目次

  1. 非上場株式とは
    1. 上場株式と非上場株式との違い
    2. 中小企業に多い非上場株式
    3. 非上場株式の譲渡が事業承継に必要
  2. 非上場株式の評価方法は
    1. 原則的評価方式
    2. 特例的評価方式
    3. 特定の評価方式
  3. 非上場株式の譲渡にかかる税金 無償譲渡の場合も
    1. 譲渡所得税
    2. みなし譲渡所得税
    3. 所得税
    4. 贈与税
    5. みなし贈与
    6. 相続税
    7. 法人税
  4. 承継パターン別の税金
    1. 現経営者から後継者への譲渡
    2. 現経営者から自社への譲渡
    3. 現経営者から他社への譲渡
  5. 非上場株式の譲渡に関する注意点
    1. 現経営者と株主の意向を確認
    2. 正確な株価の算定
    3. 売買と贈与の併用
  6. 非上場株式の譲渡は早めの準備を
  7. 準備を進めて、専門家に相談を

 まずは前提として、非上場株式について解説します。

 株式は上場株式と非上場株式に分けられます。非上場株式とは、証券市場(東証やジャスダックなど)で取引されていない株式のことです。税務上は「取引相場のない株式」と言います。

 なお非上場会社も、公開会社と非公開会社に分かれます。これは、会社の株式を譲渡する際に、会社の許可が必要かどうかで判断します。非公開会社は、すべての株式について許可が必要な会社のことを指します。

 中小企業庁のホームページによると、中小企業の定義は以下の通りです。また、法人税法上では資本金1億円以下を中小企業として、税務上優遇措置等があります。

中小企業の定義(中小企業庁ホームページから引用)

 中小企業の数は、直近の2016年では358万社にのぼります。内訳は小規模企業が305万社、中規模企業が53万社です。一方、日本取引所グループのまとめでは、全国の上場会社数は約3800社に過ぎません。中小企業のほとんどが、非上場株式であると言えるでしょう。

 株主は一般的に、過半数の株式を保有していれば経営権を持っていると言えます。経営権がないと、仮に代表取締役でも株主総会で意図しない決議が行われたり、解任されたりすることがあります。

 中小企業で、後継者が安定した事業や経営を行うには、経営権を取得したり、コントロールできたりすることが必要です。また、仮に会社を清算する場合、すべての資産と負債を清算して残った純資産は、持ち株数を案分して各株主に分配されます。

 事業承継において、株式の承継は避けて通れません。取引先や金融機関も、後継者がどれだけ株式を保有しているか、どのように承継するかに、強い関心を持っています。今後、取引を継続できるか否かにも関わるためです。

 では、税務上の非上場株式の評価をするにはどんな方法があるのでしょうか。非上場株式には取引をする市場がなく、所有者や取得者によって株の評価額が変わります。評価方法は、持ち株数や会社の状況に応じて、大きく三つに分けられます。

 実質的に経営権を持つ株主グループが所有する株式の評価方法です。さらに会社の規模に応じて、三つに区分されます。

  • 大会社=類似業種比準価額方式
  • 中会社=類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用
  • 小会社=純資産価額方式

 なお、区分の基準は以下の通りです。

大会社、中会社、小会社の区分(国税庁ホームページ参照)

 類似業種比準価額方式とは、上場している同業種の会社をもとに算出された株価と配当、利益、純資産の比準要素(国税庁ホームページで公表されています)と、自社の数値を基に株価を算定する方式です。上場企業に近い規模の中小企業に対して使われます。

 純資産価額方式とは、自社の純資産を時価換算する評価方式です。会社をすべて現金化した場合の価額を算出するイメージになります。

 少数株主が保有する株式の評価方法です。配当還元方式といい、過去2年間の配当金を10%の利率で還元して算出します。会社への影響力が少ないため、配当金をどのくらいもらえるかを基に評価します。

