目次

  1. 中小企業でのAI活用のメリット
  2. 中小企業がAIを活用できる5つのサービス
  3. 経営者の理解や社内のリソース不足に課題
  4. AIの活用例をハンドブック化
  5. 需要予測でのAI活用のポイント
    1. 導入範囲の決定
    2. 導入費用の見積もり
    3. データ取得
    4. 予測モデル構築・最適化
    5. 導入・運用
  6. AI導入で活用できる補助金
    1. ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
    2. 戦略的基盤技術高度化支援業(サポイン事業)
    3. 商業・サービス競争力強化連 携支援事業(新連携支援事業)
  7. AI活用の支援者の探し方

 従業員の高齢化、離職率が3年目で3割を超え、人手不足は年々深刻に……。そんな中小企業の課題に対し、AIは従業員満足度の向上、技術継承促進と若手の育成などに役立つかもしれません。 

中小企業が抱える従業員の高齢化や高い離職率、人手不足などの課題

 経産省は戦略的基盤技術高度化・連携支援事業の最終報告書(PDF方式:1.43MB)のなかで、2025年までに減少が見込まれる中小企業の労働人口390万人に対し、AIを活用することで最大40%程度を補えると推計しています。

 報告書では、AI導入インパクトが大きい領域・業界として5つのサービスを挙げています。この5分野で導入インパクトは3.9兆円に上ると試算しています。

  1. 機械・施設へのセンサー取付による予知保全を通じた逸失利益・補修費用の最小化(製造業)
  2. 売上実績等の社内データ・気候等の外部データの分析による需要予測・在庫最適化を通じた業務効率化・逸失利益・不良在庫最小化(製造業・卸小売業)
  3. 全業界における文字認識(AI-OCR)・RPAによる受注–調達–請求・支払等の経理関連業務効率化
  4. データマーケティング(購買データ解析と個人向け販促)によるマーケ費用削減・売上増加(卸小売業)
  5. 画像認識による不良箇所自動検出を通じた検品作業効率化(製造業)

 ただし、経産省の調査では、中小企業2000社のうち、導入済みと導入予定の企業は合計で3%にとどまりました。経営層の理解不足やジブンゴト化していない、理解はしていても社内のリソースが不足しているといった課題がありました。

 具体的には次のような意見があったといいます。
「現在のAI技術では目的達成が困難そう」
「費用対効果が分からない」
負担可能な初期費用は50万円で「個別ツールの開発では費用対効果が得られない」

AIの導入を断念した理由(経産省の戦略的基盤技術高度化・連携支援事業の最終報告書から引用)

 こうした課題に対し、経産省はAIを活用する中小企業が増えるよう、同業他社の成功事例や導入ノウハウを「AI導入ガイドブック」としてまとめました。

 この記事では、ガイドブックで紹介している「需要予測」を例に紹介します。

 経産省の「AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)」(PDF方式:3.19MB)によると、ホームセンターの「グッデイ」は、5年分の売上データをもとにAIによる需要予測を活用したところ、担当の勘に頼っていた仕入れをデータにもとづいて標準化できるようになり、売上が前年比124%、平均在庫16%減の成果が生まれたといいます。

企画から導入・運用までの導入工程(AI導入ガイドブックから引用)

 AIの導入範囲を決めるには、まず需要計画について改善したい点を正しく把握し、必要性があることを確認することから始めましょう。ただし、100%の精度での予測はできないことを前提にして考えましょう。改善したい点は具体的には次のような困りごとのことです。

  • 想定外の発注をかけることによる、仕入れ価格の増加
  • 過剰在庫による廃棄ロスが増加
  • 欠品の発生による、顧客満足度の低下

 つぎにAIを活用して予測を行う対象商品の優先順位づけをしましょう。具体的には、利益率や欠品率の高かったり、需要に一定の法則性があったりするものから選ぶことをお勧めします。さらに、効果測定のための指標をあらかじめ決めておきましょう。

 つぎに導入必要な機材の目途をつけ、費用を概算しておきましょう。自社データを使い店舗毎の日次での商品別販売予測を行う際の年間費用として、導入ガイドブックでは次のような事例が紹介されています。

  • データ保管(50GB未満で保存料金約100円/月程度)……年間1200円~
  • AIを構築できるパソコン(自社にある場合は0円)……8万円~
  • AI構築用のGUIツール(月1回モデルを再構築、毎月100時間予測)……6万円~

 売上実績や曜日・カレンダーデータに加え、売上に影響を与えているデータを集めましょう。カレンダーのデータは、カレンダーサービスのサイトでダウンロードできます。天候のデータが必要な場合は気象庁のサイトから入手できます。

 中小企業で、AIによる予測モデルをつくるためには、高度なプログラミング知識なしで構築・保守運用できるサービスから選びましょう。1回ではうまくいきません。予測モデルの検証と修正を繰り返しながら精度を上げてください。

 どれだけ良いAIをつくっても使い方が間違っていると正しく予測できません。誤ったデータを入力したりしないためにも、作業手順書をつくり、研修などで活用方法を広めましょう。また、予測モデルは常に更新が必要です。

 データを継続的に学習させ、将来の予測を行うという流れをつくりましょう。また、予測するだめでは意味がありません。予測にもとづいて販促計画の見直しや発注量の調整などに生かしましょう。

 AI導入の際に活用できる補助金としては、たとえば次の3つがあります。詳しくは、経済産業省の各地にある経済産業局で、AI導入のときの支援策の相談に乗っています。

 ものづくり補助金とは、中小企業者の革新的な製品・サービス開発や、生産プロセス・ サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資を支援する補助金です。上限は1000万円、補助率は3分の2です。

 戦略的基盤技術高度化支援業は、中小企業が大学などと連携して製品化につながる可能性の高い研究開発、試作品開発、販路開拓への取り組みを支援します。

 補助上限は、単年度で4500万円、3年間合計で9750万円です。中小企業・小規模事業者の補助率は3分の 2以内です。

 商業・サービス競争力強化連 携支援事業は、中小企業が産学官などと連携した新しいサービスモデルの開発のうち、地域経済を支えるサービス産業の競争力強化に資すると認められる取り組みを支援します。

 補助上限は初年度3000万円、2年度は初年度の交付決定額と同額です。補助率は、補助対象経費の2分の1以内(AI・IoT等の先端技術活用の場合は2/3以内)です。

 中小企業に、AIを活用できる人材がいるとは限りません。AI導入を現場で実際に支援するIT専門家は、中小企業デジタル化応援隊の事務局サイトから探すことができます。一部費用負担があるので注意してください。