目次

  1. 物流コストとは
    1. 物流コストの内訳
    2. 物流コスト削減の重要性
    3. 物流コスト削減の3つのポイント
  2. 物流コスト削減の具体的方法5つ
    1. イレギュラーな輸送を無くす
    2. 共同輸送、混載輸送等のマッチングを検討する
    3. 外注範囲を見直す
    4. 在庫を適正化する
    5. 包装を適正化する
  3. 物流コスト削減の成功事例
    1. 共同輸送に取り組んだ卸会社A社
    2. ケースサイズの見直しに取り組んだB社
  4. これからの物流は 「運ぶだけ」から「賢く運ぶ」へ

 物流コストとは、輸送や保管といった、企業の物流活動によって発生するコストです。具体的に言うと、「商品を顧客に輸送する際のトラック運賃」「倉庫会社に一時保管してもらう際の保管料」などが含まれます。

 製造業や流通業などは、商品という「モノの流通」、すなわち物流抜きにはビジネスが成り立ちません。

 物流はビジネスの持続的成長の必要条件だと言えます。その物流の効率を測る指標が物流コストです。

 物流コストには色々な切り口があるのですが、まず知っておかなければならないのは、「物流機能」による切り分け方です。


 物流コストは機能ごとに発生しますので、「輸送」「保管」「荷役」「包装」「物流管理」などに分類されます(図表1)。なお荷役とは、荷物を仕分けたり棚から集品(ピッキング)したりする作業を言います。

分類 代表的な内容
輸送コスト 輸送委託費(トラック運賃、海上・鉄道・航空運賃)等
保管コスト 保管委託費(保管料)、自社倉庫の賃料、保管設備費、保管人件費等
荷役コスト 荷役委託費、フォークリフト等荷役設備費、荷役人件費等
包装コスト 包装委託費、包装設備費、包装資材費、包装人件費等
物流管理コスト 管理部門人件費、事務所経費、情報処理費等

 (社)日本ロジスティクスシステム協会が行った2020年度調査の結果によると、上記の内訳の中で、全業種平均では「輸送コスト」が55%と全体の過半数を占めています。次に大きいのが「荷役」で、「保管」がそれに続きます。

 この3つが主要な物流コストということになります。

物流コストの機能別内訳

 近年、物流コスト削減への取り組みが加速しています。その理由はズバリ「物流コストの急増」です。

 (社)日本ロジスティクスシステム協会の調査によれば、2020年度調査の売上高物流コスト比率は5.38%(全業種平均)で、前年度から0.47ポイントもの大幅増になっています。

 この主たる要因が、少子化と通販の成長です。ご承知のとおり、ネット通販の成長により宅配貨物が急速に増えているのですが、一方、少子化でドライバーのなり手が減っています。

 また、燃料費高騰なども影響しています。そこで大手の物流会社はどこも運賃値上げに動いています。

 なおドライバー不足は少子化という構造的な要因で生じていますので、近い将来に解消することは見込めず、むしろ政府は悪化すると予測しています。よって物流コストの上昇を抑えるため、各社が物流効率化に取り組むしかないのです。

 物流コスト削減に取り組む際に最も重要なポイントは次の3つです。

コストの全体像を掴む

 コストを減らす前にまず、コストの全体像を把握することが重要です。「我が社では、関東地区の配送で○円のコストが掛かっている」というように、できるだけ具体的に「コストを見える化」することが必要です。

 なお会計ルール上、財務諸表には「物流コスト」を表す費目は掲載されませんので、様々な物流関連費用を自社で集計しなおす作業が必要となります。

 しかし、これはコスト削減に当たって必要不可欠な作業です。

「単価」ではなく「仕組み」を見直す

 物流コスト削減というと、「運賃値下げ」というように、単価の見直しのことだと思われるかもしれません。もちろん、高すぎる単価を払っている場合には見直しが必要ですが、そのようなケースはレアです。

 実際のところ、物流コスト削減の本筋は、コスト増の背景にある「仕組み」の見直しです。

 例えば、同じ商品を運ぶ場合でも、小ロットでかつ短納期という条件では、高コストになってしまいます。

 この場合、「ロットをまとめる」「納期を長めに取る」というふうに、運ぶ仕組みを見直すことでコストを削減できます。

部門間連携をはかる

 「仕組み」を見直すうえで重要になるのが、物流部門と他部門との「部門間連携」です。と言うのも、上で述べた「ロット」や「納期」といった物流条件は多くの場合、物流部門以外の部署で決定されているためです。

 例えば、「ロット」はあらかじめ顧客との間で条件決めされるのが一般的ですが、その交渉は通常、営業部門が担当します。よって物流部門単独でロットを見直すことはできません。

