市場規模の調べ方は?算出方法や調査後のポイントもわかりやすく解説
市場規模を知ることは、事業環境を理解する最初のステップです。新しいビジネスを検討する際だけではなく、既存事業においても、戦略の方向性を考えるうえで重要な情報になります。この記事では市場規模を調べる方法だけでなく、フェルミ推定などの方法を用いて算出する方法についても説明します。
市場規模を知ることは、事業環境を理解する最初のステップです。新しいビジネスを検討する際だけではなく、既存事業においても、戦略の方向性を考えるうえで重要な情報になります。この記事では市場規模を調べる方法だけでなく、フェルミ推定などの方法を用いて算出する方法についても説明します。
目次
「市場規模」とは、一定期間に、ある事業分野において取引された金額や、販売された数量を指します。平たく言えば、業界全体の総売上、ということになります。
市場規模は、新規事業を立ち上げるときには、どの程度の売り上げが見込めるかを推定するための基礎的な情報です。
また市場規模の変化をみることで、業界全体の需要が伸びているのか、縮小傾向にあるのかを知ることができます。
市場規模が拡大傾向にあれば、その分野に対する世の中の需要が伸びていることがわかるため、さらに投資を増やしたり、新商品を検討したりすることが可能です。
逆に市場規模が縮小傾向にある場合、過去と同じようなビジネスのやり方を続けていたら、自社の売上も下がっていくことが予想されるため、早めに対応策を検討して備えることができるでしょう。
また、例えば自社の売上が好調で、同時に市場規模も大きく伸びていたとします。そのような場合、売上が伸びているからといって必ずしも自社製品の競争優位性が高いとは言えません。
市場規模の伸び率と自社の売上の伸び率を比較したとき、市場規模の伸び率のほうが大きければシェアは下がっていきます。たとえ好調でも事業戦略を振り返って検討する必要があるかもしれません。
このように市場規模は、ビジネスにおいて今後のアクションを考えるための大事な情報といえます。
調べ始める前に、規模を明らかにしたい「市場の範囲」を定義する必要があります。
例えば、将来的な自社の展開を広く考えるために「ヘルスケア産業」の市場規模といった広い括りで調べる場合もあれば、自社の具体的な新商品の検討をするために「サプリメント」といった特定商品の範囲で調べることもあります。
自社が戦略を考えるにあたって、ちょうどよい市場の範囲を考えてみましょう。
市場規模の調べ方にはいくつか方法があります。代表的なのは、次の4つです。
順にご説明します。
行政機関が独自に調査をしたり事業者から聞き取ったりして市場規模を算出しているものがあります。それらの政府による統計調査は、ホームページで公開されています。
例えば経済産業省のホームページから【統計】という箇所をみると、公表された調査結果の一覧がでてきます。その中にある「工業統計調査」には、多くの産業分野の市場規模が網羅されています。
財務省では「法人企業統計調査」が実施されており、その中でも市場規模を公開しています。また総務省が発行する「情報通信白書」の中には、IT関連の市場規模がデータとして掲載されています。
上記のように事業分野によって扱う省庁が違いますが、どこで調べるか不明な場合は、e-Statという政府統計の総合窓口となるホームページから辿ることもできます。
それなり程度の規模がある業界は、一般社団法人である業界団体が存在し、関連情報を無料公開している場合があります。多くの場合は、メーカーからの出荷ベースの数字になります。
例を挙げたらきりがありませんが、例えば以下のような団体が市場規模を公開しています。
自分が知りたい製品分野を扱う直接的な団体がなかったとしても、関連する業界団体の情報をあたれば参考となるデータが見つかることがあるので、調べてみるとよいでしょう。
いくつかの調査会社では、いつ、どこで、何が、幾らで売られたかの情報を店舗から大規模かつ継続的に集め、そのデータをもとに市場規模を拡大推計して算出しています。
それを購入することで、商品品目ごとに信頼性の高い市場規模情報を手に入れることができます。また毎月の変化を追うことができたり、販売チャネルごと、ブランドごとに分析したりもできます。
