目次

  1. フィジカルインターネットとは
  2. フィジカルインターネットが注目される3つの理由
    1. 宅配便の増加
    2. トラックドライバーの不足
    3. CO₂削減の要請
  3. 実現目指す経産省・国交省
  4. ヤマト・コンビニ・JRの事例
  5. 欧州で進む実証実験

 インターネットでは、限られた回線を使って効率よくデータをやりとりするため、様々な工夫がされています。ネット回線をトラックなどの輸送網に、データを荷物におきかえて、限られた輸送手段を効率的に使おうというのがフィジカルインターネットのおおもとの考え方です。

 2010年ごろから、欧州を中心に広がり始めました。

 インターネットの前に普及した電話は、ひとつの回線を専有して話す方式のため、同じ回線を複数の人でシェアすることができませんでした。

 現在のインターネットはパケット通信と呼ばれる方式で、送り手が受け手にデータを届ける際、データを小分け(パケット)にして送ります。このため複数の送り手が同じ回線を使って、効率よくデータを届けることが可能となっています。

フィジカルインターネットのイメージ(第1回フィジカルインターネット実現会議の経済産業省の資料から引用)

 この仕組みを現実の物流にあてはめるとどうなるか。現在は運送会社Aが東京から大阪にトラックで荷物を送るとき、トラックに乗せるのは原則として自社の窓口で集めた荷物だけです。トラックというひとつの回線を、自社の荷物だけで専有しているといえます。荷台に空きがあってもそのまま運ぶことになり、必ずしも効率がいいとは言えません。

 フィジカルインターネットの考えでは、こうしたトラックの荷台を多くの運送会社でシェアします。異なる会社に預けた荷物も、共同の集積所に一度集められて目的地ごとにふりわけられ、1台のトラックに効率よく荷物を満載できるようになります。

 またひとつの輸送ルートを複数の会社でシェアできるようになると、インターネットの網の目のように、他社のルートも含めてもっとも効率よい輸送ルートを選べるようになります。こうしたことで限られた台数のトラックでも効率よく荷物を運べることが期待されます。

 日本国内でフィジカルインターネットが注目される背景には、物流業界が抱える3つの課題があります。

 アマゾンをはじめとしたネット通販の普及により、宅配便の数はここ10年ほどで大きく伸びました。2020年度はコロナ禍での巣ごもり需要もあり、大手のヤマト運輸、SGホールディングスは、宅配便取り扱い個数が過去最多となりました。一方で多品種、小ロットの荷物が増えたことから、トラック内の空きスペースが増え、積載効率は低下傾向にあります。

 規制緩和による競争激化の影響でドライバーの労働環境が悪化し、2000年代後半以降、トラックドライバーの数は急減しました。少子化の影響もあり、2030年には物流需要の約36%が運べなくなるとの試算(PDF方式:8.4MB)もあります。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、省エネや脱炭素エネルギーの利用は今後いっそう強く要請されることが予想されます。日本のCO₂排出量(約11億トン)のうち、貨物自動車の排出量は6.8%をしめており、排出量削減の観点からも、輸送の効率化が求められます。

 こうした物流業界の課題をフィジカルインターネットで解決できないかと、政府も動き始めました。

 2021年10月には、経済産業省と国土交通省が、「第1回フィジカルインターネット実現会議」を開催。約20人の識者が集まり、実現のための課題やゴールの姿を話しあいました。

 政府は会議の中で、2040年ごろをフィジカルインターネット実現のゴールと設定しています。ただ具体的なゴールのイメージや、そこに至るまでの過程は検討中の段階です。今後も会議を重ね、2022年3月までにはおおまかなロードマップを示すとしています。

 民間企業ではヤマトホールディングスが、いち早く普及に向けて動き始めました。ヤマトグループ総合研究所(ヤマト総研)は、2019年9月に、アメリカのジョージア工科大学フィジカルインターネットセンターと覚書を締結。同大学から得た知見を、荷主や運送業の関係者に発信しています。

 大々的なフィジカルインターネットの実現にはまだ時間がかかりますが、その前身ともいえる取り組みは、現場で少しずつ広まっています。

 たとえばセブン―イレブン・ジャパンとファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社は、2020年8月に、それまで独自のトラックを使っていた店舗への商品配送で、同じトラックを使って共同配送する実験をおこないました。

大手コンビニ3社の共同配送の実証実験の仕組み(朝日新聞より引用)

 またJR各社は、新幹線の空きスペースに生鮮食品などをのせて運ぶ「貨客混載」の実験を始めています。

 こうした取り組みは、現時点では特定の会社や地域に限られたものですが、限られた輸送網をシェアして有効活用するという点ではフィジカルインターネットに沿った発想といえます。会社を越えた連携をより増やし、社会全体に広げていくことが、フィジカルインターネットの実現につながります。

 欧州では、産官学が参加して2013年に発足したALICE(欧州物流革新協力連盟)などが中心となって、フィジカルインターネットの実現を目指しています。

 トラックのスペースをくまなく使うためコンテナ容器の共通規格の開発や、効率よい物流網の検討、会社を越えて荷物の情報をやりとりするシステムの開発など、具体的な実証実験が進められています。ただ先行する欧州でも、大々的なフィジカルインターネットの実現はまだ途上です。