役員報酬の変更方法は?変更時期・タイミングで異なる手順 ルールを解説
事業運営をしていると、業績の変化や役員からの声によって、あらかじめ決定した役員報酬の金額を増額または減額せざるを得ない場面に出会います。役員報酬を変更するときは、役員給与が事業年度開始の日から3ヵ月以内に改定されていないと損金として認められないなど、税務上、守るべきルールがあるため注意が必要です。そこで詳しいルールの説明と、具体的な変更手順をわかりやすく解説します。
事業運営をしていると、業績の変化や役員からの声によって、あらかじめ決定した役員報酬の金額を増額または減額せざるを得ない場面に出会います。役員報酬を変更するときは、役員給与が事業年度開始の日から3ヵ月以内に改定されていないと損金として認められないなど、税務上、守るべきルールがあるため注意が必要です。そこで詳しいルールの説明と、具体的な変更手順をわかりやすく解説します。
目次
事業をスタートすると、業績が良くなり役員給与を増やしたいときや、従業員と同じタイミングでボーナスを出したいと思うときがあるのではないでしょうか。
また、逆のケースとして大口の取引先の失注や新型コロナウィルスなどの外部環境の変化により業績が急激に悪化し、役員給与を見直したいということはないでしょうか。
下記は、役員報酬変更のよくあるケースです。
役員報酬を変更する際は、まず「税務上の役員」と「税務上の役員報酬」の定義をおさえておく必要があります。
「税務上の役員」について知る必要があるのは、この範囲を適切におさえておかないと、「実は役員ではなかったので、その人の給与が税務上の経費(=損金)として認められなかった」といったリスクが生じかねないからです。
他方、「税務上の役員報酬」をおさえる必要があるのは、支給の方法や金額の設定タイミングや手順を間違えると、やはり税務上の損金として認められなくなるといった理由からになります。
税務上の役員とは、国税庁によると、次のように定められています。
1 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm より一部抜粋
2 1以外の者で次のいずれかに当たるもの
(1) 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの
(2) 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの
要約すると、税務上の役員とされているのは、次のような人です。
ここで知っていただきたい点は、経営に従事していると判断される方も役員となります。肩書きで言いますと、会長や相談役、といった方々がそれにあたります。
また、一定の株式を保有し、取締役会等の経営意思決定会議に参加している方も、税務上の役員に該当するためご注意ください。
税務上の役員報酬とは、「税務上の役員に支給される給与とボーナス」を言います。
役員に支給される給与とボーナスは、税務上のルールに合致した手続き(決定方法)と支給方法が満たされていなければ、その全額を税務上の経費(=損金)として認められません。
役員報酬を利用して法人利益を圧縮し、意図的に法人税等を下げてしまう人がおり、それを防止するためです。
税務上の損金として認められる役員給与とは、以下の手続きと支給方法を満たす必要があります。
損金として認められる役員給与 | |
---|---|
必要な手続き (決定方法) |
事業年度開始の日から3ヵ月以内に改定されていること |
支給方法 |
・支給時期が1ヵ月以内の一定の期間ごとであること |
損金として認められる役員ボーナス | |
---|---|
必要な手続き (決定方法) |
税務署に期限内に届出を行っていること |
支給方法 |
・届出の金額通りに支給すること |
なお、上記の役員給与と役員ボーナスは、あくまでも「損金」と認められる場合に必要な手続きと支給方法になります。
役員報酬を支給すると、役員自身の所得税や住民税が発生しますので、目先の法人税だけを見て役員報酬を変動する人は考えにくいのではないかと思いますが、役員報酬が安易に変更できないことをおさえておきましょう。
ところで、ニュースでみるような会社の不祥事により倫理的な観点から、役員報酬を返納することを見ることがあります。それは、原則可能です。
ただし、役員報酬の返納や役員報酬の一定期間の減額は、経理上はできるものの、損金となりません。損金とならずとも、対外的な印象回復のために必要なときは一案かもしれません。
役員報酬におけるルールにおいて、とくに注意しなければならないのが、役員給与が事業年度開始の日から3ヵ月以内に改定されていないと損金として認められない点です。
よって、役員報酬を変更する際も、変更手続きが事業年度開始から3ヵ月以内に終わるかどうかが、ひとつの分かれ目となります。
まずは、3ヵ月以内に終わる場合の手順です。以下のような流れで進めるのが一般的です。
【役員報酬を変更する手順(手続きが事業年度開始から3ヵ月以内に終わる場合】
手 順 | 補 足 |
---|---|
1. 役員報酬の金額を決定する |
来期の予算や着地見通し、資金繰りをもとに算定すること |
2. 株主総会開催のための株主への招集通知(議案含む)の準備・発送 | 株主全員の同意がある場合、省略も可能 |
3. 株主総会の開催、決議の実施 | 株主全員の同意がある場合、書面決議による株主総会も可能 |
4. 株主総会議事録の作成 |
株主総会の招集通知に記載した議案に基づき株主総会議事録を作成 |
5. 役員報酬の変更 | 給与計算の変更の実施 |
6. 各種書類の提出 |
役員報酬の変更が社会保険2等級以上の変更の場合、年金事務所へ届出が必要 |
※上記は取締役会非設置会社の場合。取締役会設置会社の場合、取締役会で個別の役員報酬を決定することもある
役員報酬の変更は、まず具体的な金額を決定するところから始めます。 役員報酬は、来期予算や来期の着地見通しから決めるのが一般的です。
例えば、業績が好調であり来期も継続して好調を推移する見通しと想定されるため、役員給与を増額する、といった場合は、役員報酬を除いた来季の着地見通しと獲得したい利益金額を参考に役員給与や役員ボーナスを決定します。
増額の際は、会社負担の社会保険料の金額に注意してください。これを踏まえておかないと、役員報酬の負担が前年よりも重くなってしまう可能性があるからです。
役員報酬と会社負担の社会保険料(=法定福利費)を合わせて業績への影響を気にするようにしましょう。
一方、業績の下振れが見込まれるという理由で減額する場合ですが、こちらも増額のときと参考にする情報は同じになります。
ただし、業績悪化の場合は加えて資金繰りや銀行などへの見え方(業績が悪い時に役員報酬も下げるんだという姿勢)を意識するのがよいでしょう。
また、減額する際は、役員の生活が維持できる範囲での引き下げとすることをお勧めしています。生活ができないレベルに引き下げ、役員が会社からお金を借りることになるケースが散見されます。
役員が会社からお金を借りる場合、銀行や外部株主からの印象が悪くなりますので、ご注意ください。
なお、繰り返しになりますが、今説明した増額・減額の決定方法やそれに伴う注意点は、あくまで一般的な話に過ぎません。
実際に決める際は、業種や規模、何より当該役員の報酬に対する気持ちが強いか・弱いかも加味しながら行われます。
決定した役員報酬に変更するためには、株主総会を開催する必要があり、事前に株主総会開催のための株主への招集通知(議案含む)を発送しなければいけません。発送期限は、株主総会開催日から2週間前です。
役員報酬(給与+ボーナス)の決定は、一般的に計算書類の承認と合わせて行われることがしばしばあります。
非上場会社(多くの中小企業)の場合、税務申告が期首から2ヵ月以内に行われることが多いため、役員報酬の決定の株主総会も期首から2ヵ月以内に決定されることが多い印象です。
例えば、3月決算の場合、5月25日ごろに決算承認と役員報酬の決定の株主総会を開催し、株主総会議事録が残される、というイメージです。
あくまで目安ですが、もし上記イメージで進める場合、招集通知の発送も5月初旬には行っておく必要があるでしょう。
参考までに招集通知の雛形イメージを添付します。
なお、株主全員の同意が得られれば、通知の発送の代わりに、メールや口頭での連絡でも構いません。
一般的に代表取締役が議長として、議案を元に議事を進めます。
決議の方法は、メールなどの文書もしくは挙手による投票で問題はありません。
「役員報酬を株主総会でしっかり変更の決議を取りました!」と株主総会議事録に残すことが税務上の役員報酬の決定において重要になります。
出席した役員の署名捺印も必要となりますので、忘れないようご注意ください。
こちらも雛形を添付します。
株主総会で決定された役員報酬の額に基づき、金額を変更します。
なお、3月決算で5月25日ごろに役員報酬の変更が株主総会によって確定した場合、5月分からでも6月分からの変更でも問題ありません。
役員給与を変更した場合で、社会保険料の等級が2等級以上変更する場合、日本年金機構(年金事務所)へ「被保険者報酬月額変更届」の提出が必要となります(フォーマットは、日本年金機構のWebサイトにあります)。
2等級以上の変更は、具体的には、月額の役員給与を約4万〜6万円増加もしくは減少したときです。
役員ボーナスを設定した場合は、税務署へ「事前確定届出給与に関する届出」という書類の提出が必要となります(フォーマットは、国税庁のWebサイトからダウンロードできます)。
こちらは、提出期限が株主総会の日から1ヵ月以内に提出が必要となりますので、ご注意ください。
次に、役員報酬の変更手続きが事業年度開始から4ヵ月以降に終わる場合です。
このパターンでの変更は基本的に損金算入できないのですが、税務上、以下の2種類のケースについては損金算入が認められています。
ケース | 具 体 事 例 |
---|---|
1.臨時の改定 |
・役員の職制上の地位の変更(平取締役から代表取締役へ) |
2.業績悪化時の改定 |
・新型コロナウィルスによる業績大打撃(※1) |
※1 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/faq/04.htm (問6、問6-2)
※2 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf
「1.臨時の改定」とは、新たに取締役に選任された場合や肩書きに変更が生じた場合です。
この場合は、臨時株主総会を開催し、選任された役員もしくは役職変更があった役員の役員報酬の決定に関する決議を行うことで、損金計上が可能な役員報酬となります(招集通知や株主総会議事録のフォーマットは、基本的に事業年度開始から3ヵ月以内に行う場合と同一になります)。
役員ボーナスについては、事業年度開始から3ヵ月以内と同様に、税務署への届出が必要となりますことにご留意ください。
「2.業績悪化時の改定」は注意が必要です。「著しい悪化」が条件なのですが、この著しい悪化がどの程度なのかが実務的にも難しく、可能であれば避けたい事案です。
このケースでの役員報酬の変更を検討される方は、具体例としてご紹介した2つの事例を参考に、税理士と協議するのが良いかと思います。
なお、国税基本通達(税務署の判断基準)の9-2-13に次の一文があるため、これに該当する場合での役員報酬の変更は、税務上一部が損金と含まれない可能性があることをご注意ください。
法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/070313/10.htm より一部抜粋
ケース2の場合でも株主総会による決議と、その決議結果を示す株主総会議事録が必要です(招集通知や株主総会議事録のフォーマットは上記と同じ)。
役員報酬(給与+ボーナス)は、原則、株主の同意がなければ決定できません。
また、招集通知と株主総会議事録で、株主と協議した結果を文章で残す必要があります。
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