購買データを販売している主な会社には以下があり、会社によって扱う商品の範囲が違っています。費用は契約範囲・期間によって異なってきます。
またこれらの会社でも、市場規模に関する一部の情報をホームページで無料公開していることがあります。
市場調査会社が独自に、市場規模を含む様々な業界情報を集めて発行した有料の冊子を購入する方法もあります(プレスリリースなどで、その一部が無料で公開されることもあります)。
市場規模や市場動向の把握を得意とする調査会社には以下があります。
自分が知りたい分野の情報が販売されていない場合、これらの会社に依頼して有料で調べてもらうことも可能です。全ての業界の調査が可能とは限らないので、まずは相談してみるとよいでしょう。
業界団体がなかったり、あるいは自分の知りたい規模で提供されているデータがない場合は、自分で算出する方法もあります。主に次の2つです。
こちらも、順に詳しくご紹介しましょう。
知りたい業界のおおよそのシェア構成がわかっている場合には、簡単な計算で算出することができる場合があります。
その業界の会社を1つ選んで、ホームページから株主通信や財務情報を見てください。そこに事業分野ごとの売上金額が掲載されていれば、下記の計算式によって算出できます。
たとえばA社のシェアが30%、A社のその分野の売り上げが120億だった場合は以下のような形で市場規模が算出できます。
このように計算する場合の注意点は、A社が公表している売上金額がどこまでを含んでいるか確認することです。
他分野の売上金額も合わせたものしか公表されていない場合もありますので、できればその事業分野に特化した会社を選ぶことをおすすめします。
また1社ごとのシェアが公表されていなくても、「上位3社で〇%を占める」という形で情報が経済誌などで公になっていることもあります。
その場合は上位3社のその事業での売り上げを合計して、上記と同じ計算式にあてはめれば算出できます。
フェルミ推定とは、実際に計測したり、綿密な調査をしたりせずに、いくつかの手がかりをベースに論理的に計算して、ざっくりと量を推論することを言います。
名前は少し難解に聞こえますが、理解してしまえば難しくはありません。
フェルミ推定の方法は決まった方式があるわけではなく、どういう道筋で算出をするかは分析者次第です。正確な数値ではなく、あくまで概算としての規模感を理解するためのものとして考えてください。
市場規模をフェルミ推定で算出する際の一般的な方法は、いくつかあります。
どのくらいの人が、どのくらいの量を消費するか、を元に考えるもので、食品や一般消費財で使われることが多い方法です。
その際、お菓子や化粧品など個人で購入して使うものは人口をベースに、テレビや車など世帯ごとに保有するものは世帯数をベース、またBtoBの場合はターゲットとなる事業者数をベースにして計算していきます。
例えば、ある地域における商品の年間消費量を調べようとした場合は、以下のような計算式になります。
市場規模金額を知りたいときは、上記の計算式の中の、「1回あたりの消費量」を「商品の1回あたりの金額」に入れ替えて算出します。
では、ある飲料カテゴリーの年間市場規模を算出する場合を例に、計算してみましょう。具体的な情報が以下だったと仮定します。
具体例 | 計算式で使う数字 | |
---|---|---|
ターゲット人口 | 15歳~74歳の男女 | 9,000万人(国勢調査より) |
飲用している人の割合 | 約2割 | 20% |
平均消費回数 | 週2回 | 104(週2回×52週) |
1回あたりの消費量 | 約200ml | 200 |
1回あたりの金額 | 1000ml入り200円 (5回で1本を消費) |
1回あたりの金額は40円 (200円÷5) |
年間消費量(ml)は、計算式にあてはめると
となります。
年間市場規模金額は
です。
世帯ごとに購入するものも考え方は同じですが、家電など毎年買い替えず、一度買ったら何年も使うようなものの場合は、1製品当たりの耐用年数で割る必要があります。
人口や世帯数は、統計局が公表している国勢調査の正確なデータを利用することをおすすめします。国勢調査の結果はこちらで公開されています(https://www.stat.go.jp/index.html)。
使用率、および1世帯当たりの保有数などがわからなければ、調査会社や業界団体、企業が発表している場合があるので、検索して調べてみるとよいでしょう。
もしデータが見つからなければ、似たようなカテゴリーや関連する商品の情報を元にして予測したり、自分の周りの人でその商品を使っている人の割合から推測することで補います。
このようにして算出された市場規模は、あくまで概算の推定値であると考えてください。
一方で、全く違う観点から算出することができる場合もあります。消費量ではなく「どのくらい売られているか」という方面から算出する方法です。
商品を扱っている販売店がどのくらいあって、1店舗あたり1年間でどのくらい売るのかをベースに計算します。算出の式は以下となります。
他にも考え方次第で、方法はバリエーションがあります。
例えばBtoBのビジネスで、「ある商品に使われている部品を作るための金型」の市場規模が知りたい場合は、最終的な商品の年間生産数量に、1製品当たりに使われる当該部品の数や、1つの型で何個の部品を作れるかなどの数字を使って計算していきます。
このように、手に入る情報を手掛かりにして、論理的に、およその規模感を計算するのがフェルミ推定です。どの方法が最適かはケースによって違いますが、計算の仕方で大きく変わってきてしまう場合もあります。
複数の方法でトライすることが可能であれば、両方やってみて近い値になるか検証してみると精度があがりますのでやってみてください。
ここでひとつ、リサーチャーが伝授する裏技をご紹介したいと思います。
上記のように推定しようと思っても、ある商品の使用量について検討がつかない、あるいは自信がないという場合もあるかもしれません。そんな時は自分や周りの人を実験台にして測ってみるのも一つの方法です。
実測する場合は、一回のみの使用量を測るのではなく、ある程度の期間をかけて測ったほうが誤差は生じにくくなります。
具体的な方法としては、ある商品を購入してその時点での重さを容器ごと測り、1週間ほど普通に使ったのち、再度、同じように重さを測ります。その期間で減った量が使用量となりますので、それをベースに年間使用量を推定します。
例えば以下のような結果が得られたとします。
自分 | 友人A | 友人B | |
---|---|---|---|
新品の重さ(a) | 100g | 100g | 100g |
1週間後の重さ(b) | 80g | 74g | 86g |
1週間の使用量(a-b) | 20g | 26g | 14g |
すると1人あたりの1週間での平均使用量は
となります。年間では52週をかけて1040g程度を使用することが推定されます。
このカテゴリーの商品の多くが80g入りで売られていると仮定すると、一人当たりの年間消費個数は 1040g÷80g=13個と推定できます。
新品でも重さに微妙な個体差があることもありますので、必ず事前に全て実測する必要があります。いずれにせよ標本数が少ないので参考値にはなりますが、何も手掛かりがないよりはずっと良いので、困ったときは試してみてください。
市場規模を調べられたら、続いて業界の構造を把握していくことをおすすめします。
市場規模が大きいからといって、必ずしもビジネスをするのに魅力的な市場かどうかはわかりません。すでに多くの会社が激しい競争を繰り広げていて、利益が出にくい市場の場合もあります。
また原材料メーカー、あるいは販売店が強い力を持っていて、うまく立ち回れない業界である可能性もあります。さらに、社会情勢や政治状況から考えて、将来的に市場が縮小、または規制される可能性があることもあります。
こういった外部環境の脅威を洗い出したうえで、自社がその中で生き残っていくための大きな方針を考えていくとよいでしょう。
それがないままに、市場のセグメント化やターゲット選定などのマーケティング戦略をすすめていくと、根本的なところで足元をすくわれることになりかねません。
自社が関わる事業の市場規模を正しく知ることは、事業戦略の第一歩です。記事で紹介した方法を参考に、市場理解に役立てていただければ幸いです。
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