 上記のほか、実質的に経営権を持っている株主グループの所有する株式が、以下の要件を満たす場合には、次のような評価方法となります。

  • 比準要素数1の会社(※)→純資産価額方式
  • 株式等保有特定会社→純資産価額方式
  • 土地保有特定会社→純資産価額方式
  • 開業後3年未満の会社→純資産価額方式
  • 開業前または休業中の会社→純資産価額方式
  • 清算中の会社→清算分配見込み額

 ※類似業種比準価額方式で使用する三つの比準要素である配当、利益、純資産のうち、直前期末の比準要素のいずれか二つがゼロであり、かつ、直前々期末の比準要素のいずれか二つ以上がゼロである会社

非上場株式を評価する際に用いる数値のイメージ(以降の図表はすべて筆者作成)

 現経営者が株式を譲渡する際、課せられる可能性がある主な税金は以下の通りです(実際は下記のほか、復興所得税や住民税などもかかる場合があります)。

 経営者個人が株式を譲渡した際は、売り手に対し、株式の売価から、買価と売却時にかかった費用の合計額を控除した差額を対象に、譲渡所得税が課税されます。税率は15%です。

 個人が法人に対して、株式を無償または著しく低い価額(原則、時価の50%未満)で譲渡した場合、時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得税が課税されます。課税方法は、譲渡所得税と同じになります。

 株式の譲渡があった際、通常は譲渡所得税となります。しかし、自社に譲渡した場合は、自社からの配当とみなされる部分が、給与や年金などと合算されて所得税として課税されます。なお、所得税は累進課税方式で、税率は5~45%です。

みなし配当のイメージ
みなし配当のイメージ

 なお、今回のケースではありませんが、相続開始後3年10カ月以内に、相続人が相続した株式を自社に譲渡した場合は、所得税ではなく譲渡所得税が課税されるケースもあります(事前に自社を経由して、税務署へ届け出書の提出が必要)。

 株式を個人に無償で譲渡した際、取得した者には贈与税がかかります。生前に行われる、現経営者から後継者への株式譲渡で多いケースです。なお、贈与税には暦年贈与と相続時精算課税贈与があり、暦年贈与は累進課税で10~55%の税率になります。

 個人間で株式を著しく低い価額(原則、相続税評価額未満)で譲渡した場合は、時価との差額について贈与したものとみなして贈与税が課されます。課税方法は贈与税と同じです。

 株式の所有者が亡くなり、遺産分割協議などで株式を取得した者にかかる税金です。なお相続税は、亡くなった方のすべての財産債務と、誰がどれだけ取得したかで税額を算出します。税率は10~55%です。

 法人が時価よりも低い価額で株式(自社の株式を除く)を取得した際には、時価との差額が受贈益として計上され、法人税の課税対象になります。税率は資本金1億円以下の普通法人は、一定額までは15%、それ以外は23.2%です。

 株式の譲渡は、誰が誰にいくらで譲渡したかで課税関係が変わります。今回は、現経営者(実質的に経営権を持っている株主)が、株式を動かした際のパターンに絞って説明します。

 今回、株式譲渡の前提条件を以下のように設定したうえで、株式譲渡のパターン別に解説します。

・時価  1000万円
・取得原価  500万円
・資本金等  600万円
・著しく低い価額  400万円
・時価より高い価額 1500万円

 ※実務上、時価については所得税、相続税、法人税のどの課税関係になるかによっても金額が変わります。

 ※下記の対象金額はすべて、他の所得や控除額を省略した概算です。

 現経営者から後継者への株式の移動は、相続や贈与によるものが多いと思います。売買を行った場合は、時価と取得価額の差額により、譲渡所得税や贈与税が発生します。

 また、時価より高い価額で譲渡した場合には、時価部分までは通常の譲渡として譲渡所得税が課されます。しかし時価を超える部分は金銭の贈与として贈与税の対象になります。

現経営者から後継者への株式譲渡で課せられる税金のイメージ

 株式を自社に譲渡した場合、資本金の払い戻し部分と利益の分配部分で、課税関係が分かれます。払い戻し部分は譲渡所得、利益の分配部分はみなし配当として所得税の対象になります。