 これは一例ですが、「仕組み」に踏み込むような改善テーマでは、ほとんどの場合、部門間連携が必須となります。

 以上の基本的な姿勢を踏まえ、具体的なコスト削減手法をいくつかご紹介します。

 上でも述べたように「運賃値下げ」といった手法は、昨今は現実的ではありません。そこで、ここでは主に運び方などの「仕組み」に関わる手法を取り上げます。

 企業の物流フローを詳細に調べていくと、イレギュラーな輸送が発生していることがあります。

 ある会社では、西日本の顧客には大阪の倉庫から出荷するルールでした。しかし実際には「顧客が急いでいるから」といった理由により、在庫量が潤沢な東京の倉庫から、たびたび出荷しています。

 このようなイレギュラー輸送は、例外的な処理となりますので、小さいロットで、チャーター便などで運ぶことになります。そのため高コストになりがちです。

 なお輸送に限らず、イレギュラー処理を見直すというのは、物流コスト削減の定石です。

 本来、大量一括で輸送できればコストを抑えることができますが、中小企業の場合、自社だけでは中途半端なロットになってしまうことがよくあります。

 その中でも特に問題となっているのが、宅配や路線便の利用が難しい、1~2トン程度の「中ロット貨物」です。

 このような中ロット貨物では、他社との共同輸送や混載輸送が有効です。中ロットのマッチングはいろいろな企業がネットを使ったサービス(例えば、トランコムの「とらなび」、日本パレットレンタルの「TranOpt」)を提供していますので、その利用が選択肢になります。

 このほか、往路と復路の往復マッチングもコスト削減の有効な手段です。

 物流は外注化が進んでいます。特に輸送は専門の物流会社に外注しているケースがほとんどです。

 一方、保管、ピッキング、出荷といった作業は、自社内で実施しているケースが少なくありません。

 しかしながら、物流専業ではない荷主企業が、社内で効率的に物流を運営するのは困難です。コスト削減の観点では、可能な限り外注化するのが基本です。

 なお、保管やピッキングだけでなく、包装、検品、顧客からの受注などの業務も外注の可能性があります。適切な外注範囲をゼロベースで検討することが必要です。

 在庫が多すぎると保管費用などの在庫費用がかさみ、逆に少なすぎると、緊急輸送の頻発などでコスト増が生じてしまいます。

 特に在庫費用は意外と高いことが知られていて、一般的には、平均在庫金額の10~20%程度の在庫費用がかかるとされています。仮に在庫を1億円分持っている場合、年間1~2千万のコストが掛かっているというわけです。

 このように、物流コストの観点からも、適正在庫の維持に努めることが重要だということがわかります。

 適正在庫を維持するためにはまず、アイテム毎に在庫の滞留期間を調査します。仮に半年以上など長期滞留しているアイテムがあった場合は、発注ルールを見直す、といった対応を行います。

 「モノ自体の運びやすさ」は物流効率を大きく左右します。

 例えば、国内で流通するパレットは、110×110cmのサイズが主流です。従って、このパレットにピッタリ並ぶサイズで包装を設計すると、ムダな隙間が生じません。逆にサイズが不一致だと、著しく積載効率が低下します。

 そのため一部の企業では、包装設計の段階から物流効率を考慮した社内レビューの仕組みを取り入れています。

 以上のコスト削減策を実際に取り組んだ事例を2つ、ご紹介します。

 卸会社A社は運送会社に委託して複数の小売店へ商品を納品しています。

 近年は、地域の人口減少が進んだことで店舗の売上が減り、トラックの積載率が低下していました。

 これに加えて、店舗配送では通常、納品した後の復路はカラで走行。そのため往復での積載率は非常に低く、A社の悩みの種でした。

 そこで、配送ルートの周辺を良く分析して見たところ、X社のレンタルショップが商品回収の定期便を走らせていることが分かりました。

 A社はX社と協議し、A社の配送トラックを使って、X社の回収輸送を行う、という共同輸送を導入することに。それにより、往復トータルでの積載率は大きく向上しました。

 B社は地域特産の加工食品を製造し、各地の卸会社に販売する企業です。

 以前は大口での出荷が多かったのですが、最近は食の多様化によって少量での出荷が増加。

 商品デザインの関係で段ボールのケースサイズや「入り数」がバラバラで、パレットにうまく積載できないのが悩みでした。

 そこでB社では全社的な改革プロジェクトを立ち上げ、ケースサイズを業界内のガイドラインを参考にパレットサイズを考慮したものにし、それにあわせて入り数も見直しました。

 その結果、パレットへの積載効率が大きく改善しました。

 物流コスト上昇への圧力は近年、非常に高まっています。従って、今後はいま以上に物流効率が企業業績を左右することが予想されます。

 一方、物流を自社の「コア領域」だと考え、熱心に取り組んでいる荷主企業は限られています。むしろ、「売れたモノが運べれば良い」といった物流軽視の企業のほうが主流と言えるでしょう。

 しかし、これからの「物流コストアップ時代」には、「単に運ぶだけ」という考えでは、対処できなくなるのではないでしょうか。

 問題を解決するのは当事者の「知恵」しかないわけですが、物流危機を乗り切るためには、社内外の知恵を結集し、「賢く運ぶ」という視点で、トータルな物流の仕組みを見直していくことが必要でしょう。