目次

  1. 「労働時間」「非正規雇用の処遇」「女性・シニアの就業」でみられた改善
    1. 進化1:労働時間の短縮化が進む
    2. 進化2:非正規の処遇改善が進む
    3. 進化3:女性とシニアの就業の安定化が進む
  2. 労働時間が少なくなっても、自己学習は定着せず
    1. 課題1:自律的な学びは定着せず
    2. 課題2:勤務時間の自由度は低下し、業務負荷は高まる
  3. 職場のハラスメント、テレワークで「見聞きする機会が減った」
    1. 課題3:職場におけるハラスメントが表面化する

リクルートが7月5日に公表したのは、働き方について独自に指標化した「Works Index 2020」。

指標の元となっているのは、リクルートワークス研究所が2016年から毎年実施している全国の約5万人を追跡して働き方についてたずねた「全国就業実態パネル調査」。

今回、5年間の調査結果がまとまったことから、分析を公表した。

リクルートワークス研究所のアナリスト、孫亜文(そん・あもん)さんは「日本の働き方には、3つの進化と3つの課題が残されていることがわかった」と語った。

GettyImages

孫さんによると、「残業時間がない・短い」という指標では、2016年は67.3ポイントだったものの、2020年では71.4ポイントに上昇。「休暇が取得できている」という指標では2016年の56.6ポイントから、2020年は64.1ポイントまで上昇した。

働き方改革関連法の成立で時間外労働の上限規制が導入されたり、5日間の有給休暇取得が義務化されたりしたことに加え、新型コロナの感染拡大の影響で、一部の業種で休業や短時間勤務が求められ、さらに労働時間が少なくなったとみられる。

2016年に「週の労働時間が60時間以上」だった人のうち、53.1%が2020年には「11時間以上減った」こともわかったという。

リクルートワークス研究所の資料より

「雇用継続の可能性が高い」という指標も上昇したといい、2016年の54.9ポイントから、2020年 には59.0ポイントと 4.1ポイント上昇した。

一方、属性別に見てみると、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規雇用者の上昇が大きいものの、正社員では0.3ポイントの上昇にとどまった。

非正規雇用者を無期労働契約に転換できるルールの適用によって、有期労働契約から無期労働契約に転換された数が増えているという。

「就業の安定」という指標を属性別にみると、男性は2016年の73.7ポイントから、2020年の75.3ポイントまで上昇。女性では2016年の52.9ポイントから、2020年の58.0ポイントまで上昇していた。

女性の指標は依然男性より低いものの、上昇幅は女性の方が大きく、孫さんは「2015年9月の女性活躍推進法の施行などにより、女性の就業安定化が進んだのではないか」と話す。

また、年代別にみると、男女ともに55~64歳のシニア層で水準が大きく上昇していた。

一方で、課題も浮かんだ。

「学習・訓練」に関する指標では、2018年、2019年と2年連続で上昇傾向にあった一方で、2020年に2.1ポイント減となった。

企業が提供する学びである「OJTの機会がある」と「Off JTの機会がある」という指標でいずれも2020年に大きく低下し、個人の自発的な学びである「自ら学んでいる」という指標も2020年に低下した。

リクルートワークス研究所の資料より

なぜ労働時間が減っている一方で、自己学習は定着していないのか?

孫さんは「個人の自発的な学びのきっかけとなるのは、企業が提供する『学びの機会』と『難易度のある仕事』だと分析しているが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でテレワークが広まり、対面での業務が減ったことでOJTが減り、対面での研修が延期やオンライン化となり、集合研修も減ったことで、企業による学びの機会が減り、個人の自律的な学びも減少したのではないか」と分析する。

そのうえで、「企業がきっかけとなり、学びを継続させる仕掛けをつくっていくことが大事だと思う」と語った。

解説するリクルートワークス研究所の孫亜文研究員=オンライン説明会の画面より

労働時間の短縮と休暇取得が進む一方で、働き方の柔軟性を表す「勤務時間・場所の自由度がある」という指標は、2018年の35.6ポイントから、2019年の34.7ポイントまで低下。2020年は35.1ポイントと持ち直したものの、わずかな上昇にとどまった。

その理由について、孫さんは「2020年はテレワークが広がったものの、勤務場所が職場から自宅に変わっただけであったり、一部の業種では休業や時短勤務を要請されたりしたことから、個人によってばらつきがあったためではないか」と分析している。

また、「2019年4月に改正労働基準法が施行され、労働時間の管理が強化されたことで、自由度がないと感じる人が増えたのではないか。働き方の柔軟性を高めるためには、労働時間制度を見直したり、テレワークを今後も行ったりして、個人にあった働き方を実現する取り組みが必要」と指摘する。

「職場でハラスメントを見聞きしたかどうか」を表す「ハラスメントがない職場である」という指標は、2017年の70.9ポイントから、2018年に69.0ポイントと低下したものの、2019年の68.8ポイントから、2020年は71.7ポイントと大きく上昇した。

リクルートワークス研究所の資料より

その理由について、孫さんは「2017年-2018年に#MeToo運動が広まり、パワハラの告発が話題になるなど、ハラスメントへの感度が高まった可能性があり、職場においてもハラスメントに気づくようになった」と話す。

さらに、「2020年に水準が上昇した背景には、2020年4月のパワハラ防止法の施行によって、企業が取り組みを強化したことと、テレワークの広がりによって職場で仕事をする機会が大きく減ったことで、ハラスメントを見聞きする機会が単純に減ったことの両方がある」と分析する。

一方で、職場で直接顔を合わせず、テレワークでお互いの仕事が見えにくくなったことで、ハラスメントが見えにくくなった可能性もある。

孫さんは「まずは組織の多様性を確保することが大切。多様性を高めることができれば、日々のコミュニケーションのなかで価値観がすり合わされ、ハラスメントに対する自浄作用が機能し、パフォーマンスも高まるのではないか」と話している。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年7月6日に公開した記事を転載しました)