目次

  1. 株主に与えられた権利とは
  2. 株主総会の議決権
    1. 議決権の意味
    2. 事業承継と安定株式
  3. 株主総会の決議の種類
    1. 普通決議
    2. 特別決議
    3. 特殊決議
    4. 必要な株式保有割合
  4. 種類株式の種類
    1. 剰余金の配当
    2. 残余財産の分配
    3. 議決権制限種類株式
    4. 譲渡制限種類株式
    5. 取得請求権付種類株式
    6. 取得条項付種類株式
    7. 全部取得条項付種類株式
    8. 拒否権付種類株式
    9. 取締役・監査役の選任についての種類株式
  5. 株主の権利と持ち株比率
    1. 単独株主権
    2. 少数株主権
  6. 株式の分散と集約
    1. 株主の分散とリスク
    2. 株式の集約とメリットと方法
    3. 株主の協力を得るには
    4. 株式集約と税金
  7. 株式の集約が事業承継に必要
  8. 株主名簿とは
  9. まとめ

 そもそも会社は誰のものでしょうか。法的には、会社は株主のものです。これは上場、非上場関係ありません。

 商法改正以前は、株式会社の設立に発起人が7人必要だったことや、過去の相続税対策の一環として、株式を親族や幹部に分散させたこともあり、業歴が長い中小企業では、株主が複数人いることも珍しくありません。

 なお、株主は会社の株式を保有することで、以下の三つの権利を持ちます。

  • 配当など利益分配を受け取る権利(自益権)
  • 会社が清算された場合に残った財産を受け取る権利(自益権)
  • 株主総会に参加して経営に参加する権利(共益権)

 今回は上記の権利のうち、安定経営に関連が深い議決権について解説します。

 議決権とは、株主総会に参加して、議案への賛成・反対の意思表示ができる権利です。

 最近、著名な上場企業の一部取締役の選任が、株主総会によって否決されたことなどが、話題になりました。取締役の選任拒否は、株主総会の決議で実現可能なことであり、会社はだれのものか改めて考えさせられます。

 事業承継の場面でも、規模の大小にかかわらず、同じようなことが考えられます。先代や従業員、取引先などが、後継ぎを次の代表と認識していたとしても、もし株主が後継ぎを取締役に選任しなければ、引き継ぐことが出来なくなります。

 仮に後継ぎが株式をすべて保有できないとしても、常に後継ぎの意思を支援してくれる安定株主の確保が必要です。後継ぎが先代から事業を承継し、安定した経営をするには、株式または、自身を支えてくれる株主を確保する必要があります。

 株主総会は、株式会社の意思決定の最高機関にあたり、主に以下の事項について決議を行います。

  • 経営に関する事項
  • 役員の人事に関する事項
  • 株主の利害に関する事項

 なお、決議は特殊な場合が無い限り、1株1議決権の多数決で行われます。決議は、その内容によって普通決議・特別決議・特殊決議の三つに区分されます。

 普通決議の詳細は、以下の表の通りです。

以下の画像はすべて筆者作成

 特別決議の詳細は、以下の表の通りです。

 特殊決議の詳細は、以下の通りです。なお、決議事項によって要件が変わります。

 後継ぎが会社の代表として経営を行うには、重要な事項を決議する特殊決議を可決できる75%超を保有またはコントロールできることが望ましいでしょう。

 一方、取締役の選任の否決や解任は普通決議に含まれるので、議決権の半数以上の反対で、決議できてしまいます。

 そのような事態を避けるには、最低でも普通決議における過半数、つまり発行済み株式総数の50%超を保有、またはその割合を満たす安定株主を確保しておくことが必要です。

 総会の議決には株式が必要ですが、その株式にもいくつかの種類があります。一般的な株式にあたる普通株式は1株で1議決権ですが、それとは別に、種類株式というものがあります。

 その中には、配当を優先的に支給できる特別な権利を付けられたものや、議決を常に否決できるものもあります。またこれらの権利を組み合わせることも可能です。

 種類株式は、会社法によって、以下9種類の一部権利の付与や、制限する株式の発行が可能です。また、これらの権利のうち、配当金や財産分配について優先されている株式を優先株式と言います。この場合には、議決権が無い、あるいは制限されている場合が多いです。

 以下、種類株式の種類とそれぞれの内容について、順を追って解説します。

 剰余金の配当について、他の株式より優先または劣後する株式を指します。
なお、配当優先株式は、後述する「3.議決権制限種類株式」と組み合わせて発行されることが一般的です。

 会社を清算した場合の残余財産の分配について、他の株式より優先または劣後する株式になります。

 株主総会の決議事項の全部または一部について、議決権を行使することができない株式です。

 株式を譲渡する場合について、会社の承認を要する株式です。すべての株式にこの制限がついている会社を「非公開会社」といい、ほとんどの非上場会社は、非公開会社になっています。なお、全株式に譲渡制限をつけるには株主総会の特殊決議が必要です。

 株主がその株式について、会社に買い取るように請求ができるものです。

 一定の事由が生じたことを条件に、会社が強制的に取得できる株式になります。これを設定することで、事業承継の際に考えられる株主の相続発生を条件に、会社が株式を取得することも可能になります。

 2種類以上の株式について、株主総会の決議によって強制的に取得することができる株式です。

 一定の事項について拒否権を付与して、特定の株主が同意しない限り、決議することができない株式になります。「黄金株」とも言われていて、1株のみで決議について拒否することが可能ですので、後継ぎが持つことによって、経営の安定が図れます。なお、「黄金株」の発行には株主総会で特別決議が必要です。

 取締役・監査役の選任に関する事項について、議決権を有する株式になります。

 なお、これらの種類株式は、事業承継の場面において非常に効果的ですが、そのためには、定款変更や株主総会の決議を必要とするため、発行するには株主への理解が必須です。会社法とも密接に関係するため、税理士だけではなく、必要に応じて司法書士などの専門家とも相談することをお勧めします。

 株主の権利には、1株でも持っていれば行使できる単独株主権と、一定の持ち株比率に応じて行使できる少数株主権があります。

 議決権はこの単独株主権に該当します。その他、共益権(株主総会に参加して経営に参加する権利)に属する単独株主権には、以下のものがあります。

  • 株主名簿閲覧謄写請求権
  • 株主代表訴訟
  • 新株発行差止請求権
  • 株主総会決議取消の訴え

 少数株主権では、株主の持ち株比率に応じて、以下のような権利を行使できます。

 本章では、事業承継を目指す後継ぎの視点で、株式の分散によって生じるリスクと、集約の方法などを解説します。

 株式が分散して株主の数が増えれば、会社の意思決定にそれだけ時間と手間がかかることになります。

 株主全員が会社の経営に直接携わっている場合はまだしも、日常的に会社に関わっていない株主に対して、重要事項を説明し、理解を得るには労力が必要です。

 もし、株主が後継ぎに対して全幅の信頼を寄せていない場合、決議の都度、反対・否決されることで、事業が停滞する可能性があります。

 上記のような問題をなくすには、可能な限り株式を後継ぎに集約する必要があります。

 なお、株式を集約するには主に、後継ぎが株主から売買や、贈与・相続で取得する方法や、会社が株主から株式を取得する(自己株式)方法があります。

 また、状況によっては、後継ぎが株主となって別法人を設立し、その法人が株主から株式を取得して持ち株会社を作る方法もあり、金融機関などから提案されることもあります。

 円滑な事業承継を目指すなら、常に株主と意見交換することが大切です。例えば、株主は発行済み株式の3%以上保有していれば帳簿閲覧等の権利もあるので、敵対は避けなくてはいけません。

 また、非協力的な株主がいた場合は、状況の把握が必須です。保有株数、株式の取得経緯、年齢、家族構成、環境など、様々な角度から検討します。

 実際に、筆者のお客様で、外部株主がいる中小企業の社長が気を付けているのは、毎月の試算表の共有などによる情報提供と、会社の資産状況に変化が生じるような経営判断等の事前の報告(相談)、そして安定した配当とのことでした。

 しかし、中には意見が合わず、関係の維持が難しくなる場合もあります。その場合には前項のような株式の取得による解決も必要です。

 その際には取得資金が必須なので、会社として何らかの形で資金を準備する必要があります。自己の資金または資産の売却などで対応する場合もあれば、金融機関から資金調達することも考えられます。

 借り入れなら返済が必要なので、株式の集約により経営を安定させることで、利益を上げ、返済原資を確保する事業計画の策定も、視野に入れる必要があります。

 株式を集約する場合、主に譲渡所得税、相続税、贈与税等について検討が必要になります。

 株式の取得は、誰が誰から、どのくらい、どの方法で取得するかによって課税関係が変わります。詳しくは、ツギノジダイの記事「非上場株式の譲渡に課せられる税金は 事業承継のパターン別に解説」をご参照ください。

 後継ぎが、すべての株式を確保できれば問題ありません。しかし、仮に確保できない場合でも、他の株主と対話などを行うことで、安定株主として確保しつつ、状況に応じて、株式の集約ができるように取得するための資金や、万が一に備えた安定株主の新たな候補者などの準備は欠かせません。

 株式の集約が必要として、今の会社の株主構成はどうなっているのか、株主名簿は整備されているのかなど、まずは現状の確認と把握することが大切です。

 誰が株主で、何株保有しているかは、株主名簿で確認できます。しかし、全員が親族であることや、本業そのものに関係ないことなどから把握しておらず、古い情報のままの会社もあるのではないでしょうか。

 以前、承継間もない後継ぎの方と株主名簿を確認したら、ご本人の想像以上に多くの親族が株式を保有していることが分かり、驚いたことがありました。

 なお株主名簿に記載すべき内容は以下の通りです。

  • 株主の氏名または名称・氏名
  • 株主が所有している株式の数
  • 株主が株式を取得した日
  • 株券を発行している場合は株券の番号

 株主名簿は法人税の計算や株価の算定にも影響します。法人税申告書の別表2を株主名簿代わりにしているケースもありますが、別途作成が必要です。

 創業当時の株主たちは経営者の状況を理解した上で、安定株主として存在していましたが、世代交代をする中で、状況を把握していない株主や、親族外に相続されてしまう場合も発生します。

 事業が長く続くほど、この傾向は強くなって株式の分散・細分化が進むため、どこかの時点で集約に向けた対応が必要になります。

 まずは、改めて株主名簿を確認してみましょう。