目次

  1. 生産性とは
    1. 生産性の定義
    2. 効率性とは
    3. 付加価値とは
  2. 生産性の種類
    1. 物的生産性
    2. 付加価値生産性
  3. 生産性を意識する上で経営者が注意したいところ
    1. 会社への忠誠心を求めない
    2. 業務品質を維持しようとして残業するのはNG
    3. 顧客満足度と生産性は表裏一体
  4. 生産性向上の取り組みは慎重に

 生産性とは、従業員の労働、生産設備など生産要素の投入量(インプット)に対する生産物(アウトプット)の比率です。

 生産要素には、従業員の労働、設備、原材料など外部購入品などが含まれます。‘生産性’と同じように使われる経営用語として‘効率性’や‘付加価値’があります。

 わかりやすくいうと、‘効率性’はインプットを管理する指標、‘付加価値’はアウトプットを管理する指標、そして生産性とは‘効率性’と‘付加価値’の両面から管理する指標となります。

 何かを生産する場合には、設備や土地、建物、原材料などが必要になります。さらに設備を操作したり加工したりする労働者も欠くことができません。

 このような生産を行うために必要となるものを生産要素(インプット)といいます。

 生産性とは、生産要素(インプット)を投入することによって得られる生産物(アウトプット)と割合のことをいいます。計算式は、次のようになります。

 生産性=生産物(アウトプット)/生産要素(インプット)

 この計算式の値が高ければ高いほど、生産性が高いことを意味しています。また、生産性を向上させるためには、二つの視点が必要です。一つが分母である生産要素を減らすこと、もう一つが生産物を増やすことです。

 例えば、新人では一日に1個しか作れなくても、熟練すれば一日に2個作れる場合、二つの側面があります。

 一人の生産要素を基準とした場合、一日の生産物が2倍に増加したことで生産性は2倍になったと考えることができます。

 1個の生産物を基準とした場合、一日の生産要素(時間)が半日と減少したことにより生産性は2倍となったと考えることができます。

 効率性とは、労力や設備の稼働などで無駄を削減することをいいます。生産性の向上を図るためには、生産要素(インプット)の効率化が必要です。

 保有する設備や業務プロセスの効率化を進めていくと無駄なコストや時間の削減が図られ、生産性の向上に結び付きます。

 例えば、労働者に着目した場合、労働者の人数や総労働時間が生産要素(インプット)となります。

 労働者が生み出す生産物(アウトプット)が同じであっても、労働者の人数や総労働時間を減少させることで生産性は向上します。

 取組みとしては、OJT(On-the-Job Training:実際の業務を行なう中で必要な知識や技能を身につけさせていく教育手法)などを通じたスキルアップ、業務プロセスの改善などがあり、まずは総労働時間の効率化(減少)がターゲットとなります。

 付加価値とは、商品やサービスが持っている価値に、その企業独自のプラスαで付け加える価値のことを意味します。

 競合他社と差別化を図るためには、同じような商品でも、顧客に選ばれる価値を提供しなければいけません。この価値を付加価値といいます。

 例えば、珈琲では、安価に自販機で買える珈琲もあれば、ホテルなどでの雰囲気のある空間や接客による高価な珈琲もあります。これが付加価値の違いです。

 付加価値額は、企業が事業活動によって生み出した付加価値を数値換算したものです。

 付加価値額の計算式は色々ありますが、売上から原価を差し引いた額を付加価値額とし、粗利とほぼ同じ意味で使われることが多いです。

 例えば、原価1,000円の原材料を加工して2,000円で販売した場合、付加価値額は1,000円になります。

 生産性の代表的な種類として、物的生産性と付加価値生産性があります。

 物的生産性とは、生産性のうち、物量を単位とするものです。物量の単位とは、生産物(アウトプット)の数量、大きさ、重量などをいいます。この値が大きいと、基本的には生産性が高いことになります。

 インプットが、労働力でいうとベテラン社員と新入社員、設備でいうと最新設備と故障しがちな中古機であるとアウトプットに大きな差が出ることは自明のことでしょう。

 例えば、隣り合うラーメン店で店主一人の場合、一日にA店が100杯、B店が50杯を売り上げる場合、‘杯’が物量の単位となり、A店の一人当たりの物的生産性は2倍になります。

A店:100杯÷1人
B店:50杯÷1人

 付加価値とは、労働や資本など生産要素を使用して新たに付け加えた価値を金額換算したものです。

 色々な計算式はありますが、簡便な手法として、売上から売上原価を差し引いた粗利(売上総利益)を付加価値とする考え方もあります。

 付加価値は会社の業績の根幹ですので、この値が大きいほど生産性が高くなります。

 注意しなければいけないことは、物的生産性が高くても、販売価格などの影響により付加価値生産性は高くなるとは言い切れないことです。

 先ほどのラーメン店の場合、A店のラーメンが1杯500円・粗利が250円で、B店のラーメンが1杯1,000円・粗利が500円の場合、A店とB店の一人当たりの付加価値生産性は、25,000円と同じになります。

A店:250円×100杯÷1人=25,000円
B店:500円×50杯÷1人=25,000円

 物的生産性ではA店がB店の2倍であっても、金額換算した付加価値生産性では両店が同じになることは面白いですね。

 日本の生産性が低いことは、国内外から指摘されているとおり事実です。日本生産性本部の調査によると先進7ケ国でも長年最下位に甘んじています。

 この問題には、日本人の価値観や産業構造など色々な視点から分析されています。

 筆者は駐在経験があり、特に社員の働き方(働かせ方)が、日本だけ世界標準と異なっていることがその背景にあると考えています。

 海外と同じレベルの生産性を実現するためには、次のような状況が当たり前と理解できるようになることが求められます。

 日本でも非正規社員が増えてきていますが、終身雇用の考え方は根強いものがあります。

 そのため、日本の経営者は、社員に対して企業文化や会社が求める社員像への尊重、会社への忠誠心を求めがちです。

 しかし、海外ではこういう感覚は皆無です。

 そもそも会社への忠誠心は、詳しくは後述しますが、オーバースペックな業務品質になりやすいです。結果的にコスト高となるため、生産性の低下につながります。

 また、経営者が日本型経営を貫き長期雇用を望んだとしても、社員の意識や労働制度の差は大きく、中々実現できないのが実情です。

 したがって、経営者としては、会社への忠誠心どころの話ではなく、むしろ社員はいつ退社してもおかしくないと覚悟しておいたほうがいいでしょう。

 そうした現状から、社員育成のためにコストや時間をかけることが、かえって生産性の低下を招くことを理解する必要もあります。

 日本の購買部門や経理部門では、入庫金額と買掛金金額の一致は当たり前で、一致させるための調査や調整は当然のこととされています。

 日本では、現場に高い業務品質を求めるため、現場は時には残業してまでも業務品質を維持しようと考えます。

 しかし、海外ではこの調査・分析業務は期待できません。

 短いスパンでの人の入れ替わりが当たり前だと、不良在庫、不良債権など前任者が犯したミス・不始末を解決するのが難しいからです。

 日本人にはなかなか理解できないのですが、残業してでも業務品質を維持することはコスト高につながり、生産性悪化を招くと考える海外経営者も少なくありません。

 現実に、会計上や税務上もこの不一致を容認した制度になっていますし、会計システムなどもこの不一致の機能が実装されているのが世界標準です。

 日本の常識は世界の非常識の一例と筆者は理解しています。

 日本の経営者にとって、生産性の向上は向き合わなければならない課題です。その一方で、生産性向上への意識を強めると、顧客満足度は低下します。

 ネットでの送金がまだ普及していない時代、外資系の銀行を利用することにはリスクがありました。

 月末送金など業務量が格段に多い時に、邦銀では、遅くまでの残業をしてでも期日内の送金業務を請け負ってもらえました。しかし、外資系の銀行ではそこまでのサービスは期待できませんでした。

 月末送金の不履行は、顧客満足度の不満を招き、会社の信用度の低下につながります。そのため、私の場合は事前準備を行い、早めの手続きを行っていました。

 経営者は、あまりに生産性や効率性重視のスタンスでいると、かえって本当に大切にすべきことが疎かになる、ということにも注意を払う必要があります。

 日本企業が世界標準と大きく異なることとして、生産性が低い以外に長寿であることがあります。

 日経BPコンサルティングによると、世界の創業100年以上の企業のうち、半数近くが日本の企業です。創業200年以上の企業では、その比率は65%まで上がるとされています。

 筆者は、その背景には、日本企業が昔から大切にしてきた価値観があると考えています。社員やお客様を大切にし、ともに満足するという価値観です。

 生産性の向上はもちろん優先すべき課題です。しかし、生産要素(インプット)を効率化して生産性を向上させることは、本文でご紹介した顧客満足度のように、何かを失ってしまう可能性があります。

 今、経営者には、自社が大切にしている価値観を改めて確認し、生産性の向上に取り組むことが求められているのです。