 また、高額で譲渡した際には、時価を超える部分については、株の対価ではなく、法人が現経営者に対して賞与の支給をしたと考えます。そのためその賞与部分が法人の損金として認められなくなり、結果としてその分、法人税が課税されることになります。

 そのため、経営者側でも時価を超える部分の金額については、譲渡所得やみなし配当ではなく、賞与として所得税の課税対象になります。

 自社が自己株式を取得した際は、資本部分の取引に該当するため、原則課税は発生しません。しかし、他の株主の株価に影響がある場合には、他の株主に対して贈与税が課せられる場合があります。

現経営者から自社への株式譲渡で課せられる税金のイメージ

 自社に子会社や関係会社がある場合には、その会社に売却することも考えられます。この場合、時価と取得価額の差によって譲渡所得税や所得税、法人税が発生します。

 また、高額で譲渡した際には、前項と同じく、法人が現経営者に対して賞与の支給をしたと考え、現経営者は所得税、他社に対しては法人税の課税対象となります。

現経営者から他社への株式譲渡で課せられる税金のイメージ

 株式譲渡と税金への理解が進むよう、筆者が実際に相談を受けた株式譲渡の事例をベースに紹介します(個人情報保護のため、設定は一部変更しています)。

 製造業を営む甲社は、創業70年を超える企業です。後継者も現経営者の子に決まり、事業承継を進めることになりました。ただ、ネックとなったのは、現経営者以外の創業者一族も、会社の株式の一定割合を保有していることでした。

 堅実な経営を行っていて、古くから不動産を所有していたこともあり、株価もそれなりの価額になることが予想されました。以下、会社と保有株式の関係図をもとに、どのように株式の承継を進めたのかを説明します。

甲社の株式関係図

 まずは現経営者から、後継者への事業承継に株主全員が賛成していることを確認しました。その上で、早い段階で株式売却を希望する株主もいれば、影響がない範囲で株式を保有し続けたい株主、後継者に譲りたい株主もいたため、各株主の状況や実施時期の希望を確認しました。

 適正な株価の算出が大切になるため、それぞれの課税関係を整理したうえで、甲社の資産と負債の精査や時価換算を行い、株価の算定を行いました。

 甲社には関係会社乙社もありました。売却希望者に対しては、課税関係(譲渡所得税と所得税)の説明を行ったうえで、甲社(自己株式)と乙社(他社)の2社で売買を実施。贈与に関しては、後継者が受ける形で対応しました。

 今後、現経営者から後継者への株式移転は、生前贈与と相続での対応を予定しています。

 現経営者(A)、後継者(B)、株主たち(C、D、E)の計5人の株式は以下の図表のように、整理しました。

①株主Cから後継者Bなどへの株式譲渡のイメージ
②株主Dから後継者Bなどへの株式譲渡のイメージ

 上記の事例も一度にまとめて実施することはできず、当初の相談から10年ほど時間をかけて株式の集約を行いました。

 株式の承継は、利害関係者が多く、相続がいつ起こるか分からないという事情があります。また、株式の取得や税負担を考えると、ある程度の資金が必要になり、状況に応じて金融機関との相談も必要になります。

 事前に対策することで株価を下げて、税額を軽減することや、贈与税や相続税を猶予できる事業承継税制を活用して税負担を下げるケースも考えられます。どちらにしても早めの着手が大切です。

 株式の承継には、株主構成や株価の問題、課税関係の整理、その他に定款の整備など法務面も含めた確認検討すべき事項が、多岐にわたります。まずは下記の資料などを確認の上、事前に専門家と相談しながら、承継の準備を進めましょう。

  • 定款
  • 謄本
  • 株主名簿(過去の変動の把握も必要)
  • 申告書や決算書3期分
  • 現経営者の財産の状況がわかるもの

 以上の説明が、株式のスムーズな承継への参考になれば幸いです。