産廃業のイメージを変えた多角化 2代目が目指す「誇りを持てる会社」
千葉市の産廃処理会社「京葉エナジー」は2代目の岩﨑剛士さん(41)が、ホテル勤務の経験を生かし、トップダウン型から従業員との丁寧な対話を心がけるマネジメントを進めました。古紙プレスや清掃業といった新規事業の旗も次々と掲げ、プロバスケットボール・Bリーグの千葉ジェッツと組んだプロジェクトなどで、産廃業の負のイメージを打ち破ろうとしています。
千葉市の産廃処理会社「京葉エナジー」は2代目の岩﨑剛士さん(41)が、ホテル勤務の経験を生かし、トップダウン型から従業員との丁寧な対話を心がけるマネジメントを進めました。古紙プレスや清掃業といった新規事業の旗も次々と掲げ、プロバスケットボール・Bリーグの千葉ジェッツと組んだプロジェクトなどで、産廃業の負のイメージを打ち破ろうとしています。
目次
京葉エナジーは1994年、岩﨑さんの父が創業。企業や家庭から出る粗大ごみや生ごみ、ビン、カン、ペットボトルといった廃棄物の回収や処理を始めました。
中学生だった岩﨑さんは、いつも作業着姿の父を目にして、恥ずかしいと感じていました。家業を継ごうと思ったことは一度もなく、父親から後継者の話をされた記憶もありません。
将来の夢を描けず、大学時代にアルバイトをしていた千葉県内の外資系ホテルに、そのまま就職します。
入社後、ベッドメイキングや清掃スタッフの管理業務を担い、その後はゲストを迎えるドアマンになりました。
一方で、仕事を辞める同僚の姿に心を痛めていました。ホテルの華やかな雰囲気にあこがれ、「誰かを喜ばせたい」と夢を持って入るのに、トイレ掃除や食器洗いなど下積み仕事とのギャップに苦しむ同僚が多かったのです。
「誇りを持ちながら働き続けるにはどうしたらいいのか」。岩﨑さんはいったんホテルを退職し、人材派遣や紹介業を行う社員10人ほどのベンチャー企業で、営業やキャリアコンサルタントの仕事に就きます。
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1年後、再び外資系ホテルへ戻り、営業部に配属されましたが「お客様と現場スタッフとの懸け橋になりたい」と、人事部への異動を希望していました。
そんな岩﨑さんのもとに父から電話がありました。開口一番、「お前、この会社(京葉エナジー)をどうするつもりなんだ」と言われたのです。
当時30歳手前だった岩﨑さんは、家族経営に良い印象を持っていませんでした。
「社員とその家族の生活を守れる覚悟は持てるか」。1カ月ほど悩み、家業に戻ることを決断しました。ホテル勤務で抱いた「やりがいや面白さを感じることで、誇りを持って働きたい」という人生観にマッチすると思ったのです。
先代からは「3年後をめどに後を継がせる」と言われました。
岩﨑さんは入社後、廃棄物回収の仕事に配属されました。自ら作業着姿でトラックを運転し、廃棄物を運んだり、分別したりしました。
岩﨑さんは当時、自社の従業員はホテル時代の同僚と比べて「モチベーションが低い」と感じていました。
例えば、約束の時間に遅れそうな状況で、相手に電話でおわびせず、時間を過ぎてから到着するなど、ビジネスマナーが備わっていなかったのです。
従業員の多くが40代で中途採用として入社していました。モチベーションが低い原因は、教育の仕組みがないことではないかと考えた岩﨑さんは、従業員との積極的なコミュニケーションを意識しました。
悩みを聞いたり、プライベートの話をしたり。一人ひとりの状況を把握し、家業を継いだときの人材配置に生かそうと、パーソナルデータをエクセルにまとめました。
たとえば労働環境などへの不満について「このままでいいと思いますか」と水を向け、従業員の希望や理想を聞き出すようにしました。「一緒に会社を変えていきましょう」という声かけも意識的に行いました。
この行動は時に嫌がられ「私たちを管理したいのですか」、「そんな寄り添い方じゃ、この業界ではやっていけないよ」と言われたこともありました。
しかし、一人ひとりを知ろうとする姿勢は次第に支持され、岩﨑さんは周りから「たかし」と下の名前で親しみを込めて呼ばれるようになりました。
15年12月に、岩﨑さんは2代目社長に就任。先代の父は会長になりました。
まず心がけたのは組織作りです。以前は父の判断で会社の方向性が決まり、人事評価や方針決定の「軸」がなかった、と感じていたからです。
岩﨑さんは各部署の業務を明確にし、各チームにリーダーを置きました。従業員が自らアイデアを出せる組織にするべく、ポジション別に「最低限やるべきこと」「できたら、なお良いこと」などを明確にし、必要な権限を委譲しました。
廃棄物の回収処理だけではいずれ立ち行かなくなる――。そう思った岩﨑さんは、新規事業で経営多角化を目指しました。
一つ目は、持続可能な開発目標(SDGs)も意識した「古紙プレス」の事業です。
産廃業は回収した古紙をリサイクル工場に運ぶまでが仕事です。その後、古紙は工場でプレス加工され、製紙会社に納品された後、紙になります。
岩﨑さんは回収からプレスまでを一気通貫で行うようにして、製紙会社に搬入できるようになりました。
二つ目は前職の経験を生かした「ホテル清掃業」です。
岩﨑さんは家業を継いだ後も、ホテル業界に興味を持ち続けていました。顧客から「廃棄物の回収だけでなく、清掃も一緒にやってもらえないか」と声をかけられることがあり、依頼も増えてきたため、事業化に踏み切りました。
そのころ、転職先を探していた前職のホテルの先輩に、清掃部門の責任者として、京葉エナジーに入社してもらいました。コロナ禍前は、都内で四つのホテル清掃を請け負うまでに、成長しました。
ホテルマンだった先輩の入社で、サービス業のアプローチを従業員に見せて伝えたことで、ビジネスマナーの改善にも結びつきました。
チャレンジを重ねた結果、京葉エナジーの売り上げは、岩﨑さんが継いでから約2倍に成長しました。
岩﨑さんは並行して、地元のBリーグチーム「千葉ジェッツふなばし」との連携も始めました。
千葉ジェッツは日本代表の富樫勇樹選手らが所属し、2020~21年シーズンにリーグ初制覇を果たしました。リーグ屈指の観客動員数を誇り、人気と実力を兼ね備えたチームです。
岩﨑さんはある日、テレビで千葉ジェッツの試合を見て「地元チームのスポンサーになれば、経営への効果も高いのでは」と考えました。
プロジェクションマッピングやチアリーダーの演出に、ほかのプロスポーツにはない魅力を感じました。「無形なものにお金をかけていいものか」とも悩みましたが、先代も背中を押してくれました。
産廃業には「3K」などの印象が根強く、岩﨑さんが家業に入った当初は、若い社員から「友達には恥ずかしくて、ゴミ回収の仕事をしていることを言えない」と聞き、寂しく感じたといいます。
地元に愛されるチームのスポンサーになることで、地域貢献に加え、産廃業への負のイメージを変えられるのではないかと期待しました。
岩﨑さんはスポンサーになる際、試合会場に八つの箱を置いて観客に分別を呼びかけるブースを設けることをお願いしました。しかし、この案はあまり響かなかったといいます。
そこで「会場で集めたゴミをリサイクルし、千葉ジェッツのオリジナルグッズを作りましょう」と提案。コラボが大きく動きました。
そうして作られたのが、原材料の一部に試合会場の紙ゴミを使った「APICA×JETSコラボリサイクルノート」です。会場やオンラインで販売し、ファンに大好評でした。
実は提案時点で、京葉エナジーは再生資源を利用した製品作りを手がけたことがありませんでした。そこで提案後に社員が各方面に尋ね、製品を作れる業者を探し始めました。
再生資源を利用してノートを作れることがわかったため、製作が決まりました。奔走したおかげで、ノート以外にもプラスチック由来の製品も作れるようになりました。
さらに今季は、街中でのゴミ拾いを実施。参加者には選手の写真入りカードをプレゼントしています。
千葉ジェッツとの取り組みを発展させ、企業向けにリサイクル名刺の作成も開始。企業には廃棄物の回収だけでなく、「リサイクルして名刺を作りませんか」と呼びかけました。
名刺を作る事業では、ほとんど利益が出ないそうです。リサイクルへの関心を高めたいという思いがありました。SDGsが浸透しつつある中、企業側も「自社のゴミを集めて作った名刺」とアピールできるため、好評といいます。
コロナ禍で飲食店の休業が相次いだことで、京葉エナジーも廃棄物を回収する取引先が減り、観光業の落ち込みでホテル清掃の契約もなくなりました。
20年春はBリーグの公式戦が中止され試合数が減ったことで、スポンサー活動にも影響が出ました。
今は組織の内部を整えて人材を育て、自身がいなくても動ける組織へ変革していくことが大事だと、岩﨑さんは考えています。
産廃業のイメージを変えるには、まだ時間がかかりますが、岩﨑さんは廃棄物の有効活用で、プラスアルファの価値を生み出そうとしています。
岩﨑さんが進めた新規事業、とりわけ古紙プレス業に対しては、今も先代や家族の完全な満足は得られていないといいます。
今でも父と意見をぶつけ合うからこそ、岩﨑さんは強い意志が大事だと考えています。「最終的には誰のせいにもしたくない。家族に反対されても僕が決めます」
決断力の裏には「誇りを持って働ける会社に」という強い思いがあります。従業員とその家族を守り、一人ひとりが誇りを持って仕事を続けてほしい、というのが岩﨑さんの願いです。
同じような立場の後継ぎ経営者には、次のメッセージを送ります。
「先代がこうだからではなく、多くの人を幸せにするにはどうすればいいかを考えてほしい。そして、先代が作った有形無形の資産を、自分の人生にどのように生かせるかを意識してほしいと思います」
「家業だから継ぐ」のではなく、「自分の人生をどうしたいか」を大事にする。それが岩﨑さんの信念です。
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