの問い合わせからの労使間トラブルへ発展したり、労働基準監督署に通報され調査対象となる可能性があります。

 労務管理を適切に行うことは、1.で挙げたメリットのほか、2.のようなトラブルの発生を防ぐというリスク低減効果もあると言えます。

 労務管理業務のうち、特に発生頻度が高く・トラブルに繋がりやすい業務について解説いたします。

 社会保険が適用されていない会社でも、従業員が1名でも居る場合には備え付けておかねばならない3つの帳簿があります。

 それぞれ「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」と言い、総称して法定3帳簿と呼ばれています。

帳簿名 記載事項 保存期間
労働者名簿 氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職や死亡年月日かつ理由や原因 労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年※
賃金台帳 氏名、性別、賃金の計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数、基本給や手当等の種類と額、控除項目と額 最後の記入をした日から3年※
出勤簿等 出勤簿やタイムレコーダー等の記録、残業命令書及びその報告書 最後の出勤日から3年※

※労働基準法第109条の改正に伴い2020(令和2)年4月1日より保存期間が3年から5年となりましたが、経過措置として当分の間3年とされています

 様式は任意ですが、労働者名簿・賃金台帳については厚生労働省サイト内で様式がダウンロードできます。

労働者名簿(PDF方式) 
賃金台帳 (PDF方式)
 作成・保存していない場合は罰則(労働基準法第120条)として30万円以下の罰金が課される可能性があります。

 よくあるトラブルとしては、労働者名簿の履歴が更新されておらず、従業員から労働者名簿を求められて急いで履歴を追加するといったことがあります。

 労働者名簿の履歴には、一般的に所属部署とその期間を記入します。

 労働者名簿を求められる場面として、従業員のお子さんが保育所に入る際に必要となることが多いようです。

 すぐに対応できるよう、異動があった際には労働者名簿の履歴も更新するようにしましょう。

 労働保険は労災保険と雇用保険の総称で、社会保険は健康保険と厚生年金保険の総称です。雇用保険・健康保険・厚生年金保険をまとめて社会保険と表記される場合もあります。

 下記に保険名称と加入要件、加入・喪失の手続期限をまとめました。

保険名称 加入要件 加入手続期限 喪失手続期限 管轄
雇用保険 ①1週間の所定労働時間が20時間以上
②31日以上の雇用される見込み
いずれにも該当するとき
雇入れた日の属する月の翌月10日まで 被保険者でなくなった日から10日以内 ハローワーク(公共職業安定所)
健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険 常時使用される人またはアルバイトでも①1週間の所定労働時間、②1カ月の所定労働日数
いずれも正社員の4分の3以上である人※
雇入れた日から5日以内 被保険者でなくなった日から5日以内 日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)

※いずれかが4分の3未満でも従業員数が501名以上の会社は加入となる場合があります

 表を見て「労災保険は手続きしなくて良いの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 労災保険は1人1人手続をして加入するものではなく、従業員が実際に働く「場所(事業所)」に適用され、その場所で働く全ての方が対象となります。

 3つの保険のうち、トラブルが多いのは雇用保険です。雇用保険は従業員が離職した後の失業手当(求職者給付の基本手当)や育児・介護休業中の手当を給付し、失業された方や雇用の継続を支える保険です。

 失業手当を受給するには、まず離職された方が離職票と雇用保険被保険者証等を持って住所地のハローワークに行く必要があります。このハローワークへ行くことが遅くなると、その分失業手当の受給も遅くなります。

 「せっかくハローワークへ来たのに会社から離職票をもらっていないから求職の申込みができなかった」という方をハローワークでお見かけします。

 従業員が離職する際には、会社が従業員へ離職票の発行時期や受け渡し方法を、きちんと説明することが必要です。

 離職票の書き方(賃金の計算期間や離職理由等)がわからない場合は、会社住所地のハローワークの雇用保険適用課へ問い合わせ、離職後速やかにハローワークへ提出しましょう。

 労務管理を行うには関連法の知識が必要です。

 現在は労務管理システムや管轄行政のリーフレットも充実しており、それらを活用するのでも良いのですが、そういった場合でも用語の意味(法定労働時間と所定労働時間の違いなど)や広く知られている事項(36協定など)については頭に入れておく必要があります。

 また、労務の関連法は毎年のように改正があるので、前年踏襲が通用しない場面が多々あります。

 そのため、労務管理の担当者は、関連法の知識を身につける法令遵守の意識や、法改正といった最新情報を適切に入手して会社に適用させる姿勢が求められます。

 最後に、そうした知識や姿勢を身につけるのに役立つ、労務管理の関連資格を3つご紹介します。

 ただ資格取得の自己啓発を呼びかけるだけではなく、取得推奨する場合には報奨金や学習費用補助といった社内制度があると良いでしょう。

 労務管理のエキスパートであり、国家資格となります。難易度も高いですが試験に合格していると労務管理の幅広い知識が十分についていると言えます。

 出題範囲と対象者毎に3級から1級までの3段階に分かれている公的資格です。

 1級のみが人事・人材開発・労務管理となり、他の級は人事・人材開発と労務管理で試験区分が分かれています。

 3級の労務管理を受験したことがありますが、労働基準法を中心に労働契約法・労働安全衛生法が多く出題されており、労務管理担当者なら把握しておきたい事項や語句について問われる印象です。

 難易度や学習コスト的にも、3級労務管理は担当者へ取得を薦めても良いと思う資格です。

 厚生労働省策定の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(PDF方式)を参考に試験問題が構築された公的資格です。Ⅲ種からⅠ種までの3段階に分かれています。

 労働基準法・労働安全衛生法のほか、厚生労働省の統計・白書から最新の傾向についても出題されるのが特徴的です。管理職が取得すると、部下のマネジメントに役立つことでしょう。

  • 実施団体:大阪商工会議所・各施行商工会議所
  • 後援:日本商工会議所
  • 試験時期:3月・11月の年2回(Ⅰ種のみ11月の年1回)

 労務管理の基本的な事柄について解説してきましたが、その内容は手間がかかるが直接的な利益は生まないうえ罰則があるものもある、と踏んだり蹴ったりなものだったかもしれません。

 それでも会社が事業を継続させるには、労務管理を適切に行うことが不可欠です。

 従業員のモチベーションを向上させるような労働条件や、快適に就労できる職場環境の整備は、勤労の場の土台作りであり、会社の礎となります。

 経営者の方は労務管理について、利益を生まないルーティンと思わず、これをちゃんと行っているから事業ができていると思っていただけると、担当者も報われると